王宮闘争編 ペリーダ伯爵との談話 後編
後書きに2月2日『ハンドメイド・ジュリ』第一巻発売のお知らせございますのでそちらも是非ご覧ください。
「王弟、つまり女王陛下の叔父には『濃い血』の証は出ませんでした。証は兄である父王だけが引き継いでいたんです。せめて王弟が妻の妃を大切にし子を成していればその子に僅かな希望を持てたかもしれませんが、結婚当初から不仲で子もいませんし……」
淡々と語られるその内容に項垂れた私の頭が押さえつけられているようにどうしても起こすことができない。
《紛い物》。
そうか、と納得する自分がいた。
女王陛下の血を、『初代王の血』を引き継いだ王女が亡くなった時点で、ベイフェルア王家はその正当性を殆ど失っていたわけで。
どんなにアストハルア家とベリアス家が陰ながら尽力したとしても、元祖の血が残っていなければ意味がない。細々と、消えかけ薄まった血でも先祖返りや濃さを復活させるためには必要不可欠だったベイフェルア王家の祖の血。
そして、そんな繊細かつ大切な血を蔑ろにして相性なんて無視で令嬢を苦しめた愚かであまりにも罪深い女王陛下の叔父と令嬢の家族。
その令嬢が自ら命を絶つほど拒絶されて生まれた子供なら、『濃い血』を全く得られず生まれてしまってもおかしくない。だってそんな悲しく理不尽な事が罷り通る世界だから。
さらに神様達が残して欲しいと思っていた初代王の血が地位を巡り何度となく追いやられるのを繰り返したどこかのタイミングで、ベイフェルア王家を見限って『濃い血』が残らなくても構わないと思い始めていた可能性もある。
そしてアストハルア家とベリアス家に血の継承という希望が託されてきたけれど……。
驚く程に先祖の特徴を持って生まれてくる両家の子供たち。王家とは対象的に、安定的で保護でもされているかのように脈々と証を引き継いできた。ベリアス家は数代前からその役目を忘れ権力やお金に走るようになってしまったし、今回のことがこちらの思う通りの結末となるならば、ベリアス家は取り潰し、ベリアス卿の手で逃がされたという奥さんや子供たちも連れ戻され幽閉されるだろうとアストハルア公爵様が言っていた。ベリアス公爵とベリアス卿は、処刑されるとも。
アストハルア家が守っていくとしても、それを王家の血の維持に入れたとしても、十中八九それは『ベイフェルア王家』とは言えなくなる。
『初代王の血』は消えゆく運命。
頭の中で情報がごちゃごちゃとひしめく。
「あれ? でも……」
「……」
「アストハルア家が残るなら。あんまり考えたくないけど、そんなの絶対に許せないけど、アストハルア家の血がしっかりと残っていて、残ってるかどうか怪しいけれど一応王族の血筋ではある王太子と王女がいるなら、いつかまた先祖返りは、無理か。……でも奇跡的に戻せる可能性はあるんじゃないですか? それこそ神頼みになってしまうのかもしれませんけど」
その事に気付き体を起こして座り直し、伯爵様に問うと。
「ジュリさん」
私の名を呼ぶその声には、何かを否定する雰囲気があった。
「それは不可能です」
「……不可能、ですか」
「はい。もう、ベイフェルア王家の引き継がれるべき血は絶対に戻りません。何故なら、王太子殿下には殆ど魔力がなく、王女に至っては、魔力無しだそうです。だから 《紛い物》なんですよ。子孫に引き継げないんです、何一つ」
……。
……。
は?
「王太子殿下のあの魔力は魔導具によって無理矢理底上げされているもので、魔導具がなければ生活魔法の発動が精一杯。王女に至っては……魔力豊富な奴隷を侍女と偽ってそばに控えさせ、その奴隷に魔法を使わせている。王女は魔導具すら扱えませんよ、ジュリさんあなたのように」
「はっ?!」
魔力無し。
この世界では私だけだった。
ここ数日でセラスーン様が魔力を奪った人間が複数いるけれど、それはイレギュラーで。
魔力が、ない?
この世界で、魔力無しで生まれてくる人間はいないんじゃなかったの?
「うそ、でしょ……」
「真実です。ヒュート様から教わった真実です」
「じゃあ……」
「【スキル】【称号】を持つにしても引き継ぐにしても必ず必要なのが魔力です。それが殆どない、もしくは全くない王太子殿下と王女殿下には生まれたその瞬間から『ベイフェルア』を名乗る資格はなかったんです。父親である国王陛下ですら、資格があるのかどうか答えろと言われたら……ない、と言うしかありません。なぜなら、あると言える確かな証を国王陛下ご本人が示せませんから」
「大丈夫ですか?」
「ご迷惑おかけしました……」
情報の重さに吐きそうになり、一旦会話を中断することになってしまった、申し訳ございません伯爵様!!
