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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * ゴーレム様の魅力

 


 ゴーレム様の白土は直接着色も出来るし、上から塗装も出来る。市販の接着剤も使える。重さがあるけど、小物ならば問題ない。

 ということで、どうしても作りたくなった物を作ります!!


 こちらの世界でも製菓用の金型が結構あって、クッキー型はもちろん、タルト型やケーキ型、ホイップを絞る金口もある。

 それをククマットと港のある区で、買えるもの全て、使えそうなもの全て、侯爵家の製菓職人、つまりパティシエさんにお願いして揃えて貰った。

「ジュリ様も製菓にご興味が? 私でよければいくらでもご相談に乗ります!!」

「……あー、私お菓子は、食べる専門です」

「……えーと? これだけの道具はお菓子を作るためではないのですか?」

「……《ハンドメイド》で使います」

「……《ハンドメイド》で、ですか」

 微妙な空気が流れた。

 しばしパティシエさんが無言。

 そして。

「その作業、見せていただいても?」

 あ、なんか変に興味持たれたぞ。


 白土は絞り出せるほど柔らかくはない。でも便利なもので、ローツさん曰く、温めると柔らかくなるというので早速温めることに。

 白土の扱いはローツさんが良く知っているので私の隣で今日はローツさんがエプロンして、反対の隣でパティシエさんことゼストさんが同じくエプロンして立っている。

「直接お湯に入れていいんだ」

「溶け出したりしないからな。どこの家でも沸かしたお湯に数分浸けておく。均一に熱が通ってないと柔らかい部分と硬い部分とで混ざりにくいから、小さめの塊か薄く伸ばしてからお湯に浸けるといいな」

 ローツさんは握り拳大のものを手で軽く潰してからお湯に入れた。お湯の温度は人肌より温かい程度でもいいらしいけど、金口で絞るなら途中から温度が下がって固くなって扱いにくくなるからそれよりも高い温度にして少しずつ使うといいだろうとアドバイスをくれた。

 お湯で温めたそれは、なんとも面白い。


 なんだこれ、すごい。

「面白いですね!」

 ゼストさんがどハマりして笑っている。

 なぜなら。

 持つとトローンと形が崩れ、スルーンと切れる。溶けたチーズみたいな。でもそこまで伸びるわけでもなくて、なんとも言えない絶妙なトロトロ感。私もついゼストさんの隣で両手でその白土を持って遊んでしまう。お湯の温度が高いので素手ではちょっと熱すぎるから防水性のある手袋してるんだけど、ゼストさんと共に真剣に手袋の上で転がして遊んでしまった。

 気を取り直し、金口をつけた絞り袋に入れる。水は拭く必要はなくて、そのままで勝手に乾いてくれるみたいだから、いざ、絞ってみましょう!!


 ……プロ、すごいな。さすがだな。

「ほほう、これはクリームよりも少し硬くて、コツがちょっと必要ですが形が崩れなくていいですね。見習いの練習に使えますよ」

 って感想言いながらスルスルと絞り出していく。いやぁ、真っ白だから、しかもプロが絞りだしてるから、まさしく生クリーム!!

 ……食べたくなる。

 というか、ちょっとゼストさん、良いこと言ってたよ?

「ゼストさん、相談なんですが」

「はい、なんでしょう?」

「見習いの方って、何人いるんですか?」

「二人、ですが」

「当然、絞る練習しますよね? 相当しますよね?」

「ええ、侯爵家の毎日の食卓はもちろん、晩餐会でも出せる物を作るのが製菓職人の仕事ですから常に練習を怠りません、私も今でもしていますよ」

「その、練習。この白土でしませんか?」

「ああ! それは私も今考えていたんですよ!! これならクリームを無駄にせず好きなだけ練習できますからね!」

「その練習したやつ、売ってください」

「はい?」


 ほら、それならこっちは絞る必要ないでしょ? もちろん、それで対応出来ないものも多いけど、プロもしくはそれを目指す人がやるなら均一に、綺麗に出来上がるよね?

 というか、本体作るからその上にデコって欲しいわけ。フルーツの飾りとか、チョコレート、クッキー、クランチ、シュガートッピング類も何とか製作して渡すからそれでプロにデコってもらったら絶対いい!!

「なるほど、それは面白いですね」

「仕事に差し支えない程度でいいんです。練習に私の渡すものをデコレーションするってことを加えて貰うというので問題ないんです、量産はできませんからね」

「デザインなどは?」

「こちらである程度指定はします、イメージとかけ離れても困りますから」

「それはなお良いですね、指定された飾りをするのもプロの仕事です、それに対応出来る技術を身に付けるためにも役に立ちそうです」

「そうですか!! その辺、侯爵様と相談してみます」

「ああ、それでしたらシルフィ様がよろしいですね、茶会や晩餐会などでお出しになる製菓は全てシルフィ様の審査を通ったものしか出せません、製菓についてはシルフィ様が全て侯爵様に任されているので」

 ならばと、すぐさまその場で手紙を書き、ゼストさんに渡すことに。


 ホ○ップるっていう、デコを楽しむ子供向けのおもちゃがあったなぁ、と思い出した。

 あれ、けっこう侮れない。

 見た目が本当可愛いんだよね!! ケーキだけじゃなく、マカロンとかアイスクリームの本体があって、そこに特殊な疑似ホイップクリームを絞って、飾りを付けて。一回安いのを買ってやったらハマりそうになったよ。大人買いで全種類買い占めてやろうかと暴走しかけた記憶がある。

 あのクリームともまた違う質感だけど、気持ちは一緒よ。


 楽しいに決まってる!!


