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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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王宮闘争 * グレイセル、大暴れ?するの続き

アーススタールナ様より『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです①が発売中です。こちらでは読めないエピローグ、番外、そしてSSお楽しみいただけます。


そして『なろう』で新連載の『とある喫茶店の日常』と短編もよろしければ是非。


前回に引き続きグレイセルの語り。

 



 毒にしかならない貴族たちから離れて間もなく。

 目の前に意外な集団が現れた。

 ロイド率いる近衛騎士団を除いた騎士団団長、ウェルツ、エディク、そしてジャンの三人とその団員たちだ。

 少ないがかつて接点があった三人。もう一人いるはずだが、その者は私のいた頃には把握していない人物だったのでおそらく一番若く最近なったばかりの団長だろう。

 そしてこの三人、不思議なのは何故か全く敵意がないこと。国王や王妃、そしてベリアス家にいいように使われているだけだと思っていた予想を大きく裏切った。

「久しいな、ジャン」

 一番見知った顔の男にそう声をかけた瞬間。

「こちらをジュリ殿から頂戴しました」

 ……???

 待て、このタイミングで言うことはそれなのか。

「……確かに、ジュリの作ったものだが」

 そう呟けば何故か一様に三人があからさまにホッとした息をつく。何なんだ。

「そして昨日ジュリ殿から伝言を預かりました」

「伝言?」

「はい。『この人たち多分味方。だからケンカの売り買いしないように』」

「……おまえ、それ、自分で言って虚しくならないか?」

「一語一句変えずに伝えれば伝わるからとのことでしたので」

 真顔で言われても困るのだが、言葉選びがジュリである。

 何よりジュリがここに来る前に自ら作ると急に作り始めて周りを驚かせた物に間違いない。

 ジュリが自ら渡したと。


「……なるほど」


 口元が緩みそうになり咄嗟に手で覆う。

 ジュリ、お前ロイドとニールだけでなくこの者達まで手懐けたのか。

【暗殺者】シングとトルファ家からの情報で近衛騎士団は完全にジュリに手懐けられたとは知っていた。

「で? 正直なところ、味方なのか、敵なのか、はっきりさせておきたい。……どうなんだ?」

「味方です」

 ウェルツからの返答は食い気味だった。一体どれだけの不満を抱えれば短期間で王家を裏切る発言が出てくるのか。しかもこの男は私の知る範囲ではかつて宰相や一部の大臣の覚えもよくそれこそローツと並び参謀長候補として名前が挙がっていた。

「何があった?」

 その短い問いかけに、今度はエディクが一つ頷いて見せた。

「まずジュリ殿から頂きました付与品について御礼申し上げます」

 不思議と心の籠もった声だったのと、迷いない一礼だったため、それには私も目礼を返しておく。

「気づいた事があります」

「なんだ」

「この王宮で作られる数量の極めて限られた、貴重な付与品よりも遥かに安定的で効果があるものだとアストハルア公爵閣下よりお言葉を頂き。そして実際に、身につけそれを実感しているところです。……何より、ロイドから【彼方からの使い】についての話を聞かされました。己の認識の甘さや間違いに、恥じています」

 神妙な面持ちと声色から嘘はないと伝わってくる。

「……そうだな、ジュリの作るものには神の恩恵が宿るし、何より導かれるように必要とする者に必要な物が届くようだ。お前達もそうだったのだろう、ジュリの作るものは付与が大事なわけではない。大事なのは、ジュリが作り、それを届けたいと思うかどうか。その感情、思考が重なって初めて他者は恩恵を享受する。違うだろ? この王宮で作られたものとは。天と地の差があり、それは強烈な神の意思表示だ、その神の意思をどう受け止めるかは持ち主次第、使い方によってはその者に豪運を授けるし不運や破滅を授けもする。人間がその結果を決めることは不可能だが、神は僅かな慈悲として選択肢は与えてくださる。その選択さえ間違わなければいい。……ここにいて、こんな話をすることもまた、お前たちが選択した証だろう。どう選び進むかは、自由だからな」

