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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * 早速販売

 



 ゴーレム様の白土から生み出したスイーツデコ。出来上がったものから早速売り出すことにして、値段決めや置場所の確保の間に、ウェラを筆頭にククマット編みからこちらに興味があるという女性二人とローツさん、そして侯爵家のパティシエであるゼストさんの協力を得てかなりの量の在庫が確保出来た。


『食べたくなる小物入れ:毎日個数を限定して販売します』


 窓際の一角に、ディスプレイした三つのスイーツデコ小物入れの前にそう書いた札を置いた。

 硬化するまで時間がかかるゴーレム様。在庫切れをすると大変なので一日の販売数を限定することに。

 早い者勝ちにならないよう時間を決めて決まった数を出すように当面はしてみることに。

 スイーツデコという言葉を使わなかったのは、その説明で素材や注意事項の時間が削られるのを防ぐため。ありがたいことに毎日お客さんがたくさん来てくれるから、見てもらう時間を最大限確保するために必要な措置よ。買ってくれた人には、デコレーション部分は接着してるため取り扱い次第では取れてしまうという注意書きをつけることになって、それについでに『異世界 (地球)ではスイーツデコと言います』と書き込むことにした。


 この世界には取り扱い説明書とか注意書きを商品につけることがない。

 なので見本に出来るものがないから一から作成。印刷技術も発展途中のこの世界、製紙技術もまた然り。本や雑誌が高級品の部類になっている。だから極めて質素に簡素にメッセージカードサイズの紙に文字数を考えて刷ってもらった。

「……おもしろい」

 グレイがそれを見たときその一言。私にとって説明書や注意書きってあって当たり前のものだけど、こちらの世界だと面白いものに見えるんだね、不思議だわ。


「ああ、ドキドキするねぇ!」

 ウェラは自分が作り出した作品がこの店の一角を担うことに興奮している。

「ジュリは毎日こんな気持ちなのかい?」

「最初の頃はね。今は正直なれちゃったけど、新しいデザインや改良したものを出す度、どんな反応してくれるかは気になるよ今でも」

「落ち着いてるねぇ」

「慣れるよウェラも」

 二人で笑いながら開店を待っていると、もう一人そわそわしてる人が。

 ローツさんよ。店頭に立てる従業員は人数に制限があるし、ローツさんはさすが元騎士で体が大きいから今朝皆に「店頭に立つな」と制されてたわ。それで工房からずっとこっちを気にしてる。ローツさんも興奮と緊張を隠せない様子だねぇ。


「これ欲しい」

「ええっ?! 髪に飾るものを買いに来たんだろう?! これ一つで他のは買えなくなるよ?」

「うん、いいの。これがいい」

 誕生日プレゼントを必ずここでとせがまれて、と恥ずかしそうに幼い娘さんと入店してきたパパさん。当初娘さんはヘアアクセをパパさんが決めた予算内で複数買う予定だったらしい。それがスイーツデコの小物入れにその場でいきなり変更になったものだから、パパさんが混乱してるよ。そりゃねぇ、娘さんが選んだのがデコレーション満載のホールケーキタイプの小物入れだし。五十リクルだし。ヘアアクセで安いものなら十個以上買えるし (制限あるから無理だけど)。そりゃあ、パパさんタジタジ。


 まさかいきなりスイーツデコの中で一番高いのが売れるとは。

 しかもウェラとローツさんの合作。

 あ、工房で二人が無言で力強く握手してる。うん、これからも二人でスイーツデコ部門を盛り上げてくれること決定だね。


 そして、窓から見えるディスプレイのおかげで入店する人たちはほぼ全員一度は必ずスイーツデコをまじまじと眺めてくれる。そして半数の人がこの新作を買うか、買う予定だったものを買うかで悩んでくれる。

 そして。

「ねえ、お茶して帰ろうよ」

「ああいいよ」

 という会話をして店を出る人たちがチラホラ。

 ククマットの飲食店に当面の間お菓子の増産お願いしますと回覧板を回すべき?










「今日、小さい単品レース売れたね」

「え?」

「ほら、在庫」

 フィンに見せられたレースを入れておく箱を見てびっくりした。

 コースターよりも一回り大きいレースはうちで取り扱っているレースの中では正直需要があまりない。大きさが中途半端なんだよね。もっと大きければ花瓶の下に敷いたりするドイリー、もっと小さければ衣類の装飾として売れるんだけどね。売ってる理由のひとつとして、ドイリーを製作するのが許可される一歩手前の、副業で編んでくれてる人たちの作品で出来がいいから。

 売れない訳じゃないのよ、でもこれが売り切れるということはいままでなかったのに。

 補充用の箱も確認したら、あと十枚ちょっとしかない。

 なぜ!!


「これだよ、これ。ディスプレイ」

「……あぁー、なるほど」

 フィンや女性陣の指し示す物を見て納得しました。

 ディスプレイでスイーツデコを置いてるのよ、レース (中途半端サイズ)の上に。

 元いた世界でのケーキ用のペーパーがこの世界ではないから、どうしようと思って、これに置いてたんだった。

 私としては、単にいい皿がなかったから代用しただけなのよ。ガラス製の皿の上に敷いてみたらいい感じだったし、あとで市場の人たちに相談に行こうと思ってたし。

 そっかぁ、これはこれで受け入れられたのか。

 と安心してばかりもいられぬ!

 在庫!!

