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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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4 * 付加価値と小さな火種

本日一話更新です

 


 ちょっと面白い事がわかったの。

 この世界に魔素という正体不明の気? を溜め込む魔石というものがあって、それが魔物の生命維持の核になってたり、魔道具っていう便利な物を動かす石がある。魔力の素と言われたり、魔力と同じものと言う人もいれば別物という人も。まだまだその正体は分かってないらしい。

 そんなものを日常で使ってるのか……という若干の不安は口にしない。便利だから (笑)。


「魔法付与、ですか」

「ああ、出来そうだな、と思って」

 その便利な仕組みが全くわからない魔石には劣るけど、一部の魔導師が他のものに魔力を込めて似たような作用を発揮させる事が出来る物がこの世界にはあるそう。

 そういった魔力を意図的に込めることを魔法付与というそうなんだけど、どうやらハンドメイド品にもそれが可能らしい。

 とくに擬似レジンと螺鈿もどきだけで作られた素材、純魔物製のものが魔法付与できるかも、だって。

 どうやら魔物素材は天然石や金属よりも魔法付与と相性の良いものが圧倒的に多く、防具や武器でも魔法付与されているものは魔物の素材が使われていたりするんだって。

 異世界だよねー、やっぱり。


「で?」

「あ?」

「スライム様とかじり貝様だけで作ったアクセサリーパーツが魔法付与できるかもしれないのは分かりました、それで、なんですか?」

 私の質問に、目の前にいる人、冒険者ギルドのこのククマットの責任者ダッパスさんが変な顔した。ちなみにグレイの幼なじみらしい。


 え? だからなに?


「ですから、付与出来るって分かりました。でもそれ私に言う必要あります? 私は魔法付与のために作ってるわけでもないので教えられた理由が分からないんですが」

「……」

 あれ? 固まったぞ?

「ジュリ、ダッパスはジュリの作った物に魔法付与を試させて貰いたいらしいんだ」

 グレイが飄々とした顔してる。なんだろ?

「はあ、それならどうぞ購入してお好きにお試しいただければ」

 ん? グレイの口元がちょっと笑ってる?

「そういった魔法付与が可能なものは冒険者に間違いなく売れるから、試用品として無償提供して魔法付与を試してもらう職人が多いんだよ」

「はっ?! 嫌ですねそれ!! それでなくても忙しくて作りたいもの作れないことも多いのに!!」

 あ、グレイが吹き出して笑った。

 そしてダッパスさんが顔をしかめた。

「だから言っただろ? ジュリは無償提供なんてしないって」

「しかしグレイ、格安の素材で魔法付与が出来るとなると大きな成果だ、必ず利益になるし、試してみる価値はあるはずだ」

「私に言うな、ジュリに直接どうぞ」

「うっ……」


 あれ、ダッパスさん。

 もしかして私苦手?

 なにもしてないけどな、この人に。


「その、な」

「はい」

「魔法付与がどれくらい効果があるか、試すにはそれなりの数が必要で、しかもどんな魔法が付与出来るかも色々試すことになる」

「はい」

「数が必要なんだ、それなりに」

「はい、買ってください」

「ぐっ……ギルドにも予算ってのがあって、その辺を職人は皆」

「例外って、世の中存在しますよね。ていうか、只で提供とかうちのお客さんが黙ってません」

「そ、そこをなんとか内密に」

「嫌ですね。絶対。あと、提供ってことは? それ、試したら返してくれる訳でも無さそうですけど、そのへんはどうなんですか?」

「あ、えっとな、当然提供だからな、無駄なく大事に処理させてもらうことに」

「つまり、タダで手に入れる人がいると」

「う、むぅ、まあ、そういうことに」

「絶対いや」


 バカにしてるよ、この人。

 格安の素材だから譲ってもらえるのが当然っておかしくない?


「あのですね、元はタダです確かに」

「そうだろ?!」

 なに急に勢いついてんのよ。

「でもちゃんと買い取りしてますよ」

「は?」

「スライム様もかじり貝様も、質の良いものが欲しいのでお金出して買ってます。それにダッパスさんが簡単にそれ譲ってくれって言って手に取ったもの、色付きスライム様でそう簡単に入手できないし、ラメ装飾に使った螺鈿もどき部分も捕獲数が少ないいい物を使ってます。量産は絶対無理ですよ? 普通の素材ならいけますけどね」

「……え?」


 そうなのだ、この人、手にとったのが色付きスライム様でも特に珍しいサファイアブルー色のスライム様の擬似レジンに螺鈿もどきの一番かがやきのいい一枚目、しかも珍しい黒色の黒かじり貝様の螺鈿もどきをラメにしたものだ。黒かじり貝様は千枚に一枚いるかどうかと発覚した希少種。高いよ。うちでは。


 あのさ、今まで厄介者扱いされてた廃棄物ものだから提供してくれるって思ってたんでしょ。反して見た目が綺麗だからギルドで魔法付与したら人気出て売れると思ったんでしょ。

 そしてククマットで毎日行列できて売れてるから簡単に出来る量産品と思ったんでしょ。

 んなわけあるか。そんなだったら数十リクルなんて値段つけたりしないわ。

 タダ同然って分かってんなら材料集めてギルドでやれよ。『特別販売占有権』に作り方もちゃんと登録してんだから、そのレシピ買ってやれよ。

 作ってみたら難しくてここに何かしらの相談でくるならいいけど、なにもしないでいきなり寄越せとかあり得ないだろ。


 と、素で言ったらダッパスさんが二度目、固まったぞ?

