王宮闘争 * 『初代王の書』
2月2日『ハンドメイド・ジュリ』がアース・スター ルナ様より発売となります。
第一巻のエピローグは作中でお馴染み理不尽な魔物による……。的な書き下ろしとなっております。
初代王について、実は容姿だけでなくその素性も不明な点が多い。
そもそも、名前が本名ではないらしい。
これは膨大な歴史書にいくつも明記されており、本名どころか両親も出生地も、ましてや生年月日すら不明という稀に見る素性の分からない王として大陸では有名らしい。
それを知ったとき、【彼方からの使い】じゃないの? と思ったけれど、それはあり得ないことも分かっている。
初代王本人がいくつか本を残していて、そこに建国の立役者が【彼方からの使い】だと残しているから。本人の詳しいことは分からないものの、歴史書からベイフェルア国内出身であることは間違いないため、初代王はれっきとしたこの世界の人間と断言出来るとのこと。
で、その初代王の残した本。
これこそが、『初代王の血』の継承そのものに必要であることがわかった。
「いやいや、本が継承に必要って何ですか」
「そのまま。門外不出のある本が血の継承に必要なんだよ」
……説明してください。
王家、公爵家がそれぞれ固有の本を所有しており、その本を所有していることこそ、王家直系、初代王の血を濃く引き継いでそして残して行くことを許された証でもある、と。……まだ分からんわ。
「えっと、どうやって継承するのかは置いておいて。ベリアス家もアストハルア家も初代王から数代経ってからその名前をもらって、特にアストハルア家は公爵になったのはベリアス家よりも遅くて。……初代王の血は、本来その時点で血は薄まってるんじゃ」
「それなんだけどね」
トルファ侯爵は非常に真剣な顔をして、俯き加減でため息をついた。
「初代王は、どうやら未来を見る能力を持っていたらしい」
「え?」
「とんでもない能力だよね。それが【スキル】だったのかは分からないけれど。ただ、アストハルア公爵家で時々保有する者がいる【スキル:星の先詠み】よりも遥かに鮮明で詳細を知ることが出来る能力だったことは確か。それで彼は子供と孫に、然るべき時に生まれてくる自分の血が強く出て、そして独自に進化して固有の【スキル】や【称号】を得るベリアス家とアストハルア家を興すように頼んだそうだよ」
と、とんでもない能力だわ。予言じゃなくて確実に未来を見ていたことになる。変わらない、確実な未来を。そしてそこにどんな能力を持っていたか分からないけれど【彼方からの使い】が建国とその血を残すために協力したわけね。
「で……ここからが初代王と【彼方からの使い】の凄いところだ。彼らは血の継承をわざと面倒にした」
「面倒?」
「そう。あえて彼は面倒にした」
「その理由は?」
「争いで良血同士が傷つけ合うくらいなら、それは良血とは言えない、と。そんな血は残すべきではないと。……何よりね、単に血に拘るだけの人間に国を纏め守る力があるわけがない、ちゃんと自ら学びそして人々に奉仕する。それが国主だ、当主だとその書に残しているんだ。大切なのは血じゃなくて、それ以外のものを子孫に残すための努力と実績だ、とね」
つまり。
初代王本人は自分の血が絶えても構わないと思っていた。
国の繁栄と維持に必要なのは血じゃない、そんなものよりもっと大事なことが数多ある、と。
「そしてね、ジュリ。少し話がそれるけれどトルファ家がそんな事を調べ続けるうちにあることが分かったんだ」
「あること……」
「初代王の力となってくれた【彼方からの使い】、彼についてもよく分かっていない。【スキル】【称号】について全く残されていないんだ。だからトルファ家では【彼方からの使い】ではなかったんじゃないか、という調査結界で落ち着きかけた。でも、それがある時否定される。彼は【彼方からの使い】でほぼ間違いない、とね」
「そんな事があるんですか」
「そう。それがね、ジュリが召喚された時だ」
「へぁ?」
