表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

568/641

42 * その人はこの時を待っていたらしい

※前回、更新日を3月1日と記載してしまいましたが4日が更新日でした。申し訳ありません。


◇600万PVありがとうございます!!◇


ここまで読んで頂きましてありがとうございます。

興味のあるジャンルだな、好みだなと思って頂いてイイねや感想、評価がまだの方は是非お待ちしております。

そしていつものように誤字報告ありがとうございます、助かっております、作者性格的に雑な所があるので心から感謝ですw


先日の更新後、今までにない評価とブクマを頂きました。ありがとう御座います。

ただ、ただ!! 突然で作者ビビっております。

あらすじにも記載しておりますが、魔物はじめ廃棄素材も登場人物も世界情勢も行き当たりばったりで緩めで、ついでにご都合主義で設定し執筆しております。

これは無理な設定じゃないか、矛盾してる、同じ事前にも読んだ、と読者様がご指摘したい点は多々あると思いますがそこは本当に緩く暢気に構えて読んで頂くしかありませんので、これからも寛大な心でお付き合い下さい。

※この件につきましては活動報告に詳細を載せましたので併せてお読みくださると幸いです。

 



「これは……」

 感じたことをどう表現すべきだろう。

 ヒタンリ国で王宮を初めて全体を眺めた時も自分の感性を刺激される感動で言葉を上手く発することが出来なかった。その時の事が思い出された。

「これが、ネルビア首長国……」

 この時代のネルビアのトップであるレッツィ・エダ・ネルビアが住まう大首長邸。

 邸、というよりも城。主城と思われる巨大な建物を中心に構築形成がされているらしい。

 広大な土地の中心に立つその大首長邸は白亜の壁に玉虫色の輝きを放つ瓦のような屋根で、この時点で独特の光景となっている。周囲に積もる雪の照り返しも加わってなお一層その光沢が際立っているのかもしれない。

「あの屋根は火防亀という魔物から取れる脂を何度も重ね塗りしてあの色になるんです。耐火性に非常に優れており並みの火魔法なら簡単に跳ね除けます」

 私と並んで歩く人は国境線を越えてネルビア首長国に入った時に先頭で私たちを出迎えたビルダ将軍の側近であり副将軍のハリムさん。大首長とビルダ将軍双方から直々に私たちを出迎える任を与えられたと言う。

 基本的に停戦協議のメンバーがすべてに置いて優先的に挨拶をしたり行動するんだけど、特殊な立場で参加する私は大首長とビルダ将軍の護衛下に置かれ、故にこの副将軍がこの大首長邸内でグレイが判断に困ることがあった時の相談相手であり、グレイもクラリス嬢も入れない場所に私が招かれた際の護衛責任者となったことも説明を受ける。

 そう言った話はもっときちんと真面目に聞くべきなんだけど、独特の雰囲気を醸し出す外観にすっかり気持ちは持っていかれてしまっているので難しい話や真面目な話はグレイに任せることにした。


 驚いたことに、金銀財宝と言えそうな見た目の物が極端に少ない。

 その代わり漆黒の物置台や椅子からわかるように、各所に配置されている調度品はほぼ黒で統一されておりこれが独特の雰囲気を更に強めているように見える。

(螺鈿もどきの特漆黒に似てる……)

 どうしても確認したくて立ち止まり、直ぐ側の黒い物入れらしき大きな箱を眺めながら指でなぞると、ハリムさんが声をかけてきた。

「ジュリ様が開発に携わった、工芸品の黒の塗料に似ている、そう思われましたか?」

 心の中を読まれたような驚きに勢いよくハリムさんに顔を向けると彼は目を細めて微笑む。

「ジュリ様がその作り方を伝えた螺鈿もどきの調査を任された過去がありまして」

「え、そうなんですか?!」

「はい、その時に私も思いました。しかしジュリ様が直ぐにお気づきになったように似ているだけの全くの別物です。正直、螺鈿もどき細工のために開発されたという特漆黒と比べるとその艶に雲泥の差がありますので今更これを国の自慢の工芸品塗料とは言えません」