 それに尽きる。


「いやぁ、楽しみです!」

「そうですか?」

「ええ、見習いの練習だけでなく、ジュリ様の作品に携われるんです、しかも買って頂けるなら見習いも小遣い稼ぎになりますからね、喜んでやってくれますよ。かくいう私も是非やらせてください」

「ぜひお願いします」

 ゼストさんと二人で笑って、ふと気がついた。

 ローツさんが、静かだ。

 隣を見た。

 無心で絞り袋を握りしめ、絞ってた。ゼストさんのを真似てやってて、結構綺麗に絞ってる。というか、この人今まさにハマったらしい。うん、いざとなったらこの人にもやらせてみよう。もしかすると非常勤で作品作りの補助になってくれる才能があるかもしれない。










 当然、というか最早断るという言葉を忘れていないか? と疑問が浮かぶほど侯爵家は私の提案を丸飲みするように受け入れてくれる。翌日には侯爵家、シルフィ様から『いいわよぉ、楽しみにしてるわ!』と砕けた返事が来た。

 あれから再びゼストさんが工房を訪れた。

「おおっ……これは、これは。実にいいですな」

 プロのお墨付き! 嬉しいわ!!

 工房のテーブルにずらりとならぶのは、スイーツデコの途中の、ホイップやトッピングの無いもの。

 結構頑張ったのよ、そして、このスイーツデコって、ハマる人はハマるのね。おばちゃんで一人、異常に興味を持ってイチゴやフルーツをとっても可愛く綺麗に作れるし黙々と作業してくれる人が現れて。ウェラっていうんだけど

「あたしこれ得意だわ」

 って真顔で一言突然言った後、数時間作り続けてくれた。

 そのウェラに、ロールケーキ風、三角と四角のカットケーキ風の土台を白土で作って着色して見せてたの。それも真似て黙々と作ってくれて。

 まぁクオリティーの高いこと。

 こちらも気合いが入ったわよ!!

 お陰でずらりと並ぶのは、デコレーションされてない本物に近いケーキに見える。

 ウェラには、今後レースじゃなくスイーツデコの作品メインにお願いするかもしれないと話をして、彼女も乗り気になってくれたので、粘土作品の人員確保が確定。めでたいめでたい。


 上出来なそんなケーキの土台たちを見て、ゼストさんが首を捻る。

「ジュリ様、この、溝はなんですか?」

 お、いいところに目を付けてくれた!

「触って見てください」

「驚くぞ」

 グレイがニヤリとした。グレイもこれにはびっくりしてたのよ。

「ん?……なんですかね? これ、あれ? 外れる?!」

「ケースになるんですよ」

 私の言葉に、はぁぁぁってすんごい声出して、ゼストさんが大袈裟に見える驚きを見せて、グレイと私は笑ってしまった。

 そう、小物入れにしてみた。

 ライアスの使う小さな釘やネジを入れる木の小箱をみてこれ使えるー! と思い立った。

 ゼストさんが言った溝は蓋と本体の境目ね。小さな木の箱に、白土を纏わせてケーキに見立てたスイーツデコの小物入れよ。これにホイップクリームでデコレーションするように温めた白土と、同じく白土で作ったトッピングでデコって貰うのよ。

 プロがやれば映えるでしょ?! 侯爵家のケーキはぜーんぶ美味しいだけじゃなくちゃんと見映えも考慮されてるから、ゼストさんならこれらに合ったデコレーションしてくれるはず!!

「お、おもしろいですねぇ、小物入れですか。これは女性が好きそうですね!」

「ですよね!!」

「クリームを絞るのも楽しくなりますよ」

「存分に楽しんでください!」


 さて。

 実際にやってもらって、私は満足よ!!

 イチゴとかチョコとかのトッピングも自由にやってもらって、実に可愛いんだよ! ゼストさんさすが!!

 ショートケーキ、ロールケーキ、チョコレートケーキ、今回はこの三種をクリームの色違いで全部で六種類用意してたんだけど、全部デコレーション変えてくれて、ショーケースに並べたいくらい可愛い!!

「これは少し離れた所から見たら分からないな、食べたくなる」

 グレイも感心しつつ面白そうに出来上がったそれらを眺める。

 ゼストさんは見習いにさせるんじゃなく自分がやりたいと言い出して

「じゃあ誰が屋敷の製菓つくるんだよ?」

 ってグレイにマジで諌められてたわ。

「それはそれ、これはこれです」

 って意味不明な開き直りでやる気満々のゼストさんには侯爵家の製菓の質が落ちない程度に手伝ってもらったりアドバイスを貰うことにした。


 そして、このスイーツデコ。

 お店で思わぬ弊害を呼ぶことになる。

ここに出てきた子供向け商品は、姪っ子がハマっていると聞いたときに後日おもちゃ売り場に出向いてじっくり観察したものです。

しかし今時のおもちゃのあの綺麗な色使いやキラキラ感。私の幼少期にはなかったせいか、非常に戸惑いあります(笑)。

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― 新着の感想 ―
こんな商品が……公式サイトで、しげしげとカタログを眺めてしまいました。 ちょっとやってみたい気もするしますが、食べられないので処理に困りそうです。 色んなところで繋がるんですねぇ……ハンドメイドってす…
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