 私の言葉に、ジャンは頷いた。

「……我々は、何が正しいのか、見極めて生きたいと思います」

 募るもの、燻るものがあったからこその言葉なのだろう。


 ジュリが加工し付与された物を入手するだけではその『本質』は測れない。

 ジュリ本人を見て初めて気付く。

 神は寵愛する者の先にいる人間に選択肢を与えてくれるのだと。

 今回、ここにいる三人は幸運にもジュリがそこに至る選択肢を与え、間違わずに選んでここにいるのだ。

 ならば私はこの者たちと対立する必要はない。


「外で転がっている奴らのようにされては困る者たちがいれば今のうちに王宮の外へ避難させろ。この後王家の動向次第で王宮内は血の海になる」

「……皆殺しにでもするつもりですか」

 重く、そして咎めるようなその声はエディクだ。

「いや、出来れば無抵抗の者は殺したくない。だが私に攻撃しろと言う馬鹿を上に持つ者もかなりいるはずだ、ここで私に歯向かう者は例外なく潰す、それだけだ。だからそれでは困るというならお前たちが救い出せ。……勿論その判断によって王家への裏切り行為だと責められ後で裁かれる事になっても責任は負えないがな。ただ、少なくとも私に絶対に殺されずにすむという保証は与える」

 必要なことは告げた。

 後はこの三人がどう判断するか。

 それだけだ。














 背を向けた後、それぞれが迷わず散らばっていくのを感じながら、私も目的の場所へ向かいながら出来るだけ害を排除していく。

「いたぞぉ!」

「俺だ! アイツの首は俺が貰った!!」

「どけ俺がやるんだよ!」

 王宮の中でこんな大声で剣を掲げて走ってくるなど私がいた頃は考えられなかった。そもそも敵を侵入させなかった。させたとしても静かに相手を確実に仕留める。

 建物の中で剣を使うと壁や床を壊すし汚すし修復不可能になるから絶対にやるなとジュリから言われている。バールスレイド皇国でリンファに頼まれ手合わせをした際に壁を少々破壊してしまい、リンファと共に正座をさせられ説教を食らっている過去があるからなのだが。

(今回ばかりは聞いてやれないな)

 ここは私からジュリを奪おうとした愚か者達がいる。こんな場所に価値はない。

 そしてこの悪趣味な壁や装飾。数年見ないうちに随分酷くなったものだ。私なら恥ずかしくて住む気になれない。

 こんな場所ならば。

「あれが『殺戮の騎士』かぁ」

「来た来た、外道が!」

「久々に暴れられそうだよ」

 (汚れても問題ない)

 私に背を向け逃げ出す者たちを剣や魔法で無遠慮に攻撃し、そこら中を血で染め上げながらやってくる者たち。単に殺しを楽しんでいるようだ。

「なんか変な魔法使ったらしいよね」

「研究室に実験体として引き渡す?」

「それいいね!」

 随分と余裕だ。服装から騎士団。私の知らない男が騎士団団長になった第五騎士団だ。一番前を歩きこちらを真っ直ぐ見ているのがそうだろう。


「あなたが、グレイセル・クノーマス?」

 物腰柔らかな口調だが、目は野心的。放つ気も挑発的。

 悪くない。だが。

「だとしたら?」

 私の疑問形での返しに、わざとらしく眉毛をつり上げてその男は笑った。

「余裕ですね、やっぱり【彼方からの使い】の付与品があるから?」

「さぁ、どうだろう」

「あの【彼方からの使い】が作ったもの、とんでもないものでしたよ」

「そうか」

「勿論あなたも持ってるんですよね?」

「そうだな、彼女の作ったものは今も身につけている」

「ああ、やっぱりそうだと思ったんですよ!!」

「私が身につけている者は彼女のデザインしたものか加工したものばかりだ」

「あははっ、素晴らしいですね」

 そしてその男は僅かに首を傾げるような仕草をした。

「欲しいなぁって思って。譲って下さいよ」


 騎士団団長としてこの気質は悪くない。野心がなければ重圧に勝てぬし、挑発する気概がなければ務まらない。

 だが、あくまで騎士団団長として。

 与えられた選択肢から、先ほどの三人とは反対を選んだ。

 つまりは敵。

 排除すべき者。

「お前にくれてやるものなど一つもないな」

「そんなこと言わず。ああ、全部って言いましたか? うらやましいなぁ、付与品って付与が優先されてデザインが皆無なことが多くて僕あまり好きじゃないんですよ。でも【彼方からの使い】のはデザインもかっこいいですよね」

