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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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王宮闘争 * 【思想の変革】

 



「さあ、お前の番だ」

 ベリアス卿が私を指差した。

「そこでただ傍観者で終われるわけがない。それは誰よりも自分が分かっているだろう?」

「……はぁ」

 額に手をあてがい、盛大にため息を吐き出してしまった。

「そんな気はしてたわ」

「そうだろ?」

 軽い冗談でも言う口調のベリアス卿は歩きながら自分が立っていた場所を指差した。

「ここに立て。さあ、頼むぞ」

 私は座っていた椅子から立ち上がる。

 するとグレイも立ち上がって。

「一人にはしない」

「……ありがと」

 心強い信頼するパートナーにそっと背中を押され、私たちはベリアス卿が立っていた場所へと向かう。

「ペリーダ伯爵様から聞かされた、備忘録から生まれた疑問の答えを話そうと思うの」

 一瞬目を見開きつつもグレイは納得したように頷いた。

「神様から見たベイフェルア王家は……って。グレイならわかるよね」

「ああ」

 私だけじゃない。グレイもサフォーニ様という最高神からの寵愛がある。全てを赦された男だから、理解している。

「神の言葉、最強の武器だ」

 まるでペリーダ伯爵様から直接聞かされたかのように迷わず武器だと断言するその様子に私も自信が持てた。

 そして立ち止まり、私は女王陛下の正面に立ち、真っすぐその目を見つめる。


「女王陛下、訂正して欲しい事があれば遠慮なくお願いします。でも私が話すことは神様の、本当は王家が崇めるべき【音の神】ヒュート様の言葉です。それを十分理解した上で、訂正をお願いします」

「……え?」

 王妃だった。

 僅かな逡巡の後に出た疑問形の声。そしてたちまちその顔が憤怒で歪む。

「あ、あなたっ、ベイフェルア王家が崇める神は最高神の!!」

「それ自体が間違いだから」

 もうこの人に丁寧な言葉なんて使ってやる気になれないのでタメ口で行こう。

「初代王に【スキル】や【称号】を与えたのはヒュート様。それを見栄とかくだらない矜持ですり替えたのはベイフェルア王家。そんな事をした地点でヒュート様の寵愛とか恩恵が時代と共に薄れていったのは当たり前のことでしょ。守護してくれる神様にベイフェルア王家は背を向けたのよ、神様との繋がりを断ち切ってこんなになるまで衰退させたのは、王家自身なのよ」

「そんな、そんなはずは!」

「ちょっと黙って? 真実を知らないでしょ、そんな人がいちいち違うとか何とか喚いて話を遮らないで」

 唖然とした王妃。本当に黙ってて。

「……この事で、訂正ありますか? 女王陛下」

 振り向いて、問いかけた。

 苦虫を噛み潰したような顔はかろうじて押さえ込んだらしいけれど、それでもその顔には苦しさが、悔しさが滲んでいる。

「ないわ」


 その場がどよめいた。


(どこかですり替えられたんだよね。それこそ見栄のために崇める神は最上位が相応しいとか適当な理由で)

 血を残す保険として他の神様が【スキル】【称号】を与え、独立させ別の神を崇めることで万が一の時にベイフェルア王家と一括りにされないようになっているのがアストハルア家とベリアス家。その事がどう伝わったのか分からないけど、少なくとも脈々と受け継がれてきたのを見ると『初代王の血』『継承』『【スキル】【称号】』『神の干渉』の意味と重要性を理解して子孫に受け継がせて公爵家は守ってきた。

 でも、もっとそれを理解し、子孫に受け継ぐがなければならないベイフェルア王家は……。

「女王陛下は先祖返りで【スキル】と【称号】を得たと周りは思ってますよね、でも私は他の要因だと思ってます。ヒュート様が一縷の望みを掛けて、もう一度ベイフェルア王家に血は薄まったけれど、それでも正統性の証を取り戻して立て直しをさせたかったんだと思います。そしてその資格を有する魔力を持って生まれたのが女王陛下で、ついでに言うと……ヒュート様と意思疎通ができるくらいには、気にかけて貰っていたんじゃないですか? 寵愛まではいかずとも、興味を持ったり面白がったりと神様は人間に干渉することがあるようなので」

