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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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42 * 私とあなたでダンスを

4月1日から火曜日と土曜日の週二更新再開しております。読み飛ばしご注意くたさいませ。


そして先日レビュー頂きましたありがとうございます!!

レビュー以外にもイイね、感想、評価に誤字報告、これらも大変ありがたく思っております。今後も変わらずお待ちしておりますのでよろしくお願いいたします。


 



 プロムナード。

 フランス語で『散歩する場所』や『遊歩道』のことを言い、これが古くから様々な意味に転じて使われている。

 中でも有名なのはダンスパーティーじゃなかろうか。

 アメリカやカナダでは学生の学期末に行なわれるフォーマルなダンスパーティーのことをプロムナードと呼び、それがさらに分かりやすく親しみやすく受け入れやすい形となって小説や漫画などで若者が参加できるダンスパーティーや少し砕けた雰囲気が許されるダンスパーティーとして表現されてきたように思う。

 今回私が参加するのもそのプロムナードに近いように思う。

 舞踏会に招待されて失礼・下品にならない、足首まで隠れるドレスならなんでもいいよー、という緩さ。パートナーと衣装を揃える必要もなく、必ずエスコートされて入場する必要もなく、ましてや入場時に名前を読み上げられ恭しくカーテシーをする必要もない。

 招待状を貰った人が会場に開場時間になったら好きな時に好きなように入っていく。

 正しく散歩気分で参加できる舞踏会。

「ここまで砕けた舞踏会って初めてで逆に緊張するんだけど」

 私がそんなことを言うと隣を歩くグレイがちょっとだけ眉毛を下げて笑う。

「正直私もだ。舞踏会や晩餐会を想定してかなり持ってきたが、『堅苦しくなく』『好きに』してくれと言われるとどこまでが許容範囲なのか逆に分からなかったな」

「だよね?! 結構困ったよね?!」


 日中の観光がスケジュールのタイトさで難しい反面夜は比較的融通が利くので、気軽に参加できる夜会へ招待させてくださいとプレタ様からお声が掛かったので快諾して本日私はグレイと共に広い会場に足を踏み入れている。

 最初は舞踏会と聞いていたのでベイフェルア国で通用するちゃんとしたドレスとそれに見合ったアクセサリーを用意した。しかしネルビア首長国側の侍女さんに確認してもらったら『堅苦しく豪華すぎます』と一蹴された。

 ならばと晩餐会でも着用可、食事の邪魔になりにくいスッキリとした袖周りとワインレッドの落ち着いた色味のドレスを見せたらそれも『上等すぎます』と一蹴。

 じゃあこれはどうだと親しい人達とのお茶会の席で着れるシンプルかつ足首ギリギリの裾で動きやすいドレスを出したらようやくオッケーが貰え安堵したものの、それに合わせるアクセサリーを用意したら『高価なものは必要ございません』と再び一蹴されて困った私。当然パートナーであるグレイもそれに合わせるため、アレもだめコレも駄目と何度も伝えに走る執事さんに申し訳なく思いながらも苦労してかなりシンプルに仕上がり何とかオッケーを貰ったものの『また選び直しか』と何度もうんざりするという珍しい経験をした。

 慣れって怖いわぁ。なんだかんだ言いつつ堅苦しい舞踏会や晩餐会のドレスコードに私もすっかり慣れてたんだもん。


 それにしても本当にカジュアルな舞踏会だな、と入場してすぐに感じることが出来た。

 皆ドレスではあるけれどシンプルだし高価なアクセサリーを身に着けている人はいない。

 主催であるプレタ様も刺繍やレースと言った飾りはあれど、華美にならないシンプルなもの。第一夫人だと主張するようなアクセサリーもなく、唯一彼女が特別だと分かるのは献上したプレタ様にぴったりなあのストールのみ。

