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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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34 * 招待状も個性を出してみる

 



「ジュリしゃま、ありがとうございます!」

「うおぉぉぉぉっ……破壊力凄まじいっ……」

 リアンヌ・ラパト将爵夫人の隣でモジモジしながら猫耳と尻尾をピコピコさせるご令嬢の可愛いこと!! ちょっと噛んだのもまた良き!!

「ジュリ、ジュリ……頼むから床に転げないでくれ……」

 グレイに抱えられ起こされても悶絶する私を見つめる五歳のご令嬢のキョトン顔。

「ぐふっ……目、目が潰れる……ティルエ嬢の特技は、絶対に目潰しっ……!」

「そんな事で潰れてたまるか」

 グダグダな私を小脇に抱えるグレイは私の醜態に最早怒りを隠さずもう一方の手で私の目を塞ぐ。

「大変失礼致しました」

 目を塞がれてしまい分からないけど、まあ、間違いなく顔が引き攣ってるであろうグレイの謝罪にラパト将爵様とリアンヌ様、そして同席しているウィルハード公爵夫妻が実に愉快そうに笑う。

「いえいえ、娘が称賛されているのに失礼だなどと思うわけがありません」

 ラパト将爵様がとっても快活に楽しげにフォローしてくれた。

「そうですよ、寧ろもっと見て褒めて頂きたいですわ」

 リアンヌ様もそう言ってくれたので私は旦那の手を握って目から離す。うへへ、可愛いぞ。


 エグい特盛になったはずのなりきり三点セットは試作ですがぜひお誕生日に貰って下さいと言って箱を開けて見せた瞬間、ラパト家のティルエ嬢がパァァァと目を輝かせその場で着けたい、持ちたいというソワソワした感じが凄く、凄く可愛くて、最早食い気味に私が『ツケテミマセンカ!』と興奮してカタコトになった事も寛容に受け止めてくれてご両親がその場でご令嬢に許可して下さった。

 そこから壊れた私が役に立たないと察したグレイが話を進めてくれる。

「まあ、この三点セットの販売のための意見交換会、ですか」

「はい。価格や使う素材、見た目など高位爵位のご夫人の皆様のご意見があれば決めやすいのではという話になったのです。例えば、高額な宝石を散りばめてしまえば主催の夫人の身に着ける宝石を上回る値段になりかねませんし、手に持つスティックは飾り次第でドレスなどに引っ掛かり破くこともあるでしょう、最悪人にぶつけてしまい怪我の原因になりかねません。そういった事態をなるべく回避し、かつ社交場で子息令嬢が浮く存在にならないように着飾るアイテムとしての開発を目指します。そのため、実際に茶会を開く夫人の皆様の意見を伺うお茶会を開く予定です」

「素晴らしい考えですわね」

 アティス様が笑顔で賛同する。

「本日こうしてティルエ嬢への贈り物を持参したにも関わらずこのような話をするのは気が引けたのですが、是非ともアティス様とリアンヌ様にご出席いただければと思いました」

「勿論喜んで伺いますわ、ねえリアンヌ」

「ええ、当然ですわ」

「ありがとうございます、それでは改めて招待状を送らせて頂きます」

「それでね、伯爵」

「はい?」

「そろそろ、ジュリ様を下ろして差し上げたらどうかしら」

 小脇に抱えられたままの私を見てアティス様がグレイに言ってくれたけど。

「いえ、このままで。お見苦しいかもしれませんがお許しください。これだとジュリが暴走しないのです」

 ムッ、しばらくこのままらしい。


「あのー、そのお茶会にティルエ嬢をご招待しても構いませんか?」

「え?」

 小脇に抱えられた私の質問にアティス様と将爵様が目を見開いた。

「可能なら、今のように三点セットを実際に着けて皆さんに見て頂ければと思っています。ティルエ嬢は五歳、三点セットの適正使用年齢を四、五歳からと考えてるので理想的でして。あ、でも、見世物みたいな扱いになるのは流石にだめですか?」

「そんなことありませんわ!」

 食い気味にリアンヌ様が身を乗り出してフサフサの尻尾をピンと立てた。

「ティルエのお茶会デビューがジュリ様のお茶会なんて! しかもティルエがお茶会の目的である三点セットを身につけられてお披露目なんてこれほど光栄なことはありませんわ」

「ほ、ホントですか?」

「ええ、ええ、いつが良いのかと悩んでいたんですの。それがこうしてお誘い頂けるだけでなくジュリ様の新作を一番に身に着けてお披露目なんて、なんて幸運な娘かしら!」

 おおっ、すっごくっ喜んでもらえたらしい! 将爵様も嬉しいらしく何度も頷いてくれている。

「ジュリ様のお茶会、たのしみです。ご招待ありがとうございます」

 ニコニコ、純真無垢な笑顔が凄すぎて鼻血出そう。


 そして。

「あの、やっぱり下ろしません? 苦しくなりますでしょ?」

 小脇に抱えられる私を哀れに思ったのかアティス様がもう一度グレイに言ってくれた。

「ご心配には及びません、【スキル】で全てにおいて補正がかかっておりますのでジュリに負担は一切ありませんから」

 全員が『それ【スキル】なの?』って顔したわ。ティルエ嬢までびっくりしてる。

「ちなみにグレイのオリジナル【スキル】で、【自由人の捕獲*改】というものなんですよ。そして私専用です。お姫さま抱っこやおんぶより実は快適です。補正って凄いですね」


