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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * 修繕、改築、建設ラッシュ

次の更新で新章に入るタイミングになったので、これを期に二週間程度のお休みを頂きます。


更新は火曜日、土曜日のままで変更はありません。




 


 最近、ククマット地区は日中の賑わいに混じって建設業の人たちの威勢のいい声やカンカン、トントンという音が至るところから聞こえる。

 そしてたまーに聞こえるドッカーン、バッカーンという音はグレイとハルトが何やら遊んでるせいだって話が私の所に届くけど、それはどうにも出来ないので皆で『無視するに限る』と意見の一致以降話題にはしていない。


 いやぁ、凄いのよ私の周辺の変化が。


 ネイリスト育成専門学校兼領民講座教室の入る建物の改築


 ハルトの経営する 《本喫茶:暇潰し》の新築工事


 近所にある宿屋二軒の改築、修繕


 向かいのお茶屋さんのイートインスペースの改築


 進捗状況が把握できる建物だけでこれだけあるのに、他でもやってるんだから。

 規模に違いはあれど、壁のペンキを塗り直したり、店内の家具を新しくしたり、そういう細かなリニューアルを含めたら一体どれだけの店がやってるの? とびっくりするくらいよ。

「それだけ今ここは潤っている証拠だ。わずかばかりだが臨時助成金を出すことになったのも大きい」

 お店が休みの今日、グレイと二人で久しぶりにククマットを散策してるのよ。気付けばククマットの有名人? の私とグレイが並んで歩いてると皆が挨拶をしてくれるんだけど、建築に携わる人の多いこと多いこと。

「助成金はありがたいわよ、わずかばかりって言うけど有ると無いとでは雲泥の差だよ? 侯爵様に感謝してるよ皆」


 そう。

 ククマットで商売をする人たちに改築や修繕、新築への助成金の規制緩和が期間限定で施行されることになったのには驚いたわ。

 元々建物の規格がある程度決まっていて景観に配慮した町並みのククマット地区は建物の人や店舗の入れ替わりがある度にそれに合わせた修繕や改築をするとき助成金が一部出てたの。新築ももちろんね。

 でも今回、助成金支給の対象になる最低額が引き下げられて、その対象項目も大幅に増えて。何を、どこを改築したりするかのチェックは入るけどそれでも貰えるからありがたいよね。大型家具の買い換えにも適応させたことで、ククマットの木を扱う職人さんたちも仕事が増えて今本当に活気づいている。

「ジュリのお陰だな。ジュリが何かしようとする度に人も金も動く」

「いやぁ、頑張ってるからね! こっちの世界にない知識で儲けるのは異世界召喚のテンプレよね、出来ることがあるなら挑戦して損はないし、今までなかったものを広めるからそれだけ成功もしやすい、私の恩恵はそういうものらしいから遠慮なくこれからも有益なものを撒き散らすわよ、動き回ってね」

「確かに撒き散らしているな」

 グレイが笑う。

「ジュリの影響はジュリが思っている以上に広域だ、それを見せてあげよう」

 そういえばそんな事を朝も言われたけれど、なんだろうね?











「ん? あれ、ここって前から道あった?」

「新しく整備が始まった道だ、その先に居住区と商業区が新たに整備される。すでに人が出て調査や障害物になりそうな大きな岩の撤去などは始まっている」

「あ、そうなの?!」

「既存の建物の修繕や改築が優先だが、遅くとも一年後には土地の整備は終わらせ建築が始められるよう調整している」

「ほほう」

 まだ凸凹している整備途中の道を進んで、開けたところに出た瞬間。

「広!!」

 思わずそう叫んだわ。

 だって見渡す限り人がポツポツいて、作業してるんだもん。つまり、目に見える人がいる範囲は全て整備されて建物がたったり道が伸びる土地ってこと。広さは、例えようがないから困る。とにかく、かなり遠くに人が確認できるところまでククマット地区の居住区と商業区が拡大されるってことでしょ?

「え、えっ?! こんなに広範囲?!」

「ああ。そうしないと間に合わないだろうしその先も見据えての拡大だからな」

「間に合わないって何が?」

「領内の移転だよ、他の領からの移住希望者も増えている」

「は?」

「ククマット地区への申請が急増しているんだよ。うちの不動産事業部がその対応で混乱、民事ギルドから人を借りて対応するまでになっている」

「はぁ?!」

「あははは、凄いだろう?」

 いや、そこ笑う所じゃない。

 てか、急ピッチで土地開発しないとダメなくらい移住や移転を希望する人がいるの?

 そりゃ凄い。うん、凄いな?!

「ああ、それとここだけじゃない。侯爵家の屋敷がある方角を除いて全ての区画で拡張する計画も出ている。ジュリたちの住んでいる区画も《レースのフィン》の拠点となる場所だから大幅な開発はしないが働きやすい環境を整えるために小規模な工房や休憩所などをあの区画に増やす話も出ている。広大で肥沃な農地を潰すわけにはいかないし 《レースのフィン》を軸としたのどかな景観をあえて保つ方向がいいだろうと」

「へぇぇ」

「それと母の実家の貨商の主、つまり私の叔父上だが『うちもかませろ!!』とかなり前のめりな手紙を父と母に寄越して。バニア家が大規模土地開発に融資をさせろと。その見返りに管財人として教育している人材を寄越せと母が手紙を送ったものだからお互い腹の探り合いをしていて何故か殺伐とした手紙のやり取りが続いているらしい。兄妹なんだからさっさと折り合いをつけてくれと兄が言ったそうだが『子供は引っ込んでろ』と一蹴されたと」

