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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * ついでにちょっと考える

 ついでにちょっと考える。



 奇っ怪、不気味な素材は全て廃棄となりました。


 ……当然だね。お陰で侯爵家の一室はすっかり綺麗になりました。

 いやはや、魔物素材は想像を越える。いや、斜めな方向の物が多いわぁ。とにかく原理が分からない、解体されても鳴いてる動いてる一部分とかあれは怖い。本当に怖い。

 かじり貝様のあの入れ歯みたいな歯が可愛く見えるわ。そう考えるとスライム様やかじり貝様はとても素材として優秀だよね。魔石は期待できない雑魚魔物扱いだけど、武具には向かない素材だし大量発生が常だから価格が高騰することもない。


 さて。

 それでもいくつか収穫はあった。


 一つは植物系魔物の樹液。

 僅かに黄色味がある透明度の高いもので、スライム様をプチっとした直後に似たとろみのある液体。これはグレイが名前は知っていた魔物だけど、その性質までは知らないという、この国には生息しない魔物なんだって。

 名前は『アシッドウッド』。自己防衛能力としてある一定の距離まで近づいたものに毒性の樹液を霧状にして吐き出すんだそう。普段は根付くことなく根っ子のような脚部で素早く動き回っているそうな。走り回る木、不気味。

 説明が付いていたので読んで見ると、

『討伐などで切断した際のアシッドウッドの樹液は黄色味を帯びた透明の液体。数日で硬化する。ただし硬化しても非常に柔らかく、熱にも弱い。接着能力も全くなく、用途がない素材の一つ』

 となっていた。

 硬化した現物を触ると、あれ? って思った。

 シリコン性の型、知ってます? 弾力ありつつそれなりの柔らかさがある、あれ。これ、上手く利用して型にできるかもしれない。擬似レジン作品はスライム様が唯一絶対くっつかないガラス製の型しか使えていない。でも接着能力がないってことは、スライム様がくっつかないんじゃない? という期待が持てる。

 試す価値あり!


 二つめは、用途は限られるけど加工に手間を掛けずに使えそうな、試してみる価値がありそうなもの。

 こちらも陸の、しかも山間部にしか生息しない魔物だから私たちが住む辺りでは見かけないけど数だけはやたらと多いらしい、『山クラゲ』と呼ばれるスライムに似た魔物の魔石。

 魔石は通常、魔力と相性がよくて小豆サイズもあれば魔力を込めて魔道具の燃料材とか、いいものなら武具に属性補正やステータス補正などの魔法付与ができる。けれど、なぜかこの山クラゲの魔石はその魔法付与が全くできないそうで。

 しかも魔石って魔物によって色や形が決まっていることがほとんど。スライムでさえ小さ過ぎて価値はないけど形は同じなのよね。でもこの山クラゲは形が不揃いなだけでなく、色も様々、挙げ句曇りガラスのような見た目なので宝飾品にもならないんだそう。

「確かに、山クラゲはスライムよりも攻撃力は高く繁殖力もそれなりにあるのに魔石は役に立たないから討伐依頼で一番嫌がられるな」

「え? なんで?」

「魔石は討伐者が所有できる。討伐依頼に魔石の引き渡しが含まれなければ討伐者がギルドで売って直接収入を得られるんだ。だが山クラゲの魔石は金にならない。せいぜい麻痺を引き起こす攻撃してくるときに突きだしてくる針に多少の使い道がある程度だ」

「あー、なるほど。でもこれ」

「使えそうか?」

「うん、結構いいかも」

 不揃いで色は様々。見た目は曇りガラス。

 シーグラスっぽい。

 手元に今あるものは白、ピンク、緑の三種だけだけど、グレイの話では他の色もあるそうな。

 シーグラスを活用できるハンドメイド作品は今まで経験はないけど、まずはこれを一定量集めて、何が作れるか検討する余地がある。

 これそのものがメインになるかどうかは別として、白土を使えばフォトフレーム、こっちの世界だと額縁だね。涼しげな雰囲気にできそうだし、ハーバリウムに活用してもいいかもしれない。小粒の天然石でもよくやる手法として、不揃いさを活かしたアクセサリーも可愛いかもしれない。あまり加工に手間を掛けずに仕上げれば子供がお小遣いで買えるアクセサリーになりそうよ。


「なるほど、この二つは試作してみる価値はあるか」

「それなりの量が欲しいかな、今回は試作用で少なくていいけど……もし使えるとなるとクノーマス領までの運搬料も気になるところ。地元で調達出来ないものはそこは無視できないからね」

「その辺は任せてくれていい、取り敢えずこの二つは侯爵家の名前で依頼して集めてみるとする。これを持ってきた冒険者からも話を聞いてみるか」

「うん、お願い」










 二つの魔物素材が 《ハンドメイド》で活用出来るかもしれない期待をしつつ、来たついでだからと侯爵様と奥様にお茶に誘われて。

「それにしても、結構使い道のない素材が多いんですね、私でもさすがに無理なものばかりでした」

 しみじみ言うと、侯爵様が苦笑。

「そうらしいな、ハルトも言っていたよ」

「ハルトですか?」

「なんでも君たちの世界では、空想の物語だとほとんどのものが素材となるとか」

「……物語ですからね? 都合がいいように出来てますからね?」

 なんてことをハルトは教えてるんだ。その情報はゲームか? ラノベか? 私は正直詳しくないから余計な知識を周囲に与えないで欲しいわ。生まれた国が一緒だからって、価値観や知ってるものが全く一緒だと思われてる節があるのよね私とハルト。だいたい、自動翻訳で類似する魔物を私が知らないから『かじり貝』とか『山クラゲ』とかになるのよ、私の知識は貧相なのよ。説明困難な知識を広めるんじゃない、ニートチートめ。

