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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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王宮闘争 * その者、語る

間もなく2月2日!!

アース・スター ルナ様より『ハンドメイド・ジュリ』販売となります。


書籍のための書き下ろし番外編はこちらで未登場の魔物〇〇〇〇が登場、グレイセルたちが……。的なお話しになってます。


 



 ―――王妃の語り―――


 まだ大丈夫。


「妃殿下っ」

「どうしたの?」

「レ、レイビスが」

 侍女長の震える声が放ったその名前に私は反射的に手を止めた。

「……どうしたの」

「ククマット・クノーマス伯爵領で連絡が途絶えていた暗部の者と共に戻っております」

 溜まりに溜まった、本来は陛下が承認しサインすべき書類が散らばるのも気にならなかった。私は立ち上がり足早に侍女長に駆け寄る。

「そうっ、それで?」

「それ、が……」

「何か、あったのね?」

「私には、判断しかね、ます」

「え?」

「暗部が連れ帰ったその女……どう見ても、レイビスでは、なく。しかし、その」

「なに、何が言いたいの」

 言い淀むのとは違う歯切れが悪く言葉選びに苦慮している侍女長。普段は見せないその姿に漠然とした不安が心の片隅に芽生えたのを感じた。

「確かに、レイビスだというのです……。それで、妃殿下に直接ご判断いただければ、と」

 ちょうどいいと思った。心の片隅に生まれた不安はこの際気にせず情報を集めることに集中しようと。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()のはあの日。


 ジュリの加工した魔物素材に魔法付与が出来ないと報告を受けたあの日。各部署が穏健派や中立派に監視されて『今までの』公務が滞るようになったと苦情が出始めていた中で齎されたあの情報に困惑した反面納得している自分がいた。

(やはりその程度の女だったということね)

 王侯貴族に持て囃された、憐れな女。

 ジュリの【技術と知識】はとっくにその役割を終えていたということ。

 恩恵を使う力も許しも、その期限を迎えていたということだと。ならばもうこの王宮に留めておく必要はないと。

 けれど、『使い途』はあった。


 グレイセルと話をしなければ。


 そのために必要なジュリ。

 不本意ながら未だジュリと生活を共にしているグレイセルの所在不明が続いている。ジュリ解放のために動いているはず。

 直ぐ様ジュリを追い出そうとしていた一部の貴族を止めるためベリアス公爵と話をしようとしたけれど、来たのは何故か息子のベリアス卿だった。

「ご心配なく。アストハルア公爵が次第に王宮内で勢力を取り戻しつつあります。中立派ツィーダム侯爵も嫡男と奥方と合流しアストハルア公爵に加担し始めましたので、父やその腰巾着達や余計なことをする他の勢力もどうあがこうと【彼方からの使い】を王宮から追い出すことは不可能です。あんなに役に立つ【彼方からの使い】を追い出されては困る人間は殊の外多いですからね」

 まるでこちらの思考を読んだかのように、質問する前にそう言われドキリとした。

(私の計画が読まれている?)

「一部では王都に着の身着のまま放り出そうという話が出たそうですが、そんな事をすればある意味穏健派と中立派の思惑通りにもなりますし。逃がしたらヒタンリ国か、バミス法国に保護させて他国の権力を施行されここで行われた事を公的文書で残されてしまう。法を無視し罪を捏造したことが公にされてしまいますから私がそれは悪手だと説明しておきましたので大丈夫かと。それにグレイセル・クノーマスが来ますから彼女がいないと大変なことになります」

 あの自信。一体どこから来るのだろう。

『弱い』【スキル】しか保有していないというのに、何故あそこまで……。

「それと、止めたほうがよろしいのでは? ……ああ、まだ聞いておりませんでしたか。今研究所に在籍する魔導師達が殺気立っているか、この先が見通せず怯えるか、二極化していて大変不安定です。あ、それはご存知でしたか。あのまま放置はよろしくないかと。これで内部分裂なり崩壊が起こると後が大変ですよ、バレては困ることを魔導部門が行っているのは王家の許可があるからです。万が一それがバレるだけでなく余計な事をやらかして何かあれば確実にヒタンリ国を敵に回しますし、となれば確実にネルビアとバールスレイドも動きますからね」

(そんな話は今はどうでもいいのよ!)