「ほほう」

「……というか、兄の話は別としてそのあたりの計画はだいたい書類で渡したはずだが?」

「私に読む暇があると?」

「……気が向いたらと私も言った気がする」

「言ってましたとも」

「まあ、これからも気が向いたらでいい」

「助かるわぁ」











「とまぁ、凄いことになってるのよ」

「ほほぅ」

 《本喫茶:暇潰し》の準備で来たついでに何故かうちの従業員に混じって昼食食べて寛いでるハルトは、あんまり関心なさげな相づち。

「発展して俺が儲かればなんでもいい」

 と。自分が興味あること以外には全く無関心、一切の執着を見せないのはなんともハルトらしい。

「しかし、計画から実行までの異常な速さは地球じゃ考えられないよな」

「そうなんだよねぇ」

「これもほとんどの土地が領主制で管理されてるからだよな」

 そこだよね。国の許可とか行政とか、ほぼ不要なんだもん。大規模土地開発だって原則国に、つまり王家に『こういうことやります』っていう報告するだけでいいんだから。

 それで税収が上がれば国は儲けものだし、赤字でもそれは領主の責任、国は関与しないだけ。

「あとは、クノーマス家の行動力」

「だよねぇ」

 ハルトと私の遠い目。

 スタートダッシュの速さと言ったら尋常ではない。そして常にフライング気味。

「昔からだぞ」

 ライアスが正午のお茶を飲みながら、私たちの会話に参加する。

「行動力と決断力がずば抜けてる、なんてのはクノーマス領じゃ昔から言われてることだ」

「あの勢いが昔からかよ」

「血筋なんだろうね」

 ハルトと私は笑ってしまう。あの凄さが昔からならさぞかしこの領の発展に貢献しただろうね。

「それに、ご先祖の領主様が【彼方からの使い】の警護を数年間王宮で務めていたことも大きいんだろう」

 その話は以前チラッと聞いたことがある。

 とある伯爵領に召喚された【彼方からの使い】がいて、その人は王宮に招かれたけれど、数年後王宮を自分の意思で出て伯爵領に戻り、その地を大陸中から【音楽の都】などと呼ばれるまでに発展させたって。どうやらその【彼方からの使い】は、私と同じ。

【スキル】【称号】なしの、【変革する力】を持つ人だったらしい。魔力なしではなかったみたいだけど!!

 つまり。

 侯爵家は『私』の扱いに役立つ経験をご先祖様が経験していて、そしてその事を代々受け継いで来てるんだと思うのよ。


「数年の護衛だけでも、自分とこの領に住んでもらえなくても、そのご先祖が恩恵を授かったんだろうな」

 ハルトが納得、と言いたげな顔をする。

「どんな【彼方からの使い】であっても扱いさえ間違わなければ必ず恩恵を与えてくれるってことを実体験で証明したってことだ。で、それを現在進行形で試しつつ確認しつつ、実際に恩恵をがっつり受けてるわけだ【彼方からの使い】から」

「それ私のこと?」

「他に誰がいるんだよ」

 ライアスにツッコミ入れられた。

「けど、それにしても行動力が尋常ではないわよ、もう少し慎重になっても良くない?」

「勝負師気質だな。『良さそうだからとりあえずやってみる』っていうあの家の風潮は。それでほぼ失敗なくやって来れてるんだからそれも血筋かもな、天性の勘の鋭さってやつ」

「ああ、そりゃあながち間違ってないぞ」

「そうなの?」

「先々代の侯爵様ってのが、当時イカサマで荒稼ぎしてた賭博場荒らし相手に、全財産巻き上げた挙げ句服まで賭けさせて賭博場からパンツ一丁で放り出したって話がある」

「……イカサマするヤツ相手に賭けして勝ってんのかよ」

「何者よ、その侯爵様」

「当代の侯爵様は分からねぇが、エイジェリン様も王都の学院にいたころ学院の催し物で競馬が行われて、賭けをして一人勝ちしたらしい。あの一族はとにかくそういうことに強い部分が遺伝する、なんてことも昔から言われてるからな」

「なんじゃそりゃ。それこそ遺伝型の【スキル】と同じくらいすげぇだろ」

「……うわぁ、チート一族だぁ。じゃあグレイと妹のシャーメイン様も?」

「たぶんな。賭け事をするとは聞いたことがねえが、お二人も運はえらくいいと思うぞ、血を濃く受け継いでるならな」

 そんな話になったので、後でグレイに『半か丁か』ってやつ、時代劇によく出てくる賭け事をハルト相手にやってもらったら。

「嘘だろ、おい」

 ハルトも真っ青。お金かけてたらすごい儲けになってたよ、一回も間違わなかったんだから。なんか色々おかしいよね? クノーマス侯爵家の人って。

「賭け事は興味ない。やれと言われればやるが、他にもっとおもしろいことはあるし、賭け事に金を使う意味がわからない。賭け事で勝っても、だからなんだと思うんだが。あれの何がどう楽しいのか未だにわからない」

 と、本人は至って興味なし。


 こんな風に話がおかしな方向いったけど、とにかくククマットは今土地開発真っ盛り。

 勝負師気質の一族の勢いに付いていけない私としては。

「がんばって!!」

 と言うだけよ。


 うん、いいんじゃないの?

 発展して盛り上がることは大歓迎。

 私も頑張るよ。


 

それでは次回、新章突入です。


今しばらくお待ちくださいませ。


早ければ5月30日、もしくは6月2日に更新再開目指します。

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