 ハリムさんが苦笑しながらその物入れを見つめる。艶に関してはねぇ、特漆黒は漆を目指して作ってもらったものだから違っても仕方ないというか当たり前。しかもあれは原材料自体は手に入りにくいものなんてないけれど塗料になるまでの全ての工程が手間が掛かるし温度管理などが難しい。そのため真似して作るにも生半可な気持ちで手を出しても失敗するし思った黒さや艶が出ないので多大な損害を出す可能性もある代物。

「そのうち、扱える職人さんも出てきますよ」

「だといいのですが」

 またハリムさんは苦笑した。


 そんな話をしているうちにヒタンリ国の第二王子殿下夫妻も合流した。

 今回このお二人は私の後ろ盾として、そしてネルビアと正常な国交がある国の要人として重要な役割を担っている。ネルビア側が停戦協議で決裂や難航する際の仲介役として指定してきたのがヒタンリ国の王族だった。そこで面識があり戦闘面で大首長が太鼓判を捺した第二王子が、身分という点で女性のみの集まりでクラリス嬢よりも万が一のトラブルに対応しやすい妃殿下ヨニス様がご夫婦そろって抜擢された。

 仲介役半分、私のため半分。

 いや申し訳ない!! 恐縮です!! と声を大にして伝えたけれどそこはネルビアとヒタンリにも思惑ありきということで私が断ったとしても何らかの形で必ず今回の事に関わるのは決まっていたようなのでそうなるともう私の範疇外、お言葉に甘えることにした。勿論タダ程怖いものはないのでヒタンリ国へは後で献上品を、第二王子殿下ご夫妻にも個人的に何かお渡しすることに決めてある。


 ふー、と息を吐き出すとすかさずグレイが私の顔を覗き込む。

「どうした」

「流石に緊張してきた。バミス法国、ヒタンリ国で謁見は経験済だけど、こういうのは何回やっても慣れるものではないね」

 肩を竦めてそう素直に言葉にすると、私の前を歩いている第二王子殿下が振り向いた。

「あくまでジュリ殿は立ち会うだけ、というのが今回のネルビア訪問だ。あまり肩ひじ張らずに我々の後ろにいて構わないよ」

「でも、大首長は私がこの国に来ることに意味がある、みたいな事を言ってるんですよね? その曖昧さが今までは無かったので落ち着かないんですよ」

 すると今度は案内役として先頭を歩くハリムさんが言葉を発した。

「ジュリ様で最後なのですよ」

「え?」


 最後? 私が最後、ってなんだ?


「ご存命の【彼方からの使い】で、ネルビア国の地をお踏みになられていないのは、ジュリ様だけです。すでに隠居生活を送っているお方や人里離れた所に住んでおられる方、そして宰相の夫人となられた多忙なフォンロン国のヤナ様も過去にネルビアに来て頂いております」

「えっ!?」

「【彼方からの使い】は殆どの方々が授かった能力で大陸中を股に掛ける事が可能です。ですが、ジュリ様は中でも特殊、ほぼククマットからお出になられない。そしてようやく、そのジュリ様をこうしてお招きすることが叶ったのです」

「あの」

「はい」

「つまり、ホントに、招く事に意味があった、ってことですか?」

「はい」

 迷いなく戻ってきた返事。

「その事については我らが主、大首長から詳しくお聞きいただければよろしいかと」













 先行して別の案内役と共に進んでいたエイジェリン様やマーベイン辺境伯爵様たち。

 通された広間で合流しホッとしたことよりも、その通された広間に私は気を取られた。


 豪華絢爛からは程遠い、非常にシンプルな広間。

 他なら所謂『玉座の間』とか『謁見の間』と呼ばれる場所に該当すると説明を受ける。

 真っ白な壁と柱には一切の装飾がない。床は大理石が覆い、数段の階段がありその一番奥には玉座がある。その玉座すぐ下に連なるように置かれた椅子は夫人達が座るのだそう。そしてそこから少しだけ広めに空間が取られた所、中央に玉座に向かって真っ直ぐ敷かれた絨毯を境界線に沿って私たちが座る為の椅子が整然と並べられている。

