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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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45 * ジュリの必殺技

申し訳ございません、感想の返信遅れております。作者、夏バテでしょうか?体調不良で数日ダウンしておりました。

ESN大賞8で受賞した報告をし突っ走る宣言したばかりなのに申し訳ないなと思いながら更新優先でほかをセーブさせて頂いております。


返信は遅れますが最新に限らず皆様のお気に入りの話や気になった話などへの感想もお待ちしております。誤字報告、イイね、評価にレビューも変わらずお待ちしております。


そしてあとがきにお知らせございますのでそちらもお読み下さい。

 



 領主による領地経営において、必ずぶち当たるのが福祉事業拡大の困難さ、らしい。

 しかし、これについてグレイにこれでもかと感謝されている私。

 何故なら私が勢いとその場の雰囲気で色々言い出しそして実行、そこにさらに最低限ククマットの利益に繋がるようにも考えるのでグレイはそれをサポートするだけでいいから、という理由がある。

 別に私は善人でもないので福祉事業のために! と考えながらやっているわけじゃないのよ。何回でも言うけれど私の欲しいものを世の中に氾濫させたいという私利私欲塗れの欲望ついでに生活も良くなれば儲けものと棚からぼた餅的な考えありきで発言し行動しているだけなので、あまり褒められると妙な罪悪感が芽生えてしまったりする。

 つまり、私の言動は福祉事業の拡大に悩む筈のグレイを自然と助けているということ。


 それを外側から間近で見ているクノーマス侯爵家は早くから託児所の開設に尽力してきたし、領民栄誉賞なども今秋の豊穣祭に合わせて始めることになっている。土木事業や貧困層支援など、領主として当たり前の福祉事業が充実している領は治安の良さや生活水準の高さから移住してくる人が多く、それはつまり単純な領民の増加と税の増収という形で領主に還元されてくる。

 一方で、それが頭打ちとなったとき、つまり安定期に入ると不思議な現象が起こる。

 それは他の領が似たような事をし、その噂が流れてくるとそれに合わせて動く人達が出てくるというもの。

 まあそりゃそうだと思う反面、その移動先が今いる領より豊かかどうか安全かどうかの確認をする手段が人伝や噂に限られているこの世界。移住も地球よりも数倍の覚悟と決心を必要とする未発達な交通事情。

『やっぱり戻る』という手段や覚悟が一度で失われたり、長期間制限される事が殆ど。

 つまり、一度出ていった領民が戻って来ることは殆ど期待出来ない。その分領民の数も税収も戻らない。


「土木事業、支援事業、数年に一回や不定期な福祉事業は一時的な歯止めでしかないという話は度々耳にしてきたんです。それを何とかするためと思って始めた訳ではないことなんですが、思いのほか定住率を上げ、税収を上げる理由の一つに繋がっています。それが神殿等で行われる特定の事業です」


 それはつい最近グレイがクノーマス侯爵家の事業全般の現状について書かれた資料を借りてきて、ククマット領のものと見比べて気づいたことだった。

「ククマット領は好景気で今でも移住による住民増加が続いています。ですが、この移住者はクノーマス領内の近隣地区からは僅かであることが分かりました。さらにそのクノーマス領には他領からの移住者が増えています。純粋に二領共外部からの移住が増えているんです。これで二領の福祉事業について沢山の人が人伝や噂でどちらにも移住する利があると判断していることがわかりました。そしてもう一つ重要なのが、他の領で福祉事業が行われた場合に起こりがちな流出、つまり出ていく移住者が極端に少ない、ということです。この理由は何なのか調査をしました。その結果が、ルリアナ様がお配りした資料にある、こちらから皆様に提案したい事業、『婚姻福祉事業』です」


『婚姻福祉事業』とは。

 年齢は勿論再婚回数も性別なども問わず、領内の神殿、修道院などその地が信仰する神様の像を奉っている場所で結婚式をするカップルに結婚式で身につけるアクセサリー等を貸し出すというもの。ついでに新居の賃貸や購入の相談も受けられるという特典付き。

