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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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41 * お客様は神の欠片を持つエルフ……ではなく人魚!

文字数多めです。

 



「可愛い」

「ぷにぷにしてる」

「温かいなぁ」

「あ、笑った笑った」

 その人達はローツさんとセティアさんの子供であるリード君を囲んで和気藹々としている。

 セティアさんはポカーンとして、ローツさんはげんなりした顔をしていて、グレイは青筋立てて仏頂面で、たまたま居合わせた白土部門長のウェラと友人のシーラはハラハラした顔で私たちとその人達を見比べている。

 私はというと、この穏やかな空気にただただ失笑した。


 事の起こりはそう、ほんの少し前。

「【彼方からの使い】が経営する店はここで間違いないか?」

 現れたその人達の代表らしき人物からそう声を掛けられたうちの若い従業員 (女の子)は固まった。

 店前の掃除を担当していたその子はその人たちに囲まれていると気付いて、声を掛けられ、そしてインパクトある見た目とその状況から固まってしまったらしい。

 丁度出勤してきた自警団の店前の整列や巡回担当の若い二人は女の子が変な奴らに絡まれているように見えたという。なので慌てて駆け寄り女の子を囲んでいる輪から腕を掴んで引き寄せて後ろに下がらせてからそのまま距離を取り警戒しながらも声をかけたそう。

「 《ハンドメイド・ジュリ》に何の用だ」

「場合によっては領主グレイセル・クノーマス伯爵の許可を得ているので拘束する」

 と。

 うちのお店の若い子に絡む人の大半はお店への嫌がらせや情報を得るためにお金で買収しようとするような人達なので、自警団も慣れたものでこうして直ぐ様対応してくれる。

 そんな正しい対応をしてくれた自警団の若者二人に対して代表らしき人は告げた。


「【彼方からの使い】ジュリに会いに来た。我々は人魚。とある古い知人から紹介されて来た」


 人魚。

 人魚キターーーー!!


 報告を受けてテンション上がった。

 最高に上がったの。エルフの長アズさんから人魚については聞かされていたし、もしかするとそのうち姿を現すかもしれませんよなんて言われてもいたから期待してた。

 そう、そんな時期もあった。


 今は、何とも言い難い……。


 直ぐ様人魚と名乗った人達に会うべく外に出ようとしたらグレイにまずは自分が確認してくると言われたので素直に任せたまでは良かった。

 そして店の外に出たグレイを心配する心半分好奇心半分で窓越しに外を見ようとした瞬間。

「ああ、貴様が【彼方からの使い】を侮辱した挙げ句離婚を突き付けられ捨てられたにも関わらず縋り付く阿呆か」

 声の主がグレイに秒で喧嘩売った。

 そしてグレイはその喧嘩を秒で買った。

「名乗りもせず随分な事を言う者がいたものだ。出直して来い、躾のなっていない阿呆な奴らがジュリに会えると思うなよ」

 バチィ!! と、その瞬間何かがぶつかるような音が響き渡る。

「あ、ヤバ」

 グレイが殺気を放つとドン、という音と振動がするんだけど、その殺気に対抗し得る気を放つ人と対峙した時にさっきの音がするの。てゆーかそんな音を覚えてしまった自分ってどうなの? と思う間もなく気持ちを切り替えグレイの顔を見れば据わった目で笑ってる。ブチギレた時の顔!!

「なんだ貴様、人魚とやりあうつもりか」

「出直して来いと言っただけだ」

「貴様に用はない、引っ込んでろ」

「ジュリに会いたいのならば私を説得なり懐柔なり出来たら考えてやろう。誰の紹介だろうと失礼な奴を会わせる気などない」

「ああ? たかが人間のくせに生意気だな。アズもこんなヤツの何を気に入ったんだ」

「ほう、アズの紹介か。ということはお前が人魚の長か。これはまた随分エルフと気質がかけ離れていて驚かされた。あちらは聡く穏やかだからな」

 何やってんの?! とパニックになりかけたそこへ運悪くやって来たのがウェラとシーラ。二人はうちの制服である白ブラウスと紺のスカートに 《ハンドメイド・ジュリ》と刺繍されたエプロンを身に着けた姿で今夜の夜間営業販売所で出品する商品のリストの確認に来ただけ。でもそれを人魚は見逃すはずもなく、グレイが駄目なら二人に……と直ぐに切り替え声を掛ける。そしてそれを阻止するのにグレイが割って入り、再びバチィ!! が。

