◇夏休みスペシャル◇ 貰い物の行方、其の一
本日より夏休みスペシャル連日更新です。
一日目、ゆる~いお話です。
「まさか返事一つで地下倉庫拡張してくれると思わなかったわ」
「先日の事への父なりの謝罪も含むかと」
「なるほどそっか! じゃあもっと押し付けて大丈夫そ?!」
「えっ、あ、えー……はい、大丈夫かと思います。連絡しておきます」
ロディムが苦笑しつつも承諾してくれたので、とある箱を彼の前にドンと置く。
エルフの里でおしつけられたお土産の大半が世間に出せないので、クノーマス家、ツィーダム家、そしてアストハルア家の地下倉庫に『預かって下さい』という名目で要するに面倒事を引き寄せそうなそれらを押し付け永久保管をしてもらえたらなぁ、とぼやいた結果、願いが叶った。
で、結構な量のエルフの里産素材を送りつけることに。見た公爵様はとんでもないものばかりが入っているその荷箱を一人でせっせと片付けることになったらしい。そりゃ、いくら信頼している部下でも見せられないものばかり含まれてるからね、ごめんなさいお手数かけました。その代わり好きに研究に使ってください、預けると書いて押し付ける、と読む物ばかりなのでという手紙も出しておいた。
「これさぁ、綺麗なんだけど……量が多すぎて困ってるのよ」
箱の蓋を開けると事務処理のお手伝いで来ていたセティアさんが目を輝かせた。
「まあっ、とても綺麗ですね! まるでカラフルな真珠のようで!!」
「いる? 欲しいなら好きなだけもっていっていいけど」
「……いりません」
なぜ急にスンとした顔になるのセティアさん。そして自分から魔法紙の誓約書にこの事は口外しません、貰いませんってサインしてきた。最近のセティアさんはこういう書類の扱いにも慣れてきて頼もしい! 無事出産したら仕事復帰のサポートするからね!
「これ、何ですか」
「聖樹の涙だって。公爵様が探していた素材の一つだよね?」
「……ジュリさん!」
「うん?」
「これはロビエラム国で国宝指定されているティアラに使用されてますっ」
「そうらしいね」
「なのにっ、なんで……荷箱に無造作に詰められてるんですか……!」
「こうやって渡されたから?」
これ一番小さい荷箱だよ。
「エルフの里に行ってきたんだけど、里だと珍しいものじゃないって言うし、なにより使い途あんまりないから毎年余るんだって。これは去年の廃棄物って言ってた」
「……今、何て言いました?」
ロディムの声が一段低くなり。そしてセティアさんがスンとした顔のままそんなロディムにアドバイス。
「言い返さない、聞き返さない事をオススメします。それが寿命を削らない秘訣です」
そもそもですね、この聖樹の涙。
あの巨木とも違う、別の木の樹液が固まったもので、里では神力を込めて土に埋め植物の成長を促す肥料的な扱いをするものなんだそう。しかも一つでそれなりの広さの畑を補ってしまうし入れすぎると生え過ぎて大変なことになるから決まった数しか使わないんだって。かつては『肥料玉』と呼んでいたのを、【彼方からの使い】がそれはあまりにもロマンがないと泣いて喚き聖樹の涙に呼び名を変えることになったという曰く付き。……その【彼方からの使い】厨二病だったのかな? という疑問は心に留めておくけども。
「こんなに綺麗な物を土に埋めるんですね」
「エルフにとっては肥料だから。セティアさんもガーデニングとか興味あったらあげるよ? 砕いても使えるって」
「ですからいりません」
コロンとしたビー玉サイズで真珠っぽい艶と煌めきに様々な色がほんのり入る淡い見た目が上品で目を引くけど、肥料なんだよねあの里では。肥料玉だよ、ロマンから程遠い。
「こっちの小袋にはすでに神力が込められてるのが入ってて、これは公爵様に渡してね」
「……」
「使い方は今言った通り。エルフの話だと魔法付与も出来るはずって言ってたよ。土属性で補助系なら同じような効果を得られるはずだって、研究としては面白いんじゃないかな。あ、それとね外界で神力を込めたそれを使ったことないからどうなるのか興味あるみたいよ?」
「……」
「研究したらその結果知りたいって言ってたから公爵様にそのことも伝えてくれる? 私がその結果を伝えることになるから」
「……」
「ロディム、聞いてる?」
「あの、ジュリさん」
「なんだいロディム君」
「確認です。まず、エルフの里に行ったという発言も色々と聞きたいのですが……それよりも、これはロビエラムではティアラに使われてます、が? でも、エルフは」
「肥料だって」
「……肥料」
「笑ってたよ、人間はあんな物を頭に乗せるのか! って。なんで魔石や鉱石で綺麗なものがたくさんあるのにわざわざあんな物を、って大笑いしてた。『肥料玉を頭に乗せて花でも咲かせる気か!!』って引き笑い起こして呼吸困難で死にかけてたエルフもいた」
ロディムはテーブルに突っ伏して、セティアさんが乾いた笑みを浮かべた。
後日。
「全然結果報告が来ないんだけどなんでだろ?」
「あ、すみません私のところで止めてます」
「そうなの?」
「念の為、神力の込められていない物を数個、父に渡したのですが……『待て、これ以上預かってくるな』と言われてしまいまして。しかもその時の顔が非常に憔悴していまして」
「ああ、量的に一番押し付けたからね」
「それだけじゃないですからね?! 全部エルフの里でしか入手できないもの、しかも全て上質で数も桁外れ! 押し付けられたものだけで小国なら丸ごと買えると言い切りましたから!!」
ロディムがめっちゃ怒ってる。
「でも預かってくれるって了承してくれたじゃん」
「それはそうですが!」
「……あ、でもあの荷箱はロディムが預かってくれてるってこと?」
「え、まあ、そうですね、父の心労を考えると見せられませんし」
「じゃあさ!!」
ドドン。
「ひっ……!」
ロディムが後退り、小さく悲鳴をあげた。
「もう一箱よろしくね!」
「全力の拒否は許されますか?!」
「ええ……?」
教訓。
エルフの里の物は時として人間に過度なストレスを与えるので、小出しにしてその負担を緩和してあげなければならない。
相手が誰であろうと『いいよ』と言ってくれたならその通りに実行てきてしまう、笑顔で面倒そうなものを押し付けまくるジュリと、押し付けられた人達のお話があと二話続きますので明日もお楽しみください。




