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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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5 * 『恩恵』と『補正』の違い

本日一話更新です。

 


 ネイリストの件は……凄まじい勢いで『領民講座』と共に着々と準備が進み基盤が出来つつあり、ちょっと引くわこの速さはとツッコミをグレイにしつつ、私の手を離れ始めた。

 うん、もう、放っておこう。おかしな方向に向かいそうなら修正かければいいや。必ず確認に来てくれるし。

「ネイルアートをすると命中率が上がるのよ!! 最高ネイルアート!!」

 と、異様なテンションの【弓使い】が『ネイリスト専門学校』が気になって仕方なくちょくちょくアドバイスをしてくれるようにもなったのである意味安泰ともいえる。


 そんなバタバタから久しぶりに解放されたとある一日。

 朝から私は超高性能除湿剤であるブル様たちの骨をハンマーで木っ端微塵に砕きながら考え事。

「うーん」

「どうした?」

「今日、行列にならないなぁ、と」

 そう。

 初めて行列が途切れたの。扉前には数人が並んで絶えずお客さんは出入りしてるんだけどね、自警団の若者たちが交通整理をすることなく扉前に立っているのよ。

「ああ、仕方ない、今日は港祭りがあるからな」

 港のあるクノーマス領最大の地区で今日は年に一度のお祭りがあることは知っていたわよ。地区長さんから是非とも露店を出してほしいと言われてたから、 《ハンドメイド・ジュリ》の作品は無理だけどククマット編みやカギ針編みの小物なら出す余裕が少しはあるからと毎日数量限定でうちでも港で露店を展開している。


「父と母も昨日から港にいるが、親しい貴族も招くし近隣の船で交易がある所からもそこのお偉方を結構招待しているからクノーマス領の一大イベントの一つだ、毎年接待で父も母もくたくたになって帰ってくる」

「……行かなくて良かった」

「ははは!! ジュリが行ったら注目の的だろうからな、帰りたくても帰れない状況にはなっていただろう」

 誘われてたんだけどね。侯爵家の客として一緒に来ないかって。でもサラッとグレイから『挨拶回りをさせられるかもしれない』って聞かされてたから丁重にお断りしたわ (笑)。

 それにネイリストのことが一段落ついて落ち着いてきたからようやく作品作りに集中できる環境が戻って来たのをわざわざ自分で潰す必要もないしね。

 そして今日のこの状況。何となく行列がないだけで気持ちが落ち着く。急かされてる感じがしないせいかな? 行列みると、死ぬ気で急いで作らねば!! って強迫観念が襲ってくるんだよねぇ。すぐ完成して店頭にすぐ並べられる物なんて作ってないのに (笑)。


 ごりごり、がっ! ごりごり、ばきっ!!ごりごり、どかっ! ごりごり……。

 ブル様たちの骨を砕く。ひたすら砕く。今やってることを内職さんに回せば? とグレイに言われたけどね。

 分かってないなぁ、今やってるのは押し花を作るときに使う板や紙とこのブル様の砕いた骨を上手く組み合わせて押し花の質をもっと上げるのと、仕上がりの時間も短縮させるためにどういう風に使うと効果的か試すためにやってるんだから人に任せられるわけないでしょ。

 と、言ったらね。


「なんだかんだ言いつつ、ジュリは全部自分でやってみないと気が済まないんだな」


 と言われた。

 うん、そうなの。そういう性格。

 忙しいけど、やってみたいことはたくさんあるからね。人任せにしたくないことも多い。

 それに最近は一つとっても楽になったことがあるので、こんな風にマニアックな作業もする余裕が出来たのよ。


 ライアスが凄いんだよね。


 今までは私が『こういう道具か欲しい』というと作ってくれてたのよ、これでも凄いけどね? ほぼ手直し無しで欲しいものを短期間で作ってくれるから。最近はさらに凄くて、私の作業を見て、そこから道具を作るのよ、凄くない?

 擬似レジンを板状にしたものをカットする大きなナイフも厚みの違いで刃の形状が微妙に違うものを数種類、擬似レジンを塗ったり、螺鈿もどきのラメを払い落としたりと何かと多用する刷毛なんてすでに二十種類に。ピンセット、ハサミに至っては今なお種類が増えてるし試作品も複数存在してて、この先私が把握できるか不安なくらいよ (笑)。


「……間違いなく恩恵よ、あれは」

「ん?」

「ライアス。私が欲しい道具を言わなくても作ってくれるのよ?! 普通なら怖いことだからね?! 欲しいなっていう前に『これどうだ?』って出てくるんだから」

「ああ……確かに」

 グレイもしみじみ。


「お前を見てると顔がたまに道具に見える」

「え、それ嫌だね!!」


 というライアスとのやり取りから、確実に私の恩恵よ。男の人では今のところライアスだけね。貴重な存在よ。

「たまーに、ホントに怖いからね。私の顔がハサミに見えたりハンマーに見えたりするっていうんだから」

「なかなかその想像をするのが難しいがな」

「だよね、だからやっぱり恩恵よ」


 でもそのおかげで、道具について相談したり話し合ったりする時間がすべてなくなったのよ。

 これはとても助かってる。

 これのおかげで実際に作業効率も上がって作品量も増えたしね。

 そしていま使ってるハンマーだって、骨を砕く為に改良されたものよ。ハンマーももっと種類増えそうだなぁ。

 そんなライアスなので道具や素材の管理責任者という立場になってもらってる。そしてどんどん新しい工具を開発してるから、近隣の職人さんたちからも相談受けたりしてて、本来の金物修理の仕事ができなくなりまして。

