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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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4 * ゆっくり少しずつ

 



 野郎ど……ごほごほ、男性お三方が戻って来たときには大筋決まってたわ。

 管財人さんで、特にシルフィ様の個人資産管理を中心に担当してる人がシルフィ様のご実家と密に連絡を取って今後中心になってクノーマス領内の内職という新しい働き方について動くこと、そしてご実家の貸商とも連絡をとり、そしてルリアナ様のご実家のある領地での投資の詳細もこの人が一手に引き受けて随時私に教えてくれることに。

 この人は元々シルフィ様のご実家で働いていた方なんだけど、優秀な方でシルフィ様が連れてきた方。だからご実家の内情も把握してるので何かと都合が良いし、ご本人も話を聞いて非常に興味を持ってくれてノリノリだった。


 なので。

「基本方針はまとまりました、あとは詳細を改めてジュリと詰めてくださいませ。領令で定めるならば旦那様が責任を持たねばなりませんから私が出来るのはここまでですわ」

「あ、そう」

 侯爵夫人が優雅にお茶を嗜みながら笑顔で言った時のあの侯爵の顔。切なくなったわ。

 管財人さんが書きなぐった紙が十枚越えてたからね。大体決まったようなものだから本当に細かい所決めるだけになってたというか。

 だって、三時間も放置されたわけよ。

 祭壇直すためにアワワワするから。

 内職の話をしに来ただけなのに。


 でもこのお陰でルリアナ様のご実家と直接的に関わりが深くなって、私はこの後新しい素材を手に入れることになってまた妙な動きをしながら喜ぶことになるんだけど。











 そして後日。

『内職』についての説明会をすることになり、クノーマス領全域に告示して、職人さんや商売人、それから各地区の区長さんが集まってくれたんだけど、当日なんと三百人来てしまった。

 いやはやびっくり。領内と言っても広い侯爵領、そんなに集まらないと思ってたんだけどね。新しい『働き方』というのは、興味をそそられるものなんだね。

 説明会では次のようなことが説明されたよ。

 とりあえず私の仕事に直結する物を先行して内職を広めること、内職を取り入れたい職人や商売人には侯爵家の専属の指導者がついて教えるとこ、副業や代理とはどう違うかの詳細を知りたい人は実際に内職をしている人の所に出向いて見学も可能だ、などがまずは伝えられた。

 侯爵家の管財人さんがフルで動いてましたよ。

 十人以上いるんですけどね、その人たちがグループを作って説明会したんです。野外で。


 本当は大きな演芸場を借りたのよ、このククマットで一番大きい演芸場。

 入るんだけど、予想外に多くてこれは質問が飛び交ったら収拾つかないってなりまして。

 なので外です。

 中央広場で管財人一人に三十人前後集まってもらって。そして管財人がちょっと確認が必要な内容は私やグレイの所に確認に来て、また説明を。


 いやぁ、参ったわ。

 結構細かい所まで管財人さんたちと話し合ったんだけど、こちらが思い付かない質問とかね。

「預けた素材が預けたやつに盗まれたらどうすんだ?」

 とか

「こっちの決めた金額に途中から納得出来ないって言われたら交渉しなおしか?」

 とか。

 窃盗に関しては自警団のトップが隣にいたので丸投げしましたよ勿論。

 金額設定についてはそのための契約書交わしてくださいって慌てて店にその見本を取りに行ったり。


 丸一日がかりでした。


 反応はまあまあかな。

 やっぱり商売人がね。代理と違って出来の良いものは頼んだ責任として必ずお金支払わなきゃいけないし、あとから金額は変えられないっていう契約も必ず基本契約で結ぶから、誤魔化しが効かなくなる。その辺は分かってたので少しずつ認知されるのを待つしかないよね。

 それでも一部の人たちは結構真面目に食いついてきたんだよね。

 いままで自分でやってた簡単な作業が、委託できてしかも一定の完成度のものにお金を支払えばいいなら、それだけ自分の単調で時間を食う仕事から解放されるわけで。


 とにかく、この『内職』を領令で認めること、これだけは決定されてクノーマス領の新しい働き方として領民に周知されることになった。













 それから本格的な春を迎えて、益々お店は忙しくなり、そして露店も大盛況。

 露店はついに三箇所になった。フィンと私が許可を出して私たちの住む区画の『同意販売権』を取得した人たちが作るグループから、さらに独立した近隣区画の二ヶ所がそれぞれ独自の色合いやデザインを決めて特色を出すようになっていたのでいい機会だと思いきって三つの店にしてみた。

 シンプルで基本的な、汎用性のあるものは私たちの区画、カラフルだったり、飾りに向いてる小さいものはすぐとなりの区画、濃いめの色や太い糸を多用して男性が好みそうなものはまた別の区画の、といった感じかな。

 今も他の地区で試行錯誤で次に続けと試作がされつつ商品を量産できる体制が出来つつあるので楽しみな限り。

 そして気づいたらいつの間にか『ククマット編み』として売り出してたおばちゃんたち。

 デカデカと看板出てました。これには驚きを通り越して笑ったわ。

 さすがです。


 そして内職も緩慢にだけど広まりつつある。

 まだまだその『代理』とは違うやり方を理解出来ずに結局次の仕事はまかせられない、素材が無駄になる、という仕事をする人も多い。

 それでも私の負担が減るくらいには成果を出していた。

 器用だったり、理解力のある人は結構いるわけで、押し花については五人に増えた。今では初めからお願いしていた人なんて私より丁寧な仕事するかも? みたいな。なので完全に私の手を離れている。