 余計な話でなんの時間稼ぎをしているのだと苛立つ私を見て、ベリアス卿がほくそ笑んだ。それがきっかけで怒りが一回りしたのか不思議と冷静になれたわ。

「魔導師達は私の管轄ではないの。そういう事は陛下にお伝えすればよろしいわ」

「そう、でしょうか?」

「何が言いたいの?」

「妃殿下にもこの王宮での秩序を保つための権限がございます。ここはこれ以上の混乱や揉め事を増やさぬためにも動かれるのがよろしいかと、権力はこういう時に使うべきでは? 少なくとも抑止力として行動されれば後に妃殿下に有利になることもあるかと」

「……忙しいのよ、私は」

 ベリアス卿は一拍置いて了承の意味を込めての一礼をした。

「そうですか。では私から陛下に具申致しますがよろしいですか?」

「ええ」

 私の相槌に返された別の笑み。

 ゾクリと背中が何かを感じ取る。冷えたあの感覚は一体なんだったのか。


「妃殿下、私は妃殿下ならもう少し選択肢を増やして『逃げ道』を確保しておくのかと思っておりましたが……残念です」

 どういう意味だと問いかける前に、ベリアス卿は私に再び一礼し颯爽と歩き出していた。一度だけ振り向いたその顔は。

 やはり背中に嫌な感覚を走らせた。













 (忌々しい)

 欲しい情報が一つも得られない。

 正確には、情報を得る手段が尽く潰れる。

 ジュリのところに行かせた侍女達は全てアストハルア公爵が排除、そこに都合が悪いことを引き起こすのは困るとあのベリアス公爵まで侍女の入れ替えに加担し。その後近衛騎士団団長と騎士団を呼び寄せ護衛に当たらせ情報源としようとした矢先、ジュリの護衛から外すわけにはいかないという多数の反対がありそれも断念せざるを得なくなり。だったら暗部から一人でもと陛下にお願いしようとしたらそれすらも人手不足だからと断られ。

(そうだわ……もっと前から邪魔されていのね。本当に不愉快だわ)

 今更気づいても遅い。それでもまだ挽回出来る術はあるはずだと考えて。

 そして思い出したのがレイビスだった。

 あの子ならここに戻って来たがる。暗部を嫌っていたから。

 でも、ククマットに送り出され、そのまま暗部ごと行方知れずとなって。

 そんなレイビスが戻った。

 これで情報源が確保できる。

(『逃げ道』などいくらでも確保できるのよ、ベリアス卿)

 けれど、ベリアス卿のあの不気味なほど穏やかな笑みが頭を過ぎる。


 それに私の後ろを歩く侍女長の顔がずっと強張っており、更に恐怖に怯えているように見えるのは気のせいかしら。一体何にそんなに怯えているのか分からなくて、流石に漠然とした不安が何度か頭を掠めたことは、否定できない。

 その不安がベリアス卿のあの笑みを縛っている気がしてならないけれど、それでも今は情報源を得る事を最優先しなければ。


 そう思っていた。

 この瞬間まで。












「あ、ああ、妃殿下、妃殿下っ、お会いしたかったぁ! た、助けて、くだ、さい。私、私は陛下に、王家に従ったんです。【スキル】も【称号】も、使えましたよ、つまり、王家のために、私仕えた、んですよ、働いたんで、すよ。ね、妃殿下、そうです、よね? 私を、暗部に、行かせたのは、そういう、こと、ですよね? 王家の為に、私、ククマットに、いき、ましたからね、だからね、助けて、くれます、よ、ね?! 妃殿下っ、妃殿下、私、もっと役に立ち、ますよ、絶対に、暗部なんかより、こうして、ね、生きて帰れたんで、すからね、ね!? 神様が、認めてくださって、るんですよ、分かります? 運命なんですよ、私、きっと生きていろって、神様が、きっと。グレイセル様、会えなかったんで、す。いなかった、んです。きっとここに、来ます、よ、ね? だ、から。神様、私をか、えして、くれたの。そう、私を妃殿下の、とこ、ろに。そうですよ、ね? 妃殿下、私、私が妃殿下の一番の、側近なの。神様が、認めてくれたんです!!」


