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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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4 * 守護神は【知の神】

 


 判明しました。

 あのキョトン顔。

 一瞬聞き間違ったのかと思ったそうな。

 聞き返されたから。

「え? 今なんて?」

「え? だから【知の神】セラスーン様ですが」

 あのね、実はそっくりな名前の神様がいらっしゃるそうで、それが【美の神】シイラスーンとおっしゃる。

 この神は結構色んな所に信者がいるそうで、まぁ確かに【美の神】ですから、女性の妄信的な信者は多そうです。

 そして、私をこの世界に転移させて、命を繋いでくれた神様が【知の神】セラスーン様。


 そしてキョトンから一転の、驚愕による凄まじい形相でのエイジェリン様の叫びによると。

「【知の神】は最高神の一柱だよ!!」

 だそうで。

 神様にもランクあるんだね。

「主神の【全能の神】の下にいる【創造の神】【破壊の神】【生死の神】【叡智の神】の四柱、その【叡智の神】のことを【知の神】と呼ぶことがあるんだ」

 と侯爵様が。

 へえー、そうなんだー。最高神とかかっこいい!! ……あれ? でもおかしくない? ハルトには【知の神】って教わった。【叡智】なんて言い方してない。叡智って表現は神様っぽいけど、ハルトがそれをわざわざ崩して教える?

 そのへんどうなんでしょうかね?









『その呼び方がこちらの世界で勝手に広まった呼び名よ。本来は【知の神】。他の神もそんな御大層な呼び名ではないわよ』










 あれ、普通に反応した。

 しかも。

 なんだろう? とても感情豊かな感じが。さっきと全然違う。生々しい艶のある声をしてる。

 明らかに違うのは、もしかして。


 セラスーン様が直接話しかけてる?


【変革】によってもたらされた私への恩恵みたいなもの?


 心が熱くなる。

 神様が、セラスーン様が、私の行いを認めてくれたからかもしれないと、都合のいい解釈かもしれないけど、そう思う。


 不思議だ。

 今、落ち着いている反面、心は弾んでいて。

 認められたと勝手に思い込んでいるだけだけど、でも、嬉しい。

 神様が、私を見ていてくれてると実感できたから。


「だそうです」

 そしたらですね、 男性陣が慌てだして。

「大変だ! 作り直しだ!!」

 何が? 何の話ですか? エイジェリン様。

「直ぐに職人を呼べ!!」

 だからなんですか、侯爵様。

「ジュリ、我が家は叡智、じゃなく【知の神】セラスーン様を代々の守り神として崇めている」

 あ。

 なるほど。

 作り直しって、そこね。

 あるもんね、この家にものすっっっっごい立派な祭壇が。

 刻んであるもんね、女性の綺麗なお姿した像の台座の正面、堂々と【叡知の神】って。

 名前を呼んだり、使っていいのは選ばれた人、つまり声が聞こえる私たちくらいなので、名前まで彫られてなかったから分からなかった。というか気にしてなかった、すみません。


 というわけで、一旦『内職』の話は中断。

 どの神様の加護があるか、なんてそうそう言うものじゃないらしいって聞いてたから言わなかったんだけど、こうなるか。

 まあいいや。

 侯爵家がセラスーン様を代々信仰の対象としてきたのも私の召喚にきっと関係あるんだろうね。











 男性陣がバタバタしてると、見計らったように現れたのが侯爵夫人のシルフィ様とエイジェリン様の奥様ルリアナ様。

 グレイから話を聞いていて本当は直接自分で聞きたかったみたい。でも領地のお仕事となると口出しは出来ないって遠慮してたみたい。関係ないと思うけどね、興味があるなら聞いてもらうと話すこちらは嬉しいし。

 お茶をのんびり嗜みながら『代理』とは違うこと、マクラメ編みやカギ針編みレースを任せている人たちの『副業』形態とも違う『内職』の話を説明したのね。


 もしかしたら、この『内職』のために発動した【変革】って、この人たちに話すため?

 って言うくらい、話が進んだ。


 なぜなら。

 ルリアナ様の実家はここから他の貴族の領地をいくつか挟んだ北に位置するハシェッド伯爵家。実は隣国との小競り合いが続く辺境伯爵領のすぐ隣。

 切実な問題だ。

「ハシェッド領からも志願兵が多く輩出されるの。近いこと、手っ取り早く収入を得られるのが理由でね。けれど実情はあなたも知っての通り。……女子供が残され、遺族になったり、障害が残る家族を抱えたり。無職者が減らない、収入が上がらない、そもそも人手がないのでまともな仕事が永続的に行えない。慢性的な税収不足で我が家はいつでも大変だわ」


