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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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王宮闘争 * 仕切り直し

アーススタールナ様から『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです①が書籍化されて発売中です。



 



 女王陛下の宣言直後。


 まるでその瞬間を狙ったかのように。

 なだれ込むように各国からの情報が広間に届いた。

 うん、まあ、そうだよね、と一人納得する。ウィルハード公爵様が動くのを見計らって、もしかすると口裏合わせてそのタイミングに宣言や遺憾の意の表明をすることになっていた気もする。特に私の後ろ盾であるヒタンリ国を無視してそういう事は出来ないだろうって話は以前からされていたので連行後に一番にヒタンリ国が意思表示した時点で水面下での協議は行われていたかな、と今更推測したりする。

(で、結局その状況下でもこの国は蚊帳の外。それを調べる時間は十分あった。でも……出来なかった。やっぱりかなり早い段階から【選択の自由】が発動していた)

 出来ないんじゃなく、出来ないよう操作されていた、が近いかも。

【選択の自由】で遮断された情報や情報手段の制限プラス、ベリアス卿の【スキル:誘導】による不特定多数への思考の歪み。王宮内が荒れるのは当然だし、アストハルア公爵様たちがどんなに頑張ったとしても改善しないのも理解できる。

 なんて事を考えても時既に遅し、だね。

 で、この状況には流石に女王陛下も眉間に深くシワを寄せて『重なるにも程がある』と小さな声で吐き捨てていた。


「……とりあえず、私たちいらない気がする。帰る?」

 私がそう呟くとグレイが苦笑する。

「そうもいかないだろう、ウィルハード公爵閣下が来るはずだ。あの方が手紙だけで済ませるとは思えないし、寧ろ養子として形だけではないと知らしめるためにも来てくださるだろう」

「あ、そっか」

「それに……レッツィ大首長がな」

「え、なに」

「……」

「なにその無言!!」

「……多分、来る」

「えっ?!」

「説得はしたが、この後の動向までは私ではどうにもならない気がしている」

「ええっ?! なにそれ、え、どういう事?!」

 グレイが非常に遠い目をした。

「静観してくださいとお願いしたんだが、嫌だとはっきり拒否され。国境線の軍事侵攻を今以上に強めるぞと、何故か私が脅された」

「グレイを脅迫出来る人、あんまりいないからある意味貴重ではあるね……」

 ああ、もうグレイが珍しく本当に遠くを眺めている。凄いなレッツィ様。

「ジュリの『武器』を、それではお渡しできないと言ったが結局は軍事侵攻は継続しているし、状況次第で顔は出すからなと念を押された。かなりお怒りで、プレタ様もお手上げ状態だった」

 来るの決定だぁ……。

 だって、女王陛下が登場するまでの王宮の私への対応は褒められたものじゃないし、何より審問会の突然の中止。あれだけの騒ぎにしておいてなかったことにしようとしたのよ。今更神様を恐れて、【神の守護】が人間にとって恩恵になることはないと気づいて、ついでに他に不都合なことがわかったからってなかったことにすれば済むなんて軽々しく、馬鹿にした扱い。【彼方からの使い】に対して崇拝するレベルで友好的なレッツィ様なら……来る。

「諦めよっか、レッツィ様は誰も止められないから……って、どしたの?」

 グレイが急に胸に手をあてがい、目を丸くして微動だにしなくなった。

「ない」

「え?」

「ジュリの作ったネックレスが、ない」

 そして滅多に見れない、血の気の引く顔。

「なに、いきなり。なんか持ってきてたの?」

「……騎士団団長を名乗るゴミから返して貰ったんだ」

 え、ここで何やら私の知らない情報が。

「えっと……騎士団団長って」

「ノーラというゴミだ。喧嘩を売られたので買ったんだ」

「……は?」

「そいつがジュリのネックレスを持っていたから返して貰ったのを胸のポケットに入れていたのに……ない」

 騎士団団長と喧嘩? 何故そうなる! 私の衝撃と疑問などどうでもいいらしく、グレイは慌てて自分のポケットを全部叩いたり手を突っ込んで確認している。騎士団団長よりも私の作ったネックレスが大事な男は一通り自分の体をチェックしてやっぱり無いとわかると絶望した顔で私を見つめる。

「ネックレス一つで絶望するのやめて。そして今それはどうでもいいから」

「ジュリの作ったものを失くすなんて……人生最大の汚点……」

「そんな事を人生最大の汚点にすんじゃねぇわ!! 重たいわ!!」

 一喝しておいた。


 どうしても納得いかない顔をしているので後で一緒に探そう、探してなければ諦めるという約束を何とか交わし、私たちはまだ混乱する広間を改めて眺める。

 するとハルトと女王陛下、アストハルア公爵様たちが何やらコソコソと話し合っている。

 敢えてそこには加わらず様子を伺っていると。

「……ベリアス公爵をわざと逃がしたようだ」

「え、なにそれ」

 グレイにはハルトたちの声が聞こえるらしい。わざと監視を緩め逃亡させたと。そんな事する理由って何かと思えば、逃亡は問答無用で地下の牢獄行きになるらしい。高位貴族だと貴族専用の綺麗な牢獄に入れる権利があるのでその権利を剥奪するためとのこと。しかも逃がすと言っても王宮内で。逃亡不可能な状態でわざとそうさせるってのも、怖いなぁと一人身震いしておく。

