王宮闘争 * その後に判明したのは
ニール副団長は完全回復、一瞬といえど一度は死んだはずの人とは思えない、何事もなかったかのようなその姿に私たちは感動したものの、ある時を境に恐怖を覚えた。
「怖い怖い、神具とニール副団長怖い」
グレイと二人、今は私が監禁されていた部屋にいる。まだまだ王宮内が騒然としていてちょっと私の処遇どころではなくなってしまい、帰りたくても帰れない状況に陥ったので落ち着いて待機できる場所に避難しようとなってここに逃げ込んだ。
戻る前にグレイがハルトと何やら言葉を交わしていたのは気になるものの、それよりも今二人で困っていることがある。
「何なのあれ。冷静に考えると、この状況本当に怖いんだけどっ!!」
グレイは喚く私の隣で頭を抱える。
「……神具、あれはダメだ、本当に世に出回ってはダメだ」
グレイは珍しくブツブツと呟いていて、ちょっと不気味だわ。
「だよね! ダメだよ本当に!!」
見ていたのは私とグレイ、そして見えていたのはハルトとリンファ、ロイド団長の合計五人のみ。
でもニール副団長が復活したことはあの場で意識のあった人たちが見ていた。
何が起きたのか分からずとも『奇跡』が起きたことは、確実に理解していた。
あの時何が起きたのか混乱しつつも何か察した公爵様が。
「他言した者は私が直接排除する」
と、なんの捻りもなく脅し、ついでにハルトが。
「もしくは一生俺の下僕な、どっちか選べ!」
と、こちらも笑顔で脅し、全員が感動する暇もなく青ざめ無言で首が取れるんじゃないかと心配になるくらい頷いていたので、神具が使われたことが広まる心配はないんだけど……。
それよりも私たちがそれぞれ喚き頭を抱える事になったのは、ニール副団長そのもの。
今、私たちがいる部屋の前に彼がいる。
何をしているのかというと、警護。
いや、もういらんよ、グレイいるし女王陛下の支配下に置かれた王宮で私に何かするような人もいないし、いざとなればリウト君とヴァリスさんも来るし、という状況にも関わらず彼が扉前にいる。
「神具、私が考えてたのとはなんか違う!!」
まだ体が思うように動かない中で何とか体を起こしたニール副団長は慌ててマントを被せてくれたロイド団長を無視し、自分の身に起きたことを全て理解しましたと告げてから私たちの前に傅いて頭を垂れて。
「この御恩、私の命が尽きるその瞬間までお二人の盾となりますことで返させて下さい。どうぞこの身はお好きにお使い下さい」
と宣言して。
いや待って、あんた副団長でしょどうすんのって思ったらロイド団長がそのことを慌てながら指摘し説得したんだけど、最早聞く耳持たず。
「退団します。家族と共にクノーマス・ククマット領に移住し伯爵とジュリさんに仕えます」
と実に爽やかな笑顔で言って、そこからどんなに皆で説得しても頑なに拒み。
で、今に至る。
神具は下僕を生み出す……。
ロイド団長は最早諦めの境地に達し。
「任せます」
とグレイに丸投げしてしまったついでに。
「任期終了しましたら私も家族とククマットに移住しようと思います」
とか言い出した。
「もう王宮と王都は疲れました」
と。
やめて!
本当にそういうの止めて!! その流れというか勢いで団員さんたちもグレイの視線にビビりながら 《ハンドメイド・ジュリ》で雇ってもらえるかな? 俺は会計とかいう仕事に興味ある、私はレースが編めるようになりたい、自警団入団もありだな等など、コイツらも移住してきそうだな?! という展開に。
「……本当にそうなったら、ローツとカイに、任せよう」
ぐったりしながらのグレイの発言に同意だけしておいた。
ホント、神具は厄介なのでもう要らないし使わない。
ニール副団長のことでもう一つ。
「ジュリ、ニールがジュリのアクセサリーを二つ持っていたことは話しただろ?」
「そういえばここに戻ってくる前にそんな事言ってたね?」
「ニールが生き返れたのはそれも関係している」
「えっ?」
「あの時、ニールはロイドの前に飛び出して自分が盾になりロイドと後方への被害が及ばぬよう少しでも食い止めようと最大限魔力を放ち魔力の壁を築いていた。自分の防御には殆ど回せないし調整なんて出来ない咄嗟の判断によるものだった」