「仕事があるってことは幸せなんだぞ? 文句ねえよ別に」

 と、カッコいいこと言ってくれましたのでお言葉に甘えて 《ハンドメイド・ジュリ》でがっつり働いてもらってますよ。


 そうそう、『恩恵』についてだけど。

 今のところ男では本当にライアスだけ。ギルドから派遣されて擬似レジンの取り扱いの勉強に来てる二人の職員さんがいるけど結構な頻度でうちにまだ来てるのに恩恵を受けた気配が全くない。

 これ、私との関わりが深く関係してるのかもね。そんな話をグレイともしたんだけど、ギルドの職員さんはあくまで私と一緒に働いてくれるわけではなく、ギルドのためでしょ? 彼らがこちらに踏み込んでくることはないからね、恩恵を受ける境界線が目に見えないだけで明確に存在してる気がする。


 男性自体が 《ハンドメイド・ジュリ》では少ないから何とも言い難いけど、間違いなくライアスは恩恵をモロに受けてる。


 そして常々疑問だったこと。

『恩恵』と『補正』の違いって何よ?

 ってこと。よくハルトと【彼方からの使い】について話してた時期があったんだけど、今さらだけどハルトは自分の能力について話すとき『補正』ということが多かった。でも私の時は必ず『恩恵』なのよ。


「ああ、それは【スキル】と【称号】が関係するんだ。その二つを持つ場合は『補正』と呼ばれて、それ以外を『恩恵』と、我々は教わっている」

「つまり、補正っていうのは?」

「【スキル】【称号】持ちに直接作用するもので、その内容もとても明確なものを指す。恩恵は、曖昧な部分が多いとされる。何故なら神官による鑑定でもはっきりと詳細が読み取れないことがほとんどだからだ」


 グレイの話を一例にすると。

 同じ『魔法耐性』というものでも【スキル】や【称号】持ちに付属されているものと、そうではない他の人に付属されているものとでは能力に差があると。

【スキル】と【称号】に付属されている場合は、『全ての魔法攻撃を○%軽減』とか、『○○に限り耐性が半減』と明確にその能力が確認できるらしい。ところが、それ以外の人、グレイもそうらしいんだけど、『最大で○%軽減』とか、『一部対象外』と、かなり曖昧な内容しかわからない。グレイの場合騎士として務めた経験からその詳細は感覚でわかってるみたいだけど、そんなことが出来る人は極一部と。


「……中身がはっきりしてるのが補正、分からないのが恩恵?」

「そういう概念で間違いないだろうな」

「と、なると【彼方からの使い】って、破格だよね?私みたいなのを除けば、皆はっきりしてるもんね?」

「だからこそ、重宝されるし国が躍起になって保護する。持っている能力が明確であればあるほど使い道を決めやすいし、制御しやすい。戦闘系ならなおのこと。だからハルトは大陸全土でその力を望まれ続ける」

 ははぁ、なるほど。

 そりゃそうよね、内容が明確なら出来ることがはっきりしてる。どこまでならやってもらえるか分かっていれば無理難題を押し付けて敬遠される、ってこともないし、逆にお願いもしやすい。

 反対に、私みたいなのは……。


 扱いに困るわ (笑)、そりゃ公爵がぶん投げるわけよね。自分でいうのもなんだけど、私から発してる恩恵って全部数値化できないし、何より戦闘系じゃないし。そもそも私がどういうものが恩恵として周囲に与えられるかわからないんだから。


「【スキル】や【称号】持ちでも恩恵と補正どちらも付属されている場合もあるだろうな」

 そうだよね。たしかに。

「神々から与えられる能力を一つにまとめてしまわず、あえて表現を変えたのは先人の知恵でもあると思う。補正は個々に対してのものが多いが、恩恵は広域なことが多い。同じものとして見るには少々危険があったのだろう。特に戦闘系となれば、対魔物として使う場面が多いのは昔も今も変わらない。命を守るために補う能力があやふやなものでは、多種多様な魔物相手では危険すぎる」

「確かに。そう言われると区別は必要なことだったわけね」


 面白いよね、神様のやることだから理屈なんてさっぱりわからないけど。時間をかければこうして人間が考えて上手く理解できるようになるんだから。

 これからも面白い役に立つ恩恵、期待しておこう。


「ジュリが持ち込んだ『振替伝票』や『貸借対照表』、『棚卸し』といった異世界の管財方法を私が理解できるようになったのも恩恵だろうな」

 グレイが嬉しそうに言ったけどね。

「それは違う」

「なぜ?」

「……グレイはね、単純に『ハイスペック』なだけだからね。そこ勘違いしないでね」

「……恩恵ではないのか」

「絶対ちがう」

「では私にジュリの恩恵は?」

「……ないかな!!」


 あ、彼氏がショボくれた。『ハイスペック』と言われるより恩恵があると言われる方がいいなんて。変わってるなぁ、この人。



ライアスやフィンについてはもう少し掘り下げた話を予定しているのでここで書くつもりはなかったのですが、説明に誰か一人必要だったのでここで少しだけライアス使ってみました。本人が出てきませんけど。

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