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42 * 不思議だねぇ

 



 ―――なお、過去に【大変革】を起こしていますので、ギフトは前回に準ずる内容となりそれぞれの能力が増強されます。そして恩恵を強く授かった個人が二名追加となっているためそちらにも新しくギフトが与えられます。


 ロディム・アストハルアの【スキル:鑑定】が【スキル:解析】を基にした改良と強化が行われ【スキル:鑑定*改訂版】となります。


 ロビエラム国王太子ジェラール四世の『精密加工』能力が強化されます。なお、加工可能素材についてキリア、ロディム同様【彼方からの使い:ジュリ】が扱えないものは扱えません。


 特例としてグレイセル・クノーマスは【スキル:神々の祝福】と【スキル:調停】を剥奪され『空き』が出来たため、今回その空きに【スキル:自由人の捕獲*改訂版】と【スキル:肉の選定】を今後さらに快適に使いこなせるように補正能力『自動アップデート機能』を追加します。―――










 ……情報の量。

 そして質。


 ロディムについては、うん、いいと思う、問題ない。

 王太子殿下。ちょっと、あの方は後の国王ですけど? そんな人の精密加工能力が上がってどうすんのって話でしょ、てかこれから普通にものつくりするの? 後の国王が? ……ははは。

 そして前回のバミス法国での【大変革】のことだよね? その時に能力が上がった人達がまたその部分が強化されるって事だよね。

 おばちゃんトリオの『なんとかなる』力とか、カイくんの『狂犬』力とかはっきり言って他の人が聞いても意味不明なあの謎な強化が更に起こるってことでしょ?

 そして。

 隣を見る。アップデート機能ってなんだよ、これ以上この男に私に関することで能力強化しても世の中の役に立たないんだからもういいよ、と心の中で神様達に文句を言っておく。

 グレイがポカーンとした顔から一変、とても爽やかな笑顔になった。

「有意義な強化だ」

「有意義かなぁ……」













 レッツィ様がブスッたれた顔をして玉座からプレタ様達を見下ろしている。

「なんで、俺がいない時に」

「普段の行いですわね」

 笑顔でバッサリぶった切るプレタ様、好きだぁ。でもレッツィ様の名誉の為に言っておく。

「聞こえる範囲がそのときによって違うみたいです。そして今回会場は離れてましたので」

……レッツィ様の納得していない顔とプレタ様達の『フォローはいらない』っていいたげな顔は、見えてない、ことにする。


 あの後目をカッ開いて駆け寄ってきたプレタ様たちは勿論会場中が【大変革】のせいでパニック、騒然となってしまい舞踏会は強制的にお開きとなってしまったのよね。大変申し訳ないと頭を下げたらプレタ様たちから逆に泣くほど感謝されたの。そもそも神々が起こす【変革】自体に遭遇することが奇跡なわけで、しかも更に上の【大変革】ともなれば尚更、その場に立ち会えた事が幸運であり幸福なのだと口を揃えて言われた。

 感動しなくなってる私とグレイが異常というか感覚が麻痺してるというか、とにかくそういうレベル。

 プレタ様たち夫人の皆さんはシレッとした顔をしているけれど、官僚の方や首長さんたちはちょっと居た堪れない顔をしている。こりゃレッツィ様から八つ当たりされる人が出そうだなと察したのでここで出しゃばっていこうと決め、私はネルビアとヒタンリ国の二国間、まずは交流を目的として両国で行ったら面白いんじゃないかという発想と『プロムナード』とはそもそも散歩道などの意味があり、それが時代を経ていろんな国でいろんな使われ方をするようになった中で学生達が行うフォーマルなダンスパーティーのことも指すようになったと説明する。

「プロムナードは基本的に気軽に参加できる未成年向けの舞踏会にしてしまうのが良いかもしれませんね。そしてどういうものかを他国に伝えたり広めたりする際は教育的意味を持たせた上でネルビア発祥として、ネルビア・プロムナードと呼ぶのもありではないでしょうか?」

 そこまで言うと援護射撃のようにグレイも続けて意見を出してくれた。

「私個人としては、学生による国家間の交流舞踏会を交流プロムナードと呼ぶのが良いかと思っております。そして今ジュリが申したようにこの国の子供たちの教育の一環として行われる舞踏会をネルビア・プロムナードとし、それを今後定着させる活動をするのはどうでしょう。いずれ大陸中で学生達が企画し行う舞踏会の発祥がネルビア・プロムナードとなれば、それだけでネルビアの名は教育と教養の一部として語り継がれて行くとこになります。国名が学問にそのまま通ずるものとして後世に伝えられることはそうあることではありません、これを期に良き意味を国名に背負わせれば国民も長く受け継いでくれるのではないでしょうか」

