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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * 小金持ちジジイになれる?




 出来ないことではない、ってふと思えたのは夜働くことに抵抗がない人がとても多いってこと。私の周囲では本業で農家や職人さんが多いから気づかなかったけど。その事を言うと、

「働きたいときに働けるなら夜のほうが都合がいい人間もいるしな」

 ってエンザさん。冒険者は真夜中の討伐もあるし、それに対応してギルドは二十四時間体制、その周囲には同じく二十四時間体制で客を受け入れる宿もあるし酒場や食堂もある。

 自警団も二十四時間活動してるし、市場でも日付が変わってすぐ活動する人たちも多い。

 つまり、環境的にククマットは二十四時間人の動きがあるのよ。

 むしろ私の店が異質。きっちりしすぎに見えているかも。


 そして夜間の営業とそれに伴ってあると便利そうな簡易休憩施設 (マンガ喫茶)について話が進む。

「夜、働くとなると男性の店員が望ましいです、警備は自警団の方に引き続きお願いするとしても、店内で働く側も強化出来れば安心です。ただ、遅い時間まで製作することもあるし、その日時をずらせないことも多いので夜間営業と重なって集中出来なくなる環境は避けたいっていう悩みが。それはどうしようかと」

「……それなら、資材置きに借りているすぐ近くの借家でやれるんじゃないか? 扱う数を減らせば人も物も移動は楽だし安全だ。入口付近を多少いじることで対面式の露店のような店は出来るだろう、無理に今の店でやる必要はないんじゃないか?」

 グレイの神の一声!

「あ、それいけそう! 簡易休憩施設との兼ね合いもあるけど、夜間営業は少なくとも月数回で試験的にすぐ始められるように計画進めても大丈夫そうだね」

「……な、なぁ」

 エンザさんがなにか思いついたみたい。

「その夜中の警備、冒険者に回してくれねぇか? 夜に暇をもて余すヤツも結構いるんだよ」

「えっ? ちょっとそれは。冒険者さんだと依頼料が跳ね上がりますから無理です」

「あー、なるほど。グレイセル様、夜の見回りは自警団で報酬いくらになってるか聞いても?」

「そうだな、年齢と経歴にもよるが……新人なら二十リクルか」

「え、安!!」

 思わず素で突っ込んだ。

 するとグレイが遠い目を。

「だから言っただろう、ジュリの店で日中の営業時間の五時間を販売員として働いて二十五リクルは高いと」

「はっ?! なんでそんなに高いんだ?!」

 なぜ。なぜだ。居たたまれない気分になるのは。

「そりゃババァたちが目をギラギラさせて働いてるわけだ!!」

 あー、エンザさん、それおばちゃんたちの前で言っちゃ駄目ですよ。袋叩きに合う。


 高いとは言われてきた。おばちゃんたちが堂々と毎月月末に渡す給金袋を覗いてはニヤニヤしてたからよく分かってる。

 でも、変えるつもりはない。そもそもその賃金でお店は回せてるし。むしろ今後賃金上げるつもりだし。それは黙っておくけども。

「俺の酒代、小遣い稼ぎにも……」

 ってエンザさんがぶつぶつ言い出したのは見なかったことに。てか、あんた冒険者として物凄く稼いでるくせになんで食いつく。


「じゃあ。夜は三十分休憩と軽い夜食込、時間は十時から深夜三時までで賃金は三十リクル、お店で商品について勉強してもらう研修日を設けてそれに出席できること、お金の計算出来る、ついでにお店の防犯にもなるよう冒険者の……ランクは、どれくらいがいいんですかね?」

「なら中級からだな。経験上防犯や自衛意識も身に付いてるし、しかも依頼をこなすのに一ヶ所に一定期間留まることも多い、空いた時間で暇潰しと小遣い稼ぎにもなるから中級でもやりたがる人は多いはずだ」

