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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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38 * 立派なことを言ったつもりはないけども

 




 エルフと共にまるで工房で作業するかのような状況の中、私は思うままに作ること数時間。


「あ、固まったね。よっ、と」

 まず、ピオさんに。

 擬似レジンの入ったガラスのコップに白土のウサギを逆さにして入れた時はピオさんが泣きそうになってたけど、目の前でコップから綺麗にポコンと外れて落ちてきたそれを見せられて目を輝かせた。

「ここに、切れ目を入れるね」

「えっ!」

「大丈夫、ウサギを傷つけないから」

 専用のノコギリでまっすぐ切れ目を入れる。ウサギが真ん中ではなくズレた所に入っているのには訳があったとピオさんも気づいたみたい。

「……こんなものかな」

「これ、は?」

「こうして使えるのよ」

「あっ!!」

 私は切れ目に予め借りていた絵はがきを挿してみせた。

「額縁じゃないんだけどね、こうして小さい絵や絵はがきを卓上に置けるようにしたもの。うちの店では値札や商品説明にも使ってるのよ、欲しいと言う人が結構いて商品化したのよね。『ペーパースタンド』っていうの」


 ガラスのコップの底の形がちょうどドーム状だったので、出来上がりは半球の形。擬似レジンで出来たそれは、ウサギが中で跳び跳ねる所を上手く表現出来ていると思う。底になる部分には巨木の枯れ葉をランダムに敷き詰めるようにしたから細くて繊細な金属質の繊維がキラキラと輝いていて、ウサギが良く映える。

 うん、上出来。

「枯れ葉がいいアクセントになってるでしょ?」

「はい!……可愛い……枯れ葉にこんな使い方があるなんて」

 ピオさんは可愛いのが好きみたいよ、ぽわぁって顔してる (笑)。気に入ってくれたみたいでなにより。


「あぁ、こんな使い方が……面白いです」

 アズさんの希望で使った銀色の雪の結晶パーツと枯れ葉は額縁に。

 枯れ葉は敷き詰めたのに対しパーツを偏った配置にしたのは中央の絵が入る部分はくり抜いてしまうため。擬似レジンの型があればもっと簡単に作れたんだけど額縁用のは持ってきてなかったのでノコギリで切ることになってしまったわ。

 これに関してはかなり試作感丸出しになってしまったけど、デザインを任せてくれるなら後でちゃんと作るので取りに来てくれと伝えた。それにはアズさん大喜びで、他にもいいパーツがあるなら是非にということなのでいくつかパターンの違うものを作る約束もしておいた。

「一枚だけだとエルフの人たちも見慣れたただの枯れ葉なんだろうけど、こうしてふんだんに重ねると、繊細な金属繊維を重ねたような見た目になるからね。重ねる枚数や厚みを変えるだけで印象も変わるし、その立体感を楽しめる透明な擬似レジンとの組み合わせは相性が良いと言っていいかも。外界ならこの珍しい見た目とエルフの里から出るものとしてかなり注目されるかも、微々たるものだろうけど外貨を稼げるよ」

「凄いです、こういう使い方があるなんて」

「そう? エルフにしたら当たり前のもので私から見たら珍しいものだから想像が膨らむだけよ」

「そんなことはありませんよ」

 ちょっと呆れたような顔でアズさんが私を真っ直ぐ見つめる。

「今まで誰も使い道など見いださなかったんです。我々エルフはもちろん、ここに訪れた数多の【彼方からの使い】も。あなたのように【技術と知識】を持っていた者ですら。……あなたのその見いだす力は特別です、間違いなく、素晴らしい特別な力です」

「ありがとう、アズさんにそう言われると素直に嬉しいね。自信になるよ」

 そう言うとアズさんは嬉しそうに頷いてくれた。


 そして。

「うおぉぉぉぉっ」

 ガーライムさんは、手渡された物を見てから妙な雄叫び? を上げた。エルフってああいう叫びが似合わない……。

「な、なんですかこれっ、なんですか!!」

「え、見ればわかるでしょ」

 興奮して言いたいことが纏まってないわね。

「なんですか?!」

「……あれ、もしかして知らない? キーホルダーなんだけど」


 あ、エルフは知らない人が多いのかも。

 キーホルダーとかストラップ。

 うちでは初期から売り出してたし、最近は他領でも独自に売り出すようになってたから忘れてた。というか、アズさんが買っていくものって、ちょっと偏ってるからしかたないの、かも。

 私が今回作ったのは白い穀潰し様の下に、エルフ麦とラメを擬似レジンで固めたものを繋げたキーホルダー。

「お家の鍵をね、この大きな輪っかに通すのよ。うちのお客さんにはパーツだけ買って自分で作る人もちらほら出てきてるんだよね。鍵じゃなくても鞄にぶら下げたりね」

 パステルカラーの金平糖っぽい、キラキラしたエルフ麦だけじゃなくラメを入れたからなおキラキラしててかなりポップな見た目。それに白のファーボンボンだから女の子ウケする感じの仕上がりに。