「……なるほど」

 ここでようやく深々と彫り込まれた眉間のシワが緩んだレッツィ様。


 後に、『プロムナード』という単語はこの大陸で『若者たちの学びの舞踏会』という意味で定着していくことになる。

 そして私とグレイが提案した事が基礎となりネルビア・プロムナードはヒタンリ国との留学生交流イベントを発端に瞬く間に大陸中の学校で取り入れる事が検討され実施されて行くことになる。

 驚く速さで異世界版プロムナードが定着する理由は、舞踏会や晩餐会といった貴族ならば決して切り離せない参加事のマナーや教養が未成年や学生であっても基礎をちゃんと知っていてそして実際に身についているという事実を、他国の富裕層の大人達が目の当たりにすることになるから。

 他所では貴族の子息だ令嬢だとマナーもルールも無視して好き勝手する傍若無人な子供たちも見受けられる中で、大人顔負け、いや場合によっては大人よりもスマートに優雅に社交場を笑顔で乗り切れる二国の子供を見た富裕層が自分の子供が劣っていると影で笑われる事があまりにも多くこれでは駄目だと焦ることになった、という裏話が私たちのところに届くまではあと数年を待つことになるけれど、そんなことを知る由もない私たちは夜遅く、日付が変わっても『これから変わると良いな』という思いと共に突然起きた【大変革】の話を交えながらプロムナードについてレッツィ様とプレタ様達と熱く語り合う事になった。













 昨晩の騒ぎの後はゆっくりさせてもらい、昼前に起きるという他国でしかも一番偉い人がいる所でそんな堂々としていられるなんてジュリだけだとグレイから笑われ (怒らず笑うあたりがグレイらしい)、『我が道を行くことにしている』と開き直ってこの国にいる事を言えば更に笑われた。

「でもそのジュリの開き直りがわりといい仕事をしているようだ」

「そうなの?」

「ネルビア首長国としては……食以外の事で大袈裟な歓迎やもてなしを好まないだろう? 正直どの程度まで【彼方からの使い】として貴賓扱いすればいいのか分からなかったらしいから」

「ああ、最初からグレイの方から強く言って貰ってたしね。自分のことは自分で出来るから専属の侍女は要らないし、護衛はグレイとクラリス嬢がしてくれるから基本的には要らないし、過剰な接待は疲れるだけだから文化を知る為以外の余計な茶会も夜会も要らないって」

「そう。そしてそれがここ数日で伝わって、ようやく朝も落ち着いて準備できるようになったな」

 でもそんなこちらの気持ちを汲んでくれることって実は珍しいんだよね。


 王侯貴族にとって人をもてなすイコール自分たちの矜持、資金力を示すいい場でもあるから。

 客がどんなに質素がいいと言ってもそれを『はいそうですか』と簡単に受け入れてしまうと『あの家はお金がない』とか『準備に手間取ったらしい』とか言われてしまうことがある。いや、本人がそう望んだなら言わないでしょって普通なら思うけどそこは王侯貴族、騙し合い。わざとそう仕向ける人もいるわけね。つまらないことをするなぁなんて思うのは庶民な私だからであって、こういった事は階級制度がある限りはきっと消えないし消せない問題なのかもしれない。

 それを踏まえて、ネルビアがかなり早い段階で私の気持ちを優先した対応をしてくれるのは絶対的な存在、レッツィ様がいるから。

 レッツィ様が『ジュリの望むように』と言ったから。

 彼の決定に対し否と言える人の多さに驚く反面速やかに粛々と従う仕える人たち。チグハグに見えるけれど、これこそが絶対君主のあり方なのかな、と考えさせられる。なぜなら君主の判断が正しいのか、最適なのか、従う人たちが自分の頭でちゃんと考えて動いているのよ。レッツィ様は暴君ではなく絶対君主、従う者たちにとって信じ頼れ、そして敬い従うに値する唯一無二である証。

 彼が大首長であることを望み大首長として長く務めてほしい為に諌めることも意見を否定することもする。


「プロムナードは、相当な速さと勢いで大陸に広まるかも」

「何故そう思う?」

「あのレッツィ様がネルビアからプロムナードを広めるために本気を出したら、国一丸となってやると思う。他の国じゃ考えられない纏まり具合で、国策としてやられたら似たような事を追随するなり横取りするなり狙う国がいても多分骨折り損で終わるよ。カリスマ性っていうのかな、凄くあると思う。そんな人が社交界の新しい形を持ち込むことになれば……誰にも覆せない、かも。あれ、ちょっと怖いわねそれ、【大変革】になっちゃったのも含めてネルビアが社交界のあり方まで丸っと覆す事になった時、私ってそこに名前出てきちゃう?」