 エンザさんの一言で決まり。

「ならば中級以上の冒険者さん、ギルドに私個人の指名依頼が可能かどうか確認してから許可が降りればやってみますか」

「高額になる護衛や討伐依頼でなければ 《ハンドメイド・ジュリ》の商業依頼であっても恐らく大丈夫だ。単日で計算するとギルドが獲得できる手数料の規定に程遠いからな。日雇い日払いにすればすぐに許可が取れるんじゃないか?」

 グレイの説明だとギルドとトラブルになりそうな気配はないね。ならばやってみるかぁ、と言いかけたら。

「はい、俺やる」

 エンザさんが挙手。

「いえ、結構」

 私が拒否。

「なんでだよ?!」

 間髪入れぬこのやり取りにグレイが前屈みになって肩を震わせて笑う。

「エンザさんにはやってもらいたいことが山ほど」

「は?」


「まず、冒険者さんが実際夜の営業に関わるなら必要最低限の接客技術を身につけて欲しいんですよ。で、エンザさんには何日間かうちの工房から直接見学してもらいたいんです、そして気を付けること、やってはいけないこと、些細なことでもいいので疑問や不安、そういった事を思いついた限り書き出して欲しいんです。それで冒険者さん専用の接客マニュアルを作れたらいいんですよね」

「ほう、それはあると確かにありがたい」

 だよね。

 多分、分野が全然違うから、価値観からしてかなりの違いがあるはず。だから冒険者さんから見て、疑問や不安があればそれを初めからマニュアルに書いてしまえば教える方も覚える方も分かりやすいし早い。

「それと、簡易休憩施設のこともちょっとお話出来れば。これがあるといいとか、これは無くてもいいとか、私の構想と照らし合わせて意見を頂けるとありがたいんです」

「そんなのお安いご用だ。簡易休憩施設なんて面白そうだしな、詳しく教えて欲しいくらいだ」

 おおっ、好感触!! 自然と二人で笑顔になってしまったわ。

「もちろん、どっちも相談料としてお金は払いますからね、奥さんに内緒の酒代にでもしてください!!」

 エンザさんの目がキラキラしてた。財布握られてるんだね……。










「それ俺も関わりてー!!」

「あ、いいよ、助かるわハルトはマンガ喫茶の知識あるし。というか、経営者ならない?」

「おう?!」

「私時間なくてちょっと厳しい。経営者募集中よ」

「いいぜ、やるやる。所属国以外でも商売できる許可の申請するよ」

 と、ハルトがいきなり経営者です (笑)。簡易休憩施設、つまりマンガ喫茶擬きのオーナー。

 全面協力はもちろんするわよ。 言い出しっぺだし、何より女性目線の配慮がされてる店にしたいし。エンザさんパーティーとも面識があったと分かって話はトントン拍子で進むハメに。いやぁ、一度動き出すと速い! これも恩恵だったりして。


 で、なぜか争い勃発です。


 参った、そういう事になるのか、と。

 いやね、私はぶっちゃけ誰でもいいんですよ、安心安全にお店が経営できれば。そこに安心安全な状態でお客さんが来てくれれば。

 その事を本当に軽々しく言ったこと今猛省しております。

 何故なら。


 冒険者と自警団が対立した。


 理由はね。

「ここはクノーマス領だ、ジュリ殿が拠点としているこの領地の自警団の発展のためにも夜間の警備もさることながら店員も自警団から人を出すべきだ、領民としての貢献だけでなく店の経営、接客を経験することで新人や若者が教養を身につける場所となり、将来性のある人間が多く育つ環境となるのだ」

「あのな、それは冒険者だって一緒だ。経験することが何よりも昇格の近道、依頼をこなすことで責任感が増すし知識も増える、教養を学ぶ機会が依頼に入っていれば他の時間を魔物討伐のための訓練や勉強に回せる、冒険者が昇格すれば魔物討伐で活躍する場が増えるんだ、遠回しに治安にも繋がるんだぜ、自警団だけが人を育てる環境を必要としてるわけじゃない、冒険者にも必要なんだからな」