「ジュリ様、クノーマス伯爵様、ワインをどうぞぉ」

 かなりフレンドリーな言葉と雰囲気に私とグレイはビクッとなり二人で『あ、どうも……』とハモって給仕さんのトレーからワインの入ったグラスを取れば、給仕さんは何事も無かったように私たちの近くにいる若いカップルに同じようにワインを勧めている。

 知っている舞踏会とは全然違うその雰囲気にポカンとする私たちのところに、物凄い早歩きで寄ってきたのはクラリス嬢。

「あのっ、これ、どういう舞踏会でしょうか?! どうしたら良いのかわかりません、ご一緒してもよろしいでしょうか?!」

 あ、うん、その動揺分かるよ。てか彼女は正真正銘のお嬢様、私なんかよりよっぽどこの状況が理解できないし馴染めないのは当たり前。

「一緒にいようねー、困るよねー、わかるー」

 私の言葉にクラリス嬢は泣きそうな顔をして何度も頷く。うん、ホントにその気持ちわかる~。

 グレイとクラリス嬢曰く、王都の学園での卒業式後のパーティーはこれよりもっと形式張っていて、それこそ学園で学んだマナーを試されるような緊張感があると。なので二人にしてみればこの緩さはどうしていいのか分からないレベルということらしい。


「申し訳ございません」

 それはそれは大変申し訳なさそうに頭を下げてきたのはバビオ君。

「ネルビア式の交流舞踏会についての説明までは今までの話し合いでされていなかったのですね。完全にこちらのミスです、大首長からも謝罪の言葉を賜って来ましたのでこの場では私がお伝えさせて頂きます」

「まず頭を上げようバビオ君。謝罪より説明求む!」

「あ、はい」

 私が鼻息荒く彼の肩を掴んで訴えるとバビオくんはちょっとびっくりしつつも説明してくれた。


 元々は大首長の夫人達が友人を招いて気兼ねなく『ダンスの練習をする会』が始まりだとされている。歴代の大首長は勿論、かつては各首長の夫人達の中には上流社会のマナーは勿論基本のダンスのステップすら知らない人も多かった。貴族階級がない首長制が生んだ他国との違いだね。

 大陸では一般的な貴族社会とは全く違う、首長制という独自の社会を築くネルビア首長国ならではの地位を得た未熟な夫人の社会性を培う場は大首長、首長の夫人が提供する、というのがそれこそ建国当時からのことらしい。

 それがいくつもの時代を経て形が変わり、まだダンスが踊れなくてもいいし、婚約者がいなくてもいい、正しいマナーや社交性を身につけるための勉強の場として役に立つ舞踏会を大人たちが子どもたちのために提供しましょう、というこの砕けた感じの舞踏会がネルビアでは『舞踏会の一つ』として正式に認められるようになって。

 それをバビオ君に説明されて目がパチパチした。

「……凄いね」

「え?」

「それってさ、つまり……家とか関係なく、大人が皆で子供を育てようってことだよね?」

「ええ、体よく言えばそうなります。各地区が首長によって統治され、独自の文化と風習が根強く残るところもあります。それ故一般的な大陸で定着しているマナーや慣習に馴染めなかったり覚えるのに時間がかかることもありますので。なるべく恥をかかずに済むならそれに越したことはないという考え方ですね。大首長は各地区の首長から数年の任期毎に選出されます、つまり、誰がいつ大首長の第一夫人になるかわからない。第一夫人が世間を、大陸のことを知らないのは流石にまずいだろうというのもあるのではないでしょうか。そのために可能性がある全ての子供達にいつでも平等に学ぶ場を提供するのは大首長や各首長の務めです」