「お前も貰ったのか」

「ええ! 優しいですよね、あなたに殺されないようにって、お守りとして下さったんですよ。とても貴重なものですよ、それをお菓子でも配るように。……あんなに簡単に配れるなら、もう少し融通してもらいたかったんですがなかなか守備が堅くって近寄ることもままなりませんでした。ククマットに人を送ろうかとも思ったんですが、送り込んだ大臣管轄の兵や他の貴族の所もどうやら全滅したようで、あちらはあちらでクノーマス侯爵家が守っているようでなかなか手出しできなくて」

何がそんなに楽しいのか、だんだんと声が高くなっていく男。

「それであなたならと思い待っていたんですよ。【彼方からの使い】があなたは必ず来ると言っていたので、信じてみたんです。そうしたら本当に来るんですね、驚きました!! こんなことなら何としても【彼方からの使い】を人質にしておけば良かったと後悔しています。身につけるのは当然ですが、売ったらいくらになるんですか? あれで一財産、いや、莫大な財産を築けますね、あなたもそうなんでしょ? 羨ましい限りです、勿論仲間になれば【彼方からの使い】に手は出しませんからこれから協力関係になりましょうよ」

「お前、名前は?」

「はい?」

「一応、聞いておこうと思ってな。名前は?」

「今ですか? まあ、良いですよ。ラーノです」

「ラーノお前は話が長い。話をするだけならそこをどけ、私は暇人ではない」


 一瞬の静寂。

 するとラーノと名乗った男の顔から笑顔が消える。

「【彼方からの使い】は随分あなたのことを強いと思っているようですね。でも所詮……元、団長ですから」

「実際に強いがな」

 すると一人がプッと吹き出した。

「自分でっ、そういうやつって弱いんだよ」

「そうそう、『殺戮の騎士』だっけ? そんなの弱い奴が付けられがちだよ」

「それな」

 クスクス、クスクス。笑うその声は明らかに嘲笑だ。

「あなたが強くなったのも、あの【彼方からの使い】が来てからでしょ? 要するに付与品ありき。あ、それと恩恵ですか」

 ……面倒くさい男だな。しかもまだ恩恵の意味を理解していないらしい。

「もう一度言う。お喋りがしたかったなら相手を間違えている、そこをどけ」


 空気が変わる。一斉に殺気をこちらにぶつけて来た。最初からそうしてくれれば早かったのにな。

「そういう態度なら、遠慮しませんよ?」

「遠慮? 私を倒せると?」

「さっきからあなたが放つその気、素晴らしいものですけど僕と皆のものを合わせたら到底及びません」

「……まあ、そうだが」

「僕は勝てる戦しかしないんですよ」

「はぁ」

 思わず口からふざけた声が出て自分で驚いた。

「戦略も騎士団団長に必要なこと、知ってますか?」

「要するに、私一人に全員で来ると?」

「ええそうで、す、え?」

「では今のは見えたか?」

 パシャ。鮮血がラーノと言う男に飛び散った。ゴロンと鈍い音を立てて転がったのは最初に笑った騎士の頭。

「見えなかったか。ではまずは少しだけ殺気を放つ。そして速度を落とす、これでどうだ、わかるか?」

「……あ、え? ちょっと、待って下さい」

 ようやくぐらりと大きく揺れながら倒れた頭のない騎士の後ろで、今度は呆然と立ち尽くしていた魔導師の頭が切断された勢いで壁に当たって跳ね返り頭のない騎士の前まで転がった。

