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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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45 * ミルとメレ

□ご報告□

前回の更新後にも記載致しましたが改めて。


この度株式会社アース・スターエンターテイメント様の第8回アース・スターノベル大賞にて銀賞を受賞致しました!! それに伴い書籍化もしていただけるようです、どえらいことになりました……。


初投稿から今日まで頂いております感想、イイね、評価に誤字報告、これらが執筆へのダイレクトな糧となりここまで突っ走ることが出来ました。

全ての読者様に感謝申し上げます。本当に、本当にありがとうございます。


とは言っても、何か変わるのかというと特に変わりません。更新優先でジュリと共にこのまま勢いで突っ走ります、転ばない程度にw

なので、ここまで来たら既に600話も付き合ってやったんだ最後まで読んでやるよ!と読者様も一緒に勢いで突っ走るように読んでくださると幸いです。


ということで通常運転で今回も本編です、はい。何も変わりません……www

 


 結婚指輪・婚約指輪などの地金マテリアルのエッジやライン部分に小さな丸い粒を連続して打刻し装飾する技法を『ミル打ち』という。 ヨーロッパでは古くから伝わる技法で、欧米の美術館などに展示されている多くのアンティークジュエリーにも施されている程の定番かつ歴史ある技法。

 こちらの世界にもこの技法は存在していて、豪奢な宝飾品を好む富裕層のアクセサリーに活用されている。

 宝石の加工技術が未発達故に打刻する技法が発展したんだろう、と金細工職人のノルスさんが自分の見解を述べたことがある。

 それよりも。

「その技法に名前がないってこと自体が中途半端さを表してると思うわけよ」


 不思議なもので、私がそれが施された指輪を見た時に。

「あ、こっちの世界にもミルブレイン(打ち)があるんですね。サイズは大きいけど綺麗に打ち込まれてますね」

「ん、? ミル、なに?」

「え? これです、このラインに沿って珠状の模様が連なるようにする加工技術です。『ミル打ち』って言うんですよ、もしくはミルブレイン」

「……技法名があるのか。珠模様と呼んでいるだけだった」

「マジですかぁ」

 グレイと出会って日の浅い頃、そんな会話をしたのよね。


 ホント不思議なのよ。何となくそれっぽい呼び方で何となく周囲がそれで認識しているだけっていう、日本なら文句言われそうなざっくりとした表現がされているものが多すぎなのよこの世界。

「その件についてはクノーマス領とククマットではミル打ちと正式に技法名が確立されただろ?」

「二領ではね。でも他ではまだ場所によって全然呼び方が違うし『何となく』な呼び方で曖昧なままのところもある。というか、そもそもこの技法自体見たことない、知らないって人も多い」

「……急にどうした?」

「せっかくだから、ミル打ちの指輪を作ってミル打ちって言葉を定着させちゃおうかと思って」

 と言ったらグレイが口を噤む。

「……ん? なに?」

 めっちゃジト目でグレイが見てくる。

「サプライズで私に、用意してくれるわけではないのか」

「サプライズされたかった?」

「ちょっと」

 あら、珍しくかわいいこと言ってる。

「でもねぇ、サプライズってなるとどうしてもハルトを思い出してしまって」

『ああ……』とグレイも納得。ハルトはサプライズ好き男子なんだけど、やると空回りもしくは失敗する男でね。何回も見ているうちに、サプライズが私の中ではリスクが高いものという固定観念になりつつあってあんまりやりたくないわけよ (笑)。

「ごめんね、でもシンプルな指輪にミル打ちを入れたペアリングにはするつもりだから」

 するとグレイがコクリと頷いて納得する。私よりペアリングとかお揃いとか、こだわりがあるんだよねこの男は。私より女子な面があるからちょっと面白かったりする。


 ミル打ちの指輪を作る前提として、参考に出来そうなそれらしい、こちらの世界でも人気のデザインの指輪をシルフィ様とルリアナ様に見せてもらうと、金細工職人という職業が確立されているだけあって、やっぱりこの世界のミル打ちの技術は結構いい線行っているんだよねぇ、なんて感想が出る。細やかな点が隙間なく等間隔に打ち込まれ、それだけで華やかさを演出してくれているんだけど、一つ気になることが。