 そしてもう一つ。

「ベリアス卿が」

「え?」

「王宮のベリアス家が与えられた部屋にずっといるそうだ」

「……」

「何をするでもなく……女王陛下の勅命以外には従わないと言って動かない、と」


 なにそれ。

 どういうこと?

 でも、それって。


「……じゃあ女王陛下からやったこと知ってること話せとか言われたら、従うってこと?」

「おそらく。……何が、したいんだろうか?」

「あの人神様の干渉があったのよ」

「!!」

 ハルト達を見ていたグレイがバッと私に振り向いた。

「確信してる。【種】を蒔いた男だから。そして、干渉したのは……セラスーン様、だと思う」

「まさか……セラスーン様はジュリ以外に干渉することはないと、思っていたが」

 信じられないと言いたげな顔で私を見つめるグレイ。でも私は首を横に振る。

「ベリアス卿が蒔いた【種】は他の誰でもなく私の前だった。……私が、絶対に関わる事だった。逆だよ、セラスーン様がベリアス卿に干渉しないわけがない」


 グレイは逐一情報を得てはいたけれど、どうやら守護神であるサフォーニ様から情報を貰っていたわけではないらしい。というかセラスーン様とサフォーニ様の大きな違いは、寵愛する人間の扱いそのもの。私の場合は守るために干渉してくるけれど、グレイの場合は全ての行いを赦すために干渉してくる。だから基本的にグレイは放置というか放任というか……。原則止めない、見守る、それがサフォーニ様の寵愛の仕方。そもそも私たちの離婚騒動の時だって、何もしてこなかったんだよね。それ以外にサフォーニ様がすることは無駄に強くすることくらい。神の欠片をもつエルフや人魚と対等に渡り合える力を持つことを許していること自体がね、もう他の神様とは考え方も違うし寵愛の仕方も【滅の神】らしい固有のものだと分かる。

 そんな男に私は断言する。

「現段階で【思想の変革】が起こっていない以上、【種】を蒔いたあの男がこのまま表舞台から消されるなんてあり得ない」














 ハルトと女王陛下。

 二人によって驚くほどその場が整えられていく。整理整頓、まさにそんな感じで邪魔でしかない貴族や文官は一端別室で待機するよう命じられ、役に立ちそうな人たちはアストハルア公爵様、ツィーダム侯爵様やご隠居達重鎮組によって混乱を沈静化させるため、そして今から訪れるとてつもなく面倒でひと筋縄ではいかない各国の王侯貴族への対応のため集めて各部門に割り振って大まかに指示を出している。

 ……びっくりするくらい、王宮内がまともに動いている。

「女王陛下凄すぎない?」

「そうだな。……それと」

「うん?」

「ハルトが何らかの【スキル】を発動させている」

「えっ」

「薄っすらだ、集中しないとわからない。……王宮全体を覆う、そんな【スキル】をかなり広範囲で使っている。【スキル:誘導】の解除の可能性があるな」

 なるほど。と納得したのに。

「いや、違うか? これは……」

「ええ、違うの?」

「解除じゃない、逆だ」

「え」

 何してんのあいつ?!

「わざとか。誘導された状態がこれ以上薄まらない、消えないようにしているらしい」

「わざとする意味ある?」

「その方が都合いいからな!!」

 ハルトが私たちの会話を聞いていたようで急にこっちに大声で返してきた。

「今までの悪事を慌てて証拠隠滅しようとバタバタしてるからそいつら締め上げれば早いだろ。本当に悔いてるヤツらは大人しくなってるから減刑すればいいし、悪足掻きするヤツらは証拠隠滅罪が加わるだろ! そいつら捕まえるのにアストハルアとツィーダムのとこから人を今出してもらって捕まえ次第地下牢ぶっこむ!! ここでまさかの【誘導】が役立ってるってのが皮肉でオモロすぎ!!」

 楽しそうに言うのやめてほしい。


 事実、皮肉そのものとなった。

【誘導】によってたくさんの人が大なり小なり悪事に手を染めたり迷惑を振りまいたりした一方で、【誘導】で慎重になったり真面目になったり、この王宮を去ったりした人もいる。そんな人たちに影響された貴族や王宮で働く【誘導】が効かなかった人たちによって王宮内は二分され深い溝が出来て王宮全体が麻痺した状態に陥っていた。

