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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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39 * ハルト、リンファから教わる

ハルトの語り。


※申し訳ございません!

本日二話更新であることを事前連絡せずにそのまま更新していることに気付きました。

読み逃しにご注意ください、よろしくお願い致します。

 




 バールスレイド皇国とバミス法国。

 バールスレイドは一部の国や人間と違い決して獣人を貶すような事はなく、その能力の高さを讃えている。

 バミス法国は北国は排他的、閉塞的だと馬鹿にするようなことはなく魔導師の多く輩出されることを讃えている。

 国民視線で言えばバールスレイドとバミスは特に問題があるわけではない。

 バールスレイドからはバミスの南方に広がる南方小国群帯に近い常夏の地をバカンスのために訪れるし、バミスからは北方の汚れなき白い世界と極寒の地でしか見られない氷の世界や色とりどりのオーロラを観るために訪れる。

 国交は昔から活発で、国土が接していないことも相まって紛争なども起きたことはない。


 でもなぁ。

 今なぁ。

 民間レベルではほぼ変わらずの距離感なんだけど、政治的に見ると、ピリピリしてるんだよな。

 ピリピリというか、バチバチか。


 ……リンファが怖い。

 アベルの正面、周りが全員ピシッと背筋を伸ばして緊張を隠しきれずイスに座り直すことも出来ない中で、リンファはゆるりと体を背もたれに任せて肘掛けに肘を付き顎の下に手を添えて、足を組んでいる。余裕というよりやる気満満だ、こいつのこの妙な落ち着きが全面に出ている時は臨戦態勢だ。この時のリンファは俺でも怖い。

「そちらの言い分は分かったわ。でも輸出再開はしない」

 無表情、いやつまらなそうな顔をしてリンファはきっぱりそう突きつけた。

「こちらはあなたたちと違って偽善を楯にポーションを扱う気はないから。ポーションで救える命があるのにそれをしないのかと言われてもねぇ。……そもそも私がこの世界に召喚されてポーションの改良と開発をするまではその偽善でもってバールスレイドは国としてそちらにたくさん輸出してきたけれど、今はその改良と開発で民間でもポーションの量産や品質向上をしているわ。そんなに欲しいならそちらと交渉して輸入しなさいよ。わざわざ皇家を通す必要はないじゃない?」

「ですから、民間のものは未だ粗悪品や偽物が混じることがあります、命に関わることですから皇家承認の魔導院製の物を輸入させて欲しいのです、それは素材にも同じことが言えます」

「その言葉そっくりそのまま返すわ、そちらから輸入している武具の素材だって粗悪品や偽物が混じってるわ、命に関わることでしょう。それでもこちらはバミスの言い値で購入しているし、市場に乗せるまでにそれらを取り除く手間をかけてる。なのにそちらだけ楽して品質のいいものを当たり前に手に入れる事をこちらが黙って認めるのはどうなの? それも昔からのこと、命のためと言い張る? しかもジュリの事に絡めるなと言うってどういう神経してるの?」


 ジュリの名前が出た瞬間アベルとその他の枢機卿たち、そして法王家から派遣されている交渉役や補佐達がヒリつく気を放つ。それに対してリンファはここぞとばかりに微笑んだ。

「私は個人的にあなた達枢機卿や法王のやり方が気に入らないの。心の底から目障りなの」

 うおっ……目障りって言った。

「ジュリの事を尊敬するとか言っておきながら囲い込もうとしたり無茶なお願いをしようとしたり、結果論として『道具扱い』なのよね。バミスには【彼方からの使い】がいない今、ジュリを取り込みたいってのを全面に押し出した政策の裏で良いように使う事しか考えてないのよ。だからバールスレイドやネルビアを飛び越えて直接ヒタンリ国に圧力なんて馬鹿なことが出来るのよあなた達」

