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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * ギルド総帥、静かに動き出す

モブ? の語り回です。

主人公全く出てきません。おっさん二人のきな臭い会話です。

 

 大陸北東部に位置するテルムス公国の中央には、公国のトップであるテルム大公家を中心とした首都と、もう一つ。


 《ギルド・タワー》がある。


 国土も人口も大陸では下から数えた方が早い小国にも関わらずその権力は絶大だ。

 隣国には『獣王』が統治するバミス法国があり、広大な国土、身体能力と魔力量が飛び抜けて多い『ハーフ』と呼ばれる『獣人』が国民の八割を越える大国との古くからの友好条約に基づいた関係によって、この小国テルムス公国は長きに渡りその位置付けから不動を守り通している。

 《ギルド・タワー》自体、隣国バミス法国からの冒険者による魔物討伐受け入れ体制を整える為にあらゆる支援を受け持つ機関として出来た経緯がある。その機関の業務拡大により、効率的に運営するために『冒険者ギルド』と『民事ギルド』に分けられた。その際にもあらゆる面で支援してくれたのがバミス法国であったため、テルムス公国とバミス法国は兄弟国などと揶揄されることがある。

 この両国の繋がり故に、大陸では度々 《ギルド・タワー》の移転を求める国が名乗りをあげてもバミスの後ろ盾を持つテルムスに強硬出来るはずもなく、今なお小国でありながらその機能を果たしている。


 そのため、テルムス公国は『冒険者の始まりの国』などと言われる程にギルドとしての権力を維持している。


「大公、おはようございます。どうされました? こんなに早いお時間に」

「ああ、総帥。すまないな、就業前の忙しい時間に押し掛けてしまった」

 壮年の、非常に貫禄のあるその方はにこやかに笑顔で私の執務室に護衛を引き連れやってきた。

 この国のトップである大公が、このように前触れもなく出歩きこうして会いに来ることは非常に珍しいのだが、こういう場合、だいたいは 《ギルド・タワー》の厄介事がこの方の耳に届いてしまった時だ。時期的に、私は()()()だろうと内心ため息をつく。


「少し面倒なことを聞いてな」

「と、いいますと?」

「うむ、今朝久しぶりにマイケルが訪ねてくれてな」

「なんと!! マイケル様が?!」

「お前に届いた『内部告発』について知っていたし、それについてのマイケル独自の見解を聞かされた。……【英雄剣士】が目を光らせている、あまり野放しにするのは得策ではない、対策をすべきだと助言を受けた」

「マイケル様が、そのようにおっしゃいましたか」

「そして、これは口外無用だ」

「え?」

「その者は【神の守護】を持っている、しかも、強制力は【英雄剣士】の持つ二つを上回り、発動条件も緩いと思われる、と」

「!!」

「自身は【スキル】も【称号】も、まして魔力もないが、あることをきっかけに【神の守護】が突然与えられたそうだ。……ベイフェルアのうつけ共をこのままにしておくとその皺寄せが 《ギルド・タワー》に来るぞ。呆れたことに、支部からその件についても報告が上がったにも関わらず信憑性がないと一蹴したそうだ」

「なんと、愚かな……」


【神の守護】。

 未だその詳細は解明されていない。

 なぜなら、発動条件が保有する者でもわからない場合が多いとされているからだ。

 そもそも『されている』というのも、保有者がその多くを決して語らないことに起因する。私が知る唯一の理由は


 強制力が凄まじく、公表されてしまうと世の中の均衡を崩す恐れがある


 ということだ。これとて人伝に、先輩から教わった不確かなことではあるのだが。

 均衡を崩すなら公表して公正にその身柄を保護してもらうべきでは? という意見もある。だが、その保護する国がどこになるかということで争いが起きかねない。それだけ絶大で強力な影響力を持つ神の力なのだ。そのため大陸全土で【彼方からの使い】に『【神の守護】を持っているのか?』という質問自体がタブーとされている。その質問を発端に【彼方からの使い】を巡り争いが起これば【神の守護】が発動するのは間違いない。その被害は甚大だろう。


「ただ、それを理由にギルドの今を変える転機は訪れそうだ」

 大公の言葉の意味はすぐにわかった。

「ベイフェルアのうるさい能無しを排除出来るいい機会かもしれん」

「そうですね……そうかもしれません」

「《ギルド・タワー》は権力を誇示する場ではない。ベイフェルアの者たちはでしゃばり過ぎた」

 十年程前から、ベイフェルアの幹部たちがこの本部にその数を増やし幅を利かせるようになった。

 《ギルド・タワー》とは、本来そんな場所ではない。冒険者ギルド、民事ギルドの公正かつ平等を維持するため粛々と大陸全土のギルドを監視し運営するための機関だ。どの国の幹部がどれだけここにいるか、そんな事で 《ギルド・タワー》の持つ特権や資金を動かしていいはずがないのだが、ベイフェルアの幹部たちはその体質を『古い、堅苦しい』と批判し、無理矢理今まで培ってきた 《ギルド・タワー》の本質を変えようとして暗躍している。自分達の利権、それだけのために。


