35 * 旅行の代わりに
「さて本日の議題ですが、社員旅行に行けない人たちのための縁日 (仮)について意見や要望を募りたいと思います」
目が点になる重役たち。
「えー、では出店する屋台ですが―――」
「待てジュリ、そもそも『縁日』とはなんだ」
「あ、流石グレイ! 発音ばっちり!!」
「そこじゃない」
「わひゃひゃひゃ!」
普通に睨まれた。
以前強行した社員旅行。
このことで私には引っかかっていた事がある。
従業員や準従業員と呼ばれるお店の主力として働いてくれる人対象の社員旅行。
でもさぁ、うちって、内職さんとか、空いた時間を活用して副業する人とか、関連事業所で働く人とか、多いのよね。
そっちにも普段お世話になっている分還元したいと思うんだけど、それが難しい。
特に内職さん。
家庭の事情や訳ありと言う人たちばかり。外に出てフルタイムで働くことが出来ないからお小遣い程度でもいいから稼きだい、と言う人たち。
例え一泊二日でも旅行が難しいという現実。
んじゃ、旅行じゃなくてもいいんじゃないの? とふと気づいたのよ。
宴会場で皆で美味しいもの食べるとか……ありきたりでつまんねぇな、じゃあなんだ? と頭をフル回転。
「というわけで縁日なら面白いんじゃないかと」
「全く分からないからな」
今の日本の縁日ってどうなんだろうか? こちらに召喚され数年、そしてそれよりも前も所謂昔ながらの縁日というものとは縁遠い環境にいたせいで、ちょっと情報が曖昧な気がする。でも気にしなーい!
やりたいことやっちゃうよ!
その前に、そもそも縁日は、神仏の降誕、降臨、誓願などの縁のある日、有縁の日のことを指していて、この日に神社仏閣に参拝するとご利益があると言われている。明治時代は新聞に縁日欄というのがあって人々はそれを参考に参拝していたらしい。小さい頃祖父に縁日に行こうよ! と言ったらそのうんちくを聞かされた挙げ句、行った縁日で屋台が甘酒とお好み焼きと地元の飲食店が豚汁とか田楽出してて、子供心を擽らない、切ない気持ちになったんだよ、うん……。
私の中で縁日イコール屋台がズラリ! という構図がある故の思い出なんだけど、要するに自分の理想の縁日がやりたいんです! 屋台メインだろ! とツッコミ入れられちゃうやつやりたいんです!!
「今回は従業員たちが縁の下の力持ち達へ感謝する、縁日改め感謝祭を開催したいと思います!!」
「『縁日』は消えるのか……」
心配しなくてもいいのよ、神様に感謝する日にしちゃえばいいんだから。その上で縁日という言葉が馴染みにくいというなら感謝祭でいいわけで。神様に感謝しつつ、ついでに誰に感謝してもいいじゃん
ね!
「石碑は『感謝』でいいね、あれを会場に置いてお祈りできる場所を用意して、その周りに屋台を沢山並べよう」
「それを好きに回って好きなだけ食べたり出来るってことだ? ……イベントで屋台が出るあれと何も変わらない気がするけど」
キリアが頭の中でその光景を思い浮かべているらしい。
「うん、だから楽しむ要素として回数券を配ろうかと思って」
「回数券」
私の言葉を拾って繰り返したのはローツさん。
「回数券一枚につき各屋台で一食、一杯、一回、それぞれ交換出来るようにするのよ、一人十枚あればかなり楽しめるはずだし」
ビュッフェのように好きなだけ食べてもらってもいいけれど、屋台の一品となるとそれなりの量があるからね。勿論一皿を少なめにしてもらうのもありと思う反面、それをしてしまうと面白みが半減しそうな気がする。だから料理は二品、飲み物二杯ならお腹も満たされ喉も潤せる十分な量にして、残りは他の屋台に使って貰うようにする。食べ物系の屋台はこちらだとピタパンのような平たいパンにソーセージを挟んだホットドッグのようなものや、短いパスタが入った具沢山スープ、お肉の串焼きなど結構充実していて、それに合わせて飲み物専門の屋台もあるので市場に協力してもらい出店できると思っている。
個人的に、この世界にない屋台をやりたいわけですよ。
りんご飴、綿あめ、この二つは絶対に導入したい!! 綿あめの機械の仕組みは知ってるのでハルトとマイケルに協力要請するよ。
それと遊びついでに景品貰える射的! ただ、あれ、銃の原型みたいなものでしょ、これがきっかけで魔力を使った銃の開発につながっても嫌なので、割り箸でつくるゴム鉄砲にするつもり (笑)。
他にもやりたいことはあるので、縁日もとい感謝祭は理想の屋台村的な物を目指します!!