 あー、それ言っちゃうかぁ。

「都合が悪くなるとジュリの名前を出してくるのが本当に気に入らない。私の身勝手な報復だとしてもバールスレイド皇帝陛下が私のやることに賛同して利用と協力してる時点ですでに国単位での偽善とか大義とかそんなの一切ない、淡々とした利益と利権を互いに奪い削り取る事にシフトしてるの。いつまでたっても公にジュリの名前を出してくるあなたたちのやり方はむしろジュリを傷つけるしジュリの足元を揺るがす。ヒタンリ国がジュリの後ろ盾になった時点でバミスは横槍は入れちゃいけないの。だってジュリ自身がヒタンリ国を選んだんたから」

「それは貴方がヒタンリ国を推薦したからでしょう!! ジュリさんを操って思い通りにしているのはどちらですか!!」

 アベルが声を張り上げた。


 刹那。

 リンファから殺気が膨大に溢れ出した。


「リンファ」

 制するつもりで名前を呼んだ。

 でもリンファはチラ、と横目で俺を見ただけで『大丈夫』と視線で逆に俺を止めた。

 その他者を圧倒する殺気にアベルたちバミス側の奴らが言葉を失い体をこわばらせた。

「今の言葉、ジュリに言える?」

 静かな、冷ややかな声だった。

「私がジュリを操って思い通りにしていると、ジュリに言える? グレイセルに言える?」

 トン、トン、と指でテーブルを叩きながらリンファは視線を落としてその自分の指先を見つめる。

「ねえ、言えるの? 大枢機卿」

 アベルは殺気とリンファの問いかけで喉に言葉が詰まったように息を止めたりしながら小刻みな呼吸を繰り返す。

「私にだから言える言葉よね? 今のって。ジュリに言えないわよね? だってジュリのための言葉じゃないもの、あなたがたのやり方を正当化するためだけの屁理屈だもの。ヒタンリ国にバミスが圧力をかけたことを、ジュリは知ってるわよ」

「!!」

 声にならない声を出し、アベルは一瞬で顔色を失う。

「ヒタンリ国はひた隠しにしていたのよ。ジュリがあなたたちと交流があることを十分に理解しているから余計な心労をかけまいと、一切ジュリに悟られないよう振る舞ってた。私もそこには関与しなかった、ヒタンリ国国王が大丈夫だと、本当に助けてほしい時は相談すると言っていたからね。……でも残念、バミス法国に対して思うところがあるのはバールスレイドだけじゃないってことよ。そういった権力や勢力がクノーマス家やツィーダム家に情報を売るのよね。あなたたちは法の番人とかバミスの審判者なんて呼ばれてさも正義ヅラしてるけど、私から見れば滑稽だわ。多方面から恨まれてるし疎まれてるしで、とてもじゃないけど善人には見えないんだもの」

 殺気に魔力まで纏わせた暴力的なリンファの気にあてられてバミスの獣人が失神して一人また一人と椅子から落ちる。

「……話は戻るけど、選んだのはジュリよ。私はあくまで私目線で彼女にとって良い選択肢の一つとして提示しただけ。だってグレイセルはジュリの後ろ盾にネルビア首長国を、と言っていたんだから」

 それ言っちゃうのかぁ、と俺は頭を抱える。

「いざという時迷わずジュリの為に剣を振るう、敵を躊躇わず切るのはネルビアしかない、それがグレイセルがネルビアを後ろ盾にと望んだ理由。私とは理由も国も違うけど……バミスを選ばなかったのは、バミスはそういう国じゃないってこと。でも皮肉よね、ヒタンリ国はそんな中でジュリに万が一の時はバミスに逃げろと言ったのよ」

 またアベルが声にならない声を出した。今度は困惑から出たように思う。

「最後の最後でジュリの前に立ちはだかるのはきっと今いるベイフェルア、逃げる先としてヒタンリ国ではまだ力が弱いしバールスレイドとネルビアの存在が色濃い事がジュリにどう影響するかわからない。だから、万が一の時はバミスに逃げろ、そうジュリに国王は言ったそうよ。……そんなヒタンリ国へこれみよがしに圧力をかけてジュリから遠ざけようとするなんて、本当にどうしようもないわねあなた達って」