「そこまで、知っているか」

「当然です。私にはそれこそ最強の守護神がいますし、真実を教えて下さる神の寵愛を受ける知り合いがいますから。だから神様に誓って嘘偽りなく話すと宣言出来るんです。私には嘘をつく理由もないし、嘘で有利になることもないですし」

「そなたの言う通りだ……」

 噛みしめるような、女王陛下の相槌に、一歩前に出たのはアストハルア公爵様だった。

「陛下、神との対話が可能なのですか。……なのに、何故、何故ですか」

 動揺で揺れる青紫の瞳。その瞳と視線を交わした、もう一人の青紫の瞳。

「暗殺未遂を、事前に防げたのでは、ないですか!! あれが防げていたら、今、この国は違っていたのではないですか?!!」

 心の底から叫ぶアストハルア公爵様の声が広間に木霊した。女王陛下がその青紫の瞳を伏せた。

「公爵様」

 どよめきも何もかも、私の呼びかけがその場を静めた。

「何も変わったりしませんでしたよ」

「なに?」

「変わるわけないんです。だって、そもそもの話、そこにいる国王が王太子になる前に、姉である王女殿下が亡くなった時点で血は途絶えていたと言っても過言ではなかったので」

「……何を、言っている」

「まず、女王陛下が継承に関する罪を犯してます」

 国王が実の子ではない事を伏せるとこういう言い方しかないかな、と思いつつ話を続ける。

「でも神様は最後の最後まで期待していた。……なのに決定的なことが起こりました。起こしたのは、国王です」


 どこから話そうか、どこまで話そうか、ほんの少し前までは頭の中でペリーダ伯爵様から聞いた話を整理しながらそう思っていたけど、不思議なことに迷うことなく私の口が言葉を自然と流れるように紡いでいく。

 国王が実の息子ではない、つまり正統性がない『血』であることは濁しても問題はない。

 今重要なのはそこじゃない。今後そう時間をかけずともその事に辿り着く人たちはきっといるし、その人たちがその事実をどう扱うか決めればいい話だしね。

「女王陛下の【スキル】も【称号】もかなりの魔力を持っていなければ身につかない、与えられないものなんだそうです。そして同等の魔力を持って生まれたのが亡くなられた王女殿下です。その方が生きていたら、事態は変わっていたかもしれませんが、それは今更な事実で覆る事はありません。問題は、やっぱり国王なんですよ」

 国王がビクリと肩を跳ね上げ青ざめる。

「生まれながらに平均よりも魔力が少なかった。女王陛下の【スキル】や【称号】どころか、他の【スキル】一つすら保有出来ない程度の魔力だった。……この時点で血が薄すぎるんです。そして国王は王妃を迎えて子、つまり王太子殿下と王女殿下に恵まれましたが、父親の国王の身勝手のせいで……」


 正直、言うのは躊躇われた。

 だって、この事実は絶対に王太子と王女を全否定することになるから。

 まだ若い、本当なら将来が約束された国のために存在する二人。

 国民の期待を背負ってこれからを生きるはずだった二人。

 この二人もまた、ベイフェルア王家の被害者で。

 でも王族として生まれ育ったからには、年齢など関係なく責任が伴うと私は思うのよ。

 それは神様たちの今の私の言動を『静観する』という態度からも同じ気持ち、考えなのだと推測出来る。

 王族として生まれたからには、責任逃れは許されない。


「王太子は生活魔法を操ることすら危うい程に魔力が少なく、王女に至っては魔力がありません。私と同じ、全く魔力がなく、魔法を扱えないどころか、魔道具すら動かせません。つまり、お二人には『初代王の証』を受け継ぐ魔力も資質もなく。なにより……神様はベイフェルア王家を 《紛い物》と呼ぶそうです。ずっと昔から、神様は時々ベイフェルア王家のことを《紛い物》と呼ぶ時があった。それ相応の醜い後継者争いのせいで何度となく王家を証明する血が消えかかる度に皮肉と憂いを込めて、呼んでいたんじゃないですかね。……けれど明確に、はっきりと今の王家のことは 《紛い物》と呼ぶんです」