 皆さん、無言はキツイです。












「さーて、招待状は今回どれにしようかなぁ」

 セティアさんと共にお茶会の招待状に使う封筒とカードをお店の二階の大きなテーブルに並べて眺める。

「やっぱり季節を考慮した色や花模様ですか?」

「……セティアさんは」

「はい?」

「マーブル模様ってどう思う?」

「えっと……」

 ごめん、唐突過ぎた (笑)! そんなに困った顔しなくて大丈夫、ホントごめん。

「私専用のレターセットやメッセージカードもこうしてみると随分増えたわぁ。でも面白みはない」

「えっ?」

 セティアさんが上擦った声で驚くほど私はとてもわがまま、贅沢を言っています。何故なら、製紙技術や印刷技術が発展途上な世界なのでそもそも選べるほど種類があるわけじゃないからです。クノーマス侯爵家やグレイと私が異常で既に数十に及ぶデザインがあり、その時点で満足して然りなのです。

 でも面白みはない、うん、奇抜さが欲しくなってきた今日このごろ。満足はしてないんだよねぇ、私とても貪欲なので。


「まだ、メッセージカードのアイデアがあるんですか……」

 変人を見るような目で見ないでセティアさん!

「メッセージカードに関してはもう少しアイデアはあるよ、手間が掛かるものだから手を出してないだけ。今からやろうとしてることも手間は掛かるけどね。でも面白い柄になることは確か」

「面白い、柄……それがマーブル模様ですか?」

 ちなみにマーブル模様、自動翻訳でちゃんと通じる。この世界に生息する不思議な魔性植物等にもマーブル模様が存在したりするからね。

「でも、マーブル模様をメッセージカードなどにするのはとても大変ですよね?」

「そうだね、印刷技術のレベルから考えるとまだ簡単には出来ないけれど、家庭で簡単にできるのよ」

「え?」

「寧ろ家庭だからこそ楽しくできて面白いマーブル模様が作れる方法があってね」


 小学校の頃、やったことありません?

 私は学校の図画工作の時間に専用のキットで葉書にマーブル模様を付けてその葉書を家族や友達に実際に手紙を出す所までセットになった授業をしたことがあるんだけど、あのキットがなくても実は材料は入手出来るので簡単にマーブル模様を楽しめるのよね。

「まずは塗料。これは今まで使ってみて白土の着色に使ってる物で大丈夫そうだからそれを使うね。で、経験から言うと薄い色を使いたい時は水で薄めたりせずちゃんと白の塗料を混ぜて使うのがベスト」

「どうしてですか?」

「薄めるとね、紙の色の影響を受けちゃうんだ。例えば意図的に紙の色を活かしたいっていうならそれでいいんだけど、パステルカラーの模様を入れたい時は紙が真っ白じゃなきゃ全然綺麗に色が出ないの」

「そうなんですね」

「どのみち色は三色前後が扱いやすいからそんなに手間はかからないから」

「多いのは駄目なんですか?」

「駄目ではないの、ただ組み合わせ次第では綺麗に見えなかったりもするから慣れるまでは少ない方がいいかな」


 そしてもう一つ。

 マーブル模様作りのキットに入っていた謎のトロミのある材料。

 あれは水の表面に塗料を落として模様を作る時にその塗料の沈みや滲みを防ぐ、模様が綺麗に入る役目をするものだと知ったのは大人になってから。あれを使うかどうかで模様の綺麗さが結構変わるらしい。

 そしてその謎のトロミ。洗濯のりでいいんだよね。洗濯のりならこの世界にも当たり前にあるのでマーブル模様を作ろうと思えばいつでも作れた。

「ではどうして今までしなかったんですか?」

「……全く同じ柄になることがないから」

「そうなんですか?」

「水に落とした染料の上に紙を乗せて、そっと持ち上げると紙に模様が転写されるんだけど、一回やると模様が崩れるのね、二、三回同じ液から転写できるけど一回ごとに形が崩れるわけ。さらに水に染料を落とすわけだからどんなに慎重にやっても全く同じ模様にすることってほぼ無理。そうなると、量産したとしても一枚一枚表情が違うものになるから統一感が求められる場合には全く向かないの」