 暗躍といってもお粗末なものだ。いわゆる『買収』だ。金の出所は分かっていないが、多額の賄賂で退職間近の者に推薦人として名乗り出てもらうというだけなのだが。

 あらゆる決議に投票権を持つ立場の者は二十五人。今その中に ベイフェルアの者は五人。これは異例の多さだ。小国郡と呼ばれる大陸北東にある十三の小国を含め、二十を越える国がこのギルドに所属しているが、ベイフェルアが大国故にギルドに身を置く者が圧倒して多いにしても、これは異常なのである。そしてあえて野放しにしているが、そのうち三人は確実に決定権を持つ前任から推薦を受けて決議投票が許される立場に収まっている。


「恐らくだが、放っておけば必ず近いうちに問題を起こすだろうとマイケルが言っていた」

「そうなんですか?」

「ああ、クノーマス侯爵領にある冒険者ギルドを巻き込んで、ベイフェルア国支部の上層部が強引に目当てのものを入手するつもりらしい」

「……それは、それで 《ギルド・タワー》の沽券に関わります。あまり放置は」

「それで提案を受けた」

「提案を、ですか」

「フォンロンの動きを完全容認する。《ギルド・タワー》はフォンロンの友好的交渉かつ接触を正式に許可するのはどうか。そのタイミングをフォンロンが接触すると同時に出すとよい、その程度ならばそなたの総帥権限で出来る事だろう」

「同時の理由は?」

「ベイフェルアが問題を起こすのに合わせてフォンロンは動くための調整に既に入っているらしい。ベイフェルア王家と冒険者ギルドの纏まりがないうちに先手を打ち協定を先に結べばどうなる? 【彼方からの使い】からもたらされる恩恵によって国家レベルの潤いを手に入れるのはフォンロンが一番になるということだ」


 私はまたため息だ。

 フォンロンというのは 《ギルド・タワー》からみても非常に特殊だ。これは大陸の大きな機関や各国共通の認識と言ってもいい。

 王家と冒険者ギルド、民事ギルドの繋がりが非常に強く良好なのだ。それが長らく、ギルドの発足から数百年変わらないのだから驚きだ。

 国と巨大な機関が協力体制を維持し続けるその最大の利点は、その圧倒的な『権力誇示』がどんな時でも瞬時に可能だということ。大国の高位な身分であっても、国と大陸全土に影響を与える機関が一丸となった力を相手に、個で対抗など出来ないのだから。

 今回、その最大の利点を盾にフォンロンが動く。

 これは、おそらく他の国にも影響を与えるだろう。

【英雄剣士】の時のように、公式に友好的な関係を結びたいと動く国が一気に出てくるに違いない。

 今まで捨てられてきた、無視されてきたものから利益を、そして役立つ物を生み出す手を持つ者。【彼方からの使い】であり、【技術と知識】を持ち、【変革する力】を与えられ、【神の守護】により守られる者なのだ。

【スキル】なし、【称号】なし、魔力なし、それを補うだけの可能性を秘めている。

 クノーマス侯爵領の異常な速さでの発展を見ればわかる。


 そう、異常なのだ、その速さが。

 土地開発、労働改革、教育改革、運輸改革、あらゆるものが同時に発展している。

 その始点にいるのがたった一人の【彼方からの使い】である。

 この世界に召喚されまだ数年の一人の女なのである。

 これはバールスレイド国に召喚された【彼方からの使い】に匹敵する速さ。


 そして、()()()()に共通するもの。


【英雄剣士】を含む【彼方からの使い】が複数近い存在にある


 ということだ。


 一人の【彼方からの使い】と親しくなれれば、複数の【彼方からの使い】の恩恵を受けられる可能性がある。

 それを今回フォンロンは目敏く虎視眈々と狙っていたのだろう。

 ベイフェルアの国の現状と【彼方からの使い】に対する認識の低さを利用して。


「【英雄剣士】とは世界どころか出身地も同じらしく、故に非常に親しくなったらしい。特に力を持たぬことで【英雄剣士】が自らその者の後ろ楯のような立場であるという姿勢を見せている。それだけでも警戒すべきことであるのに、厄介なのは【英雄剣士】が……『殺戮の騎士』を全面的に支持していること」