 まず、私たちが座る前提で最初からこういう場所に椅子があることに驚かされる。

 王や皇帝に謁見するのに椅子に座る、という国はこの大陸でもネルビア首長国だけで、極めて特殊なこと。

 そしてなにより。

 椅子も絨毯も、黒。

 椅子は彫刻が施されているし、絨毯も豪華な刺繍が美しいけれど、そこには差し色などは一切ない。

 そして玉座。

「……あの玉座に大首長が座っただけで鳥肌ものかも」

「なに?」

「あの玉座は、座る人が映えるように計算されてるんじゃないかな」

 自然とそんなことを発した理由。

 真っ黒な大きくて細やかな彫刻が施された玉座は唯一金色の塗料でその彫刻に色が入れられている。でもその入れ方は『豪華に見せるため』ではない。

 多分座る人、つまり『大首長が最も映えるように』するための差し色だ。その理由はその金色の比率の少なさと入れ方。彫刻全体が目立つように、美しく見えるようにではなくそこに人が座った時にまるで光を放っているかのように見える効果があると思われる。彫刻に沿って塗られているように見えるけれどその彫刻自体が外側に向かって、つまり放射状になっている。彫刻がメインではなく、金色の塗料が放射状に入るようにするためのデザインにみえる。

 しかもいかにもな『後光』ではなく、自然な形で座った人の後ろで光が広がるように金色が差し色として入るよう計算され尽くしてるんじゃないかな。

 玉座のためではなく、あくまで大首長のため。


 究極なのは、その計算され尽くした玉座の後ろにある天井から吊るされている幕。

 真っ黒な幕に刺繍されている大首長レッツィ・エダ・ネルビアを表す大首長紋に使われている糸はなんと濃紺。

 他の国なら絶対に金や銀、若しくははっきりと見る事が出来る色などを使う所をこのネルビアでは濃紺。

 光沢ある艷やかな糸を幾重にも重ねて刺繍されているのか、立体的になっていることから濃紺の糸なのにその大首長紋は浮かび上がるように見える。見えるけれど、そこに主張の激しさは微塵もない。

 これからも分かる。その場に座ることを許された唯一のための空間だと。


 贅の限りを尽くし権力や財力を誇示するための玉座ではない。


 本質を捉えた究極の玉座とそのための空間。


 唯一無二、大首長のため。


 鳥肌ものだった。













 そしてついに迎えた。

 張り詰めた空気が支配する中。


「面を上げよ」


 カッカッカッ、と軽快かつ力強さを感じる足音と共にやって来たその人は、頭を垂れる私たちの前を颯爽と通り過ぎその勢いのまま数段の階段を登り玉座の前に立つと座ることもなくそのままそう言葉を発した。それに従い全員が揃って頭を持ち上げ真っ直ぐ前をみた。

「よくぞ参った、ベイフェルア国の尊き者たちよ」

 低いながらもよく通る、自信に満ち溢れた声。

「この国を治める者として、心から歓迎する」


 玉座に座ることなく。


「我が名はレッツィ・エダ・ネルビア。此度の停戦協議が良き方へ向かうよう願う。そして協定締結となればできる限りの支援も約束しよう」


 型破りなのか、異質なのか。私には分からないけれど、とにかくその人はそこまで言うと驚くほど人懐っこい笑みを浮かべた。


「さあ、堅苦しい挨拶はここまでだ」


 私含めベイフェルア国側はみーんな、呆気に取られてしまっている。

 だってさ、堅苦しい挨拶はここまでだ、って言われた所でこっちはどうすればいいんだよ、って話でしょ。んなこと言われてもこっちから『じゃあタメ口で!』なんて言えるわけないし、『取り敢えずお茶にしますか』って雰囲気ですらない。張り詰めたこの空気は間違いなくレッツィ・エダ・ネルビアの放つ威厳ゆえ。

