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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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5 * 育成するには

本日一話更新です。


まだ話のストックに余裕があるのでこのまま火曜日土曜日の更新ができそうです。

 


 侯爵家から私のところに来ることになった二人の侍女さんですが。今できることを全力でさせる、というシルフィ様の意向もあり、毎日『ネイリスト』になるべく爪磨きやマッサージ、使われる素材への理解と無数に存在するであろうデザインを考えるために奮闘している。


 まあとにかく感心する集中力で、今日は二人とも無言でネイルアートに使える素材の一覧とにらめっこしてたわ。工房で二人並んで黙々と紙を睨んでる姿はちょっと違和感あるけど、まあいいや。

 当店の優秀な事務員ことグレイは二人の姿をみてちょっとひいてる。

「なんだ、あれは。怖いな」

「凄いですよね、集中力が」

「ルリアナには『とても気合いが入っていて、楽しみよ』とは言われたが」

「あ、そうなんですか?」

「専門の職の資格を持っている侍女は一流とされるからな。自分の格を上げられるチャンスではあるか」


 なるほどね。そういうことならこの集中力も頷けるわ。

 あれから侯爵様とも何度も話して、二人がこの世界の爪染めのスペシャリストといってもいいくらいのパーツへの理解や爪の手入れの技術、そして自分で爪を美しく見せるデザインを考え出せるようになったらまずこの侯爵領で『ネイリスト』という職業を認め彼女たちにその資格を与えることになった。

 そしてこの二人が私とケイティのさらなる試験 (要はそれなりに知識のある私たちを満足させられるか? ということ)を通過した暁には改めてこの二人を『ネイリスト』を育成できる講師資格を認めて、侯爵様とシルフィ様、そしてルリアナ様による紹介制を導入して身元のしっかりした家の侍女であること、侯爵家もしくはルリアナ様の御実家とのコネがあることを確認出来た人のみをとりあえず受け入れて、やはり試験を合格できれば侯爵領で『ネイリスト』と認める。


 あくまでも侯爵領内での資格となる。他では『ネイリスト』を職業とは見なされない。領令によるものだからね国の法によって認められてるわけじゃないから。

 しかし。

 それでいいのよ。

 まず、侯爵領では『そういう職業が生まれて、そして実際に資格として見なされている』と認知されることが目的。

 あとね。


「ここは国でも有数の港を抱えているわ。力のある侯爵領ということもあって治安の良さは国内外から認められている。そんな優良な土地で新しく職業が誕生して、侯爵様がお認めに。女性の流行を左右する仕事となれば他所の国でも注目するでしょう。その技術と知識はここに来なければ取得できないのなら、否応なしに人の流れはこちらへ。海路を使い交流できる国ならば季節のよい時はこの国の離れた他の貴族領の者たちよりも簡単に訪れることが可能だわ。へたをすれば、国内よりも、近隣諸国が『ネイリスト』を職業として取り入れるためにこの地に人を入れるはず。そうなれば国も黙ってはいないでしょう。無理に宣伝する努力などしなくてよいわ」

 って。ルリアナ様です。

「さすがルリアナ、そうね、その通りだわ」

 シルフィ様もご満悦な分析。


 いやはや、このお二人がいたらこの侯爵家は安泰ですね。


 そして、爪染めの液が取れる樹木は他所の国でしか生息していない。

 このまま順調にいけば間違いなく高騰する。

 そこでルリアナ様が提案してきたのは、その樹木の育成に適した土地を見つけ、栽培すべきだと。そのノウハウをこちらが入手する見返りは『ネイリスト』。技術と知識を格安でその国に売ることで交易が盛んになり万が一栽培に失敗しても樹液の入手を優先してもらえる契約くらいは難なくできるのではないか、と。


 ……話が壮大になりまして。

 グレイは笑ってたわよ。この話をしたとき。

「実業家にでもなるのか?」

 だって。

 ならないわよ。


 そんなこんなでですね、他所の国との交易は当然丸投げです。エイジェリン様が『面白くなってきた』ってウキウキしながらその仕事引き受けてくれたよぉ。

 楽しそうでなにより。


 私は私の出来ることをするだけね。


 グレイは私の手を握って興味深げだ。

「それにしても、面白いものだな。こうしてラメを入れただけで印象がガラリと変わる」

 侍女さんがしてくれたネイルアートが施された爪。私もそれを見つめる。

「綺麗ですよね? 男の人はパッとみた印象で答えると思いますが女性は細部まで見ると思います。そうなると爪の均一なカットとか、際の丁寧な塗りとか、見ると思うんですよね」

「それでカットや爪磨きを徹底的にさせていたのか」

 そうそう、ここにはおばちゃんたちを筆頭に女性が毎日たくさん来てくれてるでしょ? 近所どころか近くの区画からも最近は人を雇って交代で来てもらってるから結構な人数がいるのよね。その人たちは格好の練習台。侍女さん二人も喜んで練習してる。