 そんなの知らなかった、と言い訳するかもしれない。バミスにも言い分はあるだろうな。

 でもそんなのリンファが許すわけねぇんだ。

「この話を聞いてヒタンリ国から手を引くのは勝手だけど、それもきっとジュリの耳に届くわよ? 私とハルトがどんなに沈黙を貫いても、さっき言ったようにあなた達の揚げ足を取りたい権力者は山ほどいるんだから。もし私に言われたから手を引く、引き下がるなんてことが知られたらどうなるかしらね? ジュリなら『何でも私を理由にするな』って言いそうね。ジュリに対して中途半端な事してるあなた達の信頼なんて取るに足らないの。友達止まりのまま、背中を預けられる、命を託せる相手には絶対になれないわ。それと……忠告しておくわね」

 リンファは椅子から立ち上がる。


「何かするたび謝れば済むと思ってたら大間違いよ。今更ジュリは引くに引けないところまで自分の地位を押し上げたの。名実ともにものつくりの頂点として本人が望んで君臨する可能性も出てきた。実際に既に沢山の権力者が彼女に一目置いている。そしてそんなプレッシャーなんて微塵も感じない程にものつくりが好きでたくさんのものを生み出し、これからも生み出す。そうなると彼女の周りには権力者が集まる。でも全てを彼女が受け入れられるわけじゃない。……取捨選択をするのはジュリ、決してあなたたちじゃない。それを忘れないようにね、謝れば済む、そんなのジュリに力がなかった頃の話で今はもう通用しない。まあ頑張りなさいな、まずは友達枠から締め出されないように」

 そして身を翻し手をひらひらと振る。

「先に失礼するわ。ポーションの輸入再開の話し合いは決裂よ。そちらも武具の素材の輸出制限をかけても構わないわよ。皇帝陛下はそれくらい覚悟しているし、別ルートからの代替素材の輸入や開発は既に進めているから。色々理由をつけて人を頼るばかりのそちらとは違って、バールスレイドは開発や改良に投資するのが当たり前なのよ。それとヒタンリ国に圧力をかけてポーション素材を北方群から独自に仕入れしようとしてるけど、今のやり方はやめたほうが良いわね、今まで獣人を蔑むことなんてなかったヒタンリ国で軽蔑と嫌悪を向ける人たちがチラホラ出始めてて、それが他にも広まっちゃうわよ。蛮族だの獣だとの言われる原因をあなた達が作ったら目も当てられないわ」













「お前、色々言い過ぎじゃないか?」

「そんな事ないわよ、大枢機卿たちはちょっと反省するべきでしょ?」

「まあ、な。ヒタンリ国の素材を買わずに他の北方小国群から大量に買付する方向転換を見せてヒタンリ国のは買い叩くつもりだったもんな。挙げ句、ダンジョンに獣人送り込んで徹底的にダンジョン内で魔物狩り尽くしてヒタンリ国の冒険者の稼ぎを奪うし」