「はいそこまで!!」

 扉を勢いよく開いて飛び出して、私はグレイの腕を掴む。

「ストップ、それ以上は駄目。死人出るでしょ、グレイ駄目だよ」


 スッと瞬時に殺気が霧散するグレイ。ブチギレた状態で同じことが起こると言うことは完全にグレイは臨戦態勢に入っていたことを意味する。こうなったら最早相手を倒すまで止まらない。その時周りに配慮なんてするはずもなく、ただ甚大な被害を与えるだけになるとハルトから教えられていた。この男の厄介なところは私のことになるとすぐにその状態になりかねないということ。そしてそれを止められるのがハルト達ごく一部と私自身だけということ。


 その場が静まり返る。


「はははっ!」

 気まずいような張り詰めているような奇妙な空気を一瞬で吹き飛ばすような笑い声。

「こりゃあバミスやテルムスの奴らが警戒するわけだ!! 面白いな、最初の殺気でその程度かと思ったが……なるほど、なるほど。アズが気に入るわけだ。【彼方からの使い】を守るにはうってつけの力と性質だな。人間からみたら貴様の放つ気は底なしに見える、段階的にしかも何度でも爆発的にそうやって気を放てるなんて対峙する人間にしたら恐ろしい以外の何ものでもないな。どこまでその気を高められる? 見た所、まだまだ数段はいけるだろ? 最大でやったらこのあたり一帯は吹き飛ぶな、 流石は『殺戮の騎士』と呼ばれただけのことはある、天性の殺戮者だ、誇っていいぞ」

 この褒めてるんだか貶してるんだか分からない言葉を浴びせられたグレイは。

「人魚の長、カリシュタという。よろしく頼む」

 と、このあと何事も無かったようにそう名乗ることになる真っ赤な髪にルビーのような瞳のど派手な見た目のその人を思いっきりぶん殴った。


 そしてそこに現れたのが、最近天気が良い凍える寒さが和らぐ日は短い時間リード君を抱っこしてお散歩に出るようになったというセティアさんとローツさん。

 グレイが人を殴ったのを目撃したローツさんが駆け寄って来るのと同時に。

「子供だな!」

「赤子ではないか!」

「可愛いー!」

「わあ、赤ちゃんだわ!」

 セティアさんに抱かれるリード君に気がついて今までの殺伐とした空気をかき消してその人達は和やかタイムに突入した。













 あまりの変化に対応しきれず愛想笑いも出来ないまま、店前で大人数で居ても仕方ないのでとりあえず二階に招き。フリースペースと言っても大人がこれだけ集まれば狭く感じるという広さでその人達、人魚は暫くリード君に夢中だった。

「子は宝だ、それは人魚も人間も変わらないだろう」

 人魚は総じて子供好きらしい。そして。

「だが残念なことに人間の子は大半が大人になると阿呆か悪になり下がる。頭も力も弱いくせに威張り散らす姿を見ていると目が腐る」

 人魚は発言が、過激。

「これだから人魚は嫌なんだ……」

 ポソッと呟いたローツさん。

「ローツ様は人魚を知ってるんですか?」

 側に座るウェラがそう問うと彼は頷いてため息を漏らす。

「昔ちょっと、な」

「え?」

「王都で騎士団に所属していた時に。……当時の上司が海で人魚と遭遇して捕まえようとしたんだ」

「……ええ」

「逆に捕らえられてな。水に引き摺り込んで意識が遠退く直前に水面に顔を出させて、の繰り返し。その時に思いつくだけの暴言を上司は耳元で叫ばれ、助けようとする奴らは鞭の様に変化する水でシバかれ、その鞭のような水を避け続け何とか上司を救出した俺は最終的に『お前絶望的につまらないわね、友達いないでしょ』と言われ」

