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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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◇夏休みスペシャル◇ 貰い物の行方、其の二

夏休みスペシャル本日二日目。


変わらずゆる~いお話です。

 



 テーブルの上に置かれたものを見てツィーダム侯爵様は固まり、さすがのエリス様も眉を吊り上げて身を乗り出し凝視する。

「これは、何だ」

「オーロラを落とし込んだ布だそうです」

 二人は無言で、数秒後侯爵様は目元を手で覆い、エリス様が真顔で私とグレイを見比べる。

「バミス法国で法王から下賜される有名な布があったな、あれとは違うのか? あれに似ているように思うが」

 困惑するエリス様の疑問に答えたのは隣に座る侯爵様。

「フェファクリュティクティラのことだな、確かにこれと同じく見る角度により発色具合が変わるし、触れるだけでも変わるが」

 そこまで言って、侯爵様はチラ、と指の間からそれに視線を向けた。

「動かす度に周りに光の筋……これをオーロラというんだろう、こんなものはあれに発生したりしない」


 そうなんだよね。このオーロラを落とし込んだという布、ちょっと手に持ったり撫でたりするだけでその部分からゆらゆらと揺れるカーテン状の光の筋、まさしく小さなオーロラが発生する。なのでこの布、反物の状態で貰ったので持ち運ぶだけで、花びらの多いカーネーションとかバラとかそんな形状のオーロラが発生しちゃう。もはやそれはオーロラじゃないよなぁ、とツッコミ入れたくなるレベル。

 恐る恐るといった感じでエリス様が手を伸ばし、指先で布の表面に線を描くように撫でると、そこから赤みを帯びたオーロラが発生した。

「……ほう」

 面白いものを見つけた、そんな目をしたエリス様が無言で指でなぞり始める。力加減や場所によりサマザマな色合いのオーロラが発生するのを私とグレイは笑顔で見つめる。

「それで、我が家にこれを持ってきた理由を聞こうか」

「保管してもらおうと思いまして」

「何?」

「警備がしっかりしてるところで保管したほうが安全ですからね」

「……期間は」

「無期限希望です」

「……それは、面倒なものを我が家に押し付けるということか」

「ですねー」

 私の軽い返事に侯爵様は深いため息を吐き出し、エリス様の手が止まった。


「そもそもどういう経緯でこんな物を入手してきた?」

「入手したんじゃなく、押し付けられたんですよ」

「タライ回しにする気か」

「別にどうして欲しいと言われた訳では無いし、ツィーダム家で保管してもらえるならタライ回しにはならないので」

「他にも頼めるところはあるだろう」

「クノーマス家とアストハルア家にもすでに結構な量を押し付けてしまってるんですよね」

「自分から押し付けているというんじゃない」

 怒られた。


「それならば……」

 しばし悩んだ侯爵様。ふと顔を上げた。


「一部をオークションに出してみるのはどうだ?」













 出品者完全非公開の曰く付き珍品が多く出品されるオークションはツィーダム家主催のオークションでも飛び抜けて人気があるとのこと。

「勿論危険な物は出品出来ないよう厳しい審査を通しているし、出品者の情報も出品するオークションをこちらがランダムで決めるので漏れることはない」

 だそうで。

「この手があったかぁぁぁぁ、盲点だったわ」

 悶絶する私の隣でグレイもしみじみと頷く。

「手っ取り早く現金化も出来る、いっそのこと全部出品してもいいかもしれない」

「だよね?! 」


 そう、オークションなら売り飛ばせるじゃん!

 しかも出品者は非公開なんて私のためにあるようなものだよね、なんて素晴らしい!!

 グレイと二人、屋敷の地下室に追いやった厄介な奴らを荷箱に詰め直し再びツィーダム家を訪ねる。

 で、侯爵夫妻が固まる、と。

「な、なんだ……この箱は」

「色々詰めてきました」

「あの布と同じ経緯で手に入れたものではないだろうな?」

「お察しの通りです!」

「ジュリ、グレイセル」

「はい?」

「そこに座りなさい」

「え」

「私も、ですか?」

 ビシッと侯爵様の額に青筋が。


「いいか、まず君たちは我々とは違い特殊な立場故に様々な国の者と顔を合わせることもある。その時にご機嫌伺いとして物を持ってくる者も多いだろう、それを全て断れとは言わない。受け取ることで円滑な取引に繋がることもまた事実。……しかし、しかしな。ああいうものをそう簡単に受け取るんじゃない。そもそも外に出せない物など所有しているだけでジュリの身に危険が及ぶ可能性があるわけだ、グレイセルがいくら守りを固めても完璧に守れるとは限らない、それなのにどうしてこんな物を受け取ってくる?」

「受け取った訳じゃなく押し付けられたんですけど……」

 言い訳したら、侯爵様の青筋が増えた。

「そういうときこそグレイセル、君が前に出て守らなければならないだろう」

「それが……最終的に私は私でかなり面倒な物を押し付けられ、今更返すとは言えない状況になってしまいまして」


 エリス様がハハッと非常に乾いたかる~い声で笑った。


 侯爵様が、一瞬虚無な顔になって。

 そしてブチッと音が聞こえそうな青筋を立てた。


「言い訳など聞いておらん!!」


 そこから、クドクド、クドクド……凡そ三十分の説教をされることになり、私とグレイは荷箱を持ち帰ることとなった。


 ツィーダム侯爵様に説教されたことよりも、二人揃って既に立派なアラサーのいい大人でありながら本気の説教をされたことに地味にダメージを受けることになった。

 そしてこのあと、エリス様がこの事をシルフィ様にチクったことで今度はクノーマス家で『二人共限度というものがある』というこちらも本気の説教を侯爵様からされることを私とグレイはまだ知らない……。


 教訓。

 エルフと魔物から物をもらう時は色々な意味で覚悟と諦めが必要。





明日夏休みスペシャル最終日です。


ちなみにフェ……は未だジュリは言えたことがありません。

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