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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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6 * 白い土?

六章に入りました。新しい素材が出てきたり不穏な動きかあったり? そんな章にしたいと思います。


そして諸事情により一週間程更新お休みいただきます。次回の更新は4月7日を予定しています。

ご了承ください。

 



 バタバタした毎日。

 とにかく充実してるわ。忙しいけど、好きでやってることだから、疲労感は心地よいもので、至って健康に過ごせている。

 私は朝からいつものように作品を作っていて、お店の従業員である女性陣数人が開店準備をしてくれている最中、今日は休みのはずの人が訪ねて来た。

「おはようみんな」

「おはようー、ローツさん今日は休みだよね? どうしたの?」

「すまない、どうしてもジュリに相談が」

 申し訳なさそうな、そんな顔のローツさん。

 なんだろうね?


「ああ、これなら難しくないから次作るとき同じ感じに出来るよ? 全く同じにならないことは了承してもらうけど」

 ローツさんが持ってきた包みを開けてみせてくれた。そこには以前、彼が妹にと買ったハーバリウムがあった。

 紫色のものが好きな妹さんで、ローツさんがこの紫色の花とアメジストスライム様の擬似レジンを入れたハーバリウムが好きそうだと購入して送ったところ。

「今までの人生で最も感謝と尊敬がしたためられた手紙が届いた」

 ってくらい喜ばれた話をされたことがある。

 それが何故、ここにあるかというと。

 妹さんの部屋の掃除をしていた使用人さんが落としてしまったと。見事なヒビが底を中心にいくつも走っている。幸い擬似レジンで作っているから中身とガラスが散乱する大惨事は免れてるけど、ヒビが入ったのは正面、これでは隠しようがない。


 ちなみに、ハーバリウムは最近他の人もセンス良く仕上げられるようになってきたし、メインで売れるのは小さな瓶のものだから、女性陣にある程度任せるようになっていて私は毎日作ることもなくなった。そしてたまーに売れる中瓶から大瓶のものが売れたら補充分のために私が作るというサイクルになっている。

 ローツさんが買ってくれたこのハーバリウムは店で販売しているハーバリウムで一番大きなサイズの瓶だから滅多に作らないんだよね。それで同じものが手に入るか心配だったんだね。妹思いのいいお兄さん!!

「全く同じものなんてそんなワガママ言わないさ、作ってくれるだけで感謝だよ」

「そう? 一昨日皆が頑張ってくれたお陰で在庫にゆとりがあるからアンデルさんに大きい瓶の発注してないんだよね。このサイズはいつも受注生産でしょ、だから一番早くて来週になると思うけどいい?」

「ジュリの時間に合わせてくれて構わない、お任せするよ。いつでもいいんだ」

「オッケー、任せて」

 ローツさんがホッとした様子で、お礼に差し入れを買ってきてくれるというので何がいいかと皆と話していた時。


「ん?」


 見た。

 多分他の人は絶対気にしたりしないだろうものを私は見た。


「ローツさん」

「なんだ?」

「それ、なに?」

 近づいて、それを指差す。

「え? ああ、これか? 地元で昔からあるお守りだな」


 それは、ローツさんが普段仕事で会うときには身につけて来たことがないショルダータイプの鞄にぶら下がっていた。

 ストラップのような紐に飾りとして鈴らしきものと共にもう一つ。

 よくあるビー玉とほぼ同じサイズかな、丸いそれ。独特の紋様が描かれている。

 いや、紋様とか大きさよりも。

 その質感と素地の色。

 この世界で今まで見たことがない。

 素焼きの陶器ともちがう。煉瓦のようなものともちがう。

 それは真っ白で、私が知っている、探していた物に似ている。


「触っても?」

「ああ、いいよ。なんだ? そんなに気になるか?」

「これ、素材は……なに?」

「素材? これゴーレムだよ魔物のゴーレム」


 ……きた。

 これ、来たよね。


「ゴーレムって、土人形みたいなやつ?」

「そう。俺の実家の領地あたりから南に多く生息してる魔物のゴーレムだよ」

「これ、最初からこんな風に真っ白なの?」

「ああそれ? 生きてるときは薄茶色なんだけど、倒してすぐ魔石を取り除くとどういうわけか数時間で真っ白になるんだよ。さらに倒した直後から柔らかくなって元の頑丈さは全くなくなる。ただ、一週間くらい放置するとなぜかまたがちがちに固くなる」

「……へぇ」

「固まるけど、武具にできる強度はないんだ、だから昔から南の一部地域はこれを壁や竈のひび割れの補修に使ったりしてるよ。こうして細工を施した物にしたりするのはごくごく一部、だけど……ん? もしかして?」


 そう。

 気づいた?

 これさ。


「ジュリ、もしかして、素材になるかも?」

「なるかも」


 はっきりと断言できない。

 でも。

 この質感。


 粘土だ。

 きめ細かい、ものつくりに向いてそうな粘土。しかも真っ白。


「ローツさん」

 目が合った瞬間、ローツさんがカッ! っと目を見開いた。

「すぐ実家に手紙を出す!」

 ナイス! 意志疎通完璧!