 グレイは面白そうだわね。


「ということで私は提供しません」

「!!……そ、そこをなんとか!!」

「その代わり作り方教えますよ」

「え?」

 そう、作れ。というか『特別販売占有権』に作り方も登録してるんだけど、それギルドなら買えるでしょ? 個人だと出費に躊躇う金額かもしれないけど、一部の商家はすでに買ってくれてるよ、ギルドくらいデカイ団体なら簡単に買えるのになんで買わないの。

 それが嫌なら技術提供してあげるから作れ。

「覚えればそう難しいものではないですから、明日から。私直々にしっかり教えますよ、その後はギルドでどうするか相談したらいいんです」

「え、ちょっ?」

「朝八時から私はここで作業してますので、同時刻から二時間、人を寄越してください。毎日必ずスライム様は扱うわけではないですが、明日はちょうど使う予定あるので」

「いきなりだな?!」

「忙しいんです。どうしても私の手を止めてそちらの都合に合わせろというなら商品が品薄になる理由をギルドが責任もってお客さんに説明する約束をしてください。それが出来ないならまずそちらに合わせることはできません。定休日はここで作業してくれるおばちゃんたちに工房も開放して自由にレースを編んでもらってるので休日にここで教えろというならおばちゃんたちの説得もそちらでしてください。自宅の作業場は近隣から最終チェックのククマット編みが毎日必ず届くのでそれを置いておくのと今進行中のレースのお店の大事な物が沢山あるので間違っても来ないで下さい、勝手に来たりしたら侯爵家に報告して正式に抗議してもらいますから。私が職人じゃないから、女だからって甘く見てたならその考え方捨ててもらっていいですかね? こっちは異世界に飛ばされて一人で生きてく覚悟で店を開いたわけ。使えるコネは使いまくるし手に入らないものは自分で探してなんとかしようとなんでもするわけ。分かる? 必死なのよこっちはさ。なのにギルドには皆無償提供するのが慣例だからお前もしろって? 知らんわそんなの、聞いたこともなかったわ、それなのにいきなり来て頭も下げない、ちゃんと自分で話さない、雰囲気で察しろって上から目線の態度なんだそれ? 喧嘩売ってる? 私の商売邪魔するなら買うわよその喧嘩。グレイの友達だかなんだか知らないけど私は私、グレイに説得されようとこの件で折れる気は全くない」


 あ、ダッパスさん半泣きだ。

 そんな顔してもダメだよ。

 ケチってる訳じゃない。

 ほんとうに助かる人がいるなら勿論提供する。

 けどこれは違う。

 貰えて当たり前、優先されて当たり前、さもギルドは個人商店の店主より偉いみたいな、それが気に入らない私は。

 皆お金をなんとか得るために内職、副業で頑張って素材を使いやすくしてくれたり、商品を生み出してくれる。そのお陰でお店は回ってるし私は作りたいものを作ってそれを世に送り出して私もお金を得ている。


 それをさぁ? 説明もろくにしないでタダで寄越すの当然だから分かってるよね? って態度でしかもそれが後でタダでこの人たちギルドの人間が『いやこれは仕事の一環だから』って貰って身につけるんでしょ?

 あ、同じ事を口にしてる? 私ってば。

 とにかく、言いたくなるよ。


 ほんと、もの作りをバカにしてる。

 ギルドそんなに偉いの?

 文句あるならもっと上の人間出してこい。私はそいつらともこんな感じで話すよ、そして脅したきゃ脅せばいいのよ。


「それで【神の守護】が発動すればいいのよ」

「は?」

「馬鹿馬鹿しい。遠くからわざわざ魔物との遭遇の危険を犯してまで買いに来てくれる人がいるのに役に立つって建前一言で楽して手に入れる奴の手伝いなんてしてたまるか」

「いやちょっと待て? いまなんて言った?」


 あ? 人の話を聞いてないの?


「【神の守護】だ、ジュリには【神の守護】がある。【スキル】【称号】がなくて公爵や国が放逐したが、そういう【彼方からの使い】もいる。お前も前にハルトから忠告されていただろう、ジュリと接触するときはくれぐれも気をつけろと」


 ああ、そっちね。

 そういうことね。

 てかハルトはダッパスさん知り合いなのね。あ、ハルトも冒険者だもんね本業は。今ニートみたいな感じで自由満喫してるけど。


「……出直してくる」

「ああ、それダメ。そのために時間を作るのもったいない。そのせいでグレイとのデートの時間まで削られたら私本気であなた殴りに行きますから。明日から朝の二時間人を寄越してください、教えます、徹底的に教えます。それで作れるようになって好きなだけ試して好きなだけ売って下さいね、ちゃんと覚えた人には同意販売権を許可しますから。あ、うちで練習で作るものの素材代はしっかり請求しますからよろしくおねがいしますね」


 グレイは笑いすぎ。


 とにかく。

 私は冒険者ギルドだろうがなんだろうが、権力の都合のいいように動く気はない。

 それでたとえ不利な立場になっても。

 私は私。

 やりたいようにやる。




ブクマ&誤字報告ありがとうございます。


増えるブクマは執筆の糧です、本当に。ありがたいことです。

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