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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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5 * え、たまご?

本日一話更新です。

 


【変革のたまごが誕生しました】









 あ、来た。

 予感はあったよ。世の中に広めるっていう壮大なこと考えたからね、それなりに覚悟を決めたし。

 いや、それよりもさ?


 たまご?


 なんじゃい、それ。

 ……途中ってこと? ネイリストだけじゃないのかな? ここから更に何か派生するとか、この世界独自に発展するものが出てくるとか?

 うーん?

 うーーーん?

 よくわからない、いいや。

 後で考えよう。


 さて。ネイリストだけど。

 需要はこれからもっと増えるはずよ。だってネイルアートの基礎となる爪染めの習慣はある、そして何より美容関係の仕事をする女性の仕事が増えるとなれば間違いなく女性の意識も変わるんだから。

 この世界、女性の服を作るお針子とか、女性の髪を散髪する理髪師、そしてお化粧や肌を整えるまさしく美容師という女性しかなれない職業がある。女性の肌は夫や恋人以外が触るのをよしとしない風習が大陸に根強く残っているため、確立されているのよ。これらの職業につける女性はその専門性から長く安定した収入が得られることから非常に人気。

 でも、専門技術と知識が求められる上に、富裕層と人が多く集まる大きな町がある土地が主な収入源となるため、目指したからとてなれるものではない。

 専属で貴族に雇われるにしてもいい場所でお店を開くにしても、それが出来る人は一握り。この町にも散髪師がいるけど、結構賑わいのあるククマットでさえ店を持っている女性は一人だけ。美容師は資格を持っている侍女さんが侯爵家にいるだけ。


 ネイリスト。

 女性の肌に直接触れる、正に。

 指先を美しくするために。

 女性の綺麗になりたいを一つ叶えてくれる。

 物が溢れ多様性に富んだ元の世界でも確立した専門職として存在した。


 出来る。

 この世界でも。

 いや、この世界だからこそ。


 きっと当面は富裕層だけを相手にする職業になる。だからたとえ仕事として確立されても恐ろしく狭き門になる。

 それでも。

 職業が一つ増える。

 それだけでも何かが【変わる】。


 元の世界のようにネイルアートが日常的に見られる環境になれとは言わない、それでも私がそうだったように特別な日に、ご褒美に、女性のワンランク上のお洒落の一つとして、世の中の女性を少し気分よくさせるそんな一つになれば。

「そのためにも、是非協力してもらえないでしょうか?」


 私の考えを、具体的なことは何も決めていないけど、そんなことを話した。

 侯爵夫人のシルフィ様が、穏やかに微笑んだ。

「あなたに、出会えてよかった」

「え?」

「停滞していたこの国に、風を吹かせるあなたに出会えたことを私は感謝するわ。これもまた、【知の神】セラスーン様の思し召しなのでしょう、心からセラスーン様に感謝申し上げます」

「私も、お義母様と同じく」

 二人が以前グレイたちがしたように、この世界での神への祈りを捧げる際の姿勢をとった。

 私は正直それに戸惑う。

 神への祈りを、私に向かってされてしまうと、どうしていいかわからないから。

 どうもしなくていいのかもしれないけど、でも、少なくとも私を通してのこの祈りは、きっとこれからも慣れることはない、そんな気がした。

 だけど、それをあえて口に出したりしない。

 セラスーン様が私の能力を認めてくれているから、好きにさせてくれるから、この祈り。セラスーン様への感謝の思いを、私が居たたまれないから、なんて理由で遮っちゃダメよね。