 なに。

 なんなの。

『これ』は。


「……ひ、妃殿下。この者が、自分がレイビスだと、申しており、更に暗部の二人もそう認めておりますが私たちには判断しかねており……」

 侍女長が震える声で私の後ろでそう告げた。

 私の知るレイビスの姿は、どこへ。

 怖いのは。

『これ』を私の脳がレイビスだと認識していること。間違いなく、レイビスだと。


「っうう……」

 堪らず手で口を覆う。

 込み上げた突然の吐き気。

「妃殿下!!」

 侍女長と無言を貫く暗部の二人が私の体を支える。

 その時、暗部の一人が耳元で囁いた。

「ククマットでクノーマス家の剣を持つ男に斬られこうなりました」

「……なんですって?」

「これ以上のククマットへの干渉は極めて危険です。どうか妃殿下から陛下へ進言を。あそこに手を出してはなりません」


 頭が真っ白になる。

 何を言っているのか。

 進言? 私が? そもそも私はククマット占拠案に賛成などしていないし望んでもいなかった。やったのは陛下とベリアス公爵、そして一部の大臣たち。私は関係ないわ。だって占拠なんてしたらグレイセルが怒るでしょ、私はそんなこと望んでいないのよ。

「私が関与すべきことではないわ」

「妃殿下、引き返すなら今しかありません。あそこは異常です。そしてクノーマス侯爵家もベイフェルア国王政からの離脱宣言をしています。王家はあそこと国として速やかに断絶すべきです、関わってはなりません。迅速に動くべき―――」

「私は今既に本来は陛下がしなければならない公務に追われているの!! これ以上のことを私にしろとお前が言うの?! この私に? お前が? なんの権利があって?」

「……失言でございました」


 私は乱れた呼吸を整えて、『それ』の前に膝をつく。

「レイビス」

「はい、はい、妃殿下、わた、し。もう、ヘマしませ、ん。絶対に、約束します。だからまた、お側に、ね? 、妃、殿下。私は」

「分かっているわ。私の役に立ちたいのね?」

「もちろ、んです!」

「では部屋を用意させるわ。そこで『ゆっくり休みなさい』ね、このあとのことは気にせずに、ね」

「はい! あり、ありがとう、ございま、す!」















 侍女長にレイビスを王都の外にある迎賓館に送る手配をさせる。保護し療養させるように見せかけだけでもしなければ。ベリアス卿が何を利用して私に不利になることを押し付けてくるか分からないわ。

(あれはもうだめ。……関わってはならないわ)

 間違いなく、異質な力でレイビスはああなった。

 関わってはならない。絶対に。遠ざけて閉じ込めなければ。

「妃殿下」

 ビクリと体が強張った。

 ベリアス卿。

 何故今。

「なにやら困り事が起こったようで」

(何故っ!)

 やはり穏やかな笑みを浮かべるベリアス卿。

 それがひどく落ち着かない。

「なんのことかしら」

「……いえ、お困りでなければよいのです」

 そしてその笑みが、僅かに変化する。

(面白がって、いる?)

