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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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37 * ジュリの休息

新章です。

 



 現在私はバールスレイドを満喫中。


 最北の国バールスレイド皇国の皇都は見渡す限りの雪景色で、しかも至るとこに氷の彫刻が飾られ、雪像も同じだけあって、青白く寒々としたその色を霞ませるほど美しい風景をまる二日掛けて案内してもらいながら見て回った。

「うっひゃーーー!!」

 そして今日はセイレックさんに後ろに乗って貰って安全確保をした上でソリを満喫中。モコモコの服を着こんで、手袋もブーツも完全防寒防水でいやはや実に快適、ビバ魔法付与。

「ジュリー!! 熱々のココア用意できたわよぉ!」

 リンファもモコモコの服装で、従える人たちもモコモコで、豪勢なテントから顔を出してソリ滑りを楽しむ私に手を振ってくる。

「飲むー!!」

「じゃあ一度休憩しましょうか」

「はーい」

 私がソリに乗ったままでセイレックさんは紐を引いてぐんぐん上に引っ張ってくれる。これ、さっきから何回もしてるから申し訳ないって言ったんだけど。

「リンファは毎回あきるまで楽しむので気にしなくていいですよ」

 って笑顔で言われた。慣れてるんだね。しかも魔導師だから魔法で何とかしてるっぽいし。てことで遠慮なく乗っけてもらってます。


 バールスレイド皇室の方々が使う冬祭りの時に出す特別なテントで接待受けていてリンファとセイレックさんは遊び相手。

 私を接待してるのはなんと皇室の方々。

 私と同じくソリ遊びしてるのが十九歳の第二皇子と十歳の皇女。そのお二人の御付き総勢三十人と、リンファの御付き十五人の計四十五人の人たちがそれぞれ主の命令で接待してる相手が私。

 接待をしろと言ったのがバールスレイド皇帝陛下。

 なにこの状況、っていうね。

 まぁ、そう仕向けたのはリンファだけども。


 リンファが私をここに連れて来たあの日の騒ぎから既に一週間。リンファとセイレックさんが皇帝陛下に私の置かれた状況とここに来るに至った経緯を話したことで至れり尽くせりのおもてなしを受けることになったの。その御礼がしたいなぁ、と呟いたらリンファから。

「ジュリの作品をおねだりしてもいい?」

 って言われて。

 鬼畜だけどアジアンビューティー天使に言われたらコトワレナイ!! ナンデモアゲチャウ!!

 って片言で言ってしまい。

 三日前、閉店した夜の店にリンファに連れられ転移したらライアスとレフォアさんがいて腰抜かされて大騒ぎされつつ、今はリンファの勧めと皇帝陛下の温情でバールスレイド皇国で丁重なもてなしを受けていると説明したら動揺しつつも快く作品を箱に詰めるのを手伝ってくれて見送りまでしてくれた。


 ライアスはひどく顔をこわばらせていた。立場上早い段階で話を聞いていて、そして私の落ち着いた様子に『決心』が本物だと悟ったんだと思う。

 その事について、あとで説明するからと言ったら苦笑してただ頷いてくれた。


 それからお店の営業に影響を与えない範囲で作品たちをどっさりとこのバールスレイドに持ち込み、で、それを献上。

 すっごい喜ばれた。皇帝陛下には公に献上ってしてこなかったからね、基本リンファを介してになってたから。

 ハーバリウムと花を閉じ込めたアクセサリーや小物が特に喜ばれ。最北の国だから花の季節は短くて、しかも種類も全く違うし限られてて。だからキリアと時々ふざけて合作する特大ハーバリウムを差し出したら皇后妃殿下には感動されて抱きつかれた。それがたとえ社交辞令でも持ってきて良かったと思えるくらいには素敵な笑顔が見れて、久しぶりにものつくりをしていることに自信が戻った気がした。


 この国にお花や色使いの鮮やかな商品を定期的に輸出したらいいんじゃなかろうか。

 うん、今以上の量産体制整えて輸出しよう。もしくは作り手育成ノウハウを売り込むのもありかな?

 なんてこともぶつぶつ独り言。それを聞き逃すはずもなく、近々正式に輸出や職人受け入れのために使者を送り出すって話まで進んでね。

 そんな訳で大歓迎されて接待されてます。

 VIP待遇です。

 ソリでめっちゃはしゃいでるけど誰も咎めません。アラサーがソリではしゃぐ、微妙。でも気にしなーい!


「これが、スライムというのが未だに信じられません」

 第二皇子は目を輝かせて台座に嵌め込むだけのパーツを見つめる。

「これはグリーンスライムと、ブルースライムを時間差で流し込んで、層の部分を少しだけ棒で撹拌するんです。そうするとグラデーションが綺麗なカラーに仕上がります」

「ねえ、ジュリ様、これは?」

「リザードの鱗ですよ、武具に出来ない脆い部分を使ってます」

「以前リンファがくれたヘアピンはこれと同じ鱗だったのね!」

 幼さの残る皇女は、リザードの鱗を台座に接着しボタンに加工したものを手にとってずっと眺めている。かわいい。可愛いは正義!


