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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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7 * 嵐の後は

 



 一難去って元気。

 彼氏が出来る男だと、非常によい。

 いやね、ほんとに。

 グレイの男っぷりが。

 いいのよ、最高に!

 ノロケよこれ。謙遜なんてしないから。

 ハイスペックなのでなんでもやってくれるしやれてしまう。痒い所に手が届く的な。あとはまぁ、ちょっと下世話な話ですが二人きりベッドの中ではものすごく可愛がってもらってます。


 なんだかんだと私にはこの人が必要で、そして大切で、好きだなぁ、と思い知らされた一件になったかな。

 気持ちの切り替えが成功したのもグレイが何度も何度も、私の存在を言葉と態度で認めてくれたからだと思ってる。

 言葉が欲しいとき、言葉をくれる。隣にいて欲しいとき、黙って隣で手を握ってくれる。私を理解しようと、見てくれている。この世界で安心して毎日を過ごせるのは、この人のおかげ。私がここにいることを誰よりも喜んでくれて、そして心配してくれる人。

 物を作るとグレイが喜んで、笑ってくれる。それを見ているとどんどん作りたくなる。この人がいなかったら、ククマットでの今の私は、いない。


 この人なくして、私のここでの存在意義はとても薄いと思う。そう思うくらいに、グレイセル・クノーマスは、私の支えになっている。

 私もいつか、同じだけこの人を支えられるかな。そういう女になりたいな。


 そんな人が捨てるなと言ってくれた 《ハンドメイド・ジュリ》だから、私も守ろうと思う。

 全力で。

 ウジウジしてるのは性に合わないし、いつでも全てを捨てて一からやり直す覚悟は出来ている。誰に何と言われても、やりたいことをやっていく。

 この世界で生きていくために。


 そう気持ちの切り替えが出来ると、あれが作りたい、試してみたい、そんな気持ちが芽生えて。皆と一緒にまた大騒ぎしながら物を作りたくなって。


 そろそろ再始動しましょうか。

 また、作れそうな気がする。楽しく。










 それと突然なんだけど。

 なんと、自警団のトップを辞めてしまいました。彼氏が。

 はっ?! っと思いましたが。

 侯爵家としては、ここ最近ずっとその調整をしていたとかで、自警団トップという立場から降りて、その代わり相談役という地位に。相談役は自警団を体力的、年齢的を理由に辞めた自警団の上層部だった人がなるもので、経験を活かして相談に乗ったり時々手を貸す、というもの。

 あえてその立場の一人になることでグレイは私のお店のことに専念できるから、侯爵家の一存で決めたそうな。

 私が沈んでたよりも前にすでにその話をすると決めていたとかで、フォンロンからの手紙が後押しとなったみたい。

 国相手の交渉は私一人で無理だからね。グレイは侯爵家の息子である他に、騎士団で国の中枢にも関わってきたから法律などにも精通している。おまけにうちの店のお金を全て把握してるし資産運用もしてくれてる。そしてもう一人の貴族出身であるローツさんを誰よりも上手く動かせる人。要するにこれからの《ハンドメイド・ジュリ》にはなくてはならない人。

 非常に助かります!!


 それに、《ハンドメイド・ジュリ》の体制を今この段階で整えておくことは侯爵領の今後も左右すること。

 隣国との直接交渉を成功させれば、この国のギルドはそう大きな態度はとれない。これは最高の抑止力。

 自分が所属する国とのこの距離感には違和感はあるけど、いちいち気にしてられないよ。


 おそらく【スキル】【称号】なしの【彼方からの使い】への扱いがこの国では、変わるのに時間がかかる。何故なら、彼らは私との面会に『国王』の名前を出してきた。国のトップの許可であなたに会いに来た、と。つまり、ギルドは国王側。国費を散財して自分たちを推してくれる国王の味方。賢く裏でやりくりしている王妃は所詮王妃と敬遠しているような組織。


 だから侯爵家はすぐさま王妃に手紙を追加で送ったらしい。

 今回のことは 《ギルド・タワー》が動く案件だろう、と。ベイフェルアのギルド上層部は立場が悪くなる可能性があり、それを支援している国王にも影響する可能性がある、と。

