◇アケオメスペシャル◇ 得手不得手を理解して一年過ごしましょうという話
あけましておめでとうございます。
昨日一年の締めのごあいさつをしたばかりですが新年ですので改めてごあいさつさせていただきます。
今年も作者はがんばります!
ジュリ達にもガンガン動き回ってもらいます!
なので今年もお付き合い下さい、ゆる~い気持ちで構いませんので。
そして新年早々ゆる~いお話です。
※昨日も更新していますが20時更新でした。
緩い話ですが見逃した方はジュリの貴重な過去話がチラッと見れますのでよろしければそちらからお読み下さい。
女の語らいを年越しで行い、お酒とこたつのぬくぬくと日々の疲れで睡魔に勝てず皆で横になって数時間。時計は既に九時を回っていたけれど、今日は誰も焦らず騒がずでのんびり各々ゆったり起き出した。
「あら、そう言えば男性陣はどうなってるの?」
リンファの疑問に私達は顔を見合わせた。
そういえばやけに大人しい。
というか、音が一切しない。
「全員死亡?」
ケイティが笑いながら冗談を言い、それにつられて私達は笑う。
「またゲームで極限に追い込まれてぶっ倒れてるんじゃないの?」
キリアが呆れた顔して肩を竦める。
「もしくは外に出てまた雪合戦をしてたり……」
ちょっと不安げなセティアさんも目は笑ってる。
まあつまり、何が言いたいかと言うと遊び疲れて寝てるだろうってこと。
と、思ってたのよ本気で。
見に行ったら。
……ん?
全員瀕死。
何故?!
「はあ?」
顔を青くし、震えながらグレイが説明をしてくれたのを聞き終えた私の第一声が、それ。
「なんでお節を食べてそんなことになるのよ」
そして男たちが床に転がり瀕死の状態の中、一人部屋の隅っこで膝を抱えて世界の全ての不幸を背負ったようなズーンと暗い空気を纏ったハルトに私は近づく。
「お節を食べてなんで皆が倒れてるのか説明しろ」
去年確かに私は言った。
お節食べたいと。
ハルト頑張ったら? と。
そして一年後の今日、私達に内緒でこっそり先にお節を食べた男たちが瀕死になるお節とは一体……?
ハルト曰く、お節は食べたいが詳しい材料や調理法がそもそも分からなかったので見た目だけでもどうにかしようと頑張った、と。
料理人に知ってる最低限の材料を伝えて、そして『絵を描いて説明した』と。
ハルトが絵を描いて説明。
ハルトが?
それ駄目なやつじゃない?
ハルトの前から離れ、私はテーブルの上にある、重箱らしき物の前に行く。
それは三段重で、ちゃんとお節の外側にも拘ったんだな、と分かる立派なもの。
しかし入れ物が良くても中身が問題な訳で。
とりあえず、蓋をあけた。
開けて数秒眺めて閉めた。
「え、なに、これ。違う」
そう、違う。
想像以上に見た目が、おかしい。
もう一回、開ける。
意を決して全ての段をテーブルに広げる。
「ハルト! あんたはどんな絵を描いたの?! どうやったらこういう奇妙なものになるの?!」
それはお節ではなかった。
ハルトは確かに知ってる材料を伝えたらしい。しかし、絵が問題だった。
料理人さんは『見た目がそれなりなら問題ない』というハルトの無責任な発言を信じ忠実に再現するため材料を揃えて調理してくれた。絵を忠実に再現するために。
料理人はこの段階で。
「なぜ私に依頼してきたのだろう?」
と思ったとのこと。
どういうことかと言うと。
ハルトの描いた黒豆は、艶を表現したかったのか何故かやたらと白い部分が目立つ絵だったらしい。
栗きんとんは、黄色で全体を描いてしまい、栗の形が分からなくなってしまったので、強調するために固形の栗の部分をオレンジと赤い縁取りにしてしまったらしい。
お煮しめは、色味がいまいちよくわからないからと、分かりやすいようにと緑やむらさきで余計な縁取りや陰影をつけたらしい。
かまぼこについては、『魚をすりつぶしてこんな感じにしたやつ』と説明したはいいけれど、全体をピンクで塗ったくり、半月ではなく三日月のような形だったらしい。
その他お節にはいっているであろう全てのものが、彼の絵は独創的で万人受けしがたいそのインパクトある見た目がそのまま活かされたとのこと。
これで何が起きたのかというと。
それを忠実に再現するためには、『危険な生物と植物』を必要とする、ということ。
だからロビエラム国の料理人さんが疑問に思ったわけよ。
なんでこんな『毒物』を使ったものを料理に見立てる必要があるのだろう、と。
後に、ハルトから無茶振りされた料理人さんからそう聞かされることになった。
……。
……。
毒物!!
ハルトぉぉぉ!!
神聖な食べ物をなんて物にしてくれたんだぁ!!