 ここに来て過して感じたこと。


 皇帝陛下には正々堂々と冗談抜きで歓迎された。

「そなたさえ良ければ、本当に離婚してここに移住するがよい。リンファとは親しくしておるし、何よりリンファを失う事もなくこうして礼皇として留めておけたのもそなたのおかげ。感謝と歓迎こそすれ、迷惑など微塵も感じぬ」

 だって。

 そして、当然【技術と知識】を期待すると。この皇帝陛下は、【スキル】と【称号】よりも【技術と知識】がこの国では望まれるということを教えてくれた。

 最北の国だからその過酷な環境故に、人々を広域に長く幸せにするためにあらゆる事を他の国とは違った視点で考えなければならないそう。そうなるとその人だけにしか恩恵のない【称号】は無意味。【スキル】だって、その人がいなければ使えないしね。だから成る程納得と思い出したのはかつてのリンファのこと。彼女を取り込もうとこの皇室がちょっとやらかしたよなぁ、なんて事を思い出してしまったけれど、今となってはリンファが持っていたからよね。


【技術と知識】


 それが少しでも人に浸透し、根付くなら、それはその土地の『財産』になる。

 リンファが正に、それを今この国でやってのけている。沢山の人を痛みから開放するだけでなく、『整体師』と『鍼灸師』の知識を教え、その【技術と知識】を根付かせ、国の発展に貢献している。近隣諸国からはすでに何百人もの人がこの国にやって来て、『専門学校』でリンファに叩き上げで育てられた講師たちから学んでいる。

 そう。専門学校がある。

 ここには、リンファの意見で創設された、『国立』の学校がある。とても驚いたの、見学して話を聞かされて私が知る『理想の専門学校』がそこにはあったから。すでに彼女を総帥として姉妹校がほかの貴族の領地に開校していたし、そこでは地元の神官や魔導師が通い学んでいるって。

 そのシステムを確立するのにわずか二年。

 国が全面的にリンファを支援して、そして敬い、大規模に、そして安定的に【技術と知識】を得ている。

 ククマット領にたった一ヵ所しかないネイリスト育成専門学校を遥かに凌駕していた。


 私とは大違いね。

 まあ、内容が全く違うし。仕方ないといえば仕方ないとそう苦笑したら皇帝陛下は。

「違いなど些末なこと。自分がどれだけククマットからクノーマス侯爵領に多大な影響を与えているか自覚があろう?」

 それは確かに、と頷くと。

「リンファは人の肉体に影響をもたらす。そなたは人の価値観に影響をもたらす。その違いのみ。人は【称号】【スキル】で判断されるものではない。人とは本質と経験、そして『残すもの』で判断されるべきもの。違うか?」

「そう、でしょうか……」

「そなたが置かれた環境が非常に曖昧なため気づかぬだけよ。ジュリよ、そなたは唯一無二の存在。そんな己を自ら支え、そして他人すら支えている。誇るがよい、けっして卑下することではない、よいか? そなたのしていることはそなたしか出来ず、そして誇るべきもの。この国の専門学校とそちらの専門学校を比べる意味などない」


 はじめて、心の底から自分を誇れた気がした。


 なんだかんだ言っても、国の頂点、そんな人からの言葉はとても重くてそして私に勇気や自信をくれる。ヒタンリ国国王のときもそうだった。

 身分の高い人が人前で、頭を垂れる人々を前にして私に対等であることを許して話をして、そして私を認めてくれて。


 卑屈な私がいた。


 どうせ【スキル】も【称号】もない、魔力もない、ちまちまと小物を作って売るだけしか能がないって。

 侯爵家、グレイが私を必死に支えてくれていることに感謝しつつも、今までずっと、心のどこかでそう思う部分は燻っていた。

 だから必死になるしかなかった。

 見下されないよう、前を見て、強がるしかなかった。

 今回のことだって、私に自信があれば結果は違っていたのかも。

 もっと広く、広く、視野を広げて世界をみていたら、ちっぽけな悩みだと笑えたのかも。


 もう、やめよう。

 そんな自分。

 卑屈な心は捨てよう。

 どこまで行っても私には【技術と知識】がある。それが私だ、私の誇れるものだ。

 たかが女一人に生活をかき乱されたくらいでグレイを困らせて、騒ぎを起こして。

 ロディムの言った通り笑い飛ばせれば良かったのよ、『小娘、うるさいよ』くらい言ってね。

 私は、侯爵領とククマットの未来を担う。

 必ずこの手で変えて見せる、もっと、もっと変えて見せると決めたのよ、その心は今でも揺るがない。

 そして恩恵を、神様たちが与えてくれた恩恵を沢山の人に与えたい。


(私を支えてくれる人たちともっと幸せになりたい。互いに豊かな心で、支え合って、進みたい)


