◇夏休みスペシャル 其の一◇ ビーチが似合う
本日より3日連続夏休みスペシャル更新です。
相変わらず季節ものは緩いお話なので、暇つぶしにどうぞ。
夏恒例のクノーマス侯爵家プライベートビーチでの休暇。
地球式の水着にも慣れてきた面子と共に砂浜にやってきた。
今年はカラフルで大きなビーチパラソルも用意した!! これぞ夏のビーチ! って感じが良き。
「えー、これ欲しい~」
可愛らしい声で目を輝かせながらビーチパラソルを見あげそう呟いたのはチャノさん。
人魚の長カリシュタさんの妹。
なんか、普通にいる。
うん、いる。
皆固まったよ。
「あの、チャノさん? お久しぶりです……」
「久しぶりジュリ。ねえ、これ何ていうの?」
「ビーチパラソルですね、いや、その前に、なんでここに?」
「何で? 庭だから」
チャノさん曰く、海辺は全て庭なんだそうです。大陸を取り囲む海辺は人魚の庭。スケールのデカさよ。
「領地とか何とか、そんなの人間が勝手に言ってるだけよぉ」
「あ、なるほど……」
辺に突っ込んだり質問すると藪蛇になりそうなのでやめておいた。
チャノさんは最近ちょくちょくククマットとトミレア地区でお買い物をしていてその姿は珍しいものではなくなった、という人魚の中では特殊な立場になっている。今日もそのつもりで来てみたら私たちがいた、と。
チャノさんは私や【彼方からの使い】仲間が夏のビーチを満喫するためにアイデアを出して開発してきた品々に興味津々。
特にカラフルなビーチパラソルとその下にある折りたたみのビーチチェアが彼女の心を掴んだ様子。
「座ってみますか?」
恐る恐るといった感じでキリアがチャノさんにそう声を掛ければ彼女はとびきりの笑顔でありがとうと御礼を言い早速座る。
「……似合う」
「似合うよね」
ド派手な迫力美人がゆったりと座る姿が非常にマッチしている。
今チャノさんが着ている服はキャミソールのような上着とフレアパンツの、幾何学模様に似た独特の織物で作られた人魚の定番の服らしい。
鮮やかなその布も似合うけど。
「……なんだろう、何故か、とても、白いワンピースを着せたい。麦わら帽子を被せたい。そして砂浜に佇んで欲しい」
私の発言に全員が私に視線を向けてくる。そして無言で私の隣に立ったのはキリア。
「わかる」
その一言で目的もなくただチャノさんを着せ替え人形にして遊ぶことが決定した。
トミレアの市場中心に行き、白をメインに爽やかな色の夏物ワンピースに麦わら帽子、サンダルなどを買い漁った私とキリア。金ならある! と成り金丸出しな開き直りでついでに貝殻やガラス、スライム様などを使ったキラキラしたアクセサリーも買った。
「ルリアナ様やシャーメイン様も絶対に似合うけど、何故かチャノさんはビーチに佇むのが物凄くしっくりくる」
「人魚だからね」
「確かに」
「 《タファン》でもう一本日傘買って来てもよかったわぁ」
「ジュリがどっちにするか迷った方だよね? あれも良かったからね」
「しょうがないわ、また今度」
私のまた今度、の発言に一緒に楽しそうにしているチャノさんは笑った。
「何回でも付き合うわよ」
「え、いいですよそんな!!」
私とキリアが満足し、夕日が沈む頃。チャノさんは今日用意したワンピースなどを全て買い取ると言ってくれた。こっちのわがままに付き合ってもらったのでむしろプレゼントしようと思っていたのに。
「楽しかったしこれらは島の女の子たちも凄く喜ぶから。袖なしのワンピースだけじゃなく帽子もアクセサリーもトミレアの最新のものでしょ? そのうち間違いなく買いに来るものだったわ。何より二人がコーディネートしてくれたものは参考になるから若い子たちもお金を出してでも欲しがるもの」
「なんだか気を使わせてしまって恐縮です」
「私こそこんなに楽しい時間が過ごせるとは思わなかったわ、また来てもいいかしら?」
「「勿論!」」
二人でハモればチャノさんは満足げに笑った。
そして。
「お前たちは一体海に何をしに来たんだ」
グレイからその疑問をぶつけられ、私とキリアは二人で即答した。
「「チャノさんで着せ替え人形」」
「違うだろう」
ちなみに、チャノさんが最高に絵になるという話とその絵を使ってクノーマス領の海岸を夏の休暇にいいですよ! という宣伝に使ったら最高じゃないですかとクノーマス家に伝えたら、翌年春からそのチラシや看板が用意されて大々的な宣伝が行われ、その夏クノーマス領トミレア地区では白いワンピースと麦わら帽子の女性で溢れかえる事態になることは今の私達は知る由もない。
そしてチャノさんから支払いにと寄越されたのは握りこぶし大の金塊二つで、この時人魚の金銭感覚がバグっているということを知った。
正しいお金の使い方を教えようと心に決めた。
ビーチパラソルと折りたたみチェアは人魚の島では後に各家庭ごとに色やその模様が違う多彩なデザインが生まれて、人間の知らぬ所で人魚の島の海辺は日々艶やかなビーチパラソルが空に向かって広げられていくことになる。そして時々大陸のどこかの海辺で遊んだ後にぶっ刺したまま忘れて帰るということが起き、ビーチパラソルが人魚のいた形跡の一つとして定着し文献に載るのは、ずっと先の未来だったりする。
人魚を登場させたら絶対にやりたかったことでした。
明日も更新致します、お時間はいつもと変わらずです。是非お立ち寄り下さい。