変な声出た。
トルファ侯爵様が流石にびっくりして目を丸くした後、思いっきり面白そうに笑う。
「まあ、そうなるよね。びっくりするよ私でもね」
一頻り笑ってから侯爵様が言った。
―――ベイフェルア国に召喚される全ての【彼方からの使い】が非戦闘系―――
「過去にこの国に召喚された【彼方からの使い】について徹底的に調べ直した。その能力が不明、もしくは曖昧という点が他の国に召喚された【彼方からの使い】よりも多く、そして例外なく戦場や魔物討伐に出たという記録がない」
「え、ま、待って下さい。戦闘系の【彼方からの使い】がいたって聞いてますけど? それ全部嘘だった、と?!」
「いいや、嘘じゃないよ。いたことは確か。でもね、その【彼方からの使い】が召喚された国はベイフェルア国じゃなかった。君のお友達、マイケル君やケイティ君のようにね」
「あっ、そういう……」
なるほど。戦闘系の能力持ちの共通点は魔力が豊富で転移が可能もしくは訓練次第で出来るようになる人が殆ど。彼らを見れば一目瞭然、自由に大陸中を転移で移動している。そしてマイケルとケイティはククマットに定住しつつも一応はテルムス公国所属のまま。彼らも転移は得意。昔も今も【彼方からの使い】は自由に大陸を好きに行き来して、そして住みよい場所や大切な人がいる地に住み着いた。
「住む場所なんかは本人の自由意志に任せているようだけれど、必要だから召喚している、その点は間違いない。そして君が召喚されて確証を得た。この国には非戦闘系の【彼方からの使い】が意図的に召喚されている、とね。おそらくその必要があるくらい、君のような【彼方からの使い】が必要な国だと判断されてきた」
トルファ侯爵様の話は続く。
「それらを踏まえて……初代王の力となってくれた【彼方からの使い】も非戦闘系だったことがほぼ確定。そしてそれを更に確実にしてくれるのが『初代王の書』だ。実はね、その『初代王の書』はこの大陸で使われている言語とは全く違う三つの言語でそれぞれ書かれている」
「三つの、言語」
「うん。この世界にはなかった言語で、誰も読めない。でも王家、ベリアス家、そしてアストハルア家はそれを読む手段を持っていた。それが、辞書」
「……辞書」
「今のような分厚い辞書とは違い簡単なものでね、その辞書を編纂したのが【彼方からの使い】であると明記されている。そしてその辞書三冊がベイフェルア国発祥とされる今の辞書の礎となったんだ。その者は、言葉を巧みに操り初代王の民衆前での演説にも多いに貢献した」
それって。
「分かったね? 言いたいことが」
「その【彼方からの使い】の、非戦闘系能力は……言語に特化していた【スキル】【称号】」
「そういうこと」
バイリンガル、いやトリリンガル? ……重要なのはそこじゃなくて。
母国語以外の言語を理解し話し書ける人。どこの国出身で母国語が何かは分からない。ただ一つ言えることは、少なくともその【彼方からの使い】は三か国語を理解し、簡単な辞書を作れるくらいにはその分野に長けており、話術に活かせるほどに言葉を使いこなす人だった。
「他にも能力は持っていたとされているけれど、その者は基本的に言葉を武器としていた。で……話を戻そう」
トルファ侯爵様が一息つく。
「王家、ベリアス、そしてアストハルアにそれぞれ違う言語で残された初代王の書。しかも内容も違う。それを読み解くために共に残された辞書。……僕ねぇ、初代王は血統による王位継承を相当、全く、望んでいなかったと思っている」
侯爵様はため息をついた。
「まず書を読み解くために辞書で全て翻訳しなくちゃいけない。そのうえで、書かれていることから最後に血の継承を『許可』する文言を組み立てて言葉として発して初めて当主から継承者へ血の継承が可能になるんだよ」
「……え、儀式みたい」
思わずそうこぼすと侯爵様が再び肩を竦めた。今度は少しわざとらしく。
「そう、儀式なんだよ。しかも強烈な呪いによる儀式ありきの血の継承」
強烈な呪い来た!!