 これで今後この国がどう動くのか、王妃が裏でどう手を回すのか、様子を見ていく。

 そして私にとって不都合な方向に動き出すならば、対策を練るつもり。最悪この国を出る覚悟も視野に入れてね。

 まあ、滅多なことで他所に行かないけど。ここ気に入ってるし。


「さて、久しぶりに作るかな」

「無理はするなよ?」

「ん、大丈夫」


 フォンロンと私の交渉は侯爵家にとっても、非常に有益な話だということも聞かされてる。何回もその確認を私にしてきた。

 てか、最初からその話はしてるから別に今更……と思ったんだけど、念のためって侯爵様に。

【選択の自由】があるからね私。その辺やっぱり慎重にってことなんだね。流石ですよ侯爵様は。

 そんなこんなで色々あって、グレイが完全に 《ハンドメイド・ジュリ》の従業員になりまして。私が社長ならこの人専務? 社長より確実に有能 (笑)。


「おーい、ジュリ。布屋の倅がグリーンスライム見つけたって持って来てくれたぞ!」

「なんと?! 久しぶりの緑スライム様?! 再開した途端に幸先いいわ!」

「ちょっと小せぇけど、ほら、緑だな。いい色じゃねぇか」

「っだはははーーーー!! スライム様! 緑様お懐かしゅうございます!!」

「うるせえな」

「ライアス、飼育箱に入れよう! 分裂させよう! 分裂してくださーい!」

「言うと思ったよ、で、倅が待ってるぞ、いくら渡すんだよ?」

「あー、えっとねー、えへへへへ」

「五十リクルで前回買い取りしてる、今回もそれでいいな」

「おお、グレイセル様助かります。ジュリはこうなると話にならねぇから」

「ライアスにも買い取り一覧を一枚渡しておくから持っていてくれ。工房に買い取り一覧の表を貼っておくといいかもしれないな」

「それは助かります。他の店番も買い取り出来るようにしとくと助かりますね、俺もいつもいる訳じゃねえので」

「ひゃははっ、綺麗な色ですねー。」

「そうだな、そろそろ組織的に詰めていく必要が出てきたから、ジュリが理性を取り戻したら少し話し合おう」

「そうですね、それならうちの家での作業してるやつらとかのククマット編みの買い取りなんかももうちょっと細かく価格見直して貰えるとありがたいです、最近種類が増えて今のじゃ判断に困るのも増えたらしいんですよ」

「くへへへ、うへへっ緑様ぁ」

「うちの管財人と母のお針子に話を通しておく、そちらはその二人に来てもらった方が早いだろう。 《レースのフィン》の兼ね合いもあるからな、今度店を臨時休業にして価格改定の話し合いにしよう。ライアス設計の道具の販売も本格的に始まったし、早めにその予定を組むか」

「ああ、それは助かります」

「《レースのフィン》の準備も大詰めだ、一気に価格改定する」

「よろしくお願いします」

「えへへへ、なに作ろうかな、へへへ、スライム様は何になりたいですかー?」

「……こいつ、頼んでいいですか。こっちに持ってきておきたい道具があるんで、一旦家に戻ろうかと。スライムの買い取り金渡したらちょっと行ってきます」

「ああ、わかった。布屋の息子から買い取り書にサインを貰うの忘れないでくれ」

「わかりました」


 てなわけで、私がおかしなことになっていても優秀な人たちと頼りになる女性たちに囲まれて再びお店が再開、大賑わいです。


 ククマットの冒険者ギルドから派遣されてペンダントトップ作りを習っている二人ですが、一連の騒ぎを知ってからは職人の弟子並みに黙々とやってるよ。それよりも前から、綺麗な仕上がりには一手間二手間かけてることを身に染みて学んでくれたようで、上層部が簡単にタダで寄越せと言っていたことに私が真っ向から反対したことが理解できたみたい。

 今まで他の職人さん相手にも無償提供を強要していたことへの罪悪感も生まれたらしく、なんとなく顔つきも変わってきたかな。それが二人にとっていいことかどうか分からないけどね。


 そして色つきスライム様は一ヶ月に数匹見つかるかどうかのレア魔物。自警団の人が見回りついでに探してくれててそのペースだから、どれだけ貴重かわかってくれたでしょ。そして見つけたら誰に対しても数十リクル出してる。一日働くより稼げるって言う人も多いのよ? みんな密かに臨時収入のために目を光らせてるのよ、ギラギラした目だよ(笑)。