「はい、これで大丈夫」
リンファが急遽バールスレイド皇国から持ってきてくれた強力かつ万能な解毒ポーションを口に突っ込んで飲ませ、ベッドに運んで休ませてから戻ると、皆で囲んで覗き込んでいるお重入り毒物の前に彼女も近づき覗き込む。
「ハルトの絵を忠実に再現して……。これ、なに?」
リンファがその余りの奇妙さに言葉に詰まってから首を傾げた。
「ハルトはお節をお願いしたって言い張ってた」
「お節って確か……日本のお正月に食べる物よね?」
「うん、そしてこんなんじゃないから、全然違うから」
思い出しながら疑問形でそう問いかけてきたリンファの言葉に皆が一斉に同じ言葉を返してきた。
「「「「じゃあこれは?!」」」」
「毒物! お節はもっと美味しそうで豪華でワクワクする見た目してるから!! こんなっ、こんなっ、食べ物かどうかも判断できない奇妙な見た目とか色なんかしてないからぁぁぁ!!」
「なんで食べたの」
解毒ポーションを飲んで一番に回復したグレイに聞いてみた。
ベッドの上、旦那が遠い目をして呟いた。
「ハルトが、食べ物は無駄にしちゃだめだと言い出して……」
「変なところ真面目で困るわぁ。それにつられて食べるグレイたちもどうかしてるけども」
「あれは……殆ど毒だった」
「だろうね、皆倒れてたからね」
「何故、あんな物を作らせたのか……」
「あんなのを作らせる気はなかったって本人が一番思ってるし凹んでるし」
凹んでる本人は毒を自分で解毒するので一番元気だけどね。
「ほんと止めなね、あんたの絵を見て正解にたどり着ける人ってルフィナだけって何回言えばいいのよ、そのうち絶対に死人出すから今後は食べ物を描くの禁止。そしてどうしてもという時は私に言いなさい、知ってるものなら描いてやるから」
「!!」
「わあっ! 何っ?!」
膝を抱えて鬱な状態になっていたハルトがいきなり立ち上がる。
「そうだよ、ジュリがいるじゃん?!」
「そう私がいる」
「あぁぁぁ……そうだよぉ、居たよぉ」
「居るね」
「でも忙しいと俺のこと後回しにするじゃん」
「そんなの当たり前でしょ。、そして死人出されるくらいなら私が描くから必ず相談して、勝手に決めないで。あんたの絵はね、連想ゲームにすら使えない場合がほとんどだから。そしていい加減サプライズやめな、迷惑度合いがハンパない」
こうして、暇を見つけて覚えている限りでお節の絵を描くことになった私。
材料も味も覚えてる限りで書き込んでおこう。
れっきとした料理であり、決して毒などは入れないように、ハルトの絵は見ないように注意書きも忘れない。
そして死にかけた男性陣が回復し。
「……お節、怖い」
マイケルが真顔で蓋が閉じられているお重を見つめて呟いた。
「お節じゃなくてハルトが怖いのよ! そこは訂正して!!」
お節を穢したハルト、許すまじ!!
「欲しい、貰っていい?」
リンファが目をキラキラさせて何故か重箱を両手で抱えた。セイレックさんが流石に困惑している。
「毒でしょ? これを使って面白いポーション作れるかもしれないじゃない。だってハルト発案の毒よ? 効果高そうだし厄介そうだし、どう考えても怪しいものにしかならないわ」
発想が、怖い……。そして彼は決して毒を発案したわけではないよ、そこだけは擁護しておくわ。
正月早々、ハルトは落ち込み、その他の男性陣は毒に苦しみ、リンファがウキウキし、他の女性陣はただただ夫の看病とあり得ない事態に呆れた。
ちなみに数日後、お重の中身を使い切り、リンファが謎のポーションを量産して満足しているという話がセイレックさんからの手紙で伝えられた。そして面白いものをありがとうという手紙をハルトにも送ったのだと記されていた。
「嬉しくねぇわ!!」
半泣きでハルトが叫んだとかなんとか。
お節、来年に期待する。
いや、期待はしないでおく、ハルトが関わる限り、駄目な気がするから。
お節は日本で食べるに限る。
決してお節を軽視しているのではなく、ただただ、料理が苦手という事実を盾にお節をハルトに任せたジュリが悪い、という話でした。そして出来上がった謎で危険な物体で遊ぶリンファも悪い、持ってきて誰か何とかしてくれるだろうと考えたハルトも悪いというお話でもありました。
人には得手不得手があります、そしてやって良いことと悪いことがあります。
油断すると碌なことしない【彼方からの使い】たちは今年も健在です。
◆お知らせ◆
予告通りこの後冬休みをいただきます。本編更新再開は1月13日となりますのでしばらくお待ち下さい。
それでは皆様、今年も碌なことをしないジュリ達を見守って下さいますようお願い申し上げます。




