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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * 冒険者の格付け

 


 侯爵様とグレイがポカン、としている。

 たぶんシルフィ様がサラリと提案してきたのには理由がある。

 侯爵様とグレイと違って、私同様シルフィ様には『こういうものだから仕方ない』っていう概念がない。何故ならギルドや冒険者のことを常識も含めて仕組みを詳しく知っていてもそれに実際関わる立場ではなかったからだ。言葉で言うのは簡単、なんてよく聞くけど、どちらかというとシルフィ様が今提案してくれたことはそれに近いことなんだと思う。

 冒険者はランクが上がれば報酬の高いものが受けられる、格安で地味なものは初級の中でも本当になりたての『見習い』と呼ばれる識別カラーが橙色の人たちと、見習いから昇格してパーティーを自由に組める権利が与えられる『駆け出し』と呼ばれる識別カラーが緑の人たち。でもその人たちは計画的に蓄えをして冒険者登録でもしてなければ元手はほとんどない人が圧倒的らしい。だから装備も格安のものだし、旅に出るときに持っていると便利なものや携帯食品などにお金はかけられない。だから安全で受けやすい依頼に見えても期間が決まっていない、規定の素材を集めるという依頼は受けにくい現状がある。


「なるほど、最低限の保証を付けての依頼か」

 それはもう侯爵様が、自慢の奥様の提案に『さすが私の妻!!』と言いたげなキラキラした目を向けてうっとりしているのは見なかったことにする。当の本人もいつものことと慣れているのかシルフィ様はそんな侯爵様を無視しているのも見なかったことにする。

「それなら、いけるかもしれない」

 グレイの目も心なしか輝いて見える。


「初級の中でも『見習い』『駆け出し』はレベルが上がりにくいから、経験と実績のある中級まで育てるのに苦労するんだ」

「知らなかった。討伐さえ出来ればどんどん昇格していくものだと思っていたし」

「それで認識は間違っていないんだが」

 帰り道、グレイが操る愛馬はのんびり闊歩している。その上で私たちものんびり会話。

 私は、時々彼が身につけている冒険者の証『識別カラー:白に金の二本線』のネックレスを思い浮かべる。色付きスライム様の入荷がない日が続くとグレイが自らダンジョンに出向いて探しに行ってくれる時に必ずしているもの。ちなみにこれ、上級。しかも上から二番目の超凄いランク。


 今さらだけど、冒険者にはそれぞれランクがある。

 上級、中級、初級の三つに大きく分けられるけど、実際は細かな条件や実績内容で細分化されている。


 上級

『大陸の覇者』

 識別カラー:金に銀線一本


『師範』

 識別カラー:白に金線二本


『勇敢』

 識別カラー:白に銀線二本


 中級

『熟練』

 識別カラー:紫


『戦闘員』

 識別カラー:赤


『冒険者』

 識別カラー:黒


 初級

『挑戦者』

 識別カラー:桃色


『駆け出し』

 識別カラー:緑


『見習い』

 識別カラー:橙色


 正確にはこの三段階、九の格付けに分けられるそうで。

 実はこれを知ったのは最近。周囲が上級とか初級とかしか言わなかったから分からなかったけど、明確な格付けをするための試験とか条件があるものの冒険者以外の人は細かな格付けをさほど重要視しなくても問題ないので、世間一般では大まかな三段階で呼ぶことが多いみたい。

 ちなみに、最高ランクの『大陸の覇者』はこの大陸でも僅か八人、それがハルトとその元パーティーメンバーだけで五人が占める。グレイいわく

「全員がハチャメチャに強い、というか全員自由人で癖が強すぎるから手に負えない。だからパーティー自体が突然組まれて気づいたら解散してたなんてこともやらかしている。当時ギルドは無計画で突発的な奴らの行動で大混乱だった。本人たちは至って真面目にやっていたつもりだが、『なんとかなる』主義のメンバーばかりだ、所属していた国は奴らのやりたい放題の後始末や周囲への根回しで相当大変だったらしい。それぞれ個人で活動することになってようやくギルドも落ち着いたんだ」

 という。

 ハルトとパーティー組んでやってけるんだからね。そういう人じゃないとね…。


 とかいいながらグレイもその下のランク。

『師範』だって聞けば百人もいない、その全員が騎士団で活躍したりギルドで重役になれる実績と実力を持っているそうな。

 このクラスは超危険魔物『特級』クラスの討伐にも駆り出されるし、所属国の有事にも要請が来る。なので軍人という国の公職に就きながらギルドにも所属しているのが通常だとか。

 そもそも騎士団に所属していていつ冒険者としての活動をする時間があったのか、と問いただすと

「幼少期に騎士になれる力が分かっていたからな。父から登録するように薦められたのがきっかけで早くに冒険者として活動していた。というよりダンジョンに剣一本と共に放り込まれたから嫌でも討伐することになったな。それとハルトと知り合ってからは、あいつと悪友をしていると自然と格付けはあがった。何せ無計画に面白そうという理由で討伐依頼を受けるんだ。山奥でドラゴンの中でも狂暴な部類のレッドドラゴンの討伐に出向いたときには流石に肝が冷えた。ただ、その時はハルトと二人で倒したんだが、最終的にはなかなかいい経験になったと思ったし、途中から楽しくもあったな。それにハルトは私が使えると分かった途端、国を無視して私を討伐に連れ出すのに拉致をする。転移を腹が立つほど簡単にやってのけるから軍の魔導師もお手上げでな。まあ、連れ回されたことと身勝手なあいつの指導のお陰で私の転移の精度も距離も飛躍的に向上したが」