 話を反らそう、突っ込まれて聞かれても困る。


 ついでに、ちょっと気になることを。

「冒険者ギルドで格安の素材採取の依頼が少ないのはやっぱり活用されてるものが少ないせいですか?」

「というより、魔石がかならず安定して収入に繋がるから、重視されていないのと冒険者の嗜みとして金になる素材を把握している場合が多いからだろう、わざわざ換金するのに数を必要とする物を集める冒険者は少ない」

 グレイいわく、高ランクほど素材採取は片手間で行うもので、討伐依頼が収入の軸となるから価格の安い素材は荷物を圧迫するし移動に負荷をかけるので捨て置かれることが常。反対に、武具になるものと宝飾品になるものは買い取り価格が高くなるのは当たり前、皆が討伐依頼、素材採取依頼どちらも進んでやってくれる。価格が低いもの、数が確保しやすいものは余裕があれば小遣い稼ぎ程度で持って帰るだけで、むしろ帰り道でもっとお金になる魔物に遭遇すれば安い素材はその場でポイされる。

 そして、一番の問題は長い間発展しなかった文化があらゆる素材を廃棄してきた。弱く大量発生する魔物は『使い道がない』と決めつけられて、いつの間にか見向きもされないものへと成り下がって。


 でもねえ、私一人ですでにスライム様、かじり貝様が素材になり、発色よい花は道端に咲いてるものでも押し花やドライフラワーとして素材になり、糸としては使い道が限られていた硬い糸はククマット編みで色んな小物に生まれ変わり。最近では補修材でしかなかったゴーレム様が食欲増進? まで促す可愛いものになる。


 結構需要あるものになれるんだよ、弱い大量発生魔物だって。

「あのぉ」

「なんだい?」

「私が素材採取専門の依頼をすることは可能ですかね?」


 ずっと考えてた。

 ギルドへの依頼は、原則魔物討伐や護衛や警備依頼、それが最前提になっている。

 何故なら冒険者というのは立派な戦闘人員なのだ。肉体労働を得意とする集団といっても過言ではない。魔導師と剣士などがパーティーを組んで収入を得るということは、それなりに報酬額が高くなる。複数の人間で報酬を分配するから当然だ。

 だから、素材採取依頼というのは極めて少ない。それを目的とすると、その魔物を探し、そして一定の数を狩るまで何日かかるか分からない、それでいて報酬額が低いんだから、高額取引される素材でなければやりたがる人は極めて少ないらしい。

 でもねぇ。

 安定的な素材の確保にはどうしても大陸全土を職場にしてしまえる冒険者の協力が必要になる気がする。

 現にかじり貝様で希に見つかる黒かじり貝様の入手に困っている。食用として捕獲すると千枚に一枚見つかればラッキーな確率。これを多少経費はかかってももう少し入手できると大変ありがたいし。

 そしてスライム様の色つきも。人の生活圏では何故か色付きは発生しない。入手にはかならずスライムの発生するダンジョンかその周辺、人の行き来が極端に少ないところでしか見つからない。しかも結構なレア魔物様。

元々それなりにお金を出して買取りしてる素材もあるんだから、試験的に必要とする素材なら一回くらいお金を捨てる覚悟で依頼をしても問題ない気がするのよね。


「素材の採取依頼か」

 侯爵様とグレイが唸る。

 そうよねぇ、やってくれる人がいなそうよねぇ。出せるお金には限度があるし。

「冒険者ランクを制限したらどう?」

 え?

 優雅にお茶を飲んでるシルフィ様、今なんと?

「初級の、しかもランク緑と橙色に絞って依頼してみたら? 彼らはランクを上げるために依頼を受けたくても護衛や警護などの依頼からは弾かれるし、討伐依頼も時間がかかるからどうしても経費がかさむでしょ? 緑と橙色はランクを上げるのに上級並みに大変な現状があるわ、それと上手く合うんじゃないかしら。素材の採取専門依頼と言っても、必ず魔物が討伐できる場所に行く必要があるでしょう? ジュリは決まった素材さえ手に入ればいいのだから、ついでに討伐できたものの魔物素材は冒険者の副収入にしてもらえばいいし、今のところ、ジュリが欲しい素材の魔物は低級魔物ばかりだから条件付き依頼をしてもいいかと思うのよ。そして最低限の保証……例えば数回分の保存食の支給をするとか、下級と素級のポーションを数個つけるとか。そうすれば低い報酬でも初級なら請けてくれるんじゃない? 報酬を高く設定してしまうと下げるのは難しくなるもの、最低限の保証を期間限定にしていずれ安定した採取依頼になる頃に保証を外して報酬の額を見直せば良いと思うのだけど」


 シルフィ様、それちょっとメモさせてくれますかね?


ここまで読んで頂きありがとうございます。


続きが気になる、好みのジャンルと思って下さったら感想、イイネ、とそして☆をポチッとしてくれますと嬉しいです。

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