「そういう問題があるんですね」

「うん、私は一つとして同じモノがない、って個性だと思うけど、統一感があるこその美しさとか上品さが好まれるじゃない、社交界って」

「お茶会などは主催者によって強いこだわりを感じるテーマがあったりしますしね」

「そう、となると、完全手作りの個性際立つマーブル模様の招待状って、好まれない可能性があったから」


 ただまぁ私に関しては今更だな、と思ったのよ。

 以前開いたお茶会だってかなり緩いもので、お茶会というより発表会だったからそもそもお茶会にテーマを持たせてもねぇ、って感じだった。今回だってそう、発表会兼意見交換会が目的のお茶会なので招待状は季節の花をとか、色はそれに合わせてとかしなくても良いよねって。

「今回招待する夫人たちも前回同様に人数は其処まで多くないでしょ、一枚一枚手作りでもそう時間はかからないっていう点も大きいかな。これが数百枚なんてことになったら絶対にやらないけど」


「え、待ってなにこれメチャクチャ楽しい! 待って待って、柄が、柄がこんなに綺麗に紙に移るもんなんだ?! 面白っ! 面白ーーーー!!!」

 あ、キリアがおかしなテンションになった。

「……」

 その隣、目を爛々させてるくせに無言でひたすらにマーブル模様を作っては紙に転写するロディムが怖い。

 ほらもう、セティアさんが引いてるよ、一歩下がっちゃったよ。

「ちょっと、模様を入れていい紙、他にもっとないかな?」

「探してみますか? 何なら買ってきますが」

「余計なことはすんじゃないよ、二人共」

 二人に軽く釘を差しつつ私はセティアさんとマーブル模様を入れた紙の裏に貼る台紙の選定を始める。

 今回は二つ折りのメッセージカードタイプにするため、というのもあるけれど、マーブル模様を入れる過程で紙がどうしても水分を吸収する。そのために乾くと歪んだり反ったりしやすいのでそのまま使うよりも台紙に貼って固定したほうが見栄えもいい。ピンク、パープル、ブルーをパステルカラーに調整した三色で紙にマーブル模様を入れるキリアとロディムが仕上げた紙を見ながら、それに合う台紙選びを呑気にセティアさんと進めた。













「ジュリ」

「うん? あれ、なにその束」

 数日後、あとはセティアさんに代筆してもらうだけになった招待状の枚数、破損や汚れがないか確認していたら、グレイが両手で抱えるほどの紙の束を持って二階の事務所から降りてきた。

「これを許可したのはジュリか?」

「あ?」

 グレイが抱える紙の束。

「はぁ?!」

 見せられた一番上の紙がマーブル模様だった。

「ちょ、ちょっと待って?! へぁ?! これ全部?! 全部マーブル模様入ってんの?!」

 抱えられたままの紙をバババッっと捲って確認してみたら、全部マーブル模様。

「その反応からすると」

「あ……あの二人ぃぃぃぃっ」

 私は今日夜間営業所兼研修棟に勇み足で向かう。

「キリア! ロディム!!」

「ぎゃっ!! バレた?!」

「あっ」

「あの紙は決算報告書用の紙だから別に保管してたんたけど?! それを全部マーブル模様にするバカかどこにいるのよ!! ちょっとこっち来い! 説教だ!!」

 私の怒りっぷりに、白土を捏ねていたウェラが鼻で笑った。

「紙代、給金から天引きされちまいな」

「それいいね! はい、紙代天引き! そして二人は当面マーブル模様制作禁止!」

「「えぇぇぇぇっ!!」」


 泣きそうな顔しても駄目だからね。


 そして、 《ハンドメイド・ジュリ》関連のこの年の決算書類は全てマーブル模様という、事務的書類にしては可愛らしい色から奇抜な色、毒々しい色と実に多彩に染め上げられた挙げ句歪みや反りのせいで厚みが増し、ファイルが増えるという奇妙な結果を生むことになる。

「ちょっと、毒々しい色の紙まで使わないでよ、字が読みにくい……」

「決算用の紙は普段使っている紙の八倍の値段だぞ」

「あの二人、マーブル模様入れ五年くらい禁止にしてやろうか」

「禁断症状が出てよそで迷惑をかけないか?」

「……」

 この後舌打ちしてしまったのは、御愛嬌ということで。



さらっとマーブル模様が今後紙製品として発売されるだろう話を盛り込んでみました。

ちなみに作者は転写三回目くらいの、型崩れを起こした奇妙な模様になった頃が好きという変わった子供だったと親に言われたことがあります。記憶にないんですがね……。今はきれいなマーブル模様好きです。

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― 新着の感想 ―
[一言] マーブリング小学校の時やったなぁ
[良い点]  マーブル転写、簡単なので日本では割と幼い頃に経験しますよね。私も大人の指導するまま受け入れたので、慣れない内は三色位にした方が良いというノウハウは今回知りました。どう転ぼうと失敗にならな…
[良い点] 私もティルエ嬢を見たくなりました。多分、尊すぎて死ねるんじゃないかというくらいに可愛いんだろうな、と妄想しました。 可愛い幼女が可愛い格好してたら、萌え死するしかありません。 [気になる点…
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