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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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◇夏休みスペシャル◇ 貰い物の行方、其の三

夏休みスペシャル3日目。


最終日も安定のゆる~いお話です。

 



 ゴロン、と無造作に置かれたそれは。

「……ジュリ」

「はい」

「これは?」

「ドラゴンの友好の証だそうです」

「……? ……魔石とは、違うのか?」

 私の握り拳より一回りは大きい、蛍光オレンジ色を呈するファイアオパールの如き浮遊色彩をもつそれに一切手を触れず侯爵様がクエスチョンマーク飛びまくりの顔をしながら首をかしげた。

「違うみたいです、というかこれグレイがドラゴンから貰ったんですよ、なので所有者グレイなので保管を実家の侯爵家にお願いしようかと思いまして持ってきました」

「その貰った本人は?」

「『私が持っていくと受取拒否をされる可能性があるから』と言うことで今日は逃げました」


 只今クノーマス侯爵家の応接室。

 私が布に包んでいたのを広げてテーブルに置いたら、侯爵様たち全員が、身を乗り出してそれを見たものの、その顔と目が、『え、これ、なに?』ってなってる。

 色々と既に押し付けて地下室行きにしてもらってるんだけど、コレは本人が手元に置きたくないというので実家に預かってもらうのが一番良いだろうと持ってきた。

「質問なんだが」

「はい」

「休暇で出掛けて、なぜ、こんなものを手に入れることになったのか」

「あー、それはグレイだからとしか言いようがないです」

「そもそも、ドラゴンの友好の証とは?」

「いや、それがですね、私もグレイも分からず。なんかドラゴンから無理矢理押し付けられたもので、関わると面倒そうだったのでとりあえず貰うだけ貰って帰って来たんですよ。で、何ですかね? 友好の証って」

「……我々が聞きたい」

 ですよね。


 ということで、全員でクノーマス侯爵家の書庫へ向かう。

 ドラゴンに関する書物だけでなく、伝承やおとぎ話に至るまでとにかくその手の本をかき集めるだけで半日。

「ちょっ……こんなにあるんですか」

 私も呆れるほどの冊数が積み重なったそれを見上げて、乾いた笑いしか出なかったわ。

「私たちで調べてみるわ」

 ルリアナ様のお言葉に甘えてその日は帰宅し、トンズラしたことに侯爵様達が青筋立ててたよってグレイに報告。するとこの男は爽やかな笑みを浮かべた。

「でも文句は言われないだろ? 先日の件でジュリのお願いは絶対に断れない、当分は好きに利用して良いと思う」

「息子で当事者のグレイが言うことでもないけどね……」


 グレイがそれでいいというので侯爵家に『友好の証』とは一体なんなのかを調べてもらって数日。


「ドラゴン、友好の証という言葉自体がどの文献にも極めて少なくてな」

「あ、でも出て来たんですか?」

「……一応」

「一応」

 ついオウム返ししてしまった。だって侯爵様の顔がね……。もう、関わりたくないって感じの顔でして。

「これを巡り、大昔……権力者たちが殺し合ったらしい」

 わあ……。

「あくまで伝承の域を出ないのだが、いくつかの伝承の共通点を合わせると、友好の証はドラゴンの心臓と、第二の心臓と言われる魔石、そしてもう一つ……長い時を掛けて凝縮され結晶化した血肉で、それを第三の心臓もしくは友好の証、と言うことがわかった。そして長寿のドラゴンで知恵のある個体のみが保有するものらしい」

 ああ、確かにエルフの里ではドラゴンを殺すことはないので長寿にはなるよね。しかも知能も高く人語も話してた。

それにしても、結晶化した血肉とは。どうやって体内で作られるの?

「で、問題は」

「問題」

「……あれを、人間が一欠片でも取り込むと『寿命が延び病気とは無縁になり、強靭な肉体を得られる』らしい」

 あ、やっぱりヤベェやつだった。

「かつて取り込んだ人がいたってことですね、その人凄いチャレンジャーだ……」

 ついそう零すと侯爵様も同調するように深く頷いた。

「いわゆる、『不老長寿』の妙薬として時の権力者達が奪い合ったということだな」

「ちなみに奪い合った後はどうなったんですか?」

「我々人間の祖先なのだろうが、情報の少なさから……殆どが滅んだのではないかな。だから情報が限られているのかもしれない」

「わあ……」


「ということだったわ」

「そうか……地下室行きで正解だな」

「だね。それにしても、ドラゴンってまだまだ謎が多いってことだよね?」

「そうだな、そもそもあの友好の証は長寿ならドラゴンは全てが体内で生成させるのかどうかも分からないし、長寿とは何年生きたら言うのかも人間とは違うから測りようもないしな」

「ていうかさぁ、アズさんたちは分かってるんだよね?」

「分かっているだろうな」

「そして当たり前のことでいちいち説明することでもないと思ってる」

「思ってるだろうな」

「……エルフってやっぱり変だよね」












 後に、様々な文献を調べた侯爵家から友好の証は血肉が結晶化したものなのでほとんどがルビーのように赤いものだと教えられる事になる。


「預かっているアレは明らかに色が違う!」


 侯爵家では、押し付けられた時に私が一緒にいた時点で普通の友好の証のはずがないだろう、と結論付けたらしい。そしてどういう状況で貰うことになったのかも気になったみたいだけれど、聞いてしまうと心臓が持たない気がする、という理由で詳細を語ることは私もグレイも一生禁止されることになるんだけれど、その話はどうせ他所に漏れることはないのでスルーしておく。


 ドラゴンはドラゴンでも、『黄昏』でしかもエルフの里で最も長寿のこの世界で最も特別な魔物から押し付けられた (ぶつけられた)人間は後にも先にもグレイだけ、という事実は当然の如くエルフの里では語り継がれることになるけれど私達の預かり知らぬところ。


 そしてツィーダム家の件に合せ、グレイが逃げたこと、何でもかんでも簡単に貰わないこと、その二点でしっかりお説教された。














「いっそのこと砕いてリンファに渡してみる? 新しいポーション作りそうだよね? 利用と処理という点では一番任せられる気がする」

「あれの欠片だけでも『不老長寿』になると言われている曰く付きを、か?」

「ダメかな?」

「……『不老長寿』ではなく、『不老不死』な物を作りそうで純粋に恐怖がこみあげるのだが」

「グレイに純粋に恐怖が込み上げるなんて言わせるのはリンファだけよね。そして確かにすっごい怖いわ……笑顔で『出来たわよー』って持って来そう、それはマズイ」


 時に思いつきや興味がその結果が齎すであろう恐怖が凄まじい事に二人で気づき、やっぱり友好の証はクノーマス侯爵家の地下室で永遠に眠っていただこうと言う結論に戻っていた。


 教訓。

 エルフと魔物の価値観は人間には理解できないことが多いので現在の距離感が一番理想で下手に歩み寄ろうとする必要はない。




◇お知らせ◇

先日もお知らせしましたが作者このあとお休みいただきます。

9月7日(土曜)に本編再開予定となっておりますのでよろしくお願いします。

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[一言] それでもまた押しつけられそう( ˘ω˘ )
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