バレンタインスペシャル ◇ハルト、バレンタインを堪能する◇
本編に関係ない、だいぶ緩いバレンタイン話です。
本編は明日掲載予定です。
バレンタイン。
男にとっては、特に思春期の男にとっては彼女がいようがいまいが関係なくそわそわさせられるイベントだ。
俺も女友達がそれなりにいたから、義理チョコを貰ってたし、母親と姉も自分用のチョコのついでにくれたし、俺はそんなに寂しい虚しい思いはしてこなかった。
この世界に来て、あのソワソワが懐かしいなぁ、と思う。
いや、だってさ、ないんだもん。
バレンタイン。
当然だけどさ!!
「日本のバレンタインは変」
って、マイケルに一蹴された過去がある。
企業がチョコレート売りたいだけでしょ、の一言で鼻で笑われたし。
でも懐かしいなぁ、欲しいなぁ。って思ってたらジュリが召喚されたじゃん。今年貰えるかも!! だってこっちの世界にチョコレートあるし、ジュリは意外とイベント好きみたいだし!! 義理チョコ欲しい、人から貰って食べたい。
「は?」
え、なにその冷たい目は。
「欲しいの? なら自分で買えば?」
「えぇぇぇ……」
「なんでこの世界に来てまで義理チョコを用意しなきゃならないのよ、あんたにあげたら他にもあげなきゃいけないでしょ、お世話になってる人が山のようにいるんだから」
冷たい。ジュリは俺に冷たい。
「冷たいんじゃないよ、一般論を言ったまでよ」
……撃沈。
「『バレンタイン』……また難儀なことを」
って、なんでかグレイも冷たい目!!
ていうか、あれ、バレンタインのこと知ってるんだ?
「ジュリに教わった。正しい知識はマイケルに。お前のいた国は変わっているな? わざわざ本来のしきたりを崩してまで菓子を贈ることに固執するんだから」
しきたりって、そんな重いものじゃねぇよ!!
「そんなに欲しいなら買ってやろうか?」
何が悔しくてヤローから貰うんだよ!! ジュリ、笑いすぎだぞ!!
「彼女から貰えばいいじゃない」
「そうだけど、さぁ。……理由聞かれんじゃん」
「そんなの当たり前でしょ」
「それはさぁ」
「なに、この期に及んで恥ずかしいとか言ったりしないよね?」
「……」
「思春期か」
「気持ち悪いぞお前」
「彼女好きすぎるお前に気持ち悪いとか言われたくねぇわ!!」
グレイに哀れみたっぷりな目で見られたあげく、気持ち悪いとか言われてる俺。流石に傷つくんだけど……。
「じゃあジュリ、お前はグレイにあげないわけ?」
「え? あげるに決まってるでしょ、彼氏だもん。何言ってんの?」
「ついでに義理チョコ!!」
「人の話を聞いてなかったの? あげない」
「だからそんなに欲しいなら私が買ってやる」
「いらねぇよ!!」
切ない。俺の扱いが雑すぎて切ない。
「ただいま」
「おかえり」
「はぁ……」
「どうしたの?」
夕飯の支度をしていた彼女が、落ち込む俺を見て笑う。
「ジュリさんにまた何か怒られたんでしょ」
「んー、あー、怒られたんじゃなく冷たくされた」
「あはははは!! なぁに? なんで?」
言えません。思春期の悩み事をひきずってる俺には言えません。
「あ、そうだ。はい、これ」
「ん?」
「バレンタインデー、でしょ?」
「え?」
「いつも大切にしてくれてありがと。ハルト、大好きよ」
「……え?」
ポン。と、手に乗せられた小さな箱。彼女は照れもせずニコニコ。
「ジュリさんと時々手紙のやりとりしてたでしょ? 男性が喜びそうなイベントってあるのか聞いてたことがあったの。そしたらこの前バレンタインデーについて教えてくれて。お菓子はあんまり得意じゃないから買っちゃった、でも気持ちはこもってるよ?」
恐る恐る蓋をあけると、ガトーショコラのようなお酒の風味が強い、俺たちの住む地域で定番のお菓子が。
「あ、えっと」
予想だにしてなかった。
突然すぎて、嬉しすぎて。
「ふっふふ、あはは!! ハルト、顔が真っ赤よ?」
「う、うるさいな、驚いたんだよっ」
「ジュリさんに感謝しなさいよ? 『義理チョコは渡さないから特別気持ち込めてあげて』だって。買ったけど気持ちはこもってるからね!」