 華やかさを演出するためか、せっかくミル打ちしているのにそれが活かされていないように見えた。

 平坦で簡素さを隠すためにデザイン上の問題で細やかな細工や彫刻ができない所にミル打ちがされているものが殆ど。ミル打ちの良さを活かすのではなく、あくまで隙間をなくすための模様としての位置付けらしい。

 これは勿体ない。

 ミル打ちが主役のアクセサリーがあってもいいじゃない?


 イヤーカフ、ブレスレット、そして指輪。どれも全てエッジやライン、そして部分的にミル打ちを入れるだけの、他に一切模様も石も入らないシンプルイズベストなデザインにする。ミル打ちの部分のみ金にして二色の金属にする以外は本当に何の工夫もしない極めてシンプルなものとかどうかな、と。個人的にそういうのが好きだしグレイも好むんだよね。

「ミルうちのミルはね、ミルフィーユのミルと同じ」

「んえ?」

 デザイン中に突然私が話しかけたせいでキリアが変な声を出して、顔を上げる。

「ミルフィーユは千枚の葉って意味があるけど、ミル打ちも千打ち、つまり沢山って意味がある。はい、勉強になりましたね」

「ちょっ、ちょっと待ってメモする! 突然止めて、ホントにあんたのその突然の発言困る! 知識をそうやって無駄に垂れ流すのやめて!」

「だははははっ!」

 笑い方! と怒られても笑う私の隣でスケジュール調整をしてくれていたセティアさんが苦笑。

「でも本当に勉強になります。ミルフィーユってそういう意味がある名前だったんですね」

「そうなんだよねぇ」

 と、私は感心するセティアさんの隣でため息をつく。

「ミルフィーユも【彼方からの使い】が伝えたものって聞いてたんだけど、作り方はちゃんと伝わってるのに名前の由来が完全に消えてるというか、最初から伝わってなかったのか。……この辺も異世界の知識とか技術を取り入れる弊害なのかな、って思う」

「弊害、ですか?」

「え、なんで?」

「だってね、私の【技術と知識】も完璧ってわけじゃない。そのいい例が『救護システム』。あれは鍼灸師・整体師としての勉強をして、実際に資格を取った上に医学についてさらに真面目に勉強をし続けてきたリンファの助言があって今ゆっくりであっても進められてることなわけよ。私がやろうとしてたのはもっと単純な内容で専門知識がなくても出来る範囲でのことに限られてた。だから、リンファがいなかったら【変革】には至らないものだった可能性があったの。【技術と知識】ってさ、一人で完璧に伝えるのは限界があるんだよね。私のやってることは、ハルト、マイケル、ケイティ、そしてリンファ、彼らの助言ありきで形成と成長してる自覚があるから」

「……そう考えると、わたしたちが何気なく使っている異世界から持ち込まれた物は、由来や本当の使い方が伝わらないまま、ただ便利だからというだけで使われている可能性がありますね?」

「多いと思うよ実際に。もしちゃんと全てが伝わってたら、技術だけでなく言葉も多様化して発展していたんじゃないかな。理路整然ともっと言葉が、単語が由来と一緒に定着していたら解釈違いとか言葉そのものの湾曲も起こらなくて―――」

「ストーップ!」

 キリアがいきなり手を突き出してきた。

「それ以上喋られるとあんたは頭がパンクする難しい話を私相手でも強引にするから止めて」

 ごめん、そんなつもりはなかった。


 ミルブレインともうひとつ。

 これ、わりと重要なことだったけれどあえて今まで触れずにいた。

 それは『メレ』。

 宝石、アクセサリーに興味を持ったりオーダーメイドしたことがある人なら聞いたことがある単語の一つかなぁと。

 メレダイヤって聞いたことがありません?