 濁した言い方をしたけれど、それでも十分伝わった事は張り詰めた空気から伝わってくる。

「それは、またとんでもない事実だな」

 隣でグレイが小さな声で呟いた。私は無言で頷いて返す。

 そして国王でも王妃でもなく私は女王陛下をまっすぐ見つめた。

「『証』を引き継げる資質、いや……特性というべきですかね、それがほぼ途絶えたも同然の状態で、国王は王位継承という儀式を蔑ろにした。その頭上にある王冠は初代王から続く王位継承の儀によって頭上に載せるものと決められていたのに、それを勝手に簡略化してさっさと頭に載せてしまった。それが決定打、ヒュート様からの僅かながらに残っていたはずの恩恵、つまり受け継がれやすい強い血をヒュート様自らに断ち切らせる決断をさせた。……僅かながらに引き継がれてきたベイフェルア王家の初代王の血の継承が断ち切られたので今更もう、アストハルア家やベリアス家に引き継がれた固有に進化した『濃い血』を再び入れたとしてももう復活しません。礎となる、根底になくてはならない血が消えたので。……国王が国王である限り、そして王太子が国王となったとしても、神様たちはベイフェルア王家のことを 《紛い物》と呼ぶだけです。王家と呼ぶことは、もうないでしょう。神様にそうさせたのは、間違いなく今の国王ですよ」

 女王陛下が何もかも分かっている、静かで揺らぎのない顔をしているように見えるのは気のせいかな。


 ……あれ、なんか、ムカついてきた。


 冷静に考えるとさ、まず女王陛下。この人がどんな気持ちで暗殺を受け入れたのか分からないけどアストハルア公爵様が言ったように、この人が君臨していたらベイフェルア王家はまともだった。

 そしてアストハルア公爵様、クノーマス侯爵様にツィーダム侯爵様、当然トルファ侯爵様たち高位貴族、そして王宮の中枢を担ってきた重鎮たちは女王陛下の失踪の原因が国王にあったと少なからず知っていたか推測出来ていたはず。知っていて、気づいていて、厄介事に蓋をして見えないようにしてあとから何とかしよう、何とか出来るって考えたんじゃないの?

 利害の一致だよ、周辺諸国にバレるとまずいことが王宮で起きた、でも王太子は操りやすい、いずれ問題は忘れ去られていく、ほっとけば過去として扱える、って。皆が一瞬は思ったはず。

 今ここにいる殆どの人達。

 全員、責任あるよね?


 国の混乱を避けるために王家の醜聞や闇を葬った。バカな国王のためじゃなく、外から見たら正常に機能しているように見せかけるために。国が混乱すれば周辺諸国の餌食になりかねないから。

 そしてその動きが結果としてバカな国王を庇う、守ることに繋がってるよね? 国王に正当性を与えちゃったよね?


 うわ、駄目だって分かってる。

 絶対に共感しちゃいけないって、私の理性が言っている。

 でも、ベリアス卿の理解不能な言動に、一瞬共感。


 ベリアス卿がこの国を滅ぼそうと思った、実際に命を掛けて王家を引き摺り下ろそうとしたその根深い心の闇が見えた気がする。

 母親が殺されて喜んだという。

 父親の的外れな言動に恨みや憎しみを抱え続けながらも、生かしておく程にはその父親の言動が王家をダメにしていく過程を楽しんでいたという。

 王家を乗っ取り、乗っ取った状態で、『濃い血』が途絶えたベイフェルア王家の一族を道連れに終わらせようとしたベリアス卿。

 ベリアス卿も思ったんじゃないの?