 って、具合になりまして。

 ククマットの自警団のお偉いさんの一人ルビンさんって方とエンザさんがバチバチしてる。

 困ったな。私はほんとうにどっちでもいいんだけど。

 ……これ、長引くよね。

 さて、どうしようか。新規事業のお話ということで今日は侯爵様がわざわざ来てくださったんだけど、顔が笑ってる。絶対に揉めるって分かっててこの方は来たな、これ。

 その隣でグレイも平然としてる。そして目が合った。


 ジュリがまとめろよ。


 と、目がおっしゃってる。

 だよね。

 ちなみにハルトは。

「誰でもいいぞ、徹底的に教育するし」

 と、不気味な笑みを浮かべてた。うん、まぁ、ハルトのことだから何とかするでしょ。


「お店の営業について自警団は把握してくれています、今まで通り店前に立ってもらう警備は自警団にお任せします。夜間営業ですが、まず月に数日で試しますので、問題なければ店員も自警団にお願いします」

 ルビンさんが笑顔だぁ。エンザさんは不服そう。大丈夫、その辺はちょっと考えた。

「理由としては、この地区のことを熟知しているので、例えば今から泊まれる宿を知りたい、食堂を知りたい、というこの地区に関する質問などにも対応しやすいはずですね。それと日中から夜間への情報の引き継ぎが店員同士で必要です。そうなるとお互いに顔の知れたうちの従業員と自警団の人たちなら安心だし意志疎通も楽ですから」

 ルビンさんがこれ見よがしに頷いてる (笑)。

 面白い。


「そのかわり、ハルトが経営する 《本喫茶・暇潰し》は冒険者さんに一旦全てお願いします、状況に合わせてハルトが変えていくと思いますけど」

 ……お店の名前を決めたのは私ではございません。ハルトです。

 センスが独特だった。

 経営者がそれでいいなら文句を言うつもりはない。

「こっちの世界の店名なんて分かり安いのが喜ばれるんだぜ? ぶっちゃけ 《ハンドメイド・ジュリ》って、何の店なのか一発で分かるやつ存在しねえんだから」

 ごもっともだと納得させられた。


「理由はまずハルトが経営者になるので、冒険者の扱いに長けてるってことです。彼が経営者だと分かれば無茶を言う人や悪態をつく人もそうそういないでしょうし、エンザさんたちと親しいので情報共有もしやすい。それと、冒険者と繋がりが持てることは私に好都合です、交友関係が広がれば新素材の開拓と安定的な確保に繋がることもあるでしょう。というか冒険者さんには新しい働き場所を提供する代わりに素材の確保を優遇して欲しい思惑満載です。それは冒険者さんにしか出来ないことですからね」

 エンザさんがその通り、ってドヤ顔してる。


「と、言うことでよいですよね? お互い意識して切磋琢磨して下さい、上手く行けば営業日数を増やしていくことも可能ですよ。侯爵様が許可を下さる仕事ですし、ギルドも関与しないので、くれぐれもトラブルを起こさないよう協力しあって!! これを機に、皆で小金持ちジジイもしくはヘソクリオヤジを目指しましょ!!」


 グレイやハルトが爆笑してた。

「世の中の男は皆妻に財布を握られてるから。ヘソクリ増額は悲願だろうな」

 とグレイは他人事なので本気で笑ってるわ。

 悲願? 言い過ぎでは?

 エンザさんとルビンさんをチラッと見ると。

「私も一日、時間を調整して……」

「あいつらに、話し合わせてもらって……」


 ……見なかったことにしよ、聞かなかったことにしよ。


 頑張れ男たち!!




エンザとルビンはたぶん小遣い制。

冒険者で小遣い制、不憫すぎる (笑)。これからはヘソクリ増やせる、かなぁ?

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