 メレダイヤは主に〇.一カラット以下の小さなダイヤモンドのことを言い、その使い方としてはメインの宝石を囲ったり挟む形で脇石にしたり、カラットの揃った物を連ねてエタニティリングにする事が多い。パヴェリングのような小さな石を敷き詰めるようにして作られるアクセサリーにもこの『メレ』が使われる。

 ちなみにメレと言ったら基本的にメレダイヤのことを言うけれど、現代では様々な宝石が『メレ』として脇石やエタニティ、パヴェなどに活用されているし、カラット数も〇.二以下のものを指したりするので国やブランドによって差があるためメレを使いオーダーメイドする場合はその事を確認したほうがいいなんて話もあるらしい。

 そんなことを思い出しながら、なんでこの世界に来てから『メレ』という単語を使って来なかったかというと、この世界の技術から切っても切れ離せない『未熟さ』が挙げられる。


「そもそもの話、小さな石を研磨する技術がまだ追いついていない地域が殆どなのにメレっていう単語を持ち込んで規格を定めてしまうのは危険かもって考えたのがきっかけかな」

「危険、ですか」

 セティアさんが首を傾げる。

「うん、技術が追いついていないのに、先に規格を作ると……無駄にそれが出来る技術者の価値が高くなりすぎる気がするのよね。細かい、小さなものを研磨する高い技術があるってアドバンテージではあるんだけど、それを王侯貴族に抱え込まれてしまったらそれこそ世に出回らない原因になる。王侯貴族間で競い合う事である程度宝飾品の業界の技術向上は望めるけれど、そこでストップして終わる気がする。それこそ秘匿技術扱いされかねない。そうなると、広く一般にその技術が広がる前にその規格を基準にして職人が篩に掛けられて活躍の場を奪われかねない。技術もだけど教育の場すら未熟で曖昧な世界なのにたった一つの規格で線引きされたら悲しすぎるでしょ、なによりたった一つの技術だけがアドバンテージになるのは物を作る人にとってはちょっとリスク高いよね」

「なるほど……規格があることで、その規格一つが出来るか出来ないかで、職人の価値まで決まってしまうということですね」

「うん、それこそさ、技術者って経験積んでなんぼでしょ? それを規格一つで篩に掛けられたらその時点で経験や修行の場を失いかねない。……宝石図鑑を作ろうと思った時もそうだけど、私のいた世界の『規格や単語』は時としてこの世界の発展の妨げになるんじゃないかなぁ。使うのは簡単だけど、簡単だからこそ、ちゃんとその理屈や使い方も徹底して定着させなきゃ中途半端なまま使われていざという時に寧ろにされて役に立たないし邪魔になる。ない方が分かりやすいって事態を招きかねないから」

「そういえば、ジュリさんはいつも新しい素材が見つかると商品開発を進める一方でその素材の研究も徹底的にしていますね。それはやはりその考えからですか?」

「研究してるのはレフォアさんやロディムたちだけどね。私はよろしくねー! って言うだけ。でも、まあ、根底にはそれがある。だって怖いでしょ、なんとなく使うって。ましてこの世界だと不和反応なる魔物素材特有のリスクもあるし」