『全員罪深い』

 って。

『お前たちも同罪だ』

 って。


「ベイフェルア王家は自滅したも同然。初代王の血筋がもう途絶えたなら別の道に進むしかないよね。もうさ、いっそのことネルビアみたいに各地の名だたる領主たちから代表を選ぶとか、自薦他薦は問わず立候補した人たちを国民が直に選ぶ選挙制とか、そっちにシフトしなきゃダメだよこの国。もしくはどうしても王家を残したいなら王権廃止。あくまで国の象徴で、国政に参加したいなら自力で席を獲得する権利を他の人たちと争えばいい。国税で全てを賄う生活するのはもうやめて、自力で家を維持すべき。他の貴族ができているんだから周囲の協力で立て直すことが出来るはずでしょ。そして出来ないならすっぱりベイフェルア王家なんてなくした方がいい。今のベイフェルア王家なんて、国民からしたら負の遺産でしかないんだから」


 息を吸い込み胸を張る。


「まともに国家運営できないなら王政なんてやめちまえ!! 国民バカにすんなよ、国民は王家のためにいる? 逆だろ、国民のために王家があるんだろ。お前らが贅沢したり人をこき使っていいのはちゃんと国家運営できてたらの話、国民の命を預かる代償なんだよ。そんな事も理解できず解釈も間違ってる王族なんて国民からしたら迷惑なだけ、いらねぇわっ頭使え! 飾りじゃないだろその頭は!! 平民の私達の方が生きるためによっぽど頭使ってんだよ、頭使えないなら二度と王族なんて名乗るな、ホントに迷惑。考えろ、死ぬ気で考えろ、ここにいる全員。ベイフェルアって国を残したいなら、生き残りたいならこれから王家はどうあるべきか、どうして行くべきか、国の代表はどうやって決めて、誰がどんな形で代表を支えて協力して運営すべきか、全部一から考え直せ。てゆーか、ここにいる全員政治を一から学び直してこい!! お前ら変わらなきゃ絶対にベイフェルア沈むわ!!!」

 はい、ゴメンなさい。理路整然とプレゼンでもするように……なんて考えながら話す余裕も技術も持ち合わせていませんでした。













 ―――【思想の変革】を開始します―――














「……おお?」

 私の頭上から聞こえた声。













 ―――ベイフェルア国は速やかに新たな国家運営について話し合ってください―――














「……だ、そうです」


 めっちゃ締まらない!!


【思想の変革】こんなタイミングと締まらなさでいいの?!

 なにより、ショボい気がする……。

 え、嘘でしょ? 一国の王政廃止しろって叫んだだけ、今までの鬱憤晴らす目的九割で喋り倒しただけ、なんだけど?

 神様たち、ちょっと発動条件緩すぎやしませんか。


 後に。

 この時の心境をハルトに語って聞かせたら。

「お前……単なる政権交代の話じゃねぇんだぞっ、ショボいって何だよ?! 革命レベルだぞ、か・く・め・い!!」

 がっつり説教された挙句、『政治とは』から始まり経済に法律、思想や倫理など、三日もの間ヤツの講義に強制参加させられて具合が悪くなる話は割愛するわ。そして私じゃなくてこの国の貴族にやってよ。












 後に、ベイフェルア国から始まる大陸の約五割を占める民主制の歩みが始まった瞬間となった。




ジュリはショボいと思ってしまったようですが。

ハルトの言う通りですよね。政権交代って結構起こりうることですが、国を担う権力の形そのものが変わるってことは、国民の生き方、在り方すら変えてしまうわけですから。


◇お知らせ◇

王宮闘争の話数が増えまくっており、そして佳境ですので、ここらへんで春休みスペシャルとして次回3月24日から連続投稿予定しております。



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まあ革命ですよねえ。そうするしかないでしょうし。後は、どこまでやるかでしょうか?激しくいくなら、国の構成主体である王族貴族は全員責任ありとして処するまであるわけですが
ジュリさん、ブチ切れるの巻 もの知らずのアホ女は黙っとけ!的な(笑) 砂上の楼閣でもなく、蜘蛛の糸ですらなく、更地どころか荒野になっていたんだなと、思わず遠い目になりました。 儀式はおろそかにも簡…
 普通はこういう『革命』って内乱とかクーデターとか流血がセットみたいなものだよな。血が流れたのが王宮内とククマット周辺で済んだのはそれこそ奇跡レベル。民主制への移行は不可避だけど、『神の意向』とは言え…
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