◇夏休みスペシャル 其の二◇ マイケルの友達は
夏休みスペシャル二日目です。
今回はマイケルの語り。
ジュリとグレイセルについて。
僕は常々思う。
ジュリはグレイセルのことになると常識が吹っ飛ぶと。
「だって常識通用しないんだもん」
「それな」
ハルト、そこでジュリと一緒に笑っちゃいけないよ。
「いやだって、こいつホントグレイ黙らせるときの手段があり得ねぇっていうか、非常識っていうか、もう変態の領域だろ。笑わずにいられるかっての」
「ルフィナはやらない?」
「やるかアホ! あんなんお前らだけだぞホントに」
あははと笑うジュリを睨め付けると彼女は何故か更に笑う。
「マイケルのその顔!!」
「君たちの話を聞いたらこうなる人は多いと思うけどね」
先日ジュリがアストハルア公爵家に招かれたときの事。その時の話を聞かせて貰っている時にその事実が発覚したんだ。
アストハルア公爵家の盛大なパーティーともなればかなりの人数が集まるわけで、そうなれば全員が品行方正とはいかない。泥酔して馬鹿をする奴もいるし、その日限りの火遊びを楽しもうとするやつもいるし、まあなにが言いたいかというと人様に迷惑を掛ける奴らが少なからずいる、ということだね。
そしてその中には人を貶めたりするのも含まれる。
その対象にジュリがなってしまった瞬間があったらしい。
「お酒が入っていたから余計に気が大きくなってたのよね、その令息。声も大きくて直ぐに人が集まってきて。そういうのにグレイが気付かないわけないでしょ? 速攻やってきて私の隣に立ったのよ、そして私がその令息にディスられてるって分かった瞬間よ。あの宝剣に手をかけたから焦ったわぁぁぁ」
ジュリが注目され話題の中心になって人に囲まれているのを面白く思わなかった若い男がいたらしい。グレイセルがいないのを良いことにジュリに突っかかっていったそうだ。
そして直ぐにやってきたグレイセル。
その令息を脅すためか、それとも本気で始末する気だったのか、あの物騒な宝剣に手をかけたと。
そんなグレイセルを止めるためにジュリが取った行動が、常識外れだ。
「どうやって宥めたんだい? ジュリに突っかかっているのを見たらキレて誰も止められなさそうだよ」
「それはほら、ガッ! っと」
ジュリはそういいながら指をピンと伸ばした手を突き出す動きをした。
僕とハルトは首を傾げたよ。
「なんだよそれ?」
「何をしたのジュリは」
「この手をグレイの口に突っ込んだの」
「「……」」
ちょっと待ってくれるかな?
なんだって?
「これすると黙るから」
え?
僕たちの思考が一瞬停止したのは仕方ないと思うよ。
ジュリ曰く、グレイセルの度を越す過保護による説教が煩わしく口に何かを突っ込んで黙らせたいと思った事があるらしい。
「でも案外口に突っ込めるものってないわけよ、それでどうしようかと考えて、手を突っ込んでみようと」
「お前のその思考がヤバすぎてめっちゃウケる」
「ああ、うん、流石に自分でもないわぁ、って思ったんだけど、突っ込んだらびっくりして黙るわけよグレイが」
「物理的に喋れないだけじゃないかな、それ」
冷静に常識的に意見を言えば、ジュリは頷く。
「それもある」
そういう答えを求めたわけじゃないんだけどな。
「でもね、これがなかなか効果覿面で」
そしてジュリはこれまた常識からかけ離れた事をサラッと言い放った。
「びっくりしたけど許容範囲って言うんだもん。だからそれ以降一瞬でおとなしくさせたい時はやるようになったのよ」
……。
「変なものを突っ込まれるより百倍いいではないか」
「お前もさも当然みたいな顔するなよ」
「口に手を突っ込まれる時は黙ってろということだから分かりやすいしな」
「一言黙ってろこそ分かりやすいし早いだろうがよ」
「……そんなにおかしなことなのか?」
「それをおかしいと言わなきゃ世の中カオス」
ハルトは笑顔でそう言い放った。
そして僕がリンファにその話をすると。
「放っておきなさいよ、馬鹿の極みカップルなんだから。人の話であの二人が変わってたら離婚もしてないわよ。周りが騒いでも無駄、時間と労力の無駄よ」
リンファはあの二人のことを馬鹿の極みカップルと言うようになっていた。
そしてどうにもならないと既に諦めていた。
「別次元のカップルでいいのよ、あの二人はね。そういうものだと思えばなんてことないわ」
リンファ。
別次元のカップル。
別次元のカップルって、なに?
ちょっとよく分からない、それ常識的な言葉?
ハルトは面白がって『友達が変態カップル』と周囲に言いふらしていた。
こんな酷い言われようのカップルはジュリとグレイセルだけだよ。
常識はずれなバカップルは進化中……。
明日が夏休みスペシャル最終日です。
ここまで酷い話ではありません、多分(自信はない)。




