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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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41 * 遊びも学びも真剣に

後書きにお知らせを載せておりますのでそちらもご確認頂けますと助かります。

 



「幼い子でも分かる問題なら……漢字の『刀』が沢山書かれた中に『力』のようにそっくりな漢字が一つ混じっているとか、身近な物の絵をシルエットにするとか、パズルを完成させると文字や絵になるとか、直ぐに分かるのがいいわね。そしてそれらの問題から導き出されたアイテムが部屋に置かれていて、そのアイテムの裏に数字があって、その数字を最後の問題で並べ替えると脱出扉の鍵が貰えるとか、そういうのがいいと思うのよ。だから二人が考えた問題はそんな初級の脱出ゲームが完成してちゃんと楽しめるとわかったら次の次くらいのステップで使われるやつだから却下」

 私のダメ出しにハルトとマイケルが泣きそうな顔をしたけど絆されたりしないからね。

 なんだよあんたらの考えた問題難しすぎるよ、しかも謎解き自体経験のないこの世界の人にいきなり受け入れられるわけないだろ、っていう問題を私の予想通りに考えてきたので最早笑うしかない。

 そもそもの話。経験ないどころかそんなのがなかったこの世界でいきなり密室に閉じ込められて謎解いて脱出しろなんて怖いでしょ。

 だから分かりやすく一室で完結するよう不安にならないよう分かりやすくリタイア扉を作らなきゃならないし、ちゃんと管理人という人物がいて正解したら鍵を渡してくれるだけでなく説明をしてくれたりヒントや答え以外の事での相談、つまりリタイアしたい時や体調不良や急用などで部屋を出たい時に速やかに対応してくれる人を置くなどの配慮が必要なのよ。

 特に子供と共に親子で楽しむことが前提。

 頭を使ったりドキドキするというよりは、室内でも軽い散歩気分を味わうつもりくらいがいい。


「ぐぅぅぅ……」

「頭が良すぎると起こる弊害みたいなもの?」

 私の呟きに唸っていたハルトが撃沈する横で、流石は子持ちといったところか。マイケルは『そっかそっか、なるほど』と言いながら楽しげに問題を考え始めた。

「じゃあ、こんなのどうかな。指でなぞれる簡単な迷路の上にジュリが言った最後の数字が書いてあってなぞった順が正解の数字になる、とか」

「そうそうそういやつ!!」

「ティーカップのパズルのピースが沢山あるんだけど、完全なティーカップになるピースが揃っているのは一つだけでそのティーカップの裏に次の問題や答えの一部があるとか?」

「いいねいいねマイケル!! その調子!!」

「あー、それなら」

 とマイケルが次々アイデアを出してくれる。

 それはもう驚くほどのペースと量。

「だってジェイルと一緒にやりたいからね。これお父さんが考えたんたぞってちょっと自慢したいじゃないか」

 照れくさそうに笑ったマイケル。

「……やる気になれば僕らも作れたはずなんだ。でもこの世界に馴染むのに必死で、子育てに必死で、見て見ぬふりをしてきたんだと思う。『必死なんだよ』『それどころじゃないんだよ』を言い訳にしたりジェイルが生まれてからはケイティに頼って任せっきりにしていたことも多くて、逃げていた部分があったなぁってこの頃思うようになって。今更だけど、ジュリには本当に感謝してる。こういう事をするきっかけとか、直接携わる機会とか、僕ら大人にも提供してくれるから。……踏み出す勇気とパワーをありがとう」

 なんだか、込み上げるものがあった。どう表現すればいいのか分からない感情。

 互いに必死に生きている。今でもそれは変わらないよね。私たちは一生何かに怯えたり苛立ったりしながら生きていく。

 それでもそんな私のがむしゃらな生き方を同じようにがむしゃらに生きるマイケルから感謝されると、本当に形容し難い感情に満たされる。

「こちらこそ、ありがとうだよ。……そうやって 褒めてくれたり感謝してくれるから、それが原動力になってるから。同じ世界から召喚された仲間だからこそ、その言葉は、うん、本当に力になるから。私こそ、その優しさ、ありがとう」