 困ったなぁ、他に考えなくては。


 ということで、翌日ガラス職人のアンデルさんの所と、近所の食器屋さんに朝一でご相談。

 アンデルさんにはケーキが乗せられるサイズの皿を 《ハンドメイド・ジュリ》で販売する専用としてもう少し増産してー。食器屋さんには素敵なケーキが映えるやつ仕入れてー。と。

 返事一つでどちらも了承してくれて、特に食器屋さんは先日スイーツデコのディスプレイに使う皿を見に行ったけど私が買わなかったことで商売魂に火がついたらしく、真っ白の皿に細い黒い線で繊細に描かれた花がとってもお洒落なものを仕入れていて、それを売り込みにくるつもりだったらしい。大皿と取り分け皿のセットで、ちょっとお高めだったけど私も気に入ってその場で購入、食器屋さんからはこの皿の取り分け皿の方をさらに仕入れてもらってうちで扱うことが決定した。


 そして後日。

 アンデルさんの工房があるガラス製品のお店と食器屋さんは、急に皿の売れ行きが伸びているらしい。

 うちでスイーツデコとセットで買うとちょっとお得になる専用皿の色違いはもちろん、色んなものが売れてるらしい。

 うちではあくまでセットでしか安く売らない。単品で売る目的で仕入れているわけではないのでそれでも売れたらラッキーくらいに思ってるから安くする理由はないのよ。

 その代わり本業の人たちならば種類も豊富に、価格も臨機応変に決められる。そしてお客さんによってはうちで仕入れた物より違う色のものがいい人もいるだろうしね、その辺は『あそこの店なら色違い売ってますよ』とお客さんに情報を流すだけでいいから楽よこちらは。


 食器屋さんに話を聞くと、気分で変えられるようにしたいとか実際に食卓で使いたくなったとか、中にはスイーツデコを買ってないけど同じ皿を取り扱っているお店を聞いて久しぶりに食器屋さんに行ってみたいと思ったなど、お客さんの来店理由は様々。

 それでもその来店の理由は 《ハンドメイド・ジュリ》に起因することからアンデルさんと食器屋さんの店主さんには感謝された。大したことしてないけどね私は。










 そして新作のアクセサリーにも着手。

 白土を丸く半球体に近くこんもりとした形をしたものに発色のいい押し花や螺鈿擬きを張り付け、そして擬似レジンでコーティングした陶器製のペンダントトップのようなものを試作したら軒並み女性陣から評判がよくてこれは即採用することに。難しい作業工程はないし、レジンと違って形成のやり直しが効くことから私の監修の下、従業員でそれなりの量産が可能と判断して価格も他のアクセサリーパーツより安く売り出せそう。

 今後はスクエア形や雫型も取り入れて、着色や金属パーツと組み合わせたものも順次販売していくことに。

 ネックレス、イヤリング、ブレスレットはもちろん、ボタンやヘアアクセにも応用出来そう。

 ムフフ、作りがいがあるー。


 白土とは別の話しになるけど、今のところとても順調だからかな。

 お店を移転して広い店にしないのかと周囲に聞かれることが増えたけど、それはないときっぱり断言している。

 広くなってしまったらそれだけ品数を増やして、量産が求められる。現状それが無理なのに移転して規模の拡大なんて考えること自体があり得ない。それより人員確保や新規素材の発掘、新商品の開発を最優先にしないとそもそも人気の店なんだから商品の安定供給が不可能。

 そこら辺は慎重にいく姿勢を崩す気はないし妥協も一切しないと決めている。

 そんな事に気を取られるなら《レースのフィン》をちゃんと開店させて軌道に乗せないとね。


 他の貴族から侯爵家に『次の店舗はぜひうちで』と話がポツポツ来てるらしい。

 私の意向を理解してくれてる侯爵様は、勝手に次の店舗を出すと決めつけて投資話ではなく私のことを取り込む魂胆見え見えで近づいてくる貴族は相手にしていないらしいけど。

 悪いけど貴族のいいなりになどなりません。

 国ですら言いなりになる気がないけども。


 あと、『特別販売占有権』にいろんな物の作り方、取り扱いを登録して、それの版権による収入も凄いことになってるんだけど。

 なのに売り出す商家がいない。

 なんでだろ?

「お前なぁ、そんなことすぐわかるだろ」

 と、ライアスに呆れられた。

「押し花がいい例だな。手順はしっかり分かるレシピがあっても『作り手の匙加減』で仕上がりが変わるだろ。ククマットの内職が作る押し花はな、お前の直接の指導があるからその『匙加減』を身に付けやすい」

 なので、ほかの素材然り、工程然り、『匙加減』がわからないのでうちの商品たちに及ばず、同じ値段では売り出せないんだろうとのこと。なるほど。

 ククマット編みは、販売し始めた商家はあるんだよね。グレイの話だとそちらも人気でクノーマス領よりずっと内陸部、西側の国々から買い求める人が増えてるんだって。

 ……その商家の息子はグレイのお友だちなんだけどね。使用人二人をククマットに送り込んできて、農業で鍛えられた元気なおばちゃんたちに簡単なレース編みが出来るまでスパルタで鍛えられてた。フィンが無駄に心が逞しくなった二人を苦笑しながら眺めてククマット編みと基本のレースの販売許可権を出してたよ。その二人を中心に販売を始めたんだろうね。内陸部にも新しい物が認められてなによりです。


 色んなものがもっと認められるといいなぁ、なんて思う。小金持ちババア量産のために (笑)。


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