度々聞く羽目になる恐いやつ!!
マイケルが大好きなやつ!!
「うわぁぁぁ……初代王の闇を感じるぅ」
「はははっ、言い得て妙だね! そう、闇だよ初代王のね。彼の持っていた能力のせいかもしれないよ、未来が見えてしまう能力。未来が見えれば成功が見える。でも失敗や見たくない事も見える。自分のその能力、残したくなかったのかもね。……きっと子孫が王位を巡り命が絶たれる争いを、見てしまったんじゃないかな。今はその能力が引き継げない王家になっているから、ある意味初代王の思惑通りになっているともいえるね」
なんか、わかる。
未来が見えたら楽だろう、成功に繋がるだろうって思う。でも違う。見えるだけって、絶対きつい。だって変えられないんだから。未来を変えられる可能性がある予見とは全然違うよ。
「初代王が見られる未来はどれくらい先までかは不明だけれど少なくとも彼は子孫が継承権を巡り争うことを知ってしまった。でも希望もあったんだ、それが固有に進化すると分かっていたベリアス家とアストハルア家。固有の独立した血は努力さえすれば引き継げるぞ、と書と辞書で示唆した、そして二家はそれをやってのけた。出来なかったのは王家、何度も身内で争い事を引き起こした。そして起きたのが、不完全な継承だ」
『不完全な継承』。妙に腑に落ちる単語に感じた。
「初代王は継承に辞書を使って読み解く他にも条件をつけた。『自分一人の力で翻訳すること』『翻訳した内容を口頭はもちろん文字としても誰かに残してはならないこと』とね。これはしっかり書の冒頭にこちらの言語で明記されて、しっかり呪いがかけられている。でも王家は血に執着し過ぎてその条件を破ることが何度かあった」
「え」
「完璧に翻訳された内容を子供に教えたり、誰かと協力して完璧に翻訳したりしたんだ。ここまで語れる理由、わかるよね。昔当家がそれに関わったことがあるからだ」
「あー、ズル……」
侯爵様が笑う。
「書いてあるのにねぇ。そしてアストハルアとベリアスがちゃんと書の通りにしてきたのにね。そして、呪いの発動で次に生まれる継承者の血は薄いまま劣化も進んだ。気付けば血は時々アストハルアやベリアス、そして他国の強い血を入れないと魔力すら少ない、脆弱な血が生まれやすくなった」
そして一息ついて侯爵様は続ける。
「神様が元女王陛下に希望を託して【スキル】や【称号】を与えたんだろうね。女王陛下の父も賢王だったとされていて、彼はきっとしっかりと正しい血の継承をしたんだろう。だからこそ、【音の神】ヒュート様が女王陛下に力を授ける気になったのかもしれない、一縷の望みとして……。でも色々、本当に色々、重なり過ぎたんだよ。もしも、確かな継承がなされていたら現国王陛下はたとえ【称号】も【スキル】を得られなくても、血だけは、残せたかもしれないのに。それこそ呪いは消えかけの血にとっては希望にもなり得たはずなのに」
「呪いが、希望に……?」
侯爵様はこう続けた。
ベイフェルア王家の血の継承のための呪いは王位継承の儀式、戴冠式で『祝福』に変わると。
戴冠式なんてどの国でもやっていて、それは国のトップに立つ人間ならば誰しもが必ず通過する当然の儀式。そもそも【スキル】や【称号】が神様から与えられていることを知っているこの世界の人間なのだから、戴冠式が神事に値する尊いことだと王侯貴族ならば子供の頃から嫌と言うほど教え込まれるという。
それなのに現国王はしなかった。
「え、しなかったんですか!」