「あ、そうですか……」

 この人も何気に化け物じみてる気がする。


 その辺はスルーしておくことにして。

 今のような武勇伝を語れるのは上級冒険者以上、まずそんな話はそう聞くものではないらしい。

 そして一人前の証しともなる『冒険者』と呼ばれるに相応しい魔物討伐やダンジョン最奥到達、そして護衛や警護といった信頼が必要な依頼が受けられるようになる中級だけど、その中級になるには大きな壁があるみたいよ。


「初級の『挑戦者』という格付けからして分かると思うが、中級へ昇格するのがとても大変なんだ。規定数の魔物を倒した実績だけでなく、魔物のランクで中級以上のものを一定数討伐すること、依頼の失敗、破棄といった罰金が課せられる前歴が二年間ないこと、冒険者同士でのトラブルによる提訴が一年間ないこと、最低で今言った条件を満たさなきゃならない。中でも大変なのが依頼の失敗と破棄だ、これは簡単なものでも必ず経歴に残ってしまう。だから素材採取が目的の依頼は簡単なのに期間がどれくらいかかるかわからないしその為の準備にも金がかかるのを理由に避ける冒険者が多いんだ」


 なるほどね。色々と事情があるわけね。

 素材採取。

 正式な依頼として受けやすいように、依頼者がちょっと手を貸すのもありだよねぇ。

 それによって受けてくれる冒険者が増えて、ランクアップに繋がって経験豊富な冒険者が増えてる手助けになれば色々利点が生まれそうだよね。

「そういえば、非常食と携帯食の違いって?」

「ああ、それは質の差だ。携帯食は単純に腹を満たせれば良いもの、日持ちすれば良いもの、っていう大まかなくくりなんだが、非常食は携帯食が万が一底をついた場合に食べる為のものとしてギルドで基準を満たしたものを言う。それと安全性を考慮して冒険者もしくは民事ギルドで販売されているものだな」

「そうなんだ」

「腹を満たす、日持ちする、の最低条件も厳しく決められていて、さらにポーションが練り込まれているんだ。一食で軽微ながら疲労回復と魔力回復も可能、精神的苦痛の緩和のために味も考慮されている、だから携帯食よりも価格は高くなる。初級ではそうそう気軽に買えるものではないな。だから母が非常食の支給を提案してきたんだと思う。あれが一つ二つあるだけで依頼を受けるかどうかの気持ちはだいぶ変わるだろう」


 携帯食と呼ばれるものは結構ある。

 干し肉、乾パンのような硬い粉もの、ドライフルーツ、ナッツ類だけでも二十種類はあるらしい。他にはそれらをまとめて固めた元の世界にもあったシリアルバーのようなものや、日持ちするように加工されたチーズやハム、燻製品も持ち歩くらしいので、携帯食というのは本当に幅が広い。

 でも、干し肉と乾パンもどき、そしてドライフルーツ以外は嗜好品に近くて、価格も高め。お金に余裕のある中級クラス以上の人が持ち歩くものだと。

 で、初級となると、そんなに蓄えがなければ、基本乾パンもどきが主食となって、口を満たす為に粗悪な干し肉とドライフルーツを少し持っていく位が限度とか。日数や場所にもよるけど、大荷物で行ける場所はそうないだろうし、身を守る武具類は絶対に減らせないことを考えると、どうしても食事事情は悪くなる。

 ちなみにハルトが持ってきてくれるブルさんはとても質がよくて、干し肉にしても美味しいから時々私も侯爵家を通してギルドに寄付してる。慈善事業の一環ですよ。


 そして非常食と呼ばれるものは数種類あるらしい。

 味もなかなか、小さなシリアルバー的なものなのにしっかりお腹を満たし、日持ちもして、何より体力や魔力を回復させてくれるポーションが練り込まれているけれど。

 いかんせん高額と。

 一本で二十~三十リクル (二千~三千円くらいかな?)が相場で、高いものは五十リクル超えらしい。

 買わないわぁ、それ。

 以前はそれも携帯食と呼ばれていたらしいけど、冒険者の皆さんが『非常食に』って買うからギルドでも名前を変えたという経緯があるんだって。


「んー、高いのは無理でも、二本、四十リクル分付けたら反応いい? 今回は、山クラゲの魔石でちょっと試してみたいかな。遠いけど領内の山にもいるんだよね? 指定のギルドに指定の量を持ち込むことを条件にはさせてもらって、量は指定したサイズの入れ物一つにつき……十リクルが冒険者さんに渡るように、山クラゲの針 (丈夫で釣り針になるらしい)も冒険者さんに所有権を。で、報酬額は」

「ちょっと待て」

「え?」

「素材の代金の他に報酬? 高すぎる」

「えっ?」


 え、なんで?





ブクマ&評価ありがとうございます。

ハンドメイドから脱線した話が多くなってきてしまい、書いてる本人も焦っていますが、ちょこちょこハンドメイドネタを盛り込めるよう頑張ってますのでこの先も読んでいただけると幸いです。

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