 互いに何となく照れくさくなって笑って誤魔化してまた謎解きの問題について盛り上がった。


 こういう事があるから、やっててよかったな、これからも頑張ろうと思える。













「ティーカップを四客、それぞれ十×十センチの紙の真ん中に大きく描いて欲しいんだけど、形は全部違ってもいいよ。もしくは同じ形にしてもいい、そのときは色違いに」

「分かりました」

「ロディムは、紙に同じ大きさのマス目になるよう線を描いてくれる? 数は少なくていいよ、四×四のマスで十分。で、その中に……『正方形』を描いて欲しいんだけど一カ所だけ、『長方形』を描いて。しかもはっきりと長方形と分かる形じゃなく、正方形に近いようにして欲しいの」

「はい分かりました」

 ロディムとユージンをとっ捕まえて工房二階に共に向かい、ハルトとマイケルが問題を考えてくれているその隣で二人には別の作業を手伝ってもらう。二人は何をさせられているのかちょっとよくわからない雰囲気で顔を見合わせつつも素直に指示に従ってくれる。


「はい、じゃあまずはユージンが描いてくれたティーカップの絵を全部四等分にカットするんだけど」

 その一言に二人が目を丸くしたのでクスッと笑ってしまった。そりゃせっかく描いた絵を直ぐにカットされるなんて思いもしないもんね。

「その前に」

 その絵の裏に、『このティーカップの下をみてね』と書き込む。ほか三枚にも似たような短めの文書を書き込む。

「これが次の問題やヒントの在処を教えてくれる絵になるの。で、三枚にも同じように別のヒントをね」

 四枚の絵をそれぞれ四等分にカットすれば合計十六枚になる。

 そこから、正解以外の三枚の絵の四等分したうちそれぞれ一枚を抜き取ってしまう。こうすることで関係ない文書に惑わされる事も防げるので、小さな子供でも答えに辿り付く事が可能になる。

「十三枚の絵のピースをごちゃ混ぜにした状態でまとめておく」

「あっ」

 ロディムは気付いたらしい。

「そうすると、正解の絵だけが完成することになりますね」

「そういうこと。そして他三枚は同じ人がまた別の機会に脱出ゲームをする時に答えが変えられるのよ」

 その絵を手で軽くまとめ、私は今度はロディムが描いてくれた絵を二人の前に置く。

「そしてこう言った問題を入れる箱も工夫する。ロディムが描いてくれたこの個別の仕切りがある、クジの景品入れで使っているような引き出しタイプの箱を作るとするでしょ、引き出し正面には十五個には正方形で一つだけ長方形の模様を入れて、ティーカップの絵をその長方形のところに入れておくの。サイズが全て同じ引き出しにすれば長方形のマーク入り引き出しをランダムにいつでも入れ替えられるし、何よりこれくらいなら子供でも『あれ一箇所だけ違う』って気付ける子も多いよね」

「た、確かに!」

 ユージンが目をキラキラさせる隣でロディムが何故か難しそうな顔をして。

「そして僕が考えた室内に入って最初に渡されるメッセージがこれだ」

 対照的な反応をする若者二人を見て笑いながらマイケルが一枚の紙を差し出す。少し大きな字でこう書いていた。

『お部屋探索をしようと思ってこっそり入ったら、扉が開かない!! 部屋に閉じ込められてしまったみたいだ。出るには扉の鍵を探さないと。でもこの部屋は沢山の物に溢れていて直ぐには見つかりそうもない。でもいくつもヒントがありそうだ。ヒントを頼りに鍵を見つけて脱出しよう! まずは扉の隣にある引き出しを調べてみようかな』

「まあ、もっと物語性を深めてもいいけれど、小さな子も対象とするなら難しい文書は避けると良いね、これくらいで何となく自分がすべきことが分かると思うし、例え文字がまだ十分読めない子供でも一緒に参加する大人がこの文書を基に説明出来るから、参加者にまずはこういうものを配って目的を明確にしてあげるのがいい」

