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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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7 * 職人と透かし彫り

本日二話更新です。


こちらは本編、次話は季節もの単話です。更新時間は11時予定です。


 


 パーツや道具の相談のためにたくさんの人たちと会ってきた。木材を扱う職人さんや商いの人たちともかなり接点が出来てる。私と話すとアイデアが生まれたり試したいことを思い付いたり、新しい物を売り出せるきっかけが出来ることが余程嬉しいんだね、私のちょっとした質問でもなんでも丁寧に教えてくれるし、朝晩市場ですれ違えば気軽に挨拶も交わして立ち話をするようにもなって。それだけ互いに信頼して切磋琢磨できるようになったのよ。


 今後は木材も 《ハンドメイド・ジュリ》の商品の素材として扱うことが増えそうだね。アクセサリーや小物に拘らずに子供向けのオモチャ、例えばカラフルな木材を活かした積み木とか、おままごとセットとか、日本でもちょっとお高めだけど木製は安心安全ってことで贈り物に喜ばれてる、なんて話を思い出したから、いずれはそちらにも着手だね。


 そんな訳で、木を扱う職人さんの所でコースターに向いている素材を探すことに。

 スライム様の擬似レジン製のがうちの売りでもあるんだけど、デザインに限界がある。

 ……嘘です、自分が木製のが欲しくなっただけです、ごめんなさい。

 ライアスに頼めば簡単なのは直ぐに作ってくれるんだけど、最近知り合った職人さんの技術を見て思い付いた。

 その人は彫刻職人、と呼ばれる。

 石材、木材を中心に、彫刻刀が入るものなら何でもやるぞ、という。

「おう! ジュリか!!」

 ……元気な人よ。声も大きくてとても活力のある人。凄いんだ、アグレッシブで何でも挑戦してくれるから、最近は擬似レジンに彫刻出来る刃物に自分で改良してるとか、すりガラス加工に見えるようにするヤスリとかも研究してるなんて言ってて。ライアスと刃物談義が始まると邪魔だとおばちゃんたちにマジ説教を食らうくらいにずっと話してる。

「こんにちは、これ差し入れです」

「おおっ?! ブルの干し肉か! これが酒の肴に最高なんだよ!!」

 うん、相変わらず声はデカイ。











「……なに?」

「透かし彫りです。出来るんじゃないかと思って今日相談に来ました」

 私の話に、急に雰囲気が変わった。

 彫刻職人のヤゼルさんは、最初私に対して懐疑的な態度をとる人だった。でも、かじり貝様の螺鈿もどきとそれを活かした元の世界にあった螺鈿細工の説明したときから、態度を急変させた。


 理由はひとつ。

 私が『職人でなければ出来ない仕事とそうではない仕事』をちゃんと分けていると知ったから、と教えられた。

 その意味がわかったのは数日後。

「何でもかんでも出来ると思って手当たり次第にやるやつは職人じゃねぇ。けどあんたはちゃんと自分が出来ることと出来ないことを分かっていて出来ることを極めようとしている。そういうやつは良いものを作る、俺はそう思う」

 と言ってくれた。

 螺鈿もどきの本当の良さを活かしたいなら、職人じゃなきゃダメだと私が螺鈿細工にスッパリと見切りをつけたことがこの彫刻職人との関係改善に繋がったのは本当にラッキーよ。

 だって、すでにこのヤゼルさんは螺鈿もどきを木材に嵌め込んで、表面を艶よく凹凸なく仕上げることに成功して、今はその嵌め込むのに適した木材を探したり、螺鈿もどきの美しさを際立たせる黒い塗料やほかの色の配合にも着手している。


 試作として見せられた螺鈿もどき細工は本当に綺麗だった。透明度が元いた世界の物には劣る分、そのベースになっている白さが際立つ螺鈿もどきは艶を纏った黒い背景の中央で、一羽の鳥に姿を変えて艶かしく、羽ばたいていて。

 それをみて、この人になら今後この螺鈿もどきを任せられると確信したのよ。

 嵌め込む技術もだけど、何よりその鳥の美しさに私は惹かれた。螺鈿もどき一枚一枚違うオーロラカラーの光沢の強弱や紋様を利用して濃淡と遠近を上手く表現していて。


 ただ、絵を彫るのではなく、物を立体的に見せる技術もこの人はある。この人なら、螺鈿もどきを工芸品として確立させられる。


 そんな技術を職人として身に付けているこの人なら出来ると思ったの。

 この世界にありそうでなかったもの。


 透かし彫り。


 そう、なかったのよね。

 意外なことに。

 額縁の彫刻なんて凄いのがいっぱいあるのに、何故か透かし彫りだけ見たことがない。ククマットにないだけ? そう思ったの、でもヤゼルさんの顔をこうして見る限り、この世界の彫刻に透かし彫りというものはないんだと確信。


 そしてデザイン画を見せて説明していく。

「おい、これじゃぁ器が乗せられねえだろ」

 ヤゼルさんがそう言うのは、透かし彫りは立体的に見せて、しかも裏側まで貫通しているものだから。その上に物なんて乗らないのは当然。でもうちにはあれがある。擬似レジン。