 そこまで話して視線を感じキリアに目をやると。

「……なんでそんなに難しい顔してるの」

「そういう話は後では駄目ですかね、商長」

「別に気にしなくていいよ? 規格に関してはちゃんと分かりやすく纏めていつでも見られるようにするつもりだし、今は喋りたくて喋ってるだけよ」

「気になる、けど、片手間で聞くと忘れる、このジレンマをどうにかしたいんですよ商長……」

 ああなるほど、と思いながらセティアさんと二人で笑っておいた。


「でも」

 セティアさんはちょっとわざとらしい期待する笑顔で私に目を向けてきた。

「ミル打ちとそのメレ、ですか。それを同じタイミングで話題にするということは何か思いついているのかな、と期待してしまうんですが」

 おっと、最近のセティアさんは本当に私のことを理解してくれてるなぁと感心と感動を与えてくれるわ。

「ふふふふふふふふっ、まあ、ねぇ、ぐへへへ」

 意味深な反応プラス不気味な笑いをしてみせるとセティアさんは満面の笑みを、キリアはというと……怖い顔になった。

「え、怖っ、なにその顔」

「キリアさんっ、お顔、お顔がっ」

 セティアさんもドン引きする凄まじい形相。

「そういうのは、先に言ってくれますかね、商長……」

「そんなこと言われても……。いつものことじゃん、ねぇセティアさん?」

 私のフリにセティアさんは苦笑。キリアはお構い無しにガッシリと私の肩を掴んだ。

「そろそろ勢いで思いつきでそういうのをサラッと言うのをやめてほしいんたけどねぇぇぇぇっ?!」

 痛い痛い、首取れるからそんなに揺さぶらないで。


 わざとじゃないんだから許してほしいわ。

 私も思いついたの本当にここ数日の話。今後の事でモヤモヤしたり重苦しい気分になっちゃって、それを吹き飛ばしたいと、吹き飛ばすにはやっぱり何か作るしかないじゃんね! ってなったから頭の中の引き出しを開けまくったら出てきただけなんだけども。

「はははっ、キリアは仕方ない」

 グレイは実に愉快げに笑ってグラスのワインを飲み干した。

「キリアもかなり想像力が豊かでデザイン力もある。だが、ジュリの思いつきとはやはり違うからな」

「そう?」

「私から見ると全く違うよ。キリアはそうだな……既存のものから次々と新しい物を生み出す。つまり派生させる才能に長けている。だがジュリの場合、そもそも持っている知識が異世界のものでそこにこの世界の知識もどんどん加わっていくわけだ。そうなると、生み出すものは全く新しいものが殆どだ。キリアはまだそこには到達していない」

「うーん、それは仕方ないでしょ。それにいつも言うけど私の知識なんてそのうち頭打ちになるんだから。そうなると派生品を生み出す才能のあるキリアが今後は 《ハンドメイド・ジュリ》の中心になっていくでしょ。だから気にすることでもないわね。この先は自然とオリジナルの私では思いつかない物を生み出すよ必ずね」

「ジュリだからこそ言える言葉だな」

 ちょっとからかうような言い方にムッとしてみせると更にグレイは愉快げに口角を上げた。

「それこそジュリは言うじゃないか。価値観がそもそも違う、とな。キリアは天才だ、そしてジュリと出会うべくして出会った一人と言っていい。それでも【彼方からの使い】ではない。その隔たりは大きいよ。私たちも紆余曲折あってこうしていられる。価値観の違い、それが生む隔たりの大きさはジュリも知っているだろ? ジュリに諭されても納得出来ない事があるのは当然だ」

 それをいわれるとなぁ、と唸ればグレイはやっぱり面白そうに笑った。


「ところで」

「うん?」

「ミルとメレ、組み合わせて何を作るんだ」

「それはちゃんとした計画書ができるまでのお楽しみ」

 今度はグレイがムッとしたので笑顔を返しておいた。





今一度。

本当に読者の皆様、ここまで一緒に突っ走ってくれてありがとございますーーーー!!! です。


受賞に関しては活動報告に経緯を別途掲載しておりますので、そちらも暇つぶし程度にお読み頂ければと思います。

改めてましてこれからもジュリ達を応援し見守って下さい、よろしくお願い致します!!


※重ねて申し上げます、本編更新優先!!

でも8月の夏休みスペシャル(緩い話)は今年もありますよ!!相変わらずくだらないお話になる予定。


※書籍化の予定についてはまだ先のお話ですので、気長にお待ち下さいませ。情報解禁許可がおりましたらその都度報告できればと思います。

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― 新着の感想 ―
 ジュリの方が情報に晒された経験が多いとはいえ、キリアの方が豊富な知識と経験はあると思うんですよね。主に生活密着の分野は。キリアはそれプラス天与の才としか言えないものを持つから、本当今後が楽しみです。…
前提が、価値観が違うからこそ常識に捕らわれずに新しい物ができる事ってあるよね。
 はーい、いい子で全裸待機してます(*`・ω・)ゞ✨>書籍化  ジュリ先生の講義、ためになるわー氵φ(..)
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