 これね、私が結婚するよりも前からずっと気になっていたことで、こういうの出来たら良いのにと思ってたことを思い切って事業化してもらっていたことなのよ。

 庶民はアクセサリー一つ買うのにも予算だけじゃなく保管場所などに気を遣う事になり買うことに躊躇う。

 だから一生に一度と思ってする結婚式で奮発してアクセサリーをと思うけれど、やっぱりお金の問題があって、アクセサリーにお金をかけるくらいなら新婚生活のための生活必需品にお金を、と結局買わないということになってしまっている。しかも日々の生活に追われながら新居を探すと言うのも実は一苦労。

「結婚式くらい華やかにやりたいし不安なく新婚生活に突入したいもんでしょ!」

 と、その現状に喚いた私。

「何かいい案はあるのか?」

 と、グレイ。

「領主、やってみるかい?」

 と、私。

「領主が?」

 と、首を傾げたグレイ。

「そんなにお金かからないはずだから試しにやってみない?」


 そうして密かに、しかもいきなり始まった試験的事業がまさかグレイの領主としての人気を地味に押し上げていたなんて誰が気付くか。

で、それに直ぐ様便乗したクノーマス家。

 その早さが功を奏したのかもしれない。クノーマス家も似たような状況になったわけだ。


 小さく少し形の歪んだ真珠が並ぶ一連ネックレスに、同じような真珠と金属パーツが散りばめられたヘッドドレス。どちらもシンプルだけど本物の真珠と金属の光沢でキラキラして見栄えもいい。そして純白の総レースのストールとそれを留める真珠のストールピン。この四点が新婦さん用。

 グレイとローツさん、そしてエイジェリン様が着なくなった訪問着を貰い、華美な刺繍や飾りを全て取っ払った上着は仕立て直して複数サイズを用意。花嫁とお揃いになるように胸元を飾るブートニア替わりの白いコサージュに真珠があしらわれたものと、ストールと同じ柄のスカーフ。この三点が新郎用。


『この日時にこの神殿で結婚式をしたい』という人に、それらを無料で貸出する。ついでに新居の相談も可。

 それが『婚姻福祉事業』。

 地味に、けれど確実に領主の支持率を上げて維持する要因となっているのがコレだと知った時はちょっと気が抜けた。

 そんな事で?! って思うじゃない、そんな事で、領主への忠誠心とか上がるものなの?! って。

 でもそれは私の感覚。

 この世界の人にとってはそれだけの価値があるってこと。


 ネックレス一本、上着一枚、それを買うお金が節約出来るなら、ささやかながらもほかの部分で贅沢できる。それが如何にこの世界の人たちにとって切実で嬉しい事か。


「せっかく不揃い真珠があるんです。格安でありながら見栄えのするアクセサリーを作れるんです。それをトルファ侯爵家を中心として周辺の同じ真珠が取れる領の皆さんにこの『婚姻福祉事業』を協力して展開してもらうのはどうだろう、という提案です」

 私はそのためにこういうのが良いんじゃないかと作った見本のヘッドドレスを手にした。

「不揃い真珠と、金属パーツだけのヘッドドレスです。色がこれだけなのでどの季節でも使いやすいですし、これはワイヤーではなく細いチェーンをつなぎ合わせているので真珠が傷ついたり劣化した際も交換が楽です。これらをメインにした装飾品を一式無料貸出するんです。あえて周辺領と同時に行う事を推奨します。理由としては、近隣同士で領民の奪い合いのようなトラブルが防げることと複数の家が同時に社交界などで宣伝でき一気に周知出来ますし何より複数家に対してなら横槍も入れにくく圧力なども最小限に防げるはずです。そして……領民に不揃い真珠の活用法を直に見せる事で真珠採取の仕事や仕分け、そして宝飾品生産に、興味を持ってもらえるんじゃないでしょうか」