フフフッと笑う彼女。
ジュリ、神様。
そして俺の彼女は超かわいい。
「これ美味しいよね」
「うんうまい。一緒に食べよう」
「やった! やっぱり買って良かった!」
「……ちょっと気になるんだけど」
「なぁに?」
「さっきから、買ったこと強調してるの俺の気のせい?」
「え? だって『お菓子なんて買うものよ、作るものじゃない』ってジュリさんの手紙に書いてあったから。『一回下手に手作りなんて与えたら調子に乗って次の要求が難易度あがるから迷惑』とも書いてあったわね、だから申告しておこうと思って。私もジュリさんの意見に賛成派」
……ジュリ。
うん、ジュリらしいアドバイス。
まぁ、でも、俺がなにも言わなくてもジュリが彼女にバレンタインを教えていたわけで。
ブラックホーンブル、狩って持って行ってやろう。
「おおおおおっ! サシの入り具合、凄い! 凄いの持ってきてくれたね!」
「彼女への助言のお礼だからな」
「おっ? てことは貰えたのね?」
「お陰様で。お前の影響が強くて買ってきたけどな」
「あははは!! そうなんだ?!」
最高級のブランド肉に匹敵するブルの肉を前にジュリが軽やかに笑う。
「しかし、まさかバレンタインの話までしてたとはな」
「まあ、ね。私の自己満足よ」
「自己満足?」
「日本の文化とかイベントを少しでも残したいじゃない? 知ってる限りでいいからさ、『忘れたりしないように』なるべくやるつもり。巻き込める人は巻き込むよ」
「……そっか」
「それが正しいかどうかなんてあんまり関係ないよの。私のやることはクノーマス侯爵家が記録してくれてるんだけど、そこにクリスマスとかお正月、節分の豆まきにひな祭り、なんでもいいからとにかく残してもらえたら嬉しいわけ。その一つにバレンタインもね」
そうか。
ジュリが毎回マイケルもそのイベント事の説明に巻き込むのは、正しい知識も、ずれてる知識も丸ごと、『残したいから』なんだな。
「そうだな、残ってくれたら、嬉しいな」
「でしょ?」
にこやかな嬉しそうな笑顔だ。
「広まったり定着してくれなくても、記録として残ってくれるだけでも、いいな」
「だからこれからも思い付きでイベントはやってくわよ」
「おおっ、それ付き合う!」
「よろしく!!」
残していこうな。
俺たちの『記憶』を。
ちなみにジュリは。
グレイは甘いものは可もなく不可もなく、の男だからとチョコレートの代わりに特別にあつらえたブレスレットを贈っていた。
濃いめの茶色で、腕時計によくありがちなベルト幅位の革に、オニキスと純銀の同じ大きさの正方形のパーツが交互に一周ぐるっと並べてあって、格好いい、俺も欲しいって言ったら。
「義理チョコすらあげてないあんたになんでグレイと同じものをあげないといけないのよ」
って、小バカにするような視線付きの返答をされた。
「そんなに欲しいなら作るよ、格安で」
「まじで?!」
「宣伝かねて着けて貰うために安くはするけど、オリジナルはグレイだけね」
「えー!! 俺もグレイと同じやつ欲しいんだけど?!」
「『男とお揃いなんて気持ち悪い』って言われるわよ?」
「そこをなんとかぁ!」
「うーん」
「最高級ブル、狩ってくるぞ」
「一週間後には完成してるから取りにきて」
「交渉成立!」
「何故私と同じものを着けている?」
「ジュリに作って貰ったから」
「何故お前とお揃いなんだ。とても気持ち悪いんだが」
「仲良しってことで!! 俺グレイ大好きだしさ!!」
満面の笑みでそういったら、剣片手に殺気丸出しのグレイに数時間追いかけ回された。本気で殺されそうになった。
バレンタインについては私もジュリ派です。作るより買った方がよい!! だって美味しい!!
海外ブランド、有名パティシエなどいくつか買いました (主人と子供と三人ですでにほぼ消費)。値段や味、色々と毎年驚かされますが、特にルビーチョコレート、あの色でチョコレートなんですよね、驚きです。
異世界なら青とか黄色もありそうですよね。