「りんご飴、可愛いねぇ」
フィンやおばちゃんトリオが試作のりんご飴がずらりと並ぶのを眺めて顔をほころばせる。
この世界にも小さなサイズで完熟するりんごがある。しかも普通に美味しいし、赤の他にも黄色やオレンジ、鮮やかな黄緑の青りんごも入手可能なので全部ためしてみたら飴がけされてツヤツヤで彩り豊かなそれがかなりウケが良い。
「「……」」
そしてキリアとロディムはライアスが私とハルトが大まかな仕組みを説明しマイケルに改良につながるアイデアを貰った綿あめ製造機の前で無言でひたすら綿あめを作っている。
高速回転させるだけなら風属性の付与がされた魔石で簡単に組み込めるということでそれを活用して貰い、中双糖に似た砂糖を投入する小さな穴の空いた筒を回転させながら熱することで極めて細い糸になった砂糖がみるみるうちにできていくその光景に作ったライアス本人も何回も綿あめを作って楽しんだ程綿あめはその出来る過程も見た目も新鮮な様子。そんなに量産しても作った後は湿気で萎むよ、と教えたら『じゃあ勿体ないしせっかくだから!』と従業員たちが二人の前に並んで順番に綿あめを貰い口にいれるとすぐ溶ける、でも砂糖の塊を喜々としながら食べている。……食べすぎて太っても責任は取りません。
「面白いな」
「面白いですね」
グレイとローツさんは単純な作りの棒と輪ゴムだけで作れるゴム鉄砲をひたすら撃ちまくっている。
ゴム鉄砲は威力がたかが知れてるので、景品名を書き込んだ大小様々な板を撃ち落とすものにしてみた。二人は今それに夢中で、それ倒れるわけねえだろ! とツッコミ入れたくなる大きさと厚みの板を二人がかりでどこを狙うとかあと何発かとか、かなり真剣に話し合いながらやってる。
「はいはい! 楽しいのはわかるけど、今回は皆がもてなす立場だからね! ここから更にどうしたら楽しいか意見交換してちゃんとまとめること!!」
二度強めに手を打って大きな声で皆に仕事をするよう促す。
今回は内職さんと副職の人たち他、前回の社員旅行に来れなかったもしくは遠慮した、領民講座とネイリスト育成専門学校の講師たち、巡回馬車や物流関連を任せている運送部門の人たち等を招待することにしている。宿泊する一泊二日と違い今回の感謝祭ならククマット領内で半日程度の時間で皆が家に帰れるし、仕事を気にする人、家庭の事情で家を長時間開けられない人たちでも来やすいのかな、と考えている。事実回数券十枚なら食べて飲んで遊んでを二時間前後で回れるから、例えばお昼時間帯に昼食代わりに家族で来てもらってもいい。お子さんたちには別に回数券を五枚渡す予定だし、会場にはテーブルや椅子も沢山用意して、回数券を使い終わってもお茶と軽く摘めるお菓子くらいは用意するつもりなので友達や仕事仲間とそこで交流したり語らったり出来るようにも考えている。
そしてもう一つ。
これをやりたかった。
「……詰め放題、頑張ります」
セティアさん、手に紙袋を持ってフンッと意気込む姿、可愛いよ。
まだ何の詰め放題をするか決めてないんだけど、とりあえず実際に体験して貰い楽しいかどうかを判断してもらうことにしたのよ。用意したのは 《レースのフィン》で販売前に検品した際に出る不良品。小さなレースやハンカチ、ククマット編みのブレスレットや飾りなど。いつも纏めて処分もしくは再利用するので箱一つに溜まっていたそれを小さな紙袋に詰め込むというのをやってもらう。
「あたしもやってみたい!」
ウェラがワクワクした顔でセティアさんの隣に立つので彼女にも紙袋を渡す。
「簡単なルールを説明するわね。まず、紙袋からはみ出しても持ち帰る為の袋に入れ替えるまで溢れなければオッケー。溢れたものはもらえない。そして紙袋が破れたらやり直し。わざと一部を破いてはみ出た所を手で抑えてしまうようなことは流石に不正というか、手の大きな大人が有利になっちゃって不公平だしね。それと、時間制限を設けるつもり。多くいれる為に粘る人ばかりだと楽しめる人が限られちゃうし」
「「なるほど」」
……二人共目力凄まじいな。とりあえず、一回目は袋に詰め込むことに集中してもらう。
「ウェラ、どこでそんな技を習得してきたの」
私は半目で、セティアさんはキラキラした目でウェラの手元を見つめる。袋の口ギリギリにハンカチで筒状の壁を作り、そこに詰め込んで更に再びハンカチで壁を作り詰め込んでいる。袋の容量の二倍、いや三倍になろうかというそのそびえ立つ詰め込みに失笑するしか無い。
「袋が破れなきゃいいし、持ち帰りの袋に入れるまで落ちなきゃいいんだろ?」
いたなぁ、詰め放題のプロ。なんてことを遠い目をしながら思い出した。
「凄いですウェラさん! 私もやってみます!」
「セティア様、それならハンカチはこのちょっと厚手のしっかりしたやつを使うといいですよ!!」
「なるほど!!」
布製品はやめよう、そう心に決めた。
そしてひたすら綿あめを作り続けた綿あめ機。
壊れた(笑)!!