 何よりも、誰よりも、グレイと二人で。

 どこまでいっても、私の中にいる男。

 結局私は、そこに辿り着く。

 この世界で今ある私の隣にはいつもいた。

 いてくれた。

 ここまで来れたのは、無茶苦茶なことを平気でするあの男がいたからだ。


 余裕がなくて、最近その気持ち、事実を忘れていたのかもしれない……。

 自分を見直して、もう一度何が出来るか、何をすべきか、考えるのも必要かもしれない。


 もう一度、グレイと共に目指したい。

 私の【技術と知識】が使えるうちは。

【ものつくりの祭典】を当たり前に行える環境を、世界をこの手で作り上げたい。


 それが、私『ジュリ』だ。













【技術と知識】による恩恵を 《格上げ》します。













「んえ?…… 今? そういうの来ちゃう?」


 皇帝陛下や、リンファ、そして沢山の人が頭を垂れるすんごい豪華ですんごい広い皇帝の間で謁見中に来た。さすがにびっくりしたわ、てゆーか久々だわこの感じ。

「皆のもの、今神々が【彼方からの使い】ジュリに新たな力を授けた! その奇跡に立ち会えたことに感謝せよ!! 神に愛されし命が天啓を授かるこの瞬間がこの国で、皆の前で行われたことを私は心から祝福する! 国民に恩赦を!! 【彼方からの使い】に感謝せよ!!!」


 ……あれはね、すごかった。あの広間が揺れたんだから。『ジュリ様万歳! 万歳! ジュリ様に感謝を!!』ってね。あんな熱気、初体験よ。リンファはニコニコしてるだけ。

「慣れるわよ、こういうものかって」

 って、なかなかに図太い神経してらっしゃる発言をしてた。














 と、色々重なりこの待遇。

 なので皇族の方とソリで本気で遊ぶっていう、よくわからない待遇は最高のもてなしということにしておいて気にしないことにした。

 ついでに魔物素材の、私が扱うものの知識を披露して談笑。

 絶品ココア。うまいなこれ!! 買って帰ろう。あ、お土産で箱で持たせてくれるって。なんとこの極寒の地でしか育たない雪カカオというものから作られるそうで、普通にベイフェルアで買おうとすると超高級品らしい。ありがたい。

「遠慮はいらないわ、貰えるものはもらっておきなさいよ」

 と、リンファも言ってくれたので遠慮はしない、箱は箱でも荷箱でね!


 ふむ、これだけの待遇、お店のものを献上だけではなんだか心苦しいわ。

 最近のドロドロした感情が整理されていくのもリンファたちのおもてなしや優しさのお陰。

 なにかできないかな?

「ねえリンファ」

「うん?」

「面白そうな素材ない?」

「えっ?」

「もしくは、うーん、えっとねぇ。……リンファが見て、綺麗とか可愛いのに、この国ではその認識がされてないものとか」

「それって……」

「ここまでしてくれてるから、皇帝陛下に何かもう少し献上もありかなと」

「ジュリ!! 本当に?! うれ―――」

 リンファの『しいわ!!』って声をかき消し、抱きつこうとしてきた彼女を固まらせたのは。

「なんとぉ!! ジュリ様がこの国で【技術と知識】を披露なさると!!」

「陛下に、陛下に使いをだせ! ご報告せよ!!」

「皇子殿下、皇女殿下! この場に立ち会われましたことお祝い申し上げます!! 【彼方の使い】の祝言に共に立ち会えたこと感謝申し上げます!!」

「あぁぁぁぁっ!! 憧れの《ハンドメイド・ジュリ》の!! この目でその技術を見れるとは!!」

 リンファもさすがに固まって。

 空しくリンファの手が宙に浮いてる。せっかくなので自分からリンファの手を自分に回しておいた。

「……ごめんね、ここの人たちわりとうるさいのよ」

「ああ、うん、それはもう気づいてた、大丈夫」

 することなくてリンファと抱き合っておいた。セイレックさんが苦笑していたわ。

 そして誰だ、祝言なんて言ったのは。そんな大層なものじゃないぞ。






ジュリ復活、やったー!

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― 新着の感想 ―
 もう、移住しちゃいなYo!(笑)
[一言] ジュリさん楽しそう
[良い点]  北の国の皇族の優美な衣装といったらメーテル!!! あのコート、私の妄想の中だけでも着せました(笑)  天の声聞こえたら本人は分かりやすくて嬉しいしするし、その場に立ち会えたら感動するし…
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