「鞄にですか! 娘の鞄に早速付けてあげようと思います!!」

 興奮するガーライムさんの周りに皆が集まって。

「麦が飾りになってる」

「麦が」

「麦だ」

 皆で麦を連発してるよ。

 ちなみに、この里にいるユニコーンやバイコーンはスライム様を捕食するそうで、麦が使われたこのパーツは彼らのおやつとして認識され、エルフと彼らがこれを巡って蹴ったり蹴り返したりの喧嘩をする時が来ることは、私とグレイは知る由もない。


 そして私のお腹が空腹を訴えたので時計を見たら。

 なんと間もなく日付が変わろうとしていた!!

「本日はこれにて終了!! そして食べるよ、エルフの里の料理!!」

「「「「えっ」」」」

 夜中だろうがなんだろうが、食べたいものは食べたいだけ食べる私を見て、エルフの一部の人たちが固まってたのは見なかったことにする。

 エルフの里の食材、美味です。












 そして翌日。

 昨晩の真夜中の暴飲暴食などリセットされた私は目覚めもよく朝から絶好調。

『借リルゾ』

 ドラゴンが三体、窓ごしに覗いていたのには大絶叫したけれど、彼らはグレイが目的なので。

「どうぞどうぞ」

 と貸し出しておいた。今日も虚無な顔して口に咥えられていったグレイを見送り、私は昨日作業した建物へとアズさんやピアさんと共に向かう。

「こうなるともう少し面白そうなものを見つけたいよね」

 今日は新素材探しに時間をかけることにした。

 もうすぐ帰るからね、名残惜しさはあるものの人間が長居していい場所ではないし、お店をこれ以上長く空けるのも気が引けるし。素材が見出されればどこでも作れるし、それにまた来てくださいと皆が行ってくれるので焦る必要はない、エルフに比べたら短い命だけど歓迎されているなら来ることは可能だからね。


「何かないかなぁー……」

 室内をフラフラ歩いていた足が止まる。

「……え? これ、なに?」

 目に留まったそれは楕円形で親指の爪サイズで黒色をしている表面が磨いたようにツルンとしたもの。

「あ、シジミの貝殻です」

「……シジミ。お酒を飲んだら飲むといいスープの具のシジミ?」

「えーっと……お酒を飲んだあとに食べても別に何もなりません、スープの具ではありますが」

 あ、こっちの世界のシジミには肝臓に良いとされる情報なし、自動翻訳さんそれはシジミじゃねぇです、と一人呟きつつ、それを摘んで光にかざす。

「分厚い殻だね。しかもツルツルで綺麗……形を整えて穴を開けるだけでアクセサリーパーツになるかも、これ」

「え」

「これ、削ったり穴を開けられないかな?」

「あっ、で、出来ると思います!」


 そもそも、黒と相性の悪い色はないと私は思っている。これは私個人の意見でしかないけれど、少なくとも合わせる色に苦労しないのが黒。

 外界で入手出来る黒いパーツは限られていて、安価で入手しやすい物もあるけれどどうしても地球と比べると選択肢は狭い。

 本当に地球の技術って改めて考えると凄いよね、ガラス、プラスチック、樹脂、木材、なんでも簡単に自由に色が着けられたんだから。


 このシジミ、実はエルフの里以外でも採取可能らしい。

「バミス法国にあるいくつかの川にも生息してますよ」

「ええっ? それなのになんでこれが素材として見出されなかったんだろ?」

「ああ、それは恐らくこのシジミの特性でしょうね」

「特性?」

「敵の気配を察知すると一気に砂に潜るんですよ、その速さは凄まじく、一瞬で一メートルは潜れるとされています。なので外界では採取が難しいんですよね」

「なんで?」

「魔力を察知する能力があるんです。なのでバミス法国では採取が面倒くさいと言うことでメジャーな食材にならなかったのかな、と。彼らは総じて魔力が多いですからね、見つけるのも大変でしょう」

「あ、となると……魔力を持たないエルフは」

「ええ、普通に採取できますよ。ジュリさんも出来るかと」

 ウィルハード公爵夫妻に相談して今度しじみ狩りにでも行こうかな……。でもな、グレイも一緒に来るだろうから逃げられるか。

 ちなみに、貝殻が分厚いので身は薄っぺらいそう。でも味は濃くて抜群に良いんだとか。今晩のスープに出してくれるそうなのでたらふく食べようと思います!