「シルフィ様、ルリアナ様、侍女さんの中で爪染めが上手な方、もしくは期待できる方を二人、私に預けてくれませんか?」

 いい神様を信じそして敬う二人なら、たぶん私のしたいことを受け入れてくれる。

「侍女を? いいけれど」

「私も時間が限られますので、出来れば週に数回、数時間、私のところで使えそうなあらゆるパーツを知って貰って、それを元にデザインを考えてもらいたいんです。今出来ることは手当たり次第に知識を詰め込むこと、そして経験を積むこと。出来不出来は今は関係ありません、とにかく、自ら考え出す、それを表現することに慣れて貰わないと何も始まりません。そして、今は三色しかない爪染めに今後どういう色があったらいいか、その場合どのパーツだと相性がいいか。そういうことも徹底的にやるべきです。そしていずれはパーツもデザインしたり、素材のあらゆる知識を得てそれを人に教えられるようになってもらうのが大まかな目標になります」

「……侍女に、『ネイリスト』という専門の職業を持たせるのね? 私やルリアナに付いている侍女の美容師や散髪師同様に」

 察しのいい、シルフィ様が、それはもう目に期待を滲ませ私に微笑んだ。











 難しいことではない。侍女に専門の職業というのは。

 散髪師、美容師についてはすでに貴族のご夫人やご令嬢がそういう専門職の資格を持つ侍女を抱えるのが普通のことだから。

『ネイリスト』を定着させて職業として確立させるには『資格』が手っ取り早い。

 しかも『侯爵夫人と次期侯爵夫人』が、他の貴族の侍女より飛び抜けて爪染めの上手な侍女を雇っているとなれば気にならないご婦人はいないはず。

 どうしてそんなに巧みに爪染めができるのか?

 どうしてあんなに多彩なデザインがあるのか?

 それを新しい『ネイリスト』という職業を生み出してその資格を取らせた、とこのお二人が誰かに言えば。

 瞬く間に噂になる。

 噂になるだけでいい。

 女性の美への追及は、噂だけでも追い風になるんだから。


「爪染めだけじゃなく、他にも覚えて貰いたいことがあります。一番は爪のお手入れですね」

「爪の、お手入れ? 手のお手入れとは違うの?」

 ルリアナ様が不思議そうに首をかしげる。

 ルリアナ様の言っているのは美容師がする肌のマッサージ。指までしっかり美容液を使って手入れをするからとてもきれいなんだけど、でも一つ。これがされてない。

 爪磨き。

 切った後で形を整えるヤスリはあるのよね。私もこの世界に来てから買ったものの一つ。でも表面を磨くためのヤスリはないのよ。

 これをまず、既にライアスに頼んで作ってもらっている。

 爪のカット面を滑らかにする目の細かいヤスリは存在するから、それをさらに爪を削り過ぎないよう、表面を艶よく仕上げられる極細かい目のものを開発してもらい、よく見る爪の手入れに使うヤスリと同じサイズ、小回りのきく更に小さい爪専用ヤスリを用意する。

 これで磨いた爪染めの乗りは断然違うと思うし、爪染めをしていなくても滑らかで凹凸のない爪だと見映えがいいよね。

 ネイリストなら、顧客の爪の状態に合わせてどれくらいなら削れるかを判断出来る。それをこちらの世界でもやってほしいの。

 ていうか、私がしてもらいたい。

 自分でやるとどうしても利き手の爪が上手く磨けないのよねぇ。


 そしてもう一つ。

 素材への理解。

 これ、大事だと思う。

 ネイリストに『これどういう素材?』って聞いて『さぁ?』って返されたら嫌でしょ (笑)。

 例えば、多用が期待されるラメ。あれも、かじり貝様のどの部分かで見映えがずいぶん変わる。一番内側ならオーロラ色が非常に強い、中間ならパールに近い淡い輝きになる、そういうの答えられないとね。パーツだって金属は数種類あるんだし。なに使ってるのかわからないなんて不安でしかないし。今後ネイルアートの為の素材だって増えていくはず。

「言われてみればそうね? 私もジュリによく聞いてるわ、何の花びらなのか、どこ産の糸を使用してるのかと、いろいろ。答えられて当たり前と私は思っていたけれど、それは作る人間に知識があるから答えられているのだものね」