 するとグレイはフッと鼻で笑うような、ちょっとふざけた感じに笑い出した。

「なによ?」

「心配するな、頼めば伏せてくれるだろう。大首長としてはジュリの立場を変えたくて呼んだわけではなく、あくまで招いて【真の恩恵】を享受したい、その身で体感したい、というのが根底にある。どうにでもなるんじゃないかな」

「そう?」

「それに……『プロムナード』で【大変革】が起きている時点で、それはもう【真の恩恵】の一端と言えるだろ? たった数日で目に見えて国自体に益を齎しているわけだ、そんな人物相手に余計なことをして煩わしい思いをさせるなんて無意味なことをあの大首長がするとは思えないな。イタズラ好きで自由奔放ではあるが何に関しても鋭く目敏く見極め大局を動かすお方だ、ジュリの気持ちを蔑ろにすることはないだろう」

「過去に面倒起こされてるけど?」

「あれはあれ。あの時はジュリという未知なる存在が気になって仕方ない時だった、今は違う。この国へ招く事が出来た事で相当満足しているはずだし、目的を達成したと言っても大げさではない。こうなってしまえばもう困るようなことは起こらないと思うがな」

「なるほどねぇ、そういう考え方もありね」

 なんてことを話してその日は終わったのだけど。


 翌日。

 通信魔導具にてローツさんから手紙が届きました、はい。

 ロディムが突然自分の【スキル:鑑定】が変化して【スキル:解析*改訂版】になっていて困惑していることと、ロビエラム国王太子殿下の側近の方の名前で似たような問い合わせの手紙がこちらも通信魔導具で届いている一体どういうことだ、ジュリは何をやらかしたんだ、と言う半分説教じみた内容に笑うしかなかった。

「……ローツさんの『鬼畜の右腕』って能力も上がってるはずなんたけどね? 本人気づいてない? ロビエラム王太子殿下は【スキル】じゃないけど気付いたから問い合わせしてきたんだよね?」

 と、その時。


あの子(王太子)の周りに能力の変化に気づきやすい特異体質の者がいるのよ』


 おっとここでセラスーン様登場!


「セラスーン様、じゃあやっぱり【スキル】と違って本人が元々持っている能力や才能の場合気付きにくいものなんですか?」

『大半はそうね、でもグレイセルのように五感の優れた者なら些細な身体の変化も直ぐに分かるから能力の変化も気付く事が多いわね』

「……ん? てことは、グレイって例の神様の声でお知らせがなくても変化は感じ取れてる?」

「感じ取れているな。そういうものだと思っていたが、違うのか」

 あんたがびっくりするな、私がびっくりだよ。

『まあ、グレイセルですもの、ねぇ?』

 神様も認めたよ、グレイが色々突き抜けているってことを。


 つくづく、この世界は不思議だと思う。

 神様の掌の上、踊らされ踊り続ける人間たち。

 魔力や魔素というこの世界では解明不可能な神様由来の力によって発展したものの頼りすぎたことで未熟で発展速度が極めて遅く。

 その中でランダムなのか神様の気まぐれなのか、やけに能力が高い人がいて、私たち【彼方からの使い】が時々召喚されて。

 まるで奪い奪われを煽るような身分や学力だけでなく力の格差がイヤに目につく今日このごろ。

 でもなぜか周囲はその事に気付いていないし気にしない。


「そのことに、疑問を持たないで生きていられるのが不思議」

『まあ……ジュリは既に気づいていたのね?』

「そうですね、あまりにも神様たちに振り回されているように見えます。神様たちを否定しているわけではありませんよ、人間側の問題ですね」

『そう、分かってくれるのね、嬉しいわ』

「人間って、物凄く貪欲なんですよ、なのにこの世界はその貪欲ささえ半端というかムラがあるように思えて……」

「なんの話だ?」

 グレイは僅かに首を傾げた。

 貪欲なのに、半端。

 階級制度がそうさせているのか、それとも魔力や魔素と言ったものが生活を支えているからか、この世界の歴史の中でも瞬きにも満たない時間しか過ごしていない私にはその原因はわからないけれどセラスーン様は分かっているんだよね、この感じ。そして私にさえ教える気はない、ってことかな。

 まあ、そうだよねそこまで面倒みないよね神様だって。


「不思議だよねぇ」

「なんの話だと聞いているんだが?」

「うははは!」


 別にわざわざネルビアに来てまでこれ以上考えることではないなと笑って誤魔化しておく。





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 そっか…あの場にいなかったのか大首長。そりゃショックだし不機嫌にもなるわ(笑)  そして何故かものつくりに便利な能力が上がっちゃった王太子君の名前が判明。後に4人で並んで愚痴を溢しながら希少素材を…
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