 紙やすりにガリガリと擦り付ければ削れてくれるし特に脆くて欠けてしまうなんてこともない。この調子なら糸や丸カンを通せる小さな穴も開けられるかな。

「これ、一袋貰って帰っていいかなぁ? どれくらい加工できるのかキリアとロディムと試してみたいところ」

「勿論好きなだけどうぞ」

「出来るようならうちで定期的に仕入れたいかも。それと加工方法が決まったらエルフの里でもパーツに加工して外界に売るのもアリだよね、オニキスとは違う独特の艶がある黒いパーツとして今後定番になっていくかもよ」

 ふと視線が気になった。なのでアズさんの方を意識して見たらなんとその場にいるエルフの視線が全部私に向いていて、しかもシンと静まり返っていた。

 え、なぜ。

「ジュリさん」

「うん?」

「我々に、外貨を稼いでほしい理由を聞いても?」

「あ? ……あー、ごめん、違うの」

「え?」

「私は、そこじゃないんだよね。外貨は結果や成果として付いてくるならラッキーくらいにしか思ってないの。私はね、気軽に外界に出せる物なら出してくれたら嬉しいだけ。素材として認められて皆が扱えるようになったら嬉しいだけ。でもさ、エルフは人間不信でしょ。外界に出て人間と共存は今後も考えてないよね、それはこれだけたくさんの人と出会う縁を授かった私でも外界でエルフと出会うことがないことからはっきりとしてる。アズさんや一部のエルフが例外中の例外、万が一があっても対処できるから出て来てくれてるだけで、ほかのエルフの人たちは出ようとも思ってないくらいに、人間とは馴れ合うつもりがないんだなって、わかるよ。私とグレイが凄く良くしてもらえてるのは私達が絶対に害になる事はないとアズさんが信じてくれてるからだよね? だからこの里に招待してもらえたし、みんな優しくしてくれる。でもほかの人間は違う、ここに決して辿り着けないことからもわかるよね、人間とは共存する気がないって」

「それは……」

「ごめんね、きつい言い方になっちゃったよね。だからこそ、外貨獲得という言葉を口にしてるだけ。なんでかって言うと……人間は嫌いだけど外界が嫌いな訳じゃないよね? アズさん見てれば分かるのよ、外界そのものが嫌いだったら、外界にあるものを買ったりしないでしょ。全てがこの中で完結するのに、わざわざ外界のものを買うのはエルフから見ても魅力的だったり、ユニークなものが実はあるからじゃない? だから、時折エルフの里の物がオークションに出されたり、ちょっと怪しげな闇市で売られてたり。そうして得られる外貨でアズさんたちは外界にあるものを買ってお土産にしてエルフの里のみんなで楽しんでるのかな、って推測してみたりしてる。……だったら、この里でありふれた物を私や信頼できる人が仕入れて世の中に広めて、それが安定した外貨獲得に繋がればいいんじゃないかって思ったの、私はこれらを扱いたいし可愛いものに変化させられるならさせたいし、そういうものをもっと身近に増やしていきたいって野望がね、ずーっとあるから。別にエルフの為だけじゃないよ、私の欲望の為でもあって、単に利害の一致じゃない? と思うから言ってるだけのこと。もし、それが嫌なら別の方法を考えるよ、出来れば私はこんなに面白い物はいつでも使えるとありがたいけどね。だから外貨を稼がせたい理由って質問されるとそれについての答えはちょっと方向が違っちゃうから難しい」


「ジュリさんは」

「うん?」

「我々が人間とは相容れるつもりがないことを、受け入れてくれるんですか?」

「受け入れるもなにも、人間ってぶん殴りたい奴多いよ?」

「は?」

「私ですらそう思うんだから別にいいと思うけど。里に籠もってて不満があるなら出ていけばいい話だし、なにより、どうあがいてもどうにもならないことってあるでしょ、それを悩むだけ無駄だよね? 人間嫌い、信じない、別にそれでいいんじゃないかなぁ。それで文句あるならまず人間が謝れって話になるよ、大昔の人間がエルフをひどい扱いして苦しめたんだから。でも絶対に謝らないよ『昔の人が勝手にやったことだ』って言い訳されて終わり。だから永遠に相容れなくてもおかしなことじゃない、そして私にはそんなの関係ない、どうでもいい。私はこうして縁を持つことを許されてるからね。他なんて知ったこっちゃないわ」

 するとアズさんが大笑いして。

「あはははっ! そうですか、そうですか。嬉しいです、本当に」


 え、何が? と質問しても彼は笑うだけ、そしてほかのエルフも何故か驚くほど楽しそうに嬉しそうに笑うだけで、なんだか良くわからない状況になってしまった。


「だからこそ、選ばれてしまったんですね、愛されてしまったんですね、神に。……エルフがあなたを自然に受け入れられるのは、そういうことなんでしょうね」


 アズさんが何か言った気がしたけれど、周りが賑やかで聞き取れなかったのでスルーする。


 ちなみにスープ美味しかった。味が確かにシジミだったので自動翻訳さんが合ってました、疑ってごめんなさい。




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[一言] シジミ……
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