 シルフィ様の言葉にルリアナ様も納得と云いたげに頷いた。


 シルフィ様の推薦で呼ばれた侍女さん二人。

 一人は中年の、落ち着いた雰囲気の人でいつもシルフィ様の身の回りを世話する侍女長さんの次にシルフィ様のそばにいることが多い人だわ。名前はウィニアさん。確かにこの人上手だろうなと思うのは、マクラメ編みを始めてこの領地の自警団の腕章作りにここで働く人たちをお借りした際、非常に手先が器用で教えたことはすぐにものに出来るという人。この人ならやってくれそう。

 そしてもう一人はこの屋敷に勤めてまだ二年の、あまり表だって仕事を任されてる人ではなかったので初見の十九才の女の子。イサラちゃんね。あ、ごめん。この世界ではすでに成人だ。なんでも経験させて得意なものを見つける期間を設けているそうなんだけど、その時に爪染めをさせてみたら器用にやってのけたセンスがあるとかで、シルフィ様は若い人の感性も大事だと選んだそうな。

 これはなかなかに期待出来るお二人。


 何に期待?

 決まってるでしょ。

『ネイリスト』を育成できる指導者になれそうってこと!!

 私はしないわよ。

 無理だから。

 性格が二足のわらじが向いてません。

 出来ることなら最初から丸投げできる人がいればよかったけどね。でもそれは無理だし何よりここまで提案しておいてはい終わり! は無責任だから。基礎を指導者になる人たちと一緒に構築するところまではやらないといけないよね。それに、少なくともケイティがネイルアートをよくしていたというならその意見はとても参考になるから相談相手は困らない。


「相談なら全然いいわよ」

「経験者の意見って大事だからね。ケイティのしてほしいデザインがあればそれも簡単に描いてくれればいずれネイルアート用パーツとして開発もありだよね」

「是非とも開発してほしいわね! 色も増えると嬉しいわぁ! クリスタルビーズとかも欲しいわよ!」

「そこら辺は異世界だからあんまり期待しないで」

「そうよね、それは、うん、期待しないでおくわねぇ」

 二人で遠い目をして笑いつつ、でも期待もしつつ。

 ネイルアート、ネイリスト。

 この世界での今後の楽しみがまた一つ増えつつある今日この頃に私とケイティは胸が高鳴り、パーツのデザインについてふたりでこの後盛り上がりすぎて、私は作品作りが遅れに遅れて夜中まで作業するハメになった。

 当然、グレイには説教された。



誤字報告、そしてブクマ&評価ありがとうございます。



そしてボツになった単話について、ジュリとハルトがその理由を語る。


「俺てっきりジュリならひな祭りを大々的にやるかと思ったけど」

「そのつもりだっけど、そもそも雛人形ないしね。似たような人形もないでしょ、そうなるとさ、侯爵家がさぁ、色々やらかすでしょ」

「あ、あー、斜めな方向に行きそう」

「実際行きかけたよ」

「マジか」

「そこそこ大きいフランス人形っぽい派手なドレスの人形を棚作ってそこに並べたのを見せられた。今の時期は桃の花に似たのがないからってピンクの薔薇をもっさりと飾られた」

「そうきたか」

「あれは、壮観というより、騒々しい。そして私があの手の人形苦手だから、心の抵抗がものすごい」

「ひな祭りは、数年後再現出来ればいいんじゃね?」

「うん、そしてクリスマスの二の舞だけは勘弁したいわ。侯爵家が嬉々としてやろうとしてるのよ、だからそれは全く違うと全否定にてあの家の暴走を止めてる最中」

「がんばれ!」


ひな祭り、ジュリは黒歴史になるくらいならと全力回避した模様です。

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― 新着の感想 ―
えっ、爪の表面削るんですか!? 肌の表面削って凹凸無くす、みたいで、怖い……じゃりっていきそう、ていうか痛そう……ひいぃ、ネイルアートって、そんな怖いことするんですか……。 文化の違いなんだろうけど、…
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