「それが、どうしたの」
「こちら側に向けられて使われた、あの威力と呪詛も発動する魔法陣の『最期の魔力』でその反対側にいた魔導師達まで防御しきれずバラバラになった。……だったらニールはそれ以上、木っ端微塵になっていてもおかしくなかった。なのにロイドを庇うため背を向け無防備になっていたアイツは損傷は激しかったものの個人の特定が瞬時に出来るほど原型は留めていた」
そこまで聞いて『あれ?』と声を出していた。
「ニール副団長は……」
そうだ、確かにそう。ニール副団長は体の一部が吹き飛ばされて欠損してはいたものの、確かにあの状態で私が彼だと直ぐに判別出来る位には顔や身体的特徴は完全に残っていた。
「え、もしかして」
グレイが回収したあと何故か行方不明になっていた私が作ったネックレスを拾ったニール副団長。あの時まだ彼の胸ポケットに入っていたらしい。先に渡していたものと、拾ったもの、合わせて確かに二つ。
「あれって、防御に特化していたし、なにより……『運』上昇がついてた!」
「そうだ」
グレイ曰く、防御よりももう一つの付与である『運』が強く作用した可能性がある、という。肉体の損傷が最小限に留められたのは二つ分の防御効果と『運』。なによりグレイが回収したのに失くした時点で既に『運』がニール副団長に働いていたってこと。
セラスーン様に導かれてあの場に行った私。ポケットに突然現れた【輪廻の雫】。全部セラスーン様の導きではあったけれど、そこに至るまで絶対に起こっていなければならないのが。
ニール副団長があの時ネックレスを二つ所持した状態。
そうでなければ【輪廻の雫】でも復活出来なかった可能性が極めて高い、とグレイが補足してくれた。私の加工した物は良い付与が付きやすい。通常二つの物が同時に発動する時、その相乗効果は足し算になるとされているけれど、私の場合はそれが掛け算になることがある、とマイケルに言われてる。ということは、防御だけでなく『運』も飛躍的に上がっていたはず。
「それとハルトが、本来ならロイドもタダでは済まなかった悪質なものだった、と。最悪あの場でどちらに【輪廻の雫】を使うかジュリは究極の選択を迫られた可能性もあった」
なんと!!
「うわっ『運上昇』の付与品がバカ高い理由が今わかった! 付与自体が難しいだけじゃなく、色んな時作用するならそりゃ高額取引されるわ! 勉強になるー!!」
「ジュリ……今、なのか」
「今だったわ」
グレイが微妙な顔した。
とにかく。
「……ニールさんがあの状態になったのは仕方ないの、かも?」
「そうだな……」
ニールさんのククマット移住は決定かもしれない。
近衛騎士団移住計画 (仮)という想定外の問題はさておき。
どうせ落ち着くまでここで待機になるならとグレイは私が監禁中に各国を飛び回っていた際に仕入れた情報と、私の『武器』について話してくれることになった。
「そっか、役に立ったんだね。……良かった」
ジュイジン・ガラスのシャンパングラスは期待通りの武器となり、各国の要人の抑止力や協力どちらにも役に立ってくれていた。
派手に動かれるとまず戦争になりかねないことをしでかすのがネルビア首長国のレッツィ様。レッツィ様はシャンパングラスを受け取って、状況が落ち着くまでは静観してくれること、そして女王陛下が話し合いを望むならその席を即座に用意すると約束してくれたそう。
これ、本当に懸念材料だったわけ。
マーベイン辺境伯爵家と結んだ停戦協定はあくまで辺境伯爵領限定。そこに他のベイフェルア国内は一切含まれない。だから辺境伯爵領を避けてベイフェルアに侵攻してきてもそれは今までの国境線問題と何も変わらず、止めたければ辺境伯爵家のように停戦協定の話し合いの席を設けなければならないわけで。今現在女王陛下の復権で全ての国境線が停戦状態になったらしい。あと一日でも遅れていたら、何処かの領は陥落し完全に占拠されていたかもしれないと言われて流石に背中が冷えたわ。
【彼方からの使い】を崇拝する傾向にあるあの国にとって私が不当に連行されたことは戦争を激化させる理由を与えてしまう。それだけは避けたかったから短期間だとしても停戦して本当によかった!
