恋のスイッチ
赤と緑といえば狐と狸。
僕は化かされている?
現実、赤と緑のチェック柄のマフラーを首に巻き、吐き出した温い吐息で眼鏡のレンズを白く曇らせ、彼女は僕の正面に立っている。
ぴゅーと凍てついた風が吹き、眉上で真っ直ぐに切り揃えられた彼女の前髪をパラリと揺らす。
小刻みに震える彼女の唇。
顔の中央にはクリスマスソングに出てくるトナカイのような、はたまたショートケーキを飾る苺のような、ちょこんと可愛い真っ赤な鼻。
つんっ……
人差し指の腹で押してみた。
それは彼女のスイッチのようだった。
頬っぺたにどんどん赤みが差していく。
眼鏡の曇りはいくらか薄れ、僕を見つめる彼女の両目が現れる。
ちょっぴり潤んだ彼女の瞳。
彼女は目をそらさない。
僕も目をそらさない。
彼女はスッと、右手を伸ばす。
つんっ……
危険信号が目の奥、脳みそに近い部分で点滅する。
デンジャー、デンジャー。
彼女によって僕のスイッチは入れられた。
いや、初めから入っていた。
入学式のあの日から、僕の電源はずっと入っていて、やっぱり電源を入れたのは目の前の彼女で。
あれからずっと彼女を見ていた。
彼女も僕を見ていた。
そして今、向かい合う彼女と僕。
「メリークリスマス」
何か言わねばと、やっとこさで口から出た時候の挨拶的な台詞。
「今更?」
コンマ2秒で返される。
でも僕はめげない。
「メリークリスマス」
「……メリークリスマス」
「…………。」
「…………。」
2秒間の沈黙のあと、お互いに、プッと噴き出すようにして、しばらく笑った。
彼女と過ごすクリスマスは間も無く終わる。
彼氏彼女になって過ごすお正月はもう幾つか寝たらやって来る。