気を取り直し、ひと息つくために紅茶を淹れてソファに座り直す。
そしてここからは非常に腹の立つ話を聞かされた。
獣人奴隷問題。
各国がバミス法国からの要請で不当に奴隷に落とされた人たちを救出保護することに協力する中でベイフェルア王家は今の今まで獣人奴隷を地下牢などに隠していると。
身体的特徴のはっきりとしている耳や尻尾などを切り落とし、更には喉を切り、声を出せないようにして、強力な隷属の首輪などの魔導具で隷属させていると。
魔力の少ない現王や王太子、そして魔力のない王女が魔力豊富に見えるようにするためだけに利用していた。
そして王太子だけでなく国王も密かに身につけている魔導具。これは近くにいる人から魔力を奪い吸収して使えるというもので、王太子は年々その使用頻度が高まり成長しているように見せかけてその魔道具に依存しきっている、と。
「ジュリさん、落ち着いて!!」
「落ち着いていられませんよ!! テルム大公とギルド総帥ぜってえ許さねぇぇぇ!!!」
話を聞いてブチ切れた私。なんの計画もなく部屋を飛び出そうとした所を伯爵様に羽交い締めにされた。
「だって、獣人奴隷問題はテルム大公とギルド総帥が関わってたんですよね?!」
そう。
獣人奴隷問題の大元はテルムス公国のテルム大公家と 《ギルド・タワー》の歴代の総帥たち。
特に今の代。
権力に溺れ強欲になっていったベリアス家を利用して、大公家と総帥は獣人を奴隷にし売買して裏で莫大な利益を出していた。
獣人を不当に奴隷にして主に南方小国群帯という大陸の大国の目が届きにくい地域で売買を始めたベリアス家に隷属の魔導具を提供していたのよ。それが南方で売られ、奴隷商による不正な取引や闇市が横行する原因となって。
そしてベリアス家も別方面から乗っかった。ベイフェルア王家の国王、王太子の魔力の少なさと王女の魔力なしを知っていたベリアス家は密かに大公家とギルド総帥の繋ぎをしたの。
高額な隷属の魔導具だけでなく他人から魔力を奪う魔導具を数多の目を掻い潜り王家に渡るように。
王家の財政枯渇はそれらの魔導具も原因。特に魔力を奪う魔導具は本来日常的に使うようには作られていないため、一定量魔力を奪うと簡単に壊れてしまうらしい。となれば一体今までどれだけの魔導具が使い捨てられてきたのか。
そして大公家とギルド総帥は私腹を肥やしていった、正確には私腹ではなく『資金』だと。なんの資金かって?
極端に言えば戦争のための資金。
情勢が変わろうとしている今、それに乗じてベイフェルアから資源豊富なダンジョンや土地、貴族領を奪うために。
集めた資金で名だたる冒険者たちを集めテルムス公国で厚遇し定住させたり武器開発をしたり。
そしてベイフェルア王家に返す当てもないと知っていてお金を貸して、払えなければ国土を奪う算段がついている、と。すべてはテルム大公家とギルドの武力増強のために。
特に私がブチ切れることになったのは。
「マイケル様とケイティ様はテルムス公国やギルドと距離を置くようになったんです。……息子のジェイルさんがこの世界で生まれたというだけで『この世界のしかもこの国で生まれたなら国民として国に尽くす義務がある』なんて言われたのですから。そんなの建前で、大公と総帥はジェイルさんを『戦争の道具』扱いするつもりだったはずです、お二人のお子さんのジェイルさんは生まれた時から膨大な魔力や多種多様な【スキル】を引き継いでいましたから。……ジェイルさんはその気になれば名だたる【称号】持ちと対等に戦える大人になるでしょう、。ジェイルさんは幼い頃何度か誘拐されそうになったそうです。その誘拐が、テルム大公家とギルド総帥によって仕組まれていたと知れば、テルムス公国から出てククマットに居を構えたのも当然と言えます。それでも、お二人は周囲にその話はしなかった。優しさではなく、関わらず疎遠になるならそれでいいという諦めにも似た感情かもしれません。ベイフェルア内のギルドの上層部が粛清された時、あの時からより一層テルム大公と総帥は粛清を隠れ蓑に動いていました。むしろ秘密を共有する範囲が狭まり動きやすくなった可能性もあります。……テルムス公国と 《ギルド・タワー》の影響力拡大のために、ベリアス公爵の権力欲のために、そして、ベリアス卿の破滅願望のために、嘘偽りで塗り固め後戻り出来なくなった王家は、とことん利用されたんです」
色々繋がったな!!
ここにきて、本当に色々繋がった!!かつてベイフェルア国のギルド上層部が粛清されたけど、あれはトカゲの尻尾切りに過ぎなかったわけよ、しかも完全に別問題で巧妙に隠されてた!!
あーーーーっ!
もうぅぅぅっ!!
腹立つ!!!
まさかの勢力が二つも出てきた!!