「ひっ!」

 名前のわからない魔導師が短く悲鳴をあげた。

「まだ分からないか、殺気をさらに強めて今度は纏めて後方三人だ。右から順にな。そして私はそこまで移動する。転移ではない、移動だぞ」

 団員が振り向いた時には私は最後尾まで移動していた。

 そのため三人分の頭を失った首から噴き出した血をもろに浴び、真っ黒な戦闘服が濡れた独特の艶と鈍い鉄臭さと赤みに覆われる。

「まだ分からないのか。お前が見切れるようになるまで全員の首がなくなりそうだ」

 もう一段階殺気を上げた。

 ビリビリとガラスが音を立てて、ヒビが入り始める。

 その場に縫い付けられたように動けぬ者、腰を抜かしその場で失禁する者、腰を抜かしつつも這いつくばってその場から逃げようとする者。

 そんな中、団長のラーノだけは微動だにせずに立っている。

 顔を引きつらせ、不愉快な笑みを浮かべる。だがその額から一気に汗が流れ出るのも見えた。

「あは、あはは、降参、降参しますっ! あの、僕役に立ちますよ?! どうですか、僕のことあなたの側近にしてみませんか」

「ククマットは人材不足だ」

「!!そうでしょ?! だから僕を!」

「それでもお前は要らないな」

「待って待ってまっ、て本当に謝りますから、ね、何でもしますよ?!」

「そうか、ならば目障りだから消えろ」

「あ」

「そもそもジュリを人質にだと? そんなお前に生きていられても迷惑だな」

「……うそ、だ、あ、僕の足……がっ」

「ああ、お前逃げ足だけは速そうだったから先に足を切り落とさせてもらった」

 ドシャリとその場に倒れ込み、ラーノは悶え呻きながら何とか震える両腕で上半身を持ち上げた。

「言い訳すると二本とも斬るつもりはなかったんだ。お前が逃げようとしていたから片方だけ切り落としたつもりだったんだが、思いのほか反応が遅くて二本とも切ってしまった。速いと言っても、あれに反応できるほどではなかったか。すまない、見誤った」


 そして私はラーノの前へ行き、しゃがんでから手を伸ばす。

「お前には不相応なものだった。そして私はジュリが作ってくれたアクセサリーは身につけているが、魔法付与はされていないんだよ」

 ジュリが与えたというアクセサリー。

 魔法付与されているにも関わらず、この男に対して一切発動しなかったのは何故か。

(セラスーン様が見ておられるのだろう。ジュリがここにいる限り、全てあのお方の掌の上のはずだ)

 私がそのことについてこの男に言及する必要性はない。宝剣の刃が窓から差し込む光でギラリと輝いた。

「付与などなくても私は元々困ったことがないんだ」

開き切った目で刃から視線を外さない、いや、外せないラーノはガクガクと体を震わせ、カチカチと歯を打ち鳴らした。

「そしてお前がせっかく貰った付与品はお前の選択の誤りによって別の然るべき人物の手に渡ることになる、残念だったな」

「ゆ、許してくださいっ! 何でも、し、しまっ」

 ラーノの頭は身体から離れ、床にその血を勢いよく散らした。


 ネックレスをポケットにしまい立ち上がる。

 さて、もう少し害を排除して回ろう。

 それが終わったら。

 もうすぐだ。

 迎えに行く。


 ジュリ。








裏話的な事を言いますとグレイセルは黒や暗い濃いめの色を好んで身につける理由に血を浴びた時に目立ちにくい、というのも含まれてます。そんな理由で服を選ぶ彼氏は嫌だ、と設定決めした作者が思ってるんですがジュリにもそのへん確認してみたい……かも。

グレイセル、ようやく本編復帰www


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― 新着の感想 ―
グレイの気持ちがわかります。白い上着とかデザインが素敵でも汚れが気になり、汚れが目立たない色選んじゃいます。 後の世で、グレイのこの活躍により、悪いことしたら、グレイ様が来るよとなまはげのよう語り継…
ラーノさん一党、もっと強ければ相手の強さを理解できたんでしょうにね。あんまり強くないうえ実戦経験もなさそうだから見極めが出来なかったんですね。 このレベルで騎士団長というのもどうかと思いますけどまあ仕…
 グレイ、ジュリが「手懐けた」と思うんですね。説得でも誑かしでも篭絡でもなく(笑) そして「誘惑」という言葉は出て来そうにない(笑)  ジュリが王宮で会った人達は、辛うじて「王宮の人」だったんですね…
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