「凄いよ」

「ジュリ様?」

「それって、本当に凄いよ。やろうと思っても出来ないよ、絶対に。……だって、私が知ってるのは、皆、蹴落とすため、優位に立つためで」

 私はどんな顔をしていたのか。

 クラリス嬢とバビオ君は目を丸くして固まって私を見つめる。

「ジュリ」

 グレイの優しい声。

「踊ろうか」


「え、私そんなに悲しそうな顔してた?!」

「してた」

 グレイに殆ど身を任せくるくる回される私が驚いて大きな声を出すとグレイは目を細め楽しげに笑う。

「ジュリの驚きは理解できる。私自身、ダンスもマナーも自分ため、家のためにと教わり身につけたが、結局は家のプライドのためだ。侯爵家の子供として恥ずかしい振る舞いは許されない、他から見下されないようにという意味がとても強かった」

「そうだよね、だって、階級制度の暗黙の了解となってた。ダンスは楽しむものというより、本人のためというより、家格や地位やプライドを守るため。個人の意思は尊重されにくい」

「そうだな……。この舞踏会のように、将来国を担う子供達が皆恥をかかないように、安心して世に出れるように大人が一丸となって育てるために行うなんて、知らなかった。羨ましいよ、私が子供の頃はあそこで楽しげにくるくる回る男女のように笑って舞踏会に参加したことなどなかったから」

 名前も知らぬ若い男女はあははウフフと楽し気な声を立てながらダンスホールを軽快なステップで動き回る。そんな二人を見つめるグレイの目は、少しだけ寂しげに見えた。さっきの私もこんな目をしていたのかもしれない。


 こんな世界があるなんて。

 知らなかった。

 知っていたら、世界はもっと明るく鮮やかに見えたはず。


「だが」

 グレイは若い男女から視線を外すと私に戻す。

「ジュリと踊るのは楽しい。ジュリと踊れる事が幸せだ。ベイフェルアのクノーマス家に生まれたからこそ、今がある」

「……そうだね」

 私は笑顔を返す。

「私もグレイと踊るの楽しいわよ! グリングリン振り回されて!! 」

「ジュリはダンスは直ぐに覚えたな」

「グレイの教え方が良かったからよ」

「そうかな」

「そうよ」

「それなら良かった」

「うん」

「因みにジュリは軽いからいくらでもくるくるしてやれる」

「あのね、やり過ぎは良くない。前に回され過ぎて酔って吐く羽目になったから」

「ああ……でもジュリも楽しそうに回されるじゃないか」

「回ってる時は楽しいんだけどある時突然限界が来るのよあれ、目が回ってヤバいことになる。そして勢いがすご過ぎてヒールが吹っ飛ぶ。私まさか自分の履いてたヒールが吹っ飛んで侯爵家の窓ガラスを割るなんて思わなかったから」

「あれはルリアナも経験しているから気にするな」

「ルリアナ様もエイジェリン様にくるくるされてたことあるんだ? そしてヒールぶっ飛んでガラス割ってるんだ? ……何それ、クノーマス家あるあるネタ?」

「シイにダンスを教えている時は柱に飛んだイヤリングが突き刺さったことがあったな」

「……イヤリングって突き刺さるものだっけ?」

 そんな妙な会話をしていたら。

「バビオ様、ダンスお上手」

「クラリス嬢も」

「私はイヤリングが突き刺さるほど回されても平気ですわ」

「そうか、では今度安全な場所で私の練習に付き合ってもらえるだろうか? 苦手なステップがあるんだ」

「喜んで」

 え、普通にダンスって安全な場所でするものだよね? 二人の言ってる安全な場所って、意味が違う気がする。そして、イヤリングが突き刺さっても平気なほど振り回されたいし振り回す気満々なの? そんな二人は私たちの横を颯爽と通り過ぎていった。