「戴冠式は行われたよ。でもね、『伝統を無視した』ものだった。……正しい手順を踏んでいないことがこちらの調べでわかったんだ。私の父が残した女王陛下の戴冠式の詳細と見比べてもかなり簡略化された挙句、やる必要のない事が加わっていた。豪華絢爛、そこに重点をおいただけの中身も意味もない式だった」
加えて淡々と侯爵さまが語る。
優秀で強い母親である元女王陛下を疎ましく思い、そして恐れ、排除しようとした。そして勝手に自分の思うように、自尊心を満たすためだけの戴冠式を行った、と。
『初代王の書』を読み解くことなく戴冠式を我流で済ませた。然程難しい手順がないにも関わらず、母親に対する劣等感と恐怖心だけで、国王本人が『ベイフェルア王家』を否定する行いを重ねた、と。
ペリーダ伯爵様から教えられた国王の出生の秘密だけじゃない。ベイフェルア王家の『今』は、全てが間違っていた。
ここでベリアス卿の些細な一言が思い出される。
『今の王家』。
本当に、今の王家だ。
どの時代よりも、今の王家が間違っていた、間違いを重ねた。罪を犯した。
『初代王の血』を断ち切ったのは、王家自身。
侯爵様とはその後私の審問会は数日内、その場で永久幽閉の重犯と認定される、しかし悪足掻きしている奴らができることはそこまででそれ以上は穏健派と中立派が完全に抑え込むから安心してくれ、と説明をされ私は全部ひっくるめて受け入れ頷いて返す。
「この王宮を出られるまで、もう少し待ってくれ」
「はい、わかってます。大丈夫です」
「……落ち着いてるね」
「ここまで来るともう、私の処遇なんてどうでもいいし、関係ないですよ」
「そうだね、些細なことなのかも、しれないね」
「はい。……ていうか、あの、ずっと気になっていたんですが。話を思いっきり変えて申し訳ないんですが」
「なんだい?」
「ペリーダ伯爵様からトルファ侯爵様から聞いてって言われた直後に侯爵様来ましたけど、一体どういう状況でそうなったのかと……」
「ああ」
侯爵様が非常に黄昏た顔をした。
「ペリーダ伯爵……怖いね。彼ね、いきなり後ろに立っててね『ジュリさんに書と辞書について話してあげて下さい、私眠いので帰ります』って。こっちは一応侯爵なんだけどね……圧の凄い笑顔で言われたよ、彼何者なんだろうね、眠いって、自由だよね」
「わあ……」
二人で黄昏た。
ペリーダ伯爵様、今後は普通に貴族らしい行動をお願いします。
そんな会話の後。
一人になって。
「どんどん話が私と無関係になってるじゃん」
呆れと困惑で、脳が疲労したのでご飯をモリモリ食べて寝ることにした。
本当にこれで【思想の変革】来るんですか、セラスーン様。
グレイ、なるべく早いお迎えよろしく。
全部ぶん投げて私はさっさと帰りたい気持ちになってるから……。
この王宮闘争の章を執筆する前から思っていたことをここでサラッとですが書けてよかったなぁと自己満足。
魔力とか【スキル】【称号】がある世界で、血の継承が子孫を残すだけで可能だとすると、『特別』『特殊』『稀有』が溢れて結局それ全部が当たり前の『普通』にならないか?と。
じゃあそうならないようには?と考えたとき、案外『儀式』や『慣例』といった当たり前にできるけど怠ると廃れて消える意図した行為が組み込まれるといいんじゃないかな、と作者の中でなりました。
そしてジュリ自身、血の継承は出来ないし魔力がない。
自分の作り上げた物を残すには必ず何らかの手段でできる限り完璧に後世に伝えなきゃならない訳です。それがジュリの場合は『説明書』『契約書』『誓約書』と言った類のものなのかなぁと思っています。
ペリーダ伯爵からトルファ侯爵のこの話、その部分が遠回しに、何となく伝わっていたらと思いつつ不安だったので後書きによる補足となりました(笑)