(……【スキル】。使い方次第では毒にも薬にもなる、いい例だわ)

 この世界の理を支える魔力。それがなければ使えない魔法と【スキル】。使えない私が俯瞰的に見るとやっぱり人間にとって決して都合のいいものでも便利なものでもないと言い切れる。この世界の人たちは【スキル】と【称号】、そして魔力を過信しすぎだよ。だって弱い【スキル】でここまで一国が振り回された。あのアストハルア公爵様だって気づいたらどうしようもないくらいに悩まされた。そこには当然いろんな要因や事情があって簡単に手が出せなかったとしても、地位とか強さがひっくり返されるのを嫌と言うほど痛感させられたはず。


 人間が作った地位や権力に見合った魔力や【スキル】【称号】なんて実は存在しない。というか、神様はそんなつもりで作ってない。

 都度必要に駆られて作っただけ。その証拠に王族やそれと同じ立場の人たちが同じレベル、能力を持ってるわけじゃないから。だからごく一部を除いてランダムに与えられるしそのごく一部だって継承には条件があって、決して簡単に扱えるものではない。


(やっぱりさ、この世界の人たちは……この不平等とか理不尽さとか、そういうものと折り合いつけて生きるようにならなきゃ)


 もう限界なんじゃないかなぁ、この大陸の大半を占める王政とかそれに近いものって。

 だって、正しく血と能力を継承し続けているのはロビエラム国だけ。バールスレイドもバミスも、大国と呼ばれる国ですら不完全で。

 要するに、過去の血とか能力とか、そういうのに拘っていいのはその理由とか手順、そして責任を次世代に誠心誠意受け継がせることが出来る人だけで、『王家だから』『由緒正しい』ってだけで国や家を治めるにはもう理由や条件としては効力はないように見える。

「……と、思うのよ私は」

 グレイに思ったことをそのまま伝える。

「だから、認めたくはないけれど、ベリアス卿の考え方は間違ってないのよ」

「なに?」

 と、そこで割って入って来たのは。

「この後もう一回当事者集めて話し合うってさ」

 ハルトだった。


 各国から人が来る前に、まず主要な人物たちを断罪するらしい。

 そして女王暗殺未遂についても公にする、と。首謀者が()()()()()()()であること、共謀者としてベリアス公爵とその取り巻き貴族、手助けした執事や侍女など今ここに集められる人全員をまずはまとめて裁くことで話が纏っていた。

 そして、その場に私が立ち会うこと。

 もう一人。

「やっぱりそうだよね」

 つい口からそう言葉を零していた。

 ベリアス卿も。

 寧ろその場での主役はあの男になる、そうハルトが断言した。

 女王陛下も説明を受けたのか納得しているのかそれとも始めから分かっていたのかわからないけれど、特にその件には不満はないようでハルトの提案をそのまますんなり快諾していた。


 今更だけど。

「ご挨拶が遅れましたぁ!!」

 そうだよ、女王陛下だよこのお方!!

「ジュリ・シマダと申します! この度は色々、お互い、ええもう本当にお互い大変でしたしどえらいことになりましたけども、決して、決して挨拶をないがしろにしようなんて微塵も思っておりませんでしたので寛大な心で見逃して下さい!!」


「「「……」」」


 その場が凍りついた。

 ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです。


「見逃すも何もそんな事は気にしないでいい」

「え?」

「こちらこそ謝罪しなければならぬ。だが今は時間が惜しい。後で改めて時間をくれぬか」

「いえいえ! そこまでしていただきたくてここにいるわけではありません。出来れば……事の顛末をこの目で見たいと思います。それが出来れば文句ありません」

「そうか……」

 逡巡した後、女王陛下はほんの少しだけ眉を下げて笑ったように見えた。

「ならば、この場を仕切り直す。そこに立ち会うがいい」

「はい、ありがとうございます」

「ではしばし待て、場を整える」

「はい」


 苦笑した理由はなんなのかと、ふと考える。

 仕切り直し、か。

 国王達は今監禁されていて、ベリアス公爵はわざと逃がされて。

 そしてベリアス卿。

『その時』を待っている。

 間違いなく、この人たちが女王陛下が仕切り直しをする理由。


(どんな結果になるんだろう)


 国王達にとって決して都合のいい結果にはならない。

 そんなのは当たり前だし、そうでなければ困る。

 あの人達にこの国を治める権利なんてない。


「ジュリ、私たちも一端ここから離れよう。この姿のままでは、な」

 確かに、と返して私たちは私が監禁されていた部屋に向かうことになった。




王宮闘争編、もうちょっとゴタゴタが続きますがお付き合い下さい。

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― 新着の感想 ―
こういった非常時だと、ハルトさんは実に頼りになりますね。なにしろ武力の裏付けがないと、他人を従わせるのは大変ですものね。その点、ハルトさんは強いうえ、武力を貴族や王族に振るうことを気にしないことが知ら…
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