 他には色付きスライム様のその場で使いきれなかったものを固めただけの擬似レジン板を砕いてふるいにかけて、それぞれ大きさ別に分別してもらう仕事も二人確保できた。これはほんとうに助かっている。何かと使う色付きスライム様のさざれ石風の欠片は在庫が少なくなるだけでストレスだったし。細かいものはハーバリウムだけじゃなくアクセサリーのポイントとして沈めることにも使うのでどうしても在庫は切らすわけにはいかなかった。そして当初表面をわざわざコーティングしてたのもやめて、今はそのまま使う工夫をしているから、作業効率はグッと上がったね。


 そして螺鈿もどき。魔物のかじり貝様の殻を砕いて内側の綺麗な螺鈿もどきを薄く剥いで、そして質ごとに分類。それをラメにしてふるいにかけて粒を揃えたもので分類。二つの内職に分けたこの仕事も数人確保できた。


 さらに、友人の紹介でやってもいいといってくれた人は、花や他の素材をまとめて擬似レジンで固めてからカットして格安で売り出すパーツの表面を、カット面に擬似レジンを適度に塗って艶よく仕上げるというちょっと気を使う作業を一発でクリアできたセンスある人が現れて、しかもね、うちで売ってるパーツを使ってブレスレットを自作してたのを見せてもらったら凄くセンスある色使いしてて!! この人は内職ではなく従業員として即採用。キリアって女性なんだけど、びっくりしてたわ、うん。


 螺鈿もどきを作品にする段階に入っているけど今は試行錯誤で、扱いも少し難しい。これはフィンが苦手で私が現状一人でやっている。

 これはすでに、ライアスの紹介で彫刻職人さんのヤゼルさんという人を中心に工芸品に進化させることを勧めた。素人の簡単な知識を伝えただけだけど、職人さんの目の色が明らかに変わって、『任せろ、必ずいいものにする』って現在は私を納得させる螺鈿細工を作って見せると言ってくれたので、非常に将来が楽しみ。


 これはこれでいいことだ。

 新しいクノーマス領の工芸品になるかもしれないし。

 私もこのまま試行錯誤で止まっているつもりはないしね。

 もっと活用方法はあるはず。

 そうなればきっとこの螺鈿もどきに関わる内職さんも増えるはず。


 楽しみが増えてきたわよ。


「ジュリ、店の名前なんだけど」

 グレイが不意にそんなことをいいだした。

「店……あ、レースの店の?」

「ああ、あの店の名前、父が《レースのフィン》にしたらどうかと」

「えっ? 侯爵様が?」

「今ジュリが広めたマクラメ編みが『ククマット編み』で浸透してきてきる。しかも私はよくわからないがジュリが教えていない独自のデザインも生まれてるんだろう?」

「そうですね、もう私も確認しないと編めないものもありますし」

「いずれカギ編みもそうなるなら、今のうちから統一した呼び名をつけやすいようにフィンの名前を推したらどうかと」

「なるほど、それいいかも。確かにフィン、すでに私を超えてるんですよね特別販売占有権をフィンで登録しててよかったかと」

「……は? ジュリを超えてる?」

「超えてますよ、とっくに。これでも私もレース編み得意だったんですけどねぇ、フィンの作るもの私見ただけじゃ作れませんから。今手掛けてるのなんて怖くて触れませんよ。千リクル (十万円くらいかな)でも安いでしょうね、侯爵夫人が目を付けてますよ」

「それはまた、凄いことだな」

「……カギ編みは『フィン編み』……悪くないですね」

「……占有権の商品や技術の登録名だか、変更料を払えば変えられるぞ。侯爵家が言えばやってくれるはずだ」

「ああ、じゃあとっとと変えましょう。バレないうちに」











「ちょっと! なにこれ!!」

「えー?」

「なにしたのあんたは!!」

 あれから数日。フィンが寝室に飛び込んできた。着替えてる最中だけど。

 あ、届いたんだ、かぎ編みの名称変更届けの受理証明書。さすが侯爵家です、お仕事が迅速です、素晴らしい。

「あー、それ?」

「なんで『フィン編み』になってるの!! いつしたの!!」

「数日前。どうせなら名前つけちゃおうかと思って。グレイも賛成してくれたし」

「はぁぁ?!」

「あとね、店の名前 《レースのフィン》に決まったから」

「はぁぁぁぁ?!」

「侯爵様提案だからね、文句はそっちにね」

「なんでそんなことになるの!!!」

「うるせぇぞ!! フィン!!」

 ライアスが、朝から大騒ぎのフィンに珍しく怒ってたわ。


 それと。

 結局のところ、【変革】ってなんだろうか?

 職業の幅を広げることなのかな? よくわからない。セラスーン様には

『思うようにしてごらんなさい、答えはあなたが見つけるのだから』

 とは言われたけど。

 ……分からないことは、放置。そのうち分かればいいかなと思うことにしよう。

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