「そうですね、分かりやすいって大事ですから」

 ユージンはしみじみと頷く。

「なんでお前はしかめっ面なんだよ、ウケる」

 ハルトがまだ難しい顔をしているロディムに気づいて面白そうに見つめる。

「それは、その……」

 言い淀み、少しだけ俯いたロディム。

「子供の頃に、これがあったなら、きっと本気で挑んで一喜一憂したんだろうな、と思いました」

「経験出来なくて悔しいってことね」

「……そんな感じです」

「そんな顔しないの。大人になってからでも楽しめば良いわけよ、いつも言ってるでしょ、遊ぶことも大事だよって」

 こういう時、まだロディムは自制心が働きやすくて、いつも考えちゃうんだよね『次期公爵』ってことを。抱えるものが途方もなく重くて大きい故に立ち振舞が相応しいか、判断に間違いはないか、いつも考えてしまう癖がついているんだと思う。年相応の顔を見せることも増えたけれどそれでもまだ、『外れること』に慣れていない。

 その堅苦しさや慎重さは次期公爵として必要なものだろうけれど『ものつくりの恩恵』を受けた人、と考えると足枷だ。

「よし、初級は完成後にお披露目するとして。ハルト」

「おう?」

「私に却下された問題、あれ出して。ロディムとユージンにやらせてみよう」

「おっ! ナイス! コイツらが解けたら上級と中級の問題として採用か?!」

「……まだ、初級自体な~んにも決まってないからいつの話になるかはわからないけども」















「で、私はロディムとユージンに、って渡したはずなんたけど?」

 グレイ、ローツさん、ゲイルさん、カイくん、レフォアさんたちフォンロントリオは冬の冷たい床に正座中。

 たまたま次の予定の簡単な打ち合わせでお店に来たゲイルさんがロディムとユージンが楽しそうに何やら問題を解いているのを見て、それを後ろから覗き込み確認した。なんだか面白そうだなと思いながら運輸部門の建物に戻ると、そこにはグレイとローツさん、そしてカイくんがいた。三人に見たことを話せばグレイとローツさんは脱出ゲームの問題ではないか? と気づいて興味を惹かれ、カイくんを引き連れてこちらに向かう途中研修棟から出て来たフォンロントリオと遭遇、彼らにも脱出ゲームの事を簡単に説明し、男たち七人は裏手の託児所に顔を出しに行った私が不在の状況でロディムとユージンの所に辿りつく。

「俺言ったじゃん、ジュリは二人にやらせたくて問題を出したんだぞって。お前らがやり出したら次々問題寄こせってなるだろう、その事も懸念していたから二人だけにってことも言ったよな? 手ぇ出すなよってあれだけしつこく止めたのになぁ」

 珍しくこっち側にいるハルトは呆れた顔して私と同様男たちを見下ろしている。

「だいたいさぁ、こっちが真剣に考えた問題を大人が寄って集って考えたら早く解けて当たり前だろ。それなのにもっとないのかって……なんかごめん、今更だけどジュリの普段の苦労とイラッと感が分かった」

 急にハルトはそんなことをいい出した。

「お前、毎回偉いな、こいつらの好奇心とか暴走をコントロールしてるんだもんな」

「あんたも普段はそっち側だからね。でもまあ気づいてくれただけでも有り難いわ」

「これからは可能な限り自制するよ」

「可能な限りって曖昧さが怖い」

 そう返せば微妙な顔して目を逸らされたけれども。


 大人達から奪い返した問題はロディムとユージンの手に再び渡る。

 彼らとマイケルが楽しげに答え合わせをしているのを羨まし気な顔して見ている大人達に正座をさせたまま放置し、私はハルトの前に座る。

「気が向いた時でいいから問題作っておいてよ。私もやるけどマイケルとハルトが手伝ってくれたらそれだけバラエティに富んだものになるし単純に数も増やせるしね」

「おう任せとけ。〇〇を探せとか間違い探しとかもそうだけど、こういうのって簡単な問題でも大人も楽しめるしな。ナゾナゾの本でも執筆してみるかな」

「それいいね、やってみてよ。本の普及にも繋がるし一冊あれば孤児院や託児所で皆で楽しめるし、何より頭を使うからいいよね」

「だよな。クノーマス家の謎解き脱出ゲームで使ったナゾナゾを集めたやつとか出したら面白いんじゃね? 真似てやり出す金持ちが増えそう」

「確かに。そうやってイベントでやってくれるようになったら嬉しいよね。それと……ハルトは数独とかクロスワードとか作れる? そっちまで手が回らないからロビエラムから普及してもらっても良いなってちょっと思った」

