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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * スイーツデコはある意味危険

 


 従業員ウェラ、私の恩恵を受けてた。

 私が提案するスイーツデコ用のカットフルーツやクッキーまで、本物を見本に次々作り出していくのよ。

 ちょっと大きな木箱を使って、直径十五センチくらいのホールケーキのスイーツデコも面白いって呟いたら翌日には二つ、ガトーショコラとショートケーキの土台作ってて、ゼストさん来ないかなぁって、デコレーション待ちすることに。ウェラはデコレーションしたことないからこれから練習が必要だけど、それ以外は恐ろしい勢いで作る。デコレーションもそのうちすぐ覚えるね、あの勢いは。

 着色も見事なもので、擬似レジンも活用して艶掛けしたような表現もしてみせた! ホントに遠目ではゴーレム様の白土からできてるなんて分からない。蓋と本体の溝も躊躇せず糸でスパーン! と綺麗に、一発で切り込み入れるの成功させるからほぼ直し不要。まじで凄い。


 数日ですんごい数のスイーツデコの小物入れがデコレーション待ちになった。ゴーレム様は完全に硬化するまで一週間くらいかかる。それでもデコレーションは出来るのでゼストさんが二日ほど来てデコレーションしてくれて、今工房の二階の大きなテーブルはスイーツデコで埋め尽くされて、しかも倉庫も平らな所は同じくスイーツデコが占拠することになった。


「ウェラ! あんた作りすぎだよ!!」

「いいじゃないか! ジュリが作っていいって言ったんだから!」

「これじゃ他のが作れないだろ!」

「レースなんて家でも出来るんだから家でやりな!」

 ……フィンとウェラが喧嘩です。私がメインで使う一階の工房はウェラも気を遣って占拠してないのでこの際とことん話し合って折り合い付けてちょうだい。私は私のしたいことをする。


 今回は、最初ということでフィンが折れてくれた。まぁ、あまり動かせないってのが大きな理由なんだけどね。ウェラも今後数を決めて作ることになったから喧嘩した甲斐があったというもんです。

「おーい、差し入れ!」

 って、来たのはローツさん。ゴーレム様の白土の使い道が一気に開けそうという事と、私が定期的に買い付けすることで収入が増えるという事で実家の子爵家から御礼にとお酒や砂糖漬けのフルーツがどっさり届いた。

「これ、使えるね」

 ウェラが砂糖漬けのフルーツを見て、デコパーツを作ろうとしているな? とみんなが思ってたら。

「はい、おやつ買ってきたよー」

 って、フィン。パウンドケーキを一本買ってきたよ。

「フルーツいっぱいのパウンドケーキも面白いね」

 と、またウェラが呟き、顔が職人になってきたねぇ、なんて感心してたら。

「休憩にこれ食べよー」

 って、レース編みのおばちゃんトリオのデリアがドーナツ買ってきて。

「ふむ、ドーナツ……」

 最早ウェラにはお菓子はスイーツデコの見本にしか見えなくなってる。そしたら今度。

「ねえ、そこのパン屋で美味しそうなクッキー新発売してたよ!」

 って、手伝いに来てくれてた友達のシーラが一袋買ってきて。

「クッキーも飾りとして優秀だからね」

 ウェラはお菓子を食べ物と認識しなくなってきてる? と、思ったら。

「お疲れ様、そろそろ休憩の時間だろう」

 って、グレイが。

「ちょっと待とうか?!」

 思わず、手で制してしまった。


 なんだ、このお菓子の量は。

 尋常じゃない。

 なんでみんなで買ってくる?!


 グレイが侯爵家特製のアップルパイをホールで二つ持って来た後ろに、シーラ同様手伝いに来てくれてた友達のスレインがいて、

()()見ると買いたくなる」

 と、『栗のタルトを買ってきたんだけど』のついでに言われた。

 私とウェラがお互い目を見た。

 うん、ごめん。

 これは私たちのせいだ!!









 ここ数日、やたらとみんながお菓子を買ってくる。お菓子はちゃんと休憩用に用意してあるのに自腹でみんなが買ってくる。

 そうか、これのせいか。

 このスイーツデコたちを見てると食べたくなるのか。これはすごい効果だな、なんて感心してたんだけども。

「スカートキツイ気がする」

「ヤバイ、太った……?」

 と、非常に由々しき問題を言い出す人が続出。

 え? 私? 普段から甘いものは好きなだけ食べてるから通常運転ですよ、ウェラなんて食べずに眺めてることが多くなったから彼女も通常運転。

「ずるい!!」

 と、言われましてもね?

 まさかの弊害ですよ。


「あんたは、なんでほんとうに太らないんだよ?」

 っておばちゃんに言われた。これは元々なんだよね、代謝がいいのか? よくわからない。子供のころからそうだからね、学生時代は自慢に聞こえるらしくて女友達には一切言ってないよ。とにかく昔からそうだからこの件について軽く考えてたんだけど。

「どうにかして」

 鬼気迫る顔で皆に言われるとねぇ。


 ということで、ウェラは自宅でも作業することになりました。当面はここと自宅で状況に応じて作るものを決めながら作業することに。道具や材料はローツさんが運んでくれるし、本人も特にそれで問題ないということなので、解決策が見つかるまではその体制が続きそう。

