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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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37 * 移動中の出来事

バールスレイドって、そういえばこんな人いたなぁ、という話。ジュリには直接関係の無い人のザマァとも言えますかね。

 



「この私を無視するのか!! 無礼にも程がある!!」

 大きな声にビクリとして振り向くと、長い廊下の少し離れた所で身なりの良い若い男性が手を振り上げて目の前の人に振り下ろしたのが目に飛び込んで、私は咄嗟に手を伸ばして止めるような動きをしてしまった。いや、まったくもって遠いので届かないんだけど、非常に格好悪いんだけども。

「な、なに、あれっ」

 声が上擦り自然と周りに助けと説明を求めるために忙しなく目を動かせば、隣を歩いていた先日成人のお祝をしたばかりというこの国の第二皇女殿下が十六歳とは思えぬ冷やかな目を向けその光景を落ち着いた様子で見ていた。

「ジュリ様は一度あったことがあるかと」

「え、私が?」

「……ふっ、ふはははっ、記憶に残らぬ、その程度の男ということですわ」

 全然記憶にないわ……と首を傾げた私の隣、今度は実に愉快げに笑い出した。

『あれでも一応』笑いながらそこまで呟いた皇女様率いる私達の存在に気づいたその男性は、こちらを見て目を見開き大股で勢いをつけて近づいてくる。すると皇女様付の護衛の方々が私の前に立ち、私は完全に視界を遮られ、隠された状態になった。

「おい! お前!」

「なんです?」

「【彼方からの使い】が来ているだろ!! この私を貶めたあの忌々しい能無し【彼方からの使い】だ!! あいつはどこにいる!?」


 ……んー、と?

 私、バールスレイド皇国の方って基本リンファ繋がりかセイレックさん繋がりの人しか今まで会ったことがないしちゃんと顔合わせ、自己紹介ありの人達ばかりだから、こんな人知らないんだけど。

「誰の事を仰ってるのかしら、この国に能無しの【彼方からの使い】などおりませんわね。あなたの勘違いでは?」

「うるさい黙れ、妹の分際で、生意気なっ!」

 妹?

 え?

 殿下を妹と呼ぶ人って……。

 ……。

 ……。

 え、皇太子?!

 あのリンファを脅して結婚しようとした、でも木っ端微塵に振られたあの皇太子!!

 そ、そういえばいたよ、こんな人。

「妹?」

 私の懐かしい記憶巡りの最中、殿下がそりゃもう馬鹿にする、明らかに侮辱するように鼻で笑った。

「あなたのような人には妹などと呼ばれたくありません」

「な、なんだとおっ!」

「兄という自覚がおありなら、まずはその直ぐに皇族気取りで人を無闇矢鱈に侮辱したり傷つけるようなこと止めたらいかがでしょう? 見ていて恥ずかしいし見苦しい」

「んなっ……」

 皇太子が言い淀む。てか、『皇族気取り』って、皇太子でしょう、凄いこと言うわ。

「どうせまた無茶なお願いをして断られただけでしょう? それを不服に思い殴ろうとするなんて、皇族のすることではありません。皇族なら何をしても許されるなんて思わないでほしいです、皇族が皇族として人々の上に立ち導くとはどういうことか、何をし、何を覚悟しなければならないのか、まだ分からないあなたが皇帝になれるはずがない。そんなことだから皇帝陛下にも完全に見限られるんです」

「う、う、うるさいっ!!」


「ジュリ様には不快な思いをさせてしまいました、心から謝罪申し上げます」

「うおっ?! そういうのナシナシナシ!! 頭上げて下さい!!」

 騒ぐだけ騒いで去っていった皇太子が見えなくなると第二皇女殿下と周囲の人たちが揃って頭を下げてきたので心臓止まるかと思った。やめてほしい、本当に。

 素材が集められた広い部屋へ向かう途中のこの短い騒ぎ。

 殿下はその背景を教えてくれた。

「えっ、皇位剥奪?!」

「はい、皇帝陛下は今後公務への取り組み含めて全て改善されない限り皇位を剥奪する、と。既にそのように本人にも勧告しております」

 私が聞いていい話?!

「リンファ様を脅迫し結婚を強要したものの失敗しましたでしょ? その後について聞いていますか?」

「え、全然……。申し訳ありません、正直興味もなかったので」

「それでよろしいですよ、正直私もあの人が皇位を剥奪されても何も思いませんもの」

「そうなんですか?」

「私は側妃の母から生まれたことはご存知でしょう?」

「はい」

「あの人はそれだけで私を皇族と認めませんの」

「は?」

「皇帝陛下には皇妃様の他に私の母を含め三人の側妃がおりますが、その子供を妹と弟として認める気はないそうです。その割には事ある事にあのように妹のくせに弟のくせにと言うんです」

「はあ、なるほど……」

「それで……あの後、リンファ様がそのお立場を確立させ一気に皇族としての地位を固めました。そして最近、ジュリ様と共に新しい事業計画をされてますでしょ?」

「ああ、リハビリや、社会復帰を後押しするための総合的施設ですね。まだまだ手探りの状態なのでいつになるかわかりませんけれどね」

「存じております。それでも今後必ずやこの大陸で重要な位置付けとなるとリンファ様が仰言っておりました、それだけ画期的であり必要とされることをなさろうとしているのですから時間が必要なことは重重承知です。でもそれをあの人は自分の事業だと言い出しました」

「……はい?」

 思わず立ち止まる。すると殿下が面白そうに笑った。

「私も聞いた時動けなくなりました、リンファ様風に言いますと『あんた何いってんの?』でしょうか」

 思いっきり頷いてしまったわ。なんで皇太子の事業になるのよ?!