「ローツさん! 紫色系のペンダントトップとブレスレットの新作あるよ! それあげる!!」

「ゴーレム一匹狩ってこいって書く! 必ず狩らせる!!」

「何か欲しいのある?! 使える状態で届けてもらえる?!」

「母親がコースター欲しがってた!! 乾燥させなければいつでも使える! ちゃんと処理して送らせる!」

「コースター新作十枚プレゼントぉ!」

「まかせろ!」










 それはローツさんの故郷、フォルテ子爵領含む一部の地域で『白土』と昔から呼ばれているらしい。

 非常に柔らかくて手で簡単に型取ったり伸ばしたり出来るうえ、数日放置すれば水も通さなくなり壁や竈の修復にも使えるので地元では水回りの修復材として馴染みがあるものなのだとか。


 ゴーレムを倒した直後に魔石を取り除くと真っ白になり、魔石をそのままに数時間放置しておけば元の薄い茶色のままなので、用途に合わせて修復材として地元の日用品を取り扱う店では『黒土』と『白土』と分けて固まらないよう特殊な魔物の皮で包んで販売しているらしい。

 ちなみに、その地域ではゴーレムは珍しくも何ともない魔物で、魔石と眼球にあたる部位が非常に魔法付与と相性が良いためそれなりにいい値段で取引されるから、大部分を占める本体は基本捨て置かれるとのこと。そしてその本体は修復材としての利用価値しかないため『黒土』も『白土』もでっかい包み一つ三リクルという超格安素材だそう。


 ふぇ、ふぇっへへへへへ。

 白い粘土だ。

 ふふふ、ふへへへへ。

 求めていた白い粘土。


 くくくくくっ!!


「ゴーレム様!! 私が可愛く仕上げてしんぜましょう!!」


 フォトフレーム、はないからこの世界なら額縁だね、庶民の間では木材の額縁しかなかったから、飾り付けや型に拘れば可愛いの作れるよ。

 ミニチュア、ドールハウス、その辺は染料さえ確保できれば色々つくれる!! 家具なんかは木材扱う職人さんに相談してみよう、ちょっと高級な物になっちゃうかもだけど子供に贈るものとして売り出すのもアリだよね。

 あと、どうしてもやりたいのがスイーツデコ。可愛くしたものを小物入れとかにしたいよね! 縮小しなければ作りやすいからお店でずらりと並べて売るのはどう?

 それから、白なら擬似レジンと合わせてステンドグラスみたいなものもつくれそう。色付きスライム様の確保が課題だけど、いずれは売り出したいよね、ランプシェードにして。


 あぁぁぁ、構想か膨らむ。デザインが浮かぶ。

 楽しいわ、ほんと楽しいわ、新素材が見つかると最高に楽しー!!!

「ふへへへへへ……」

 笑いが止まらない。

「あの笑いと声で作品作ってると、その時に出来た作品がいつか声をあげて笑いだすんじゃないか、不安になるわ」

 フィンがひきつり笑顔でそう言って

「わかる」

「いつか必ず笑いだすよ」

「作品が笑いだすね、しかも動きそうだよ」

「【彼方からの使い】だから」

「それくらいの余計な能力ありそうだね」

「神様がなんとかしてくれるんじゃない?」

「だといいけど」

 と、女性陣が休憩でお茶を飲みながらそんなこと言ってたと、ライアスから聞かされた。

 わかる。それ。私が一番そう思う。








 そして後日。


 ローツさんにコースター等をプレゼントし入手したゴーレムの白土。

 これは、凄いよ。

 なんと滑らかなさわり心地!!

 家や水回りの修復に使われる理由がよくわかる。ゴワつきやムラがないし、何より水分が奪われて乾燥するのではなくスライム様同様に単に硬化する性質だからひび割れもない。

 難点は見た目と滑らかさには似合わない重さかな。私が扱ったことのある紙粘土や樹脂粘土より同じくらいの量でも明らかにこちらがずしりと重い。なので大物には向かないね、だからローツさんの地元でも修復材としての使い道に特化したのかもしれない。物を作る時に重さを無視するわけにはいかないもんね。特に日用品ともなれば重さを必要とする一部を除いて、軽いに越したことはない。

 この辺でこの白土が知られていないのは複数の修復材があったからよね。魔物素材が世の中に溢れているからこそ、地域限定の素材というのはなかなか知られることはないのかもしれない。


 この辺では入手出来ず、そして質量がある素材だから、輸送費が心配だなぁ。私が考える商品は今は小ぶりのものだし、額縁だって一般家庭で飾るものはそう大きいものはない。木枠の上に重ねるようにすれば軽量化出来るだろうから工夫次第で素材そのものを無駄にせず最小限の量でやりくりすることも可能。なので今後経費についてはグレイやローツさんと話し合う必要はあるけど何とかなると思っておく。


 そして、一つ重要なのが。

 染料による着色。

 スライム様は何故か未だにいいものがみつからない。混ぜても分離するだけで、着色は困難な素材。

 でも、このゴーレムの白土は……。

「大丈夫そう」

 素材の違いで混ぜやすいものとそうでないものがあるみたいだけど、軒並みククマットで手に入る染料や絵の具は混ぜられることが判明。

「……うん、固まってる」

 スライム様のように分離することもなくまぜたものでも数日で固まってる。意図的に薄く伸ばして固めたものを、あえて手で折ってみるとパキン! と、硬質な音を立てて。強度もそれなりにあるよ。修復材として使われるだけのことはある。


「楽しそうだ」

「えへ、えへへへへ」

「そうか、新素材として使えるか」

「へへへへっ、くへへ」

「安定した仕入れはローツと子爵家に任せればい」

「あはは、あははは」

「大丈夫だ、それなりに数が多い魔物だし一体から取れる白土はかなりの量だ、価格高騰はしないだろう」

「うはは」

「心配ない、何とかなる」

 私の笑い声と会話できるグレイ。

 私たちを見てローツさんがドン引きしてた。


「……え、それ、会話?」


ブクマ&評価、誤字報告ありがとうございます。



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