「うおっ?! そうだよ、なんで今まで思い出さなかったんだろうな?! クロスワードはあんまりやったことねえけど数独はいけるぞ。よし、暇見つけてそっちも問題作ってくわ。その二つは学校に置いても良さそうだよな」

「そうだね、数字に親しむきっかけになるし、言葉を覚えるきっかけにもなるし」

「そうそう教科書に載せても良いと俺は思うわけよ、数字と文字を身近にする近道になり得るよな」


 私とハルトの会話を聞いて大人達とロディムとユージンが目を白黒させて、そしてソワソワし始める。

 それを見てマイケルは可笑しそうに笑った。彼が笑いだした理由が分からず私とハルトがきょとんとするとマイケルはやっぱり笑って肩を震わせている。

「ペラペラと当たり前のように二人は会話しているけどね、ナゾナゾの本もそうだし数独とクロスワードなんてこの世界にないんだよ?」

「「あ」」

 ハルトとハモった。

「しかも、普及の仕方や学問に繋がる可能性まで。他の人達だったら目をギラつかせて詰問してるところだよ。ジュリとハルトはもう少し自分たちの知識がお金になったり権力さえ左右しかねないことを意識しないと」

「「……ごめんなさい」」

 ハルトと共に再びハモりつつ、深々と頭を下げていた。


 後に、『ウォー◯ーを探せ』を完全に真似た『ハルートーを探せ』をグレイが世に送り出すのを待ってから、ハルトは子供たちが楽しめる『ナゾナゾ絵本』と『数独を楽しむ』『クロスワードに挑戦』という本をそれぞれシリーズ化させハルートーを探せと同様ロビエラムの出版工房から大陸中に販売をすることになる。

 それらの本が子供は勿論大人達をも虜にし、インドア派の貴族を増やしそれが原因で運動不足に陥りぽっちゃりさんが増える現象を引き起こすことになるけれど。

「じゃあピラティス本でも監修しようかしら」

 と、ケイティがその後それらを遥かに上回るベストセラーを簡単に生み出すきっかけに繋がろうとはこの時の私たちは知る由もなく、頭の回転が速い大人達を巻き込んで問題作りをさせたり難易度の確認のために大量の問題を解かせたりと『もう嫌だ』と逃げ出す人まで出してしまうほどハルトが暴走する話は、割愛。




◆お知らせ◆


章も時期的にもかなり半端なのですが、作者のプライベート (仕事)が忙しくなり、基本の執筆は勿論、加筆と修正などもなかなか思うように進められない状況になっております。

なので大変ご迷惑をおかけいたしますが、期間限定で週一での更新とさせて頂きます。次回更新は17日火曜日、そこから暫く火曜日更新のみとなります。二月〜三月頃に週二の更新に戻せる目処が立つと思います。

これに伴い毎年行っていたクリスマスや年末年始の連続更新もありません、ご了承下さい。


なお週二の更新に戻せる目処がたちましたら前書きか後書きにてお知らせ致します。


期間限定とはいえ更新頻度が下がっても読んで下されば幸いです。

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― 新着の感想 ―
 クロスワード、大好きさ。
楽しいことをロールアウトすると毎回はしゃぎすぎる大人達( ˘ω˘ ) コロナとかの体調不良じゃなければヨシ! 週頭でやられましたがいやーきつかった
 数独はともかく、文化圏が違うクロスワードは難しそうですね。下手すれば公爵と伯爵でも格差が違いませんか? 当たり障り無い問題作るの難しそう~  ハルトは江戸時代の算学本みたいなの出版すれば良いんです…
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