 私はそこに畳み掛けるように続ける。

「興味を持ってもらえたら、実際に不揃い真珠の採取と宝飾品事業を小規模ながらも展開しやすくなるはずです。その展開によって領内の加工技術向上に繋がるでしょうし、新しい素材の取り扱いもしやすくなるはずです。そこにうちのように新居の相談なども出来るなど、何らかの付加価値を付けたらどうですか? 即時の結果は望めませんが……やってみる価値はあると思っています。何より、福祉事業が直結しているので領民は非常に興味を持ちやすくてその興味が持続します。領民の興味の持続、定住率に少なからずの影響を与えていることは、ルリアナ様が用意して下さった資料からも伝わるはずです」

 トルファ侯爵夫人かそれとも他の夫人か。息を飲む音が聞こえた。

「私はそれをあえてご夫人である皆様に、女性に主導権を握って貰いたいと思います。元々慈善事業は女主人がやるものという暗黙の了解があるのが社交界。ならばその慈善を、善意を大いに利用しませんか。領地の最たる女主人、領の母が領民の幸せを共に喜び歓迎し手助けしたら、それは立派な目に見える善意です。それを領主が事業展開する『貸出事業』に繋げれば、なかなか面白いことになるんじゃないでしょうか」













「お前のいた世界では『レンタル』というのか」

「そうですね、結婚式に着る衣装はレンタルが主流だったと思います。あちらの世界でも花嫁衣装などは高額でしたから買うのはほんの一握りでしたね。それにレンタルならそれ専門の店が沢山あってしかもドレスも種類豊富で選ぶ楽しみがありました」

「なるほどな」

「現状ドレスの貸出は無理でも……小物なら可能です。神殿で無料貸出されるものじゃない、他のもあればと思う人たち向けに、『貸出事業』があったらと思ったんですよね。そちらは当然有料ですが、デザインは別物だし種類も豊富、少し贅沢したいという人たちの心を刺激できるんじゃないでしょうか」

「そして、その少し贅沢をしたいと思う者たちをさらに愉悦に浸らせるのが『買取システム』か」

「はい。元々が富裕層が求める宝飾品より安いものばかりです、購入する気になれば購入出来ます。なのでネックレスだけでもストールだけでもいいし、纏めて一式セット割価格になったものを買取してもいい、そういう選択肢があれば、そんなお店が領で一番大きな神殿などの比較的近くにあれば、二カ所同時の宣伝効果も期待できますね。いずれは結婚式にふさわしい色や上質な布が使われているその領主一家の着なくなった服をリメイクしたり仕立て直しして婚礼衣装として貸し出せるようになるともっと良いです。ただこれには領主様やご家族の方の平民への下げ渡しに対する抵抗がない場合のみ出来ることですし、特に女性のドレスは好みや旦那様と合わせるなどで色に偏りがあったりして婚礼衣装として再利用出来るものが限られたりということもあります。こればかりは状況に合わせて計画を大幅に変更したりする必要が出てきますから慎重に進めてもらう必要はありますね」

「なら私のドレスは直ぐに使えそうだな、基本的に華美な装飾は殆どないから」

「装飾はそうでもエリス様の場合背が高いですしスタイルも良いですからサイズ直しで手間がかかりますよ、装飾を取り外すよりも時間もお金もかかりそうです」

「そういうものか」

「そういうものですよ」


 私とエリス様の会話を微笑ましく見つめるルリアナ様とセティアさんとは対照的にトルファ侯爵夫人は眉間にガッツリシワを刻んだ難しい顔をしている。そんな夫人を無言で、期待や懇願する目で見つめるご夫人たち。

 そりゃそうだ。

 私は『トルファ侯爵家を中心として』と言ったんだから。

 トルファ侯爵夫人がここで『イエス』と言わなきゃ全て白紙。

 エリス様がこの話を持ち帰って自領のガラスを使った宝飾品事業と絡めてすぐにでも始めるだろうことはこの場にいる人なら皆分かっている。

 既にクノーマスとククマットで行われている婚姻福祉事業とそれに関連する事業展開、そしツィーダム家が直ぐに追随するとなれば、トルファ侯爵家とその周辺は確実に出遅れる。