「馬鹿よね、『ジュリのため』という嘘の大義名分すら【選択の自由】の発動を誘発するって知ってるくせに、まだ大丈夫だろうって思ってるんだから」

「なんでだろうな? やっぱ実際にあの場でセラスーンの言葉を聞かなかったから実感がないってことか?」

「かもしれないわね。それと……ちょっと自分で境目がわからなくなってるのよ」

「誰が、何の境目?」

「アベル大枢機卿よ。彼、ジュリへ抱く感情が単なる敬愛なのか、それ以上のものなのか、分かってないわよ」

「……は?」

 俺の隠れ家で。

 俺はリンファの言葉に間抜けな声が出た。

「ぜーんぶごちゃまぜになってるの。法王への忠誠心とか枢機卿会のトップとしての責任とか、ぜーんぶジュリに絡めてる。グレイセルが最近大枢機卿を警戒するのも当たり前よ。あれは単なる【彼方からの使い】への尊敬や羨望ではないわ。何もかもジュリを中心に置いてジュリとの繋がりに利用してる。カオスドラゴンの素材加工を持ち込んだ時に確信したわ。ジュリを苦しめて怒らせて、それでも何とかなると思ってたのは『許してくれる』って過信してるから。彼女なら僕を突き放すなんて酷いことはしない優しい人だって信じてるの。そして自分も誠心誠意何度でも謝るつもり、何回でも会いに行って許しを乞うことは苦じゃないと思ってるから出来たの。例え法皇からの命令でも、ジュリの共鳴すら起こす命の危険すらある魔素酔の酷さを知っていたら、本当に友達なら、愛し合うグレイセルなら、絶対に頼めない。でも大枢機卿は違った。……盲目なのよ、よくも悪くも。ジュリなら許してくれる、後で笑ってくれる、絶対に自分を嫌わない、友達だから大枢機卿だから、きっと必ず何度でも許してくれるって、信じてる。うーん、信じてるというより……信じようとしてる、が正しいかしら」

 唖然とする俺を見てリンファが笑う。

「……嘘だろ」

「さあ、本心は大枢機卿のみぞ知る、だから。でも私の考えはそう大きく間違ってないはずよ。何かしら理由をつけてジュリの所に行きたがる時点で、可能性は全否定出来ないと思うけど? 本来そう簡単にホイホイ行けるほどの地位じゃないのに、その地位を利用して行ってるんだから厄介よ。まあ……本人は自分のその感情には無自覚かもしれないわね。だからタチが悪いとも言える。ジュリのためと正当化することに躊躇わないしジュリの近くにいるために気に入らない奴らを遠ざけようと動くんだから」

「はぁぁぁ……なんじゃそりゃ」

 たまらず呆れた声が出た。

 アベルがジュリを?

 その程度はどうであれ、間違いなく余計で邪魔な感情だ。あいつの地位を考えれば悪影響を及ぼし兼ねない。


「放って置いて大丈夫か?」

「大丈夫よ、ジュリに全くその気がないもの。知ってるでしょ、大枢機卿の第二夫人にって話が出た時に即座に拒否したこと。他でもない本人があり得ないって言ってるのよ、たとえグレイセルに何かあっても……ジュリがグレイセル以外の男と結婚なんてあり得ないから」

「まあそれは確かに」

「それに……一線を越える、つまりジュリが大枢機卿のやることを拒絶を示した瞬間【選択の自由】、あれが必ず発動する。あれ自体が大枢機卿の抑止力にすでになってるでしょ。グレイセルもいるし、これ以上事はどのみち出来ないから足掻くだけなのよ、その足掻きが迷惑だけどね。ハルトだって何となくそうかも? って思ったことはあるんじゃないの?」

「……」


 綺麗事では済まされないことに足を突っ込んでから髄分になるな。

 気づけば【彼方からの使い】仲間たちとの信頼関係は強く、付き合い自体が増えて心地いい時間を過ごせるようになった。それが心の拠り所になっていて、だからこそ仲間を守ろう、大事にしようと思う気持ちも日々育つ。

 それを邪魔する奴らも増えたのは確かなこと。

 そこに、別の感情を抱えたやつが踏み込んでいたってことだ。

 そうなると政治だなんだと感情抜きで相手にしている方がまだマシだよな。

「アベル以外にはいないか?」

「いないわね、そもそもグレイセルがいる限りそんな邪な感情を持とうだなんて思えないわよ、自然にストッパーを掛けてる人もいるんじゃないかしらね……いたらどうするの?」

「片付ける」

「……人の恋路に首をつっこむのはいただけないわね」

「いいじゃん、ジュリが辛い思いするより」

『……まあ、ね』と逡巡したのち呟いたリンファ。








ハルトの語りと言いながら喋ってたのはほぼリンファでした、すみませんw


アベルのことですが、何となく、ぼんやりとでも『そうかも?』と思った読者様もいますよね、きっと。ただジュリに不活性魔素の多い素材の加工をお願いした時に違うかも、と思ったり。

答え合わせではありませんがそのへんを今回書いたつもりです。こじつけ感ある! 思ってたんと違うというご意見もあるかもしれませんが、そのへんはご了承・ご理解ください。

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― 新着の感想 ―
 いっそ、アベルを排した方がバミスの為のような。
[一言] バミスも衰退しそうだなぁ
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