「あの二人怖い」

 自然と出た言葉に、グレイは愉快げに笑って頷いた。


「子供の教育……成長のために舞踏会を開く、か」

 グレイはポツリと呟く。

「素敵だよね。子供達が将来困らないように、胸を張って世に出ていけるように大人達が手を貸してあげるなんて」

 舞踏会の会場の端ではどうやらダンスの講師らしき女性と男性が数名の若い男女の前でステップを踏んで見せている。

 お酒を配る給仕の人達も緊張している男の子に声をかけてあげて笑顔を引き出してあげている。

 因みに大人達もにこやかに和やかな雰囲気の中で気取らずこの舞踏会を楽しんでいる。その中で胸元に赤い花のコサージュを付けている紳士と髪飾りに赤い花を使っている淑女はこの舞踏会に資金提供している人達だそう。その人たちは指導者としての役割も担っており、紳士淑女を相手にカーテシーをしたり会話をしたりしてそれらを評価をもらったり指導してもらったり出来るようになっている。

 主催であるプレタ様をはじめ、レッツィ大首長の夫人たちは会場にいるそんな人たちに声をかけ資金提供に対するお礼を言い、そして談笑する。


「面白いかも」

「何がだ?」

「この舞踏会って、やりようによっては文化交流の場にも出来そうだなって。例えば国交があってしかも友好国のヒタンリ国の学生とこのネルビア首長国の学生たちがお互いにこんな感じの子供たちの成長の場となる舞踏会や晩餐会を開いたらどう? 大人達の力を借りて、互いの国に交流目的で学生を派遣して、文化や風習を学んだり勿論共に一定期間学校で一緒に過ごしたり。その一環として、舞踏会を企画して参加する。国が違えばマナーも違う、それを身を以て知れるし学べる。ネルビア首長国のこの砕けた舞踏会なら、そういう事に使えそう」

「なるほど……この舞踏会には厳しいドレスコードはないが、あえて学生達が自分たちなりの舞踏会の特色を出すためにドレスコードを決めたりする経験もいいかもしれない。出される軽食の内容も経験者からの助言を受けつつ自分たちで考えたり。学校の授業の一環にそういう企画を自分たちで立てる事もあったらいいかもしれない」

「それいいね。マナーや教養を学校で教えることはあっても、一から企画するってなかなかないもんね。……ネルビアとヒタンリ国でやるプロムナード、そうプロムナードでいいいんじゃないかな」

「プロムナード?」

「うん、プロムナードってね―――」












【変革】を開始します。

『プロムナード』は学問・教養に組み込みが可能なため重要度が高いと判断されました。よって【大変革】となり【彼方からの使い:ジュリ】の恩恵を享受する者たちへのギフトも贈られます。













「「……おお?」」

 私とグレイの声がハモった。元夫婦、いつも一緒にいるからね、わりとこういう時似た声出したり同じ動きするんですよ。

 いやぁ、まさかネルビアで【変革】が来るとは。しかも【大変革】よ。そしてプロムナードの意味合いは大丈夫? 合ってないまま確定はちょっと恥ずかしい。

「【変革】来たわ、しかも【大変革】。あれだ、変なギフト来るやつ」

「ああ、妙な事が格上げになるアレか」

「そう、何が格上げになるんだろ、ちょっと怖い」

 呑気にそんなことを話していたら。その場がシン、と静まり返っていることに気付いた。


 あ、ごめんなさい。

 そりゃびっくりしますよね。


「取り敢えずもう一曲踊ろうか」

「あー、そうする? 踊るうちに落ち着くかもね」

 と言葉を交わしたら皆に睨まれた。『それどころじゃねえだろ』って視線が痛い。


「……またそのうち踊ろう」

「うんそうだね……」


 踊るのは諦めた。





プロムナード、本来の意味が大きく変わった代表の一つではないでしょうか。


昨今の日本では漢字の読みが昔からの正しいものに加えて勘違い、間違いで読まれている読みも新しい読みとして認められる事が増えているようです。


意味といい読みといい、時代と共に変わっていくのが不思議な気がしています。

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周りが無言でざわついてるな?
 ぷろむなーど…うん、アレだよね? シッテルシッテルッ!  大首長(キター(゜∀゜ 三 ゜∀゜)ーッ!?)
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