 自然と上がったその口角は、確かにそう見えるもので。

 また不気味な感覚が背中に走る。

「ご相談下さい、いつでも。そうして下されば……妃殿下にとっての最悪な結果にはならないように―――」

「自身の心配をしたらどうかしら?」

 わざと遮ってそう声をかけた。けれど驚きもせずやはり笑みを浮かべているだけ。

「最近のベリアス家は少しやり過ぎよ、私にはそう見えるけれど」

「そうです、その通りです。わかっていますのでご心配なく」

「……なん、ですって?」

「妃殿下、もう一度言いますね。ご相談があれば一声お声掛け下さい」


 不安と同時にこみ上げたのは、不快感。

 何故、この男にそんな事を言われなければならないの。


「私ももう一度言うわ、自身の心配をしなさい。それに私はあなたに相談するほど人には困っていないのよ」

 これ以上話したくなかった。

 そのままベリアス卿の横を通り過ぎる。


「あなたの息子も娘も、あなたと同じことを言いました……『選択肢』を、少し分けてあげようと思ったんですけどね」


 ボソボソと何かこちらに向かって言っている。気味が悪い。


「残念です、妃殿下。砂粒にも満たないと言えど……慈悲と言う名の神の恩恵を、自ら捨てるとは」


 イライラが募り、私は立ち止まり振り向く。

「何か、言いたいことがあるならはっきりと言いなさい」

 すると、何故か酷く驚いた顔をした。聞こえない不気味なつぶやきをするあなたが悪いのでしょう、と言いそうになったけれど、その顔を見て声が喉の奥に引っかかるように留まった。

「……聞こえませんでしたか? そうですか」

 憐憫がありありと浮かぶ、心の底からこちらを憐れむその表情が理解できなくて。

「【神の守護】は誰のために。そのことを今一度お考えください。そうすればきっと妃殿下には『選択肢』が見えるようになるはずですよ」

 こういう時こそ、冷静にならなければ。私はグッと息を呑み込んだ。

(……大丈夫、私はジュリに直接危害を加えるような失態はしていないもの)

「あなたに言われるまでもないわ」

「……そうですか、失礼致しました」


 この時私は気づかなかった。


 本来なら許可がなければ入れない『私の』離宮でベリアス卿がたった一人で私を待ち構えていたこと。

 直後、あの暗部の二人が王宮にある換金性の高い貴金属を持てるだけ持って忽然と姿を消すこと。

 ほとぼりが冷めたころに『陛下が母親である元女王陛下に使った毒』で始末しようと迎賓館に閉じ込めたレイビスが、たった二日で骨と皮だけの姿になって死を迎えること。


 何もかも、本当に何もかも、私が必要な情報を一切得られぬままに過ごすことになることを。












 ―――神界にて―――


「【選択の自由】の本質はね、与えられた選択肢をどうするか、なのよ? 救いがないわけではなく、無数に分裂し続ける選択肢から何を選ぶかによって軌道修正できることもある。だってジュリを召喚したあの瞬間から、その選択肢はお前たちのいる世界に無数にばら撒かれたんだもの。もちろん、正しい選択が出来る人間は少ないけれど。……それでも選択肢から何かを選べば、裁きが軽くなる人間は、いくらでもいるのよ」

 セラスーンは妖艶な笑みを浮かべた。

「でもお前は幾度となく選択肢を目の前にしておきながら……。可哀想な女だこと。いえ、愚かな女。何一つ、選ばずにここまで来たのだから」

 楽しげに、実に愉快げに、ふふふ、と笑った。

「だから【種】を蒔いた男の声が聞こえなかった。……つまり」


 突然、セラスーンの顔から表情がこそげ落ちた。


「既にお前の選択肢は潰えていた。一つ残らず、お前は目の前の選択肢を全て踏みつぶしてここまで来たのだ。お前のような人間には、一体何が残るだろうな? まあ、お前一人消えたとて、世界は全く揺らぎはしないから、どうでもいいな。詮無きことの一つに過ぎないか……」









気づいたら、王宮闘争だけで40話……。

今しばらく王宮闘争編お付き合いくだい。


そして間もなく発売となります書籍の『ハンドメイド・ジュリ』も是非。


そしてイイネに評価、感想に誤字報告いつもありがとうございます!まだの読者様もお気軽にブクマ登録お待ちしております。


2月2日あと少し。

ドキドキ、ドキドキ。

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― 新着の感想 ―
 ベリアス卿の不気味さが喪黒福蔵っぽい感じで、なにかこう良くない事が起こりそうな雰囲気たっぷりででほんの少しの不快感がずっと纏わり付いている感じでした。ドラマで使われる、不吉なことがなにか起こりそうな…
全体的に甘く見ているのでしょうね。王妃さんはもちろんですけど、元ばあを見てきた暗部の人も「これ以上のククマットへの干渉は極めて危険です」とか「引き返すなら今しかありません」とか。もう干渉した以上遅いし…
ひえっ
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