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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * 夜間営業と

 



 依頼についてはあっという間に話が纏まった。エンザさんたちがサポートにつくというので非常食はいらないというし、期間も思ってた以上に早期に納品できる日程で調整してくれることになった。

 ちょっと至れり尽くせりで怖いなぁ、と頭をよぎったけど。

「あの、ついでに、その貸し切りにうちの嫁さんとか来たい奴を連れてきてもいいか?」

「構いませんよ。あ、ただ、店が狭いんですよね。通常でも一度に五人とさせてもらってるので、交代で見るにしても工房で待機してもらうことになるので、出来れば最大十人までにしてもらえるとありがたいです。商品は万全に用意しますし、普段は五個までとさせてもらっているものも今回は物によりますが、こちらも優遇してもらうので特別に倍くらいは構いませんよ」

 というやり取りしたら。ものスッゴい喜ばれた。


「失念してました、確かに男性は入りにくいかもしれません」

「そうか?」

 グレイは黙ってて、あなたはその辺麻痺してますから (笑)。

 私の正面で、エンザさんは苦笑する。

「感謝しかねぇよ、それに、俺のパーティーはちょっとな」

「なにか、あるんですか?」

「ジュリさん、ダッパス黙らせたんだろ?」

 あれ、なんでこの場面でククマットの冒険者ギルド責任者であるダッパスさんの名前を?

「このエンザも、以前ダッパスとやりあってる」

「えっ? そうなんですか」

 バツが悪そうにエンザさんが笑う。

「幼なじみのグレイセル様の前で言うのもなんだけど、あいつ俺ら冒険者よりギルドの上層部を大事にする傾向があるからよ」


 意外な話が出てきた。


「俺がここの侯爵様から直接依頼されるのが気に入らないんだよ、直接ってことはギルドに手数料が入らねえからさ。けどここはククマット、クノーマス領だろ? 文句が言えねえだろ、あいつも。侯爵家の依頼ともなると報酬は高額だ、だから影で他のパーティーにも回せってしつこく言われたことがあって」

「父は自分の目で見て信頼おける人間でなければ、雇わないからな。ダッパスの紹介だと必ずギルドが優遇しているパーティーだ、父を優先するわけじゃない、影でこちらの情報を得ようと動かれてはたまらない。それを防ぐためにいちいち細かな契約を交わすなんて時間の無駄遣いをする気にもなれないから父はギルドを通さないんだよ」

「……情報って、そんなことしちゃ駄目ですよね?」


 驚きつつエンザさんに問えば。

「残念ながら、するんだよ。どんなに輝かしい経歴でもこの国の冒険者ギルドとの強い繋がりがあるパーティーだと発覚するとこのベイフェルアでは活動範囲が狭くなる。貴族が警戒して敬遠するんだ。それなりに経験を積んだ冒険者ならこの国のギルドがおかしいことは分かってるからな、ギルドから推薦されるのを嫌がってあえてこの国に寄り付かないパーティーもいくつか知ってるよ」

 私の問いにエンザさんは迷いも見せず、けれど肩を竦めてそう答え、グレイもそれには苦笑した。

「この国だけだぜ、ギルドの上層部が貴族の情報収集してそれを売って金にするってのは。しかもその金はギルド職員の個人の懐に入ってるしなぁ。情報の売買が悪いことだと知ってても、金のために仕方なくやってる冒険者もいる。まあ、それが噂になって広まった時点でその冒険者パーティーはあっという間に消えてくけどな。信用第一の仕事だ、世の中そんなに甘くないってことだろう」


 びっくりした。

 本当に。


 この国の悪習らしい。

 数世代前の国王が、貴族を上手く利用するためにギルドに出資する代わりに冒険者を利用して情報を得ることをしていたんだそう。それが次第に形をかえてギルドの一部の上層部が私腹を肥やすために今でも情報の売買をやっているらしい。

 ギルドは独立した機関なので、国も抜き打ちで調査とか勝手に出来ないから調査に入っても既に隠蔽されてるんだって。だから事実上知っていても見逃すしかないと。

 影響力のある爵位を持つ家や資産家や商家は自衛として信頼を置く冒険者パーティーや護衛専門の職業をしている人たちに依頼をする、それがこの国の常識。でも他所ではそんなことはあまりないらしい。ギルドを通して依頼をするほうが安いしギルドの保証が付いてるんだから当たり前だよね。それがこの国ではお家事情をお金にされてしまうリスクがあると。

 そんな護衛断固拒否だわ。

 国がそれを黙認し続けてるのも腹が立つよねぇ。未だに情報買ってるのがバレバレ。

 つくづくおかしな国。率先して悪いことしてそれを広めてるんだから。

 そしておかしな国ゆえのギルド。特に冒険者ギルドが。


 仲良くは出来ないわ、私は。


 で、エンザさんは以前その事でダッパスさんと口論になり、正当性で圧倒して黙らせたとか。以来ククマットでの依頼はほとんど侯爵家からの直接依頼と、強い魔物が出たときの討伐依頼を受ける位に留まっているんだって。

 グレイは声も出さず苦笑してる。

 最近、グレイはダッパスさんと会っていない。私とダッパスさんの一悶着以降何度かお酒を酌み交わしたら意見の相違が多々露呈して。グレイが私の側で活動することは、ダッパスさんにとっては不都合なことが多いと会話から伝わってきたんだそう。だってこの人はいつでも私のため、侯爵家のため、そして領民のために動いてる。決してギルドのためじゃないからね。