 私の作品は既に試作じゃなくて、完成した商品であり、用途は私が決めて売っている。魔法付与のために作るわけでもないし、なにより値段を決めて売る権利があるのは私。


 迷うのは止めたし、自虐するのも止めた。

 やりたいようにやる。何を言われても。

 好きなように 《ハンドメイド》する。


「ごめんください」

「はいいらっしゃいませ」

「先日ご面会の約束をさせていただきましたフォンロン国冒険者ギルドで外交担当をしていますレフォアと申します」

「あ! ジュリにだね! 呼んでくるよ!」

「御手数おかけします、よろしくお願いいたします」

「たしかグレイセル様も立ち会うんだよね? 一緒にいると思うから呼んでくるよ」


 と、いうことで商談といきますか。









 丁寧な物腰、そして菓子持ってきた。

 これ絶対日本人対策だわ (笑)。

 過去にも日本人の【彼方からの使い】相手で交渉経験があるのかも。それで教わってたとか。


 話はスムーズに進んだ。

 ただひとつ、フォンロン国のギルドの職員レフォアさんて人が代表みたいに主に中心になって私との交渉を進めたんだけど、どうやらこの国の最新の動向が気になる様子なのが話の節々に見受けられてね。この国の冒険者ギルドとどこまで私が関わりを持っているのか探りもあるかな? と。

 でもそういうの気にしなくていいよぉ。


 この国のギルドについてはつい最近白紙宣言したばっかりですから!!


 って、言ったらフォンロンのギルド職員三人の目が点になってた。

 ああ、まぁ、そうよね。

 喧嘩? になったとはいえ、なんの契約もしてないことは不思議よね。

 でもいいんです、放置するって決めたんです。

 買ってくれてる人に売るんです私は。

 タダで寄越せと言うやつ優先なんてしません。

 だって従業員から内職さんからいっぱい抱えてるんですよ!! 当然でしょ!!

 って力説したら。

 あら、内職の部分に食いついた。

 てゆーかこの国のギルドと私が一悶着起こしたことを気にしないのか。

「ギルドと言っても国が違えばピンキリですから」

 だって。凄いよ、フォンロンのギルド職員三人は話を一通り聞いたらニコニコ、他所のことは関係ありません、って。

 ヤバい、なんだこの淡白さ。

 この国のギルド見放されてる?

 ちょっとざまぁみろ、と頭を過ったのは内緒。


 そして。

 大筋で商品の納品数と納品時期、職員さんの実習受け入れの期間とか人数も今後詰めていくことを約束して、ならば興味のありそうな内職とか、その辺も聞かせますか。

 なんて話してたら。

 ネイリストの話に派生して、専門学校、領民講座、夜間営業の話からハルトの 《本喫茶:暇潰し》まで及び、更にはグレイが、私が女性をもっと採用したいから作って!! と只今絶賛試験運営中の『託児所』の事をネタ的な感じで話してしまって。

 気づいたら日が暮れてたよ……。お昼食べ損ねたよ、辛い。


「大変有意義なお話をさせて頂きましたし、ジュリ様の商品の契約も滞りなくさせていただけるお話が出来ましたので我らが国王もお喜びになることでしょう、誠にありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ色んな話が出来て良かったです」

「グレイセル様もありがとうございます、侯爵家の介入があればこそ、こうして堂々と伺うことが叶いましたし、道中の手厚いもてなしも感謝しています」

「いや、こちらこそな。あなた方の申し出はジュリの作品が理不尽に権力によって搾取される抑止力にも繋がる。この件はすでにククマットを中心に周知してあるからあなた方も堂々とクノーマス領に滞在して欲しい、父も久しぶりに隣国の話が聞けると楽しみにしていることだし」

「ありがとうございます」


 いやぁ、商談成立って気分いいわぁ。


ブクマ&評価、そして誤字報告ありがとうございます。

誤字の多さに自分で驚きです。




お菓子持ってきたのはジュリが日本人だからというだけでなく、彼女が見かけによらず大食いだからです。


「物凄い食いますね」

「そんなにか?」

「食後にケーキ、ホールで食ってました」

「凄いな」

「朝からステーキ食ってることもあるので」

「もたれそうだ」

「間食と言ってサンドイッチ三人前食ってることもありましたし、甘いものは別腹、酒のつまみは別腹、夜食は別腹、とよく言ってます」

「その、なかなか、ふくよかそうな女性だな」

「普通です、むしろスタイルいいっす」

「何故だ?!」

「わかりません。とにかく食います。侯爵家令息が『胃袋掴んだ者勝ち』と言ってたことも。そういう人らしいっす」

という、フォンロンのスパイとギルド最高責任者の会話から決まったそうです。

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