「自分は皇帝になるからそういう事業は自分のものになるのは当たり前だ、と」

「……ええ」

「しかし、皇帝陛下があの人と私達皇位を与えられている全員を集めてこう告げました」


『己が皇族としてふさわしいか、皇位継承権を持つにふさわしいか、皇帝である私にその証を見せてみよ。三ヶ月猶予を与える、三ヶ月後、私や皇妃、側妃、そしてほか連なる血族の前で証明してみせよ』


「証明、ですか。なんとも漠然としていることを証明って難しいですよね?」

「ええ仰る通りです。それでも私達は三ヶ月間、弟妹たちもそれぞれがこれぞと思うものに集中しその日に向けて備えました」

「ちなみに皇女様はどう証明されたのか伺っても?」

「私はリンファ様が学長をされている鍼灸師や整体師の育成専門学校を維持することで国民の健康だけでなく多方面に及んでいる経済効果について発表しました」

 恐るべし十六歳。次の皇帝この皇女殿下でいいんじゃない?

「ジュリ様をソリ遊びにお誘いした第二皇子は私とは別の観点から有益性について発表しましたし、私達よりも下の皇子皇女たちも今まで学んだ歴史や教養で得意な分野を一生懸命披露しました。そんな中で、()()()()は自分がいかに皇帝に相応しいかを語りましたわ」

 ちょっと怖いなぁ、『皇太子』と呼ばない所が。

「自分が正妃、つまり皇妃の嫡子である、第一子である、正当な継承者だと言うことをただひたすらに喋り倒しただけですけれど」

「え?」

「あれを見て陛下もご決断されたようです。そもそも、家族以外の前では父上とお呼びしてはならないと教えられていますけれど、第一皇子は未だそれすら曖昧で何度も注意を受けております。しかも事あるごとに長く病に伏せていたからまだ習っていない、知らないと言い訳するのですが後日学ぶでもなく努力をするわけでもなく。呆れて見ていられません。それで皇太子の座は空席にし時期を見て第二皇子をその席に就かせると陛下がお決めになられましたが第一皇子は認めないと反発していて、先程のような事を起こすようになりました。ああいうことが悪手だとすら分かっておりませんのよ。ですから最近では皇位剥奪もやむなしと。それでお恥ずかしながら内部が揉めておりますの」

 あー……。ていうか、病じゃなくて自業自得なヤツだったよね? 呪い受けたとかなんとか。しかも遅れを取り戻す努力もしないのね。なら皇帝にならないでほしい、そんな皇帝将来不安でしかないし。能力もさることながら王や皇帝といった人達は精神的・身体的弱みを見せず、その地位に相応しい言動があるからこそ支持されるはず。

「あ、だからか」

「え?」


 以前リンファが遊びに来た時、バールスレイドが次期皇帝誕生まで少しゴタゴタするかも、と言ってたことがある。あの時はお酒も入っていたし興味もなくて聞き流していたけれど。なるほどそういう事かと納得する。

「第二皇子を次期皇帝にするとしても根回しとか準備が必要ですもんね。皇帝陛下が決める事とはいえ、周りの意見も聞かず理由の説明もせず突然『こうするぞ』って言ってしまったら独裁に繋がりかねないし」

「……」

「まあ、それで発表延期になるのは当然ですよね。それについて遅いと批判する人も出てくるんでしょうけれど、政治とか権力抗争なんてそんなものですし、なんでも早ければいいものでもなくてタイミングってのもありますしね」

「ジュリ様が」

「はい?」

「事業で成功されている理由が分かります」












 何だか誤解されてる、と心の中で苦笑しながらさり気なく話を逸らす。誉められたり認められたりするのは嬉しいけれど、私は元々凡人だし【称号】も【スキル】もましてや魔力もない、正真正銘この世界では物理的な弱者であると自覚があるので、この年齢だし冷静に考え過去の会話を思い出せば行き着く簡単な内容でこうも簡単に褒められるとちょっとヨイショされてるのかな? と卑屈な事を思ってしまう。

 それに、正直ホント申し訳ないけれど、マトモで国民が納得する人が皇帝になるならそれでいいし興味ない。誰がどうなるのか、そんなことを気にかけるほど余裕がある人間じゃないから。

(【彼方からの使い】だからと変に期待されても困るしね)