 ……私が悩んでも仕方ない。でも、この国の現状は私はちょっと納得できないなぁ、と再認識することにはなった。


「まあ、そんな訳であいつとはあんまり顔を会わせたくねえんだ。あっちもそうだろうしな。昼間ククマットをうろちょろしてると会う確率も高い、お互い付かず離れずがちょうどいい」

「そうですか……」

 私にはそれ以上は言えないから、取り敢えず話が弾む方向に向けてみる。

「でも、男性が入りにくいっていう意見はとても参考になる意見でした。……思いつきですけど、検討の余地ありますね」

「「え?」」

 あら、二人がきょとんとしちゃった。

 実はですね。


「夜の営業?! いや、それは危ないんじゃないか?」

 エンザさんが目を丸くして慌てる。確かにね、夜は危ない。酒場では度々いざこざが起きてて、そして慣れっこで周囲が気にしないくらいには日常。だから女性一人で入れる酒場なんて大陸全土を見てもないんだそう。残念だわ。

 そして、以前こんなお客さんが。

「いやぁ、ギリギリ間に合った!! 閉店前にすみません、すぐに買いますので」

 って、汗を流して走って来店。うちの店は家を切り盛りし農業の傍ら時間を見つけてでも働きたいと言ってくれる女性たちがメインで動かしてくれてる。そして一部の商品を除いて私主導で作っている。だから長時間の営業は無理、元の世界に無数に存在した雑貨店ではあり得ない、午前10時から午後3時までよ。ラーメン屋ならね、スープなくなりましたとかいってあることだろうけど、雑貨店で店員の都合だけで時間を決めるのはなかったと思う。


 まぁ、この世界はそのへん緩いから好きなときに開けて好きなときに閉めるが常識。むしろちゃんと定休日通りに店を閉めて、時間通りに開店閉店、臨時休業の看板を必ず出す私は非常に几帳面に思われている。

 え? 普通じゃないの?! ってこっちがびっくりしたんだから。

 だからお客さんが走って来たのよ、閉店時間が早めなのは分かっている、のらりくらりとダラダラ開けっ放しにしたりしないでなるべく時間通りに閉店しているし。


 聞けば、そのお客さんは 《ハンドメイド・ジュリ》の週一の定休日とよく休みが重なる上に、家がある地区がククマットから遠い所。だからといってわざわざ休みをとってまで来る距離でもなく一度午前の早めに家を出たけど、着いたらすでにお店は閉まってて絶望したと。それで早朝に出て来てようやく間に合って、帰りは夜の移動になってしまうのでわざわざ宿を取って一晩過ごすと。

 そのときは大変だなぁって思うだけだったけど、後から聞くと結構そういう人がいる。しかも奥さんや子供を連れてこれないんだって。理由として行きはよくても帰りは夜、夜中になる。魔物や盗賊が活発になる時間。男なら何とかなっても家族がいては……って。


 ふむ、事情とは人それぞれと今更ながら実感したわ。

 色々考える。その場で。二人は無視。

「……あのぉ、たまに夜中お店が開いていたら便利ですかね?」

「そりゃもちろん!! 俺なら夜だ、入りにくいよりもまず、冒険者だと昼も夜も関係ねぇ依頼が多い、夜もやってくれれば女の冒険者も助かると思うぞ」

「そっか、そうですよね、冒険者って女性も結構多いですよね」

「ああ、うちのパーティーの二人もこの近辺で活動してる時偶然時間が空いて来れたんだ」

「……需要はあると思うんですよ、今の話を聞くと」

 頭の中では、あるお店が思いついていた。

「……ジュリ」

 おっと、グレイの視線が物言いたげ。分かってるわよぉ。何を考えてるか説明しろってことでしょ?


「飲食店と宿の簡易版?」

「そう、食事は簡単かつ種類が少なくていいんだよね。あくまで『ちょっと休む』『時間を潰す』が主な目的だから。で、部屋はゆったり寛いで座れるスペースがあればよくて、家具らしい家具は他には入れない。数時間一息つける場所が確保できるようにするだけ。連泊するには全く向いてない反面、わざわざ宿を取って休むにはお金も時間も勿体ないと思う人には便利なはずよ」

「それは、宿とは違うのか?」

「休むことが、目的? 泊まるのとは、違う?」

 グレイとエンザさんが首を傾げるのも無理ない。

 私が言っているのは、元いた世界にあった便利なお店。


 マンガ喫茶。


 あれ、私も何度かお世話になりました。飲み会で終電逃して、タクシー代が勿体ない、そして翌日休みならあとは家に帰るだけだからっていう日はとても便利な場所だったわぁ。

「元いた世界にあったお店で、それを応用した店を、毎日とはいいませんので、 《ハンドメイド・ジュリ》の夜間営業に合わせて出来れば、少しだけ遠くから来る人や夜都合がいい人にとってかなり安全も確保されるし、経済的にも楽になると思うんですよ」

「「ほう」」

 あ、二人とも食いついてきたぞ。そして声が揃ってた、ウケる。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  再読なのでわくわく顔の脳内ハルトが、猫が獲物に飛びかかる直前みたいなモーションです(笑)
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