「うわぁ……」

 ウェラは微妙そうな声を出し、それを黙って聞いていたシーラはハハッと顔を引き攣らせて小さく笑った。

 そしてそれを聞いていたとある人物は。

「あら、お前あの時の?」

「え?」

「あんな下心だけで生きている人間を助け出した挙げ句私の水を全部躱して悲鳴一つ聞かせてくれなかったクソつまらない男」

「……」

「やっぱり今も友達いないんでしょ?」


 で、今に至る。


 誰が見てもグレイとローツさん、そしてウェラとシーラの表情に納得するだろうなぁと思いながら、リード君を抱っこしたまま人魚に囲まれちょっとどうしていいか分からず笑顔を貼り付けているセティアさんを救出するべく私は一つ咳払いをして気を取り直し声をかけた。

「あのー、とりあえず私に会いに来たご要件をお伺いします」

 そうすると人魚四人はくるっと振り向き私をまっすぐ見つめる。

 うおっ、エルフとはまた別の人間離れした美形揃いに一斉に視線を向けられるとその迫力でびっくりしてしまうからやめて。しかも全員髪の毛が派手。コスプレで使うような、アニメや漫画に出てきそうな本来ならばあり得ない色ばかりでしかもその髪の毛の色と瞳の色が同系色。

 ド派手な見た目と言わず何という、という彼らは慌てもせず『ああそういえば』見たいな顔してようやくセティアさんとリード君から離れた。

「後で抱っこさせてね」

 紫色の髪と目の迫力美人さんがセティアさんに笑顔で言えばセティアさんはコクリと頷く。どうやら子供好きは本当らしい。


 そうしてようやくまともな自己紹介。赤い髪と目の男性はカリシュタさん。人魚の長であり【海の支配者】でもあるとのこと。……支配者。うん、間違いなく強いよね。

 紫色の髪と目の女性はチャノさんといいカリシュタさんの妹さん。

 そして明るい青緑色の髪と目の男性はメトロスさん、オレンジ色の髪と目の女性はヨディンさん。この二人は恋人同士でカリシュタさんの側近のような立場だそう。

「まずはじめに」

 私はこの人達がどんな人か分からないしどんな要求をしてくるかも全く想像つかないし、何よりグレイに対して喧嘩腰だったことは無視できないので主導権を握るためにも全員の紹介が終わった瞬間に私が一番に話すことにした。

「先ほど領主であり私の元夫であるグレイセル・クノーマスが対応しましたが基本的に事前の連絡なり紹介なりを頂けない方、そして挑発的態度の方はあのような対応をしてもらっていますので喧嘩上等、好きなだけ殴り合って頂いて結構です。その代わりこのククマットに今後立ち入りを認めませんのでその事はお忘れなく」

 人魚四人は目を見開いた。

 私はさらに続ける。

「アズさんの紹介とのことですが、エルフからの紹介だからなんでも話を聞く、相談に乗るなんてことはありません。人魚ならば《神の欠片》、持ってますよね? ということは……エルフのように私の周囲のことをアズさんに聞かなくてもある程度把握する能力なり何なり持っているはずです。それでもなお、私とグレイセル・クノーマスの過去を掘り返してそれを揶揄いのネタにするとか挑発のネタにするとか、ククマットの領民や私の親しい人達を侮辱するのは……正直不愉快です」