「作ったあと、まず裏面を擬似レジンで固めます、そのうえに再び流し込んで平らにしてしまえばいいんですよ」

「……すげえこと考えたなお前は、流石だ」

 おお、誉められてる。

「けど、お前の頭の中はどうなってるんだよ? 言うことが突拍子ねぇこと多いだろ、ちょっとどっかネジ外れてねぇか?」

 ……あんまり誉められてないように感じた。

 まあいいわ。


「これ、螺鈿もどき細工と共にこのククマット発のものとして、広めませんか? 世の中に」

「透かし彫りコースターだな? いいぞ、やっても。面白いじゃねぇか」

「違いますよ」

「ん?」

「これなら、応用が利きますよね? 私が思い付くものだけでも、小物入れ、ランプシェード、額縁、技術が身に付くなら、家具だって。もっと色んなものが作れるはずです。ククマットの材木店や彫刻師さん、ほかの職人さんたちにもこの透かし彫りに挑戦してもらえるようにヤゼルさんから話してもらえませんか?」

「おいおい、ジュリよ。ずいぶん話がデカいな?」

「私、以前言いましたよね。『職人の都』にしたいって」

「!!」

「そしてヤゼルさんも、ここから輩出される職人が大陸で活躍する、ここの職人なら安心して任せられる、そんな人達を育てるのが昔の夢だった、そう言ってましたよね? 遅くないですよ。やりませんか、螺鈿もどき細工と透かし彫りで」


 物が一時的に売れるだけでも良いことだと思う。でも、折角なら、私が持ち込む【技術と知識】が根付いてこのクノーマス領から広がれば。


 プロがいるんだよ?

 ここに、少なくともククマットには数十人の、生活をしっかり支えてくれる物を作り出す職人さんたちが。それをめざす若い見習いたちも沢山いるんだから。

 その人達に、もっとその力を発揮して欲しい。

 世の中に知って貰いたい。

 私の、《ハンドメイド・ジュリ》を支えてくれる人達の影の力を、知らしめたい。

【技術と知識】で私が人々に恩恵を与えられるなら、その恩恵でもって、ここにいる素晴らしい手を持つ人たちをもっと輝かせたい。


「……本気か?」

「本気ですよ、だから、ヤゼルさんに一番にこれを持ってきたんです」

 私は、デザイン画を改めてヤゼルさんの手に握らせた。

「このデザインを一セット、作ってください。私が透かし彫りを生かした、木製のコースターに仕上げます。それを見て、アドバイスをくれるならなお嬉しいし、そしてもっと良いものになります。作りましょうよ、一緒に」

「……よし、わかった」

 しわがれた、硬い職人の手。私は、その手ときつく握手を交わした。











 それから四日、なんの音沙汰もなく。

 あれ? ヤゼルさん、仕事忙しいかな? 余計なことお願いしちゃったかな? とちょっと不安になってたら。

「おい!! ジュリいるかぁ!!」

 うん、だから声がデカいよ? フィンがびっくりして持ってた資材落としちゃったよ。

「音沙汰ないから心配しましたよ! 忙しいところにお願いしたんじゃないかって!!」

「仕事は弟子に全部任せてたからな! 大丈夫だったぞ!」

 え、それ本当に大丈夫なやつ?

「まあ、いいから見てくれるか?」

 私の心配を他所に、ヤゼルさんが突然上着のポケットに手を突っ込んで三枚、もう片方からも三枚、今度はズボンの前ポケットからそれぞれまた三枚ずつ、今度は後ろポケットから三枚。

 ちょっと待って、何枚でてくるのかな?

「ほれ、どうだ?!なかなかいいと思わねえか?! お前のデザインが良かったからな! 透かし部分も立体的に見せたい部分も分かりやすくて掘りやすかった、だから勝手にアレンジして何枚か作ってみたぞ!!」


 ……。

 すげえわ、このおじいさん。

 めっちゃ素敵な透かし彫りしてくれた!!

 なにこれ、なにこれ!!

 蝶も花も、幾何学紋様も、スッゴい! イメージ通りにしてくれてる!!

 透かし彫りになってる! 立体的になってる! てか幾何学紋様なんてヤゼルさんのオリジナルのカットが入っててちょっとカッコいいんだけど!!

 しかも、木材も三種類、私がお願いしたデザインが色によって雰囲気が違って見れるようにしてあって、十五枚の透かし彫りは目移りしてしまうくらいに素敵なんだけど!!


「ウヘヘヘヘ! ヤゼルさん凄い! ひははは! 天才!!」

 私の笑い込みの賛辞に胸を張ってヤゼルさんが上機嫌。そういえばヤゼルさんは私の笑い声に驚かないな、それもちょっと嬉しいわ。

「いいだろ?! で、仕上げてみせてくれ」

 あ、今すぐ?

 作りたいものと、商品在庫を増やしたかったんだけど。

 しかたない。

 こんな素敵なものを見せられたらやるしかないよね。


「じゃあ、あたしが作れるものは作っておくよ」

「ありがとー、フィン」

「フィン!! 頼んだぞ!!」

 だから、ヤゼルさん声が。またフィンがびっくりして資材落としたよ……。


 異世界ならではの、カラフルな木材。

 家具だけでなく、手に取れる物にもっと活用出来たらいいなぁ。

 そして、木材を扱う人たちには他にも提案したい、相談したいことがあるからこれからもちょくちょく工房お邪魔することができるね。あの木の香り好きなのよぉ。


「ふぇっくしょん!!!!」

 ヤゼルさんがくしゃみをした。

 手もとが狂ってスライム様の疑似レジン入れすぎて駄々漏れしたわ。

「おい、入れすぎだろそれ」

 あんたのせいだよ!!

ブクマ&評価、そして誤字報告ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
 寄木細工はつくらんの?
[良い点]  そういえばここ十年ほど、ネットで見掛ける木とレジン(もしくは樹脂)の合体小物があります。ペーパーナイフやチェスの駒などで、水晶に取り込まれた木を排除せずに加工したような不思議な味わいがあ…
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