 ついでに言えばこの話をすることは先にアストハルア公爵夫人にもしてあって、トルファ侯爵夫人が『ノー』だった場合は侯爵家を無視して別の宝飾品等を利用しアストハルア公爵家が先んじて始めるわ、とも言われている。


「トルファ侯爵様の許可を取らずにこの場で決断するのは難しいですよね」

 ここで一押ししておこうじゃないの。

「でも、アストハルア公爵夫人はその場で決断しましたよ」

 その一言にハッとして顔を上げた夫人。

「必ず主人を説得してみせます、と。私の名で成し遂げられるなら必ず説得してみせます、と。女主人としての新しい役目を手にするために、見聞を、世界を広げるために必ずやり遂げますと。領民のためというのも勿論ですが、公爵夫人は自分の出来ることが増えることを純粋に喜んでいましたし、なにより……ワクワクしてましたね、好奇心を刺激されたみたいです。そんなあの方の様子なら必ずトルファ侯爵夫人の力になってくれると思いますよ」














「分かりました。トルファ侯爵領とその周辺、本日このお茶会に招かれたご夫人の領に関して私が責任を持ちましょう」

 そう宣言したトルファ侯爵夫人。

「君のそういう責任感の強さは気に入っている」

 と、エリス様に肩を組まれた時のあからさまに嫌そうな顔を見た時は吹き出して笑いそうになったけれど我慢したわ、誰か褒めて。


「大胆なことをしたわね」

 ルリアナ様から笑いながらそう言われ首を傾げると面白そうに笑い返された。

「トルファ侯爵夫人をここまで巻き込むなんて」

「ああ、それですか。それについてはアストハルア公爵夫人にご相談した時にいざという時は任せてくれて構わないと言われていたからですね」

「まあ、あの方が?」

「はい。こちらの予想以上に公爵夫人がやる気を見せていたのでもう任せちゃえ! と思えたのが大きいです」

「ふふ」

 ルリアナ様がいつになく陽気に笑う。

「ジュリの特技ね」

「何がですか?」

「『ご夫人ホイホイ』と『ご夫人巻き込み』」

「……それ、出どころはハルトですね?」

 目を細めて返すとルリアナ様はキョトンとした。

「いいえ、キリアよ」

 そして続けた。

「彼女は特技ではなく『それはジュリの必殺技です』と言っていたわ」


 キリア……。

 後でちょっと詳しく話をきこう。

 そしてセティアさん、笑うなら声出して笑って、こっちが恥ずかしいから。


 なにはともあれ、トルファ侯爵夫人巻き込みお茶会は無事終了した。

 先にも言っているけれど私のこれは決して善意だけではない。

 トルファ侯爵夫人を巻き込み味方につける。

 それに意味がある。

 この先の漠然とした不安に対抗しうる力としてトルファ侯爵家は外せないと思っているから。侯爵様だけでなく、夫人個人にも大いなる発言力があることはもう分かっている。

 だから巻き込んだ。いざという時にトルファ侯爵様がやっぱり面白い事を優先したいと言い出した時の抑止力にもなる。

 まあ、綺麗事だけでは生きていられないからね。


 ああ、そして。


 ……必殺技じゃないからね。

 断じてそんな必殺技は持っていない。





◇お知らせ◇

この後、作者夏休み頂き更新をお休みします。

更新再開は8月23日となります。

よろしくお願い致します。熱中症などに気をつけながら読者の皆様も良い夏をお過ごし下さい。この猛暑で軽い体調不良になるだけでも大変です、病院行くのも一苦労……。早く涼しくなってくれ……。

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― 新着の感想 ―
キリアの言う通り、明らかにそれは必殺技ですよね(笑) 個人的には仕事人系の必殺技だと思いました。 体調を崩されたとのこと。ご自愛ください。お大事に。 読み返しながらのんびり待っています。
(ご夫人)吸引力の変わらないジュリさん
いや、間違いなく必殺技ですよ、ジュリさんや(@_@。 かつ、誰にも負けない、特技でもありまっせ(*`・ω・)ゞ
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