 それとね、皆から言われたの。磨いてもらうと爪が割れにくいって。切ったままだと確かにダメだよね、切り口のところからペリッと剥がれたり。

 農作業をする女性たちは今まで気にしたことなかったけど、爪磨いてもらったらやっぱり綺麗になって嬉しくてつい見ちゃうんだって。それで気づいたとか。


「しかし、綺麗だ」

 そう言って、彼氏に指先にキスされた。

「私の職業上爪の伸ばしすぎは危険なことも多いので短めにカットするしパーツは遠慮します。でも、時々こうして塗るのはありですね」

「そうだな、それがいい。『綺麗だ』と指先にキスをする回数が増やせる」

「……そういうのは別に増やさなくても」

「触れる機会が増えることは良いことだろう? それとも、指先へのキスは嫌か?」

 嫌じゃないけど、この彼氏は人目を気にしないスキンシップが多いので、これ以上増えると流石に恥ずかしいと察してほしい……。











 ……爪染めしなくても、格安で爪磨きだけ出来るってなれば結構な人気でるかも?

『ネイリスト』たちの卵が練習として格安でお店に立って、爪磨きと簡単な指先のマッサージとかしたらもしかして。

「指先が綺麗になるだけでも嬉しいわ、爪染めは高くて出来ないけど格安で整えられるなら時々通っちゃうかも」

 と、若いご婦人に意見を聞くと軒並みそんな返事。

 おばちゃんたちにも好評。若い女性ならなおのこと。

 研修生の練習台を確保するのにいんじゃない?

 シルフィ様とルリアナ様にあとで相談。

 むふふ。

 こういうのを考えるのは面白いかも。

 お金の計算はこれ以上ごめんなさい、だけど。


 まずはこの二人に頑張ってもらって、侯爵家自慢のネイリストになってもらいましょう!!

「お金払えば私もしてくれるー? 二人とも上手よねー、ジュリは忙しいから簡単にお願い出来ないから定期的に出来たら嬉しいわ」

 ちなみに。ケイティはネイルアートの出来る人が増えることをそりゃもう喜んでて、侍女さん二人に抱きついて歓迎したときは彼女の立派なおっぱいに二人がびっくりしてました。これはもう鉄板ネタになりそうだわ、ケイティ。


 ケイティについては、二人が講師という立場になれるまで無料で行うことに。これは侍女さん二人から申し出があって、デザインへのアドバイスをくれるので非常にありがたいからしばらく継続してやらせてくれと。だいたい10日前後で勝手に剥がれ落ちてしまう爪染めなので、ケイティは爪染めのために長期で滞在することを決めてしまったのには驚かされた。

 まあ、お互い利害が一致したので問題ないわね。










 で。

 スゴいことになった。

 いつの間に?! という話でね。シルフィ様付きのキャリアも長い侍女さん、ウィニアさん。

 講師として認められたら、侯爵家を出て侯爵家の支援のもとお店開くことが決定。

 えーっと? 早くない?

 若い侍女さんイサラさんはまだ侍女としての経験が浅く、一流の侍女としては世に送り出せない。でもウィニアさんについてはすでに侍女長の代理も務める実力と経験がある。そこに『ネイリスト』という職業を手にできたなら、専門技術をもつ侍女として一流だと貴族社会にも認められる。

 そのウィニアさんが侯爵家の支援で店を開けば、それだけ彼女は信頼あつく技術も認められていると箔がつくわけで。

「いずれはウィニアを学長として『ネイリスト』を育成する『専門学校』を作りたいね、その足掛かりに店を持たせる。爪染めは別として、道具やパーツは全てククマットや周辺地区で生産させる。それによって働く場所が増える。物流も人の流れもさらに加速するだろうね」

 と、ニコニコと語ったのは次期侯爵様ですよ。


 あー……、エイジェリン様。

『専門学校』の話覚えてたー。

 以前ちょっとだけ話してたのよ。専門学校ってのがありましたよ、って。年単位でお抱えの侍女をネイリストのいる店に修行に通わせるのは無理でも、専門学校に数ヶ月放り込んでがっつり勉強させられたらいいんじゃないかってことを、なんとなぁく。あの時妙に考え込んでたから後で食いついてくるかもとは思ってたけど。


 ……でもさ、だったら最初から専門学校がいいんじゃないかと思う。

 お店開いても期間限定になっちゃうんでしょ? 私の感覚だとそれは無駄よ、二人を後の主となる講師や学長に就かせるつもりなら、初めから、学校の立ち上げから関わらせた方がいい。そうすることで学校への愛着も変わるし、何より全体を把握できる。


 うん、その辺私が提案しよう。ネイリストを職業に、と言い出したのは私だからね。責任はとりたい。


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