「ムッ、試作とはいえこんなに早く壊れやがって」
作ったライアスとお弟子さん達が酷使したキリアとロディムを責めずに何故か機械に怒っている、ライアス相手だと機械は理不尽なことを言われるらしい。風属性付与をした魔石で金属の筒を高速回転させる仕組み自体が初の試みで試行錯誤になるだろうなと思っていたのをいい意味で裏切るほど初号機のくせにしっかりフワフワモコモコの綿あめ作れたんだから凄いと思うけどね。
「何ならいっそ私が魔法で回転させますか」
「それだと手動、人力になって魔石動力の意味なくなるから。ライアスたちの修理と改良を待ちなさい」
綿あめを作り足りないロディムに子犬のような目を向けられ、綿あめ頬張りたい従業員にジッと見つめられ。
「……今日だけだよ」
折れた私はグレイに苦笑された。そしてキリアは作り飽きたのか食べる方に回っていた。
「質問なんだが、回数券にするのは何故だ?」
ローツさんの中でずっと疑問だったらしい。和気藹々と話し合いが進む中、彼は私の描いた回数券の見本を見てそう問いかけてきた。
「ローツさん的に推測してみた?」
「まあ、それなりに」
「答え合わせしてみよっか」
「よろしく頼む」
彼は真剣な眼差しで目礼してきた。
「まずひとつ目。人それぞれ事情があって来たくても来れない人っているでしょ。その人たちを私とグレイの名前で参加させたい」
例えば親の看病でなかなか家をあけられない、子供がまだ小さく目を離せない、そういう人たちは結構多い。更には魔物蔓延るこの世界特有の問題で魔物討伐で怪我をしたり、魔物そのものに襲われて怪我をしたり。それが原因で後遺症が残ってしまうと言う人が本当に多い。内職さんの殆どがそれらの『家から出るのが難しい』という事情を抱えている。更に貧困。これだけはどんなに私達が努力し改善しようとしてもそう簡単に解決することではなくで、貧困故に内向的になっているという人も少なくない。そういう人たちに対して『無料です』『自由来場です』と言って喜んで来てくれるの? と問えばそれは否と返答する人が圧倒的多数を占める現実。
「やっぱり、そうか。……回数券は来場した際に配るのではなく、前もって配るか届けるか、するんだな?」
「そう。義理堅いというか、気後れしやすいというか……子供は無料のイベントを祭りごとにやってるけど、うちの内職さんたちって実は参加率が低い。何でかなって気になってフィンたちに頼んで話を聞いてもらったら『仕事をもらってるだけで有り難いのにこれ以上の施しは受けられない』って」
「施し、か」
私は彼の呟きに苦笑を返す。
「そういうの抜きで仕事をしてもらいたいわけ。こっちは施してるつもりなんてないんだよね、言い方は悪いけど契約上の関係で単に雇用主として必要な還元をしてるだけだから。その還元に時々上乗せしてやる気を出してもらって、もっと良いものを作る、長期で作ってくれることに期待してるだけなのよ」
「そうだな。一生懸命良い物を作ってくれるから内職をしてもらっていて、それに対し賃金を払うのは当たり前のことだし、こちらから何らかの還元で品質向上や信頼構築に繋がるのは商家にとってプラスになることはあってもマイナスになることは殆どない。そんな人材を確保するためのイベントを何度やっても、該当者が来なければ意味はないからな。ジュリとグレイセル様の名前で回数券を配れば、行かないと逆に負い目になる、偽善の押しつけにも見えるがこちらとしては願ったり叶ったりだな」
「そういうこと。このへんは分かってたでしょ?」
「そうだな……ということは、ジュリは他にも?」
「まあね」
そこで私は話を切った。ローツさん不満顔だあ。
彼にはもう少し頭を捻ってもらおう。
「答え合わせはその準備が整ったらね」