で、別の懸念材料はエルフと人魚。
神出鬼没な彼らをどうやって今回この件に関与させずに黙らせることが出来るか、とグレイが頭を悩ませていたらエルフの長アズさんと人魚の長カリシュタさんが想定内というか、なんというか、自らグレイの前に現れて。
「ベイフェルア国消そう」
と、全く同じことを言ってきたそう。
これはダメだと思い、グレイは二人にも一客ずつ渡し静観してくれるようお願いしたら受け入れてくれたとのこと。
「ただ」
「ただ、なに!!」
「ククマットに現れたそうだ。アズはネイリスト育成専門学校と領民講座の建物に、カリシュタはフィンとライアスの家に」
「えっ?」
「あの場所にククマット内の戦闘が落ち着くまでいてくれたそうだ」
「……そう、なんだ」
「フィンとライアスの家はジュリにとって特別な場所だし、専門学校と領民講座は教育の場として今後様々な地域のモデルケースともなる重要な場所だ、二人はそんな場所が傷つくのはククマットにとって大きな痛手になるし、領民の心にも影響するからと考えてくれたらしい」
「今度」
「うん?」
「ちゃんとお礼しないとね」
「ああ」
やっぱり私たちとは視点が違うんだなと思わされつつ、そのおかげで大切で重要な場所が守られた事実に心から安堵した。
シャンパングラスが誰に渡ったのか、その話を聞き終わり、ふとその人達を思い浮かべてから気になったことがある。
「……テルムス公国と 《ギルド・タワー》は?」
「……そのことについて、知りたいか?」
「うん、それについては詳しく聞いておきたい」
グレイの雰囲気から良くない話であることは簡単に察することが出来たので、私は姿勢を正す。
「ハルトが壁を破壊しただろう」
「あの地下の隠し通路があったところね」
「あそこに、光る大きな石があったのを見たか?」
「ちょっとだけ。そういえば……リウト君が見てなんか変だー、的なこと言ってたけど。それ?」
グレイは頷く。
「あれは魔石らしい。私でも持ったことも見たこともないほどの魔力で満ちていた」
「……グレイが?」
ちょっとそこに引っ掛かりを覚えた。だって、フォンロン国の『覇王』騒ぎの時。
『黄昏』の鱗を使った魔法付与品。あれは国宝級かそれを上回るものになった。込められた魔力量も桁外れで、魔法付与したマイケルが何度も魔力欠乏を起こす羽目になったレベルのものだった。
それを使用した経験のあるグレイが持ったことも見たこともないほどの魔力が込められた魔石とは。つまり、本来は不活性魔素を膨大に持つ魔石だったはず。
「先に言っておくがジュリが加工したものではない、私が保証する」
あ、うん、ごめんそこは考えてなかった……心配してくれてありがとう。
「えっと、まず……この王宮にそんな魔石を加工することが出来た職人がいたってこと?」
「そこは今後の調査でわかるだろう。問題は……」
そこでグレイは逡巡する。
「なんと説明するべきかな。……あれは魔法付与品ではなかったということだけははっきりしている」
「え?」
「魔力が込められていた、それは確かなことだ。だが、付与品ではない」
「ん?……それって」
「一瞬だが【解析】をかけて成功し読み取れたのは『あらゆる属性の魔力が押し込まれている魔石』ということだった」
「色んな種類の魔力が、ごちゃませになって入ってる感じ?」
「ああ。そうだな……私の印象としては、あの魔石は単なる入れ物に感じた」
「単なる入れ物」
オウム返しをした私にグレイは頷く。
「レオン・アストハルアが魔法陣に魔力を奪われていただろう?」
「うん。……あ?」
考え込んで僅かに俯いた顔が直ぐ様上向いた。グレイと目があって、私は口を手で覆う。
「奪われた魔力がその魔石に入れられてた?!」
「おそらく」
魔法陣の維持だけでもかなりの魔力を消費する。それでも魔力を奪い続けて集められた魔力。
グレイですら見たことのない魔力量。
血の気が引いた。
「ジュリ」
「ご、ごめん、大丈夫」
私の肩を抱いてもう一方の手で頭をそっと包んでくれたグレイ。
こみ上げる気持ち悪さに、きつく目を閉じる。
獣人奴隷。
戦闘力の高さを目的として奴隷にさせられ、闇から闇へと売り飛ばされ続けてきた。
ここでは、魔力の多さのせいで。
利用なんて生易しい言葉じゃない。魔力を奪うだけが目的のそれは、彼らの死が前提で。そしてレオン氏のように本来は仲間・同僚であるはずの魔導師すらもしかすると犠牲になっているかもしれない。
一体どれだけの命が魔力のためだけに命を落としたんだろう。
「もう、大丈夫、ありがと」
このベイフェルア王家の片隅で行われていたことに嫌悪感と忌避感で身体が拒絶反応を起こしてしばらく吐き気が止まらずにいた私が落ち着いたのは数十分後。
「この話はいつでも出来る、落ち着いたらにしよう」
「ううん、気になって寝られないのも嫌だから。ちゃんと、聞かせてよ」
「しかし」
「本当に大丈夫だから」
心配そうに眉毛を下げるグレイの手を握る。
渋々という表情をしながらも、グレイは続きを話してくれた。
「―――……そっか、あの魔石はハルトが回収したんだ」
「何が起こるか分からないからな、あいつの手の中にあるのが一番安全だろう」
「確かに」
「それと……あの場にいた魔導師だが」
「魔導師が、なに?」
「六人いたんだが、四人はあのタチの悪い魔法陣『最期の魔力』の余波で吹き飛ばされバラバラになった。それこそ肉片だ、跡形もなく身元確認は王宮の人間を総当たりするしかないだろうな」
「……」
「だが、二人は転移で逃走している。『最期の魔力』は時間稼ぎと口封じを兼ねて使ったんだろう。……ハルトの知っている顔がいたそうだ」
「え?」
グレイは一拍挟んで言った。
「一人はテルムス公国テルム大公家の魔導師で間違いない、と」
ここでまたテルムス公国。
終わりそうで終わらない今回の連行騒ぎ。
もー、面倒くさい!!