「食べたい気持ちは分かる」

 グレイはクスクスと皆に気を遣いながら声を抑えて笑い、完成したスイーツデコの小物入れを手にして眺める。

「これがズラリと店頭に並んだら、ククマットの菓子店も軒並み売り上げが伸びそうだな」

「それはそれでいいことよ。太ったってクレームが増えるのは迷惑だけど」

「店頭の陳列場所の確保は?」

「レースの一部を下げようかと。小さいものは数の確保も安定してきたから、露店に移行も考えてたとこ。いずれ 《レースのフィン》が出来れば今置いているレースのほとんどはそっちで販売できるし、露店に少しずつ増やしていけば 《ハンドメイド・ジュリ》での扱いは限りなく少なくて済むかな」

「露店にか……悪くないな、ドイリーサイズまでなら場所もそれほど必要としない」

「でしょ? 《レースのフィン》は冬季限定だから、小物限定で専用の露店を冬季以外にやるってのも面白そうだよね」

「それはいいな」

 なんて話してたらね。


「あれをなんとかして」


 再び鬼気迫る女性陣の訴え。なぜ?


「あ、あぁ……なるほど」

 ローツさん……。

「つくってみた!」

 意気揚々と、持ってきた。この人ククマットになかなか広い屋敷を借りてるんだよね、独り身だし、使用人は最小限でのんびり悠々自適にその広い屋敷を満喫してるのよ。自分の故郷の魔物が素材になったこと、そしてスイーツ作りに向いてる性格と手先の器用さが災いしたらしい。屋敷で誰も止める人がいない中で作業したんだね。

「ウェラに教わってフルーツも作ってみたんだ。ちょっと難しいな、俺はクリームを絞るのが得意かもしれない。それで―――……」

 って、長々と喋り倒す。


 これ、恩恵だわ。

 うん、このクリームの出来は恩恵だと直感が働いた。どうやら神様がそういう判断力だけは付けてくれたらしいわ。

 いくら器用でも、この均一な絞りと、芸術的な立体感、プロしか出来ないよ……。というかさ? ローツさんの恩恵、異常に限定的!!


「あ? これ、恩恵?!……いや、うん、確かに、言われてみれば」

 本人もびっくりよ。

「スイーツデコ以外は特に作ろうという興味は惹かれないんだよな、不思議と」

 凄いなー、なんだこの恩恵。滅茶苦茶すぎる。不条理。さすが神様のやることだわ。

 まぁ、このおかげでわざわざ侯爵家のパティシエさんたちを無理に内職に駆り出す必要もなくなったけど。ローツさんには経営でグレイの補佐をしてもらってるからこの人が忙しくなりそうなときだけパティシエさんたちに手伝ってもらえばいいわね。うん、いい感じで人員確保も出来たわ。










 ローツさんに恩恵 (極めて限定的だけど)があると知って不貞腐れた人が。

 グレイセル・クノーマス侯爵令息、彼氏ですよ。

 スイーツデコによる『太った問題』で不貞腐れる女性陣に混じってるんですよ。

 面倒くさい……。

「だってグレイは何も興味持たないでしょ。作らないんだから恩恵あるわけないでしょ」

 ってバッサリぶった切ってやったけどね。

 ここで甘やかしたら後で同じことがあったらまた不貞腐れるんだよ、きっと。だから絶対甘やかさない。この人を宥めるの大変だから。


「面白いわねぇ、そんな恩恵もあるの」

 ケイティが新しいデザインのネイルアートを見せに来て、この一連の話を聞いて大笑い。

「いやホントに。私がびっくりよ、ローツさんが器用なだけかな? って思ったんだけど、どうも違うんだよね。あんまりにも綺麗に仕上げたのを見せに来たから、やってみてって言ったらさぁ……プロのパティシエよりその作業速いんだから」

「そりゃ凄いわ!!」

「絞り袋持たせてたった一週間であれはないでしょ、いくらなんでも。恩恵以外のなにものでもないわ」

「恩恵じゃなかったら天才としか言えないわよね、でもそんな限定的な天才あり得ないだろうから、やっぱり神様の力、ね」

 可愛いから私も欲しいって、ケイティが売り出し前のスイーツデコ小物入れを物色しながら、やっぱり笑い出す。

「なによ?」

「いやぁ、これをあのなかなか精悍な彼がエプロンして真顔でやったんでしょ? 結構面白い光景じゃない」

「ああ、うん。結構シュールかな……イケメンってなにやっても似合うって言うけど、なんかあの人のエプロン姿は違和感が拭えないんだよね、なんでだろうね?」

「……プッ、あはははは!! 似合わない」

 ケイティが肩を震わせて笑いだした。

「ちなみに、絞り袋使ってる時は騎士団にいた時に負った怪我でかなり不自由になった片腕が完璧に動くらしいのよ」

「あ、それ間違いなく恩恵だわ」

 さすがにこの情報には、ケイティもスンと真顔。本人から軽々しく笑顔で教えられた時は私も真顔で驚いたよ。



 色んな形の恩恵が私の周りで今後も起こるんだろうなぁ。


「じゃあ太るのも恩恵でどうにかして!!」

 女性陣の切なる訴え。


 あ、それは自己責任自己管理でよろしくお願いいたします。神様も私もそれは管轄外です。恩恵は 《ハンドメイド》に関係があるものだけですよ。

 それに、私がどうこうできるものじゃないんだから。

 皆がんばれ!!













【知の神】セラスーン様が笑う。

「そうねぇ、申し訳ないけど管轄外」






本物のケーキより美味しそうなものをたまに見かけます。あれを作る人、尊敬してしまいます。

そして食べたくなります。作り手は食べたくならないのか? といつも頭を過りますね。

この頁はそれを上手く話しに盛り込めないかと思いながら執筆しました。




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