 私この世界最弱だけど言うことは言うよ。

「そんな人たちの為に時間を使う気はありませんので、まだそのつもりならこのままお帰りください」

 これにはウェラとシーラ、ローツさんとセティアさんも驚いたのがわかった。

 まあね、基本的に私はとりあえず話を聞く、というスタンスでやって来たから。

 でもさぁ、それも疲れるわけよ。

 バカバカしいくらいに権力とか暴力が支配する世界で私のやり方は直ぐにナメられるきっかけになることは経験則から分かっている。

 そして目の前の人魚は《神の欠片》を持つ。グレイ相手にぶつかり合っても勝てる算段があるほどには強い。エルフ同様、敵にしてはならないレベルの実力を持っているはず。

 だったらどうするか。

 もう、シャットアウトよ、それ以外にない。

 この後の態度次第ではアズさんに即相談。場合によってはセラスーン様にも相談する。

 いちいち相手にしてらんないのよ、忙しいのよ、充実してるのよ、邪魔すんなよ、ってこと。

「……先程は失礼した」

 しばしの沈黙の後、低く重みのある声で人魚の長カリシュタさんが言葉を口にした。

「謝罪する。申し訳なかった」

「謝罪を受け取るかどうか、理由を聞かせてもらってからでもいいですか?」

「……かっ……」

「え?」

「戦ってみたかった。人間でこの男程の実力者はそう出会えるものではない」

「……」

 あー……。

 戦闘狂……。

 私たちは途端に肩の力が抜け、失笑するしかなかった。

 アズさん、こういう人紹介するときは立ち会ってくれないと困るよ!


 謝罪を受け入れ、まだぎくしゃくした空気だったけれどウェラとシーラは仕事があるので離席することになった。気になって仕方なくてソワソワしていたのには笑いそうになったわ。この時人魚の四人は全員ウェラの後ろ姿をみていたことに気がついて彼女たちが一階に降りていってからその事を聞いてみればカリシュタさん曰くウェラから強い『恩恵』を感じたからだと教えてくれた。流石、神様が直接作った存在。エルフのように私たちでは分からない物を見たり感じたりする能力があるんだと納得。

「アズだけじゃなく他のエルフもわざわざ姿を変えてまで何度もこの地にやって来ることに純粋に興味が湧いた。俺が生まれてから千年、いくら友好的な【彼方からの使い】が住んでいるとしても里以外の土地にエルフが好んで来るなんて初めてのことだからな、何か特別な理由があるんだろうと思った。それとさっきも言ったがお前の【核】を貰って【称号】を得た男にも興味が湧いた、この二つだけでも十分俺たちが地上に顔を出す理由になる」


 なるほど。

 そもそも今まで人魚に出会わなかったということは、彼らも人間との接触を避けているもしくは単純に嫌いということ。どんな理由にせよ自分たちと同じ考えであるはずなのにエルフが一箇所の土地に何度も訪れる事が彼らにとっては衝撃ってことよね。

 そしてグレイはなぁ……もう『グレイセル・クノーマスだからね、そういうこともあるよね』っていう扱い。説明のしようがない、この男に関しては規格外なことばかりなので最早『そうだよね』の一言で納得しておいたほうが気持ち的に楽だったりする。

「本人が許可するなら人様に迷惑がかからない所であればどうぞお好きに力比べしてください」

 と言っておく。隣でぎょっとした顔をしても無駄! エルフの里の時もドラゴン達に毎日絡まれて逃げられなかったんだから諦めなさい。

 それを聞いてカリシュタさんたち、いい笑顔です!!


「そしてもう一つ。こちらが本題と言っていい。少々こちらでは悩む案件があってな、その話を愚痴としてアズに話したら『ジュリさんに相談すれば?』と言われた」

 なんてことない顔でカリシュタさんがそう言った。

 アズさーーーーん!! そういうのやめてーーー!!

 エルフの相手も未だ持て余してる私に戦闘狂な人魚なんて無理だよ!!






ついに人魚登場。

皆様が思っているような人魚ではないかもしれない、と思いつつ、まあ、創作物なので仕方ないなぁという寛大な御心で受け止めて下さると助かります……w


次回更新日は1月21日です。

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― 新着の感想 ―
 エルフも近代的だったし、陸に上がる人魚について特に変な感じはしません。でも「規格外」という言葉を現地人が使ったら、違和感があります。ただ「どうせなら~」ではジュリのものつくりで「規格」という概念が定…
グレイとハルトが人魚と戦うとき、二人とも水面を凄まじい勢いで走りそうよな。 (足が沈む前に次の一歩を踏み出す的な)
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