しかもそこには私が関わっているようで関わってなくて。でも気付けばど真ん中に立たされた。
シングさんの正体を知った時に言われたことが今更鮮明に蘇る。
―――全てが繋がっているわけではないんですよ、独立した無関係な依頼が殆どです。しかし、こちらは受けて大丈夫かどうか徹底的に調べます。すると不思議とどこかに共通点があったりすんです。最近の依頼、ククマットやクノーマス家に関わる事は勿論ジュリさんの名前も出て来てはいません。ですが……その時々不意に見える共通点に、ジュリさん、あなたの存在が見え隠れする時がある。もしも、それらが突如表面に出て来て点と点だったはずのものが繋がった場合、きっとその中心にあなたは立たされる。ですからお気をつけください―――
まさにその通り!!
すっっっっっごい、嫌だわ。なんなのこの不快感は。
「今お話した、私がヒュート様から聞かされた過去から現在の真実。ジュリさん、武器になりますね?」
ペリーダ伯爵の妙に落ち着いた声で意識が戻された。
これから立ち向かう、王家。
うん。
武器になる。
このひた隠しにされてきた真実は、確実に。
「なります。間違いなく」
ペリーダ伯爵は帰り際に『ああそうだ』とたおやかな声で言うともう一つ、重要なことを教えてくれた。
「ジュリさん、今の王家が守護神と崇める神はご存知ですか?」
そりゃ勿論。神様のための聖杯を作れと言われてアストハルア公爵家が断ったことを聞いているから。それが事の発端の一つでもあるから忘れるわけがない。
「最高神の一柱、【命の神】ソマ様ですよね?」
ペリーダ伯爵はニコリと微笑み『はい』と返してきた。
「でも、初代王に【スキル】と【称号】を与えて寵愛したのは、ヒュート様なんですよ」
え。
「【称号:女帝】の固有に持つ【スキル】が身を守ることに特化しているのも、初代王が人心掌握や統率に役立つ固有の【スキル】を持っていたのも、ヒュート様から与えられたものだからです。ベイフェルア王家に与えられたのは非攻撃系のものが殆どだったんです。ヒュート様は決して、争いを好みませんから。それが如実に顕現した【スキル】と【称号】が多いのは、アストハルア家とベリアス家からも、分かると思います」
固まる私の目の前、伯爵様はこう締めくくる。
「そんなヒュート様が、言葉の武器を貴方に授けたんです。【変革する力】を持つあなたに、セラスーン様の許しを得て今回渡すことにした……。ベイフェルア王家を終わらせたいと誰よりも望んでいるのは、ヒュート様かもしれません。寵愛した血が追いやられ、奪われ、そして 《紛い物》が滅茶苦茶にするのが……許せない、もう、見ていられない、そう、思ったのだと思います」
そして、その流れのまま、伯爵様は『それも言ってから帰って!』と叫びたくなることをぶん投げてきた。
「そしてもう一つ」
「へ?」
「現王は致命的な過ちを犯しています。これが決め手です。ヒュート様が完全に王家に背を向けた理由があるんですが、それはトルファ侯爵から聞いて下さい」
そうして、伯爵様は『御菓子食べてくださいね』と最後に言い残して、突然姿が透けて見えなくなる伯爵様と不運にもすれ違った騎士が絶叫し腰を抜かすという、後に王宮に幽霊住んでる説がまことしやかに広まる微妙に締まらない珍事を起こし、帰っていった。
記念すべき第一巻。
アース・スタールナ様からイラスト・発売日等公開されております。
イラストを担当してくださいましたのがコユコム様。↓↓↓こちら表紙となる書影↓↓↓
↑↑↑ジュリ可愛いっっっっ!!↑↑↑
第一線で活躍されている先生に素晴らしい個性豊かなキャラたちを描いて貰えた感動でフワフワした日々を過ごしております。そして時折、果たして先生の絵に相応しい作品として世の中に認められるのかとビビリ散らかしております。でも嬉しいが勝つのでその後すぐにグフフフ、と笑っております。
因みに、ラフ画でジュリを初めて見た感想が……
『うぉぉぉぉぉジュリぃぃぃぃ!!』
でした。感動により語彙力が逃走。
ハルトまんまやんけwww!グレイセルお前っ……!とだけ申し上げておきます(作者感想)。フィンとライアスにも会えますよ、素敵な夫婦。
2月2日発売ですので是非お手に取って書籍の中のジュリ達をご覧頂ければ幸いです!!
エピローグ、番外編、初回SS書き下ろし!!
挿絵いっぱいですよぉ〜。
ドキドキ……。
そして『ハンドメイド』とは無関係なお話の短編にはなりますが
■仮面を外す日■
というのを書影公開の記念に投稿しております。
ザマァなお話にはなっていますが、主人公のその先はご想像にお任せする、淡いハッピーエンドとなっております。主人公の幸福は何なのか、恋愛とはどこからが始まりなのか、そういうのを書きたいと思って生まれた緩やかなお話です。
よろしければそちらもお読み下さると幸いです。