「大首長、ベイフェルア国の方々は大首長のこの挨拶を知りません」

『発言よろしいですか?』の前置きもなくヒタンリ国の第二王子殿下がいきなり大首長にそう声をかけたし、しかも苦笑してるし。

「ん? ああそうだった、スマン」

 いや、軽っ……。大首長、なんですかこの軽くて緩い喋り。

「戸惑われるのは当然ですが……こういうお方なのでお気になさらず」

 殿下、そうはいっても気にしますって……。


 ベイフェルア側の挨拶はエイジェリン様とマーベイン辺境伯爵様に任せて私は呑気に大首長を観察。

(あれが大首長の正装なのよね? やっぱり、計算されてるよ)

 大首長が身に纏うのは黒。ここまで徹底的に他の色を使わないのは黒が大首長を象徴する色なのかもしれないと自ずと気付く。

 ボタンや勲章のような物は金や銀の細工がされているものの、差し色として、というよりは高価な金属はそこにしか使わないから、ということかもしれない。

 羽織るマントすら黒。よく表は白で内側が赤とかそもそもが豪華絢爛な刺繍が施されているとか、地位を表すように工夫されているマントが王族では当たり前の中で、これ。もし王族が一堂に会する事があればこれぞ唯一無二『ネルビア国大首長』と誰でも分かる。マントの襟代わりの毛皮も黒だし、手袋も、靴も、黒。

 究極は、宝飾品を一切身につけていない。

 指輪の一つもしていない。

(意図的なのか、単にそういう趣向なのか分からないけれど……だとしても)


 これは一見の価値あり。


 本人の存在感がとてつもなく、周囲を圧倒するならば、()()()()()。そう思わされる。

 本来なら周囲の黒に溶け込んで薄れてしまいそうな同色にも関わらずそうならないと自信がなければ絶対に出来ないこと。

 この人は。

 それがわかっている。

 分かっているからこそ、徹底的に黒に拘れる。

(これだけ黒が似合う王族もいないかもしれない。……あ、首長って王じゃないんだった。意味合いもちょっと違うんだよね確か)

 私の周りがまだ張り詰めた空気で謁見に挑む中で失礼なことに考えが逸れはじめてしまった私。


 そしてエイジェリン様が私の名前を挙げた。


 あ、私の番がようやく来た! と、これが済めば謁見という最初の重要な任務が終わるんだと気持ちを引き締めた瞬間。


 目が合った。


 はっきりと。


 私はこのレッツィ・エダ・ネルビア大首長と面識はない。

 ないけれど。


 ()()()()()をしているのが一目でわかった。

 初対面でも分かるほど、その人の瞳には熱を感じた。

 それは恋や愛とは違う。

 期待とも違う。


『待ち人』に向けられる純粋なる視線。


「よく来た」

 私のカーテシーを遮るように、その人は手を前に突き出して私の動きを止めた。反対にその手を下ろすよりも先に足を動かし、玉座を降りてきた。しっかりとした迷いない足が真っ直ぐ私に向かってくる。

「本当に、よく来た」

「あ、はい」

 喜びや歓迎ではなく切羽詰まった嘆願にも近いそんな声。

「この時を待っていた」

 そんな声に呆気に取られ間抜けな反応をしたのにも関わらず、その人は()()()()視線のまま、目を細めた。


「【彼方からの使い】……ジュリ・シマダ。ネルビア首長国へようこそ」






やっとジュリがレッツィと会った……。

レッツィ、随分前からその存在は話にも登場してるのにジュリと対面すらしてなかったという珍しいキャラでした。なんかよくわからずホッとしてますw


この章か次の章でネルビア編の人物紹介として一話掲載予定しております。

そのうちなかなか筆が進まぬ各国の説明なども……と考えてますが、いつになるか分からないのでそちらに関しては気長にお待ち下さい。基本的なことは決まってるんですけどね、基本を決めただけで勢いで話しを更新し続けて来たため追加要項と修正でかなり大変なことになっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 そのジュリすら鳥肌を覚える謁見の間を何度も破壊した男がいるという…。
むしろ、あ、まだ逢ってなかったね⁉️的なノリでしたヾ(*´∀`*)ノキャッキャ ん~、存在感ある、イケメン…なイメージがあるんですがねぇ、大首長さん。たまに、うっかりさんあるけど(*゜▽゜)ノ
レッツィ様、内心メッチャそわそわしてそうw そして座らないんかーい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