 つい、私も苦々しく唇を噛んでしまった。

『殺戮の騎士』。これは一人の男を指し示す。


 グレイセル・クノーマス。


 あの侯爵家次男の、影の呼び名だ。


「あれを、野放しということですか……国が管理出来なくば誰かが、と思っていましたが。【英雄剣士】がその責をと願っていたのにまさか、支持すると?」

「うむ。だからこそ、いまのベイフェルアの動きはなんとか止めねばならん。【彼方からの使い】を除き、最強と言われるあの男を……機嫌を損ねることはあってはならん、決して。あれが怒りに身を任せたらどれだけの血が流れるか。まさしく天災と言っても過言ではない。一歩間違えば、王族すらその手にかけることを厭わないだろう、そうなってはベイフェルアはおろか何とか均衡の取れているこの大陸が混乱に陥る。全く……知らぬ者がほとんどとは言え、なぜベイフェルアはあの男の本質に今も気づかぬのか」

「隣国との領土争いが冷戦に持ち込まれたのも、あの者が戦場に立ったからなんですがね。たった一日で不利だった戦況を覆しただけでなく、隣国に甚大な被害をもたらし撤退まで追い込んだのがあの男がやったことだと未だに信じていないんです。全ての手柄を国王軍のものとして周知させた今のベイフェルアの王宮の腐敗がよく分かりますよ」

「しかも、何の意味があったのかわからぬ慣例を破った引き留めをして、それが原因で侯爵家を貶めようとした貴族どもが半端なことをしたせいで王家はあの『殺戮の騎士』に貸しをつくったのだぞ? 一体ベイフェルアの危機管理はどうなっているのか。呆れて物も言えぬ」


 たった一人の男。しかし、その力は恐怖を生む。

 暴力的に、無尽蔵に、恐怖を撒き散らす。その男を敵に回すような愚か者たちが多い国にいる【彼方からの使い】はよりにもよって『殺戮の騎士』と恋仲だという。

 そしてその二人の行く末を見守るのではなく、実際に側で守ろうとする史上最も恐れるべき【彼方からの使い】。


「……バールスレイドの【彼方からの使い】、彼女は【英雄剣士】と親しいのですよね?」

「ああ。だから……いずれベイフェルアの【彼方からの使い】とも接触することになるだろう。『リンファ』は女、歳もそう離れていないそうだ、その者と親しくなる可能性は高い。ハルトならば意図して二人を接触させることも考えるやもしれん。そうなると、その者の周りはますますベイフェルア抜きで強固になっていく。『リンファ』自身、国での発言権がある地位にいる、今後バールスレイドと『リンファ』がその【彼方からの使い】の後ろ盾になると言い出しかねん。そうなればベイフェルアはますます面白くないだろう」

「……ベイフェルアが、バカなことをしなければよいのですが」

「そうだな、その辺は私も『獣王』も案じて今後も目を光らせておく。総帥、そなたにはギルドの膿がひどくなる前に……」

「分かっております、治療はこちらで。出し切って、治してみせます」

「頼りにしているぞ」











 私は、ため息をつく。

 なぜ、こんなことに。

 ベイフェルアは、あの国の王宮はどうなっているのか。

 もはや国として機能しているのが奇跡に思えてならない。

 まともな貴族があと一つでも掌を返したら、あの国は沈没する。

 それだけ危うい国家運営をしている国なのだ。最も強大な国であることに執拗にこだわり、周りが見えていない。金や地位が全て、大陸の覇者だと傲りを抱いている。その一端が垣間見えるのが、腐敗したベイフェルア冒険者ギルド。

 その腐敗が広がり、【彼方からの使い】に影響を及ぼすことになったなら。


 その時。

【彼方からの使い】たちは何を思うのか。

 その時。

『殺戮の騎士』はどう動くのか。

 その時。

 クノーマス侯爵家はどう決断するのか。

 そして何より。

 史上最強と言われる【英雄剣士】は、何を敵と見なすのか。


 私は、漠然とした不安を抱えつつ、やるべきことを確実に実行し、そして成功させるため、考えることにする。

 一つのミスも許されない。


 ギルドの膿を出すために。

 大公が帰られた後、私は部下を呼び寄せた。

「予てよりギルドの憂いであった件、一掃することにする」

 部下たちは私の言葉に息をのみ、そしてその目にようやくか、という思いを滲ませる。

「ギルドは公正かつ公平な機関だ。腐敗をもたらし汚す存在は不要。排除する。……ちょうどよい時期だ。傲り高みに昇った者たちは足下が見えなくなるほどに肥えただろう、ちょっと足を引っ掛かるだけでいい、勝手に転げて立てなくなるだろう。よろしく頼むよ、皆。私も久しぶりに動こうと思う、力を貸してくれ」




このギルド総帥と大公様、設定だけは元からあるんです。

総帥は元冒険者だけど切れ者で、ガタイのいい渋いおっさん。大公は青春時代はそりゃあ女を侍らせ若かりし日を謳歌したであろう美丈夫の面影がバリバリ残る二枚目のおっさん、という。

でも二人とも名前がまだない。

設定だけ考えて名前は後で、と思ってたら投稿することになった今になって、名無しだと思い出したという。出てくるとしたら相当先なので先送りしてゆっくり考えようと思います。

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