 こんな事が積み重なって、得意分野以外のことで期待されて、雁字搦めになるのは望まない。


 ここに至って気づくのは、私には踏み込んではならない世界が沢山ある、ということ。


 出来ないものは出来ないし、分からないものは分からない。それらに無理矢理自分を嵌め込んでずっと笑っていられるほど強くもない。


 私は、弱くて凡人だ。


 物を作ってお金を稼いで皆と楽しく生きながら将来の不安を少しでも取り除ければそれでいい。

 そんなことを考えながら必死に生きてるんだから、他のことを背負うことなんて難しい。

 だから、今ここにいる。

 離婚する。

 グレイや他の人たちに守られ調子に乗った結果。


 私の責任は、大きい。


 ずっと前、地球にいた頃友人の両親が離婚した。その時その友人は成人していることもあって落ち着いて両親の決断を見守って、正式に離婚した時に肩の荷が降りたような顔をしていたのを覚えている。

「DVとか、犯罪とか、それと浮気や不倫もかな。そういう理由で相手を傷つけて別れる事になるのは別として……私の両親みたいな離婚って、片方だけが百パーセント悪いってことはないの。結局は、いい面だけしか見ないまま結婚して、いざ一緒の生活を毎日続けてみたら『こんなはずじゃなかった』ってお互い思うようになって、ようやく気づくんだよね、嫌いなものや受け入れ難いもの、そういう部分で価値観が合わないとホント大変だって。好きなものが一緒なだけじゃダメだし、そもそも、好きって恋愛感情だけ優先するのもダメ。親の離婚でその事がよくわかった。……あれでよく二十年も一緒にいたよ、って率直な意見を伝えたらさ、『お前の為』ってどっちにも言われた。私のために嫌いになった人とずっといたって責任押し付けられてびっくりよ。ふざけんな、ってブチギレて説教してやったわ、ちゃんと話し合いもしないでズルズルここまで家族ごっこしてたのはあんたらだろ、 私のせいにするな、最終的には自分優先で私のことなんて見向きもしなかっただろってね。……二人とも青ざめて謝ってきたっけ。巻き込まれるこっちの身にもなれよ、って話よね」

 そんな事を言っていた。あの頃は単に印象に残るだけだった。

 でも今は、心に突き刺さる。


(ちゃんと、グレイと話さないと……)


「さっきはよくも侮辱してくれたな!!」


 ……ん?

 唐突に思考と皇女様との会話を遮られ、私達は振り向いた。

 そこには皇太子……じゃなく第一皇子が殺気立ち、ゼエゼエと息を切らしながらこちらを睨んでいる姿が。

「え」

 素っ頓狂な声が出てしまった。手には杖。

 あんなの作った事があるから知ってる!! うちの『ヒーロースティック』じゃん!! あ、いや、皇子のは本物の魔導師の杖か。

「妹の分際で生意気なっお前なんてっ、この私の魔法で!!」

 ちょっとまって!!

 こんなところで魔法?! 嘘でしょ、何考えてんの!! てか私死ぬ!!

「見苦しいわ」

 パニックになる私の隣、第二皇女殿下は実に落ち着いた声で、そして顔は非常に冷めた表情で、右手を徐ろに肩のあたりまで上げると人差し指をわずかにクイッと下に振った。

 ズドン!! という重い音と、『ぐえっ!!』という潰れるような声が、重なった。

 あの、第一皇子が美しく広い廊下のど真ん中でカエルが潰れたみたいにうつ伏せになって動けなくなってるんですけど……。これ、見て大丈夫?

「杖がなければ魔法を使えないだけでなく、発動までも随分遅いこと。自分には魔導師としての才能があると豪語していた以前より腕が落ちてません? また理由をつけて鍛錬を怠ったんでしょうね。いきましょうジュリ様」

「……え、あ? はあ」

 あのまま放置していくんだ……。


 そして気づけば作業する為の部屋に到着。


 稀な事に遭遇しつつ物凄く頭をフル回転させていろんなことを考えることって、ある?


 ……。

 ……貴重な体験をしたと言うことにしておこう。

 そうしよう。







妹に(物理的に)潰される皇太子、というネタは結構前から考えていたんですがなかなか出す機会がなく。というか出さなくてもいい人だったのを『あの男が皇帝になるのか?』と思いましてwww

主人公バールスレイドにいるし、閑話的なものもあっていいかなと。なのでこの辺りで『その話を書くかわからないけど皇帝は他の人になるよ』としてみました。

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― 新着の感想 ―
 なんで、まだ皇宮にいられるんだろう? 幽閉か去勢が妥当じゃないかな?
[一言] 普段作中に出る魔法がレベル高すぎて逆に普通レベルの魔法が新鮮
[一言] ぶっ( ゜∀゜)・∵. 物理で吹っ飛ばされる、兄もどき(๑´ლ`๑)フ°フ°プ いやいや、能無しだから排除されちゃうんだよ⊂(`・ω◇ )⊃ これぞ正しくざまあ( ^ω^)ザマァ
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