 ルリアナ様とエイジェリン様の結婚は資金援助のための政略結婚だとは、聞いていた。

 凄く仲良しだから全然わからなかったけど、その話が持ち上がって会ってみたら相性よくてあっという間に結婚に至ったそうな。そんな仲睦まじい二人だから、ハシェッド領の現状には共に心を痛めているらしい。


『内職』。


 伯爵領で根付くかも。

 なぜなら。

 《ハンドメイド・ジュリ》で使っているアクセサリー用の皮はすべてハシェッド産だから。

 良質で色のバリエーションの豊富な皮を探したらルリアナ様が是非と、わざわざ実家に連絡して取り寄せてくれた。それが今使わせてもらっている全ての皮製品。

 なんでも良質な皮が取れる魔物が棲息する地域で、昔から革製品が豊富な土地なんだそう。

 でも鞄や靴などが作れる職人はそう多くない。余る皮は良いものなのによそから買い叩かれるのが常だ。そこで私が職人さんと同じ額で皮を買い取ることにしたの。


 量は微々たるものだった。初めは。

 でも今はアクセサリー用の革ひもだけが売れたりするし、何より、マクラメ編みを応用してフィンが『編んだ皮ベルト』を中心に革紐製品をいくつか産み出していた。


 露店でこれは男性にも女性にも好評で直ぐに売り切れる。店でもパーツを取り付けたお高めのものを売り出して人気がではじめている。

 ついでに、腕章を革製にしてマクラメ編みを付けてほしいという依頼から男性用の幅広で革製のブレスレットを開発。アクセントで天然石をつけたりしたのが男性客の自分用として凄く売れてる。

 そんな状態だから、最近は発注して物が届いてびっくりしたよ、馬車四台で来たからね。

「すんごい量だねぇ」

 って、呆けた顔してたから注文数決めたあんたが言うのか、とフィンに突っ込み入れた。


 今はククマットの革製品を扱う職人さんにお願いしてカットしているけど、仕事の合間で作ってもらってるし、職人さんが裁断してるってだけで加工料は高めになる。

 皮を均等に、そして簡単に裁断する家庭に置いておける道具さえ揃えば、元は皮の扱いになれた土地。出来るんじゃないの?

 皮の切断専門の内職。


 執事を呼び寄せると、ルリアナ様がお手紙セットを持って来させてた。

 実家に手紙出すんだね。

「『直ぐに職人一人連れて来い、来ないと後悔して領民に見放されるぞ』って書いたから手紙が届いたらすぐ出立してくれるでしょう」

 って……父親を脅迫してますよ、この人。伯爵を脅迫するんですか、家では権力者なんですかね、ルリアナ様って。頭のいい人だからそうなのかも。

 侯爵夫人は面白そうに笑ってたけど。

 ちなみに手紙はそれなりの額とられるけどギルドにお願いすると魔導具で小さいものなら転送出来る不思議な転送機なるものがあるそうで、それで目的の土地のギルドに届けられる便利な物がある。

 あ、この家にもあるそうです、さすが金持ち侯爵様。なので二週間もあれば領地から死ぬ気で急いで兄か父が到着するはずって。

 あはは、ちょっと恐いルリアナ様って。


 そして侯爵夫人、この方は豪商の出身。実家は王都にあるバニア姓をもつ家。貴族以外で姓をもつ人は少ないからそれだけ大きな商家ってことになる。奥様はシルフィって名前なのでシルフィ・バニアが奥様の旧姓。侯爵が見初めて猛アピールして結婚してるの。意外や意外、恋愛結婚。

 ちなみに王族を除いて貴族でも一般から奥様や婿様を迎えるのは珍しくないのがこの世界らしい。

 でね、商売なんだけど。

 ようは金貸し。

 こっちでは『貨商』って呼ばれるもので、パトロンとは全く違う元いた世界の金融業だね。

 お金かして利子を取る。

 その基本知識があるから私が借金したいって言った時に笑ったのよ、女性でそんなことを申し出る人がいないから。


「私の実家もそれにかませてもらえるかしら」

 かませる、って言う辺りがね (笑)。もう自分の実家の仕事しっかり把握してるしなんなら働けるくらいには教育されてるよ。

 奥様いわく、侯爵家が小競り合いの続く辺境伯爵領の近くの領地に軍資金以外で出資はマズイというの。そんな金あるならもっと紛争地に投資できるだろって言ってくる貴族とか王都の人間が必ず出てくるって。皆自分の所から出したくないんだろうからね、お金も人も。

 だから王都で金貸ししてる自分の実家にやらせてくれないかって。

 この貸商は戦争とか紛争にはお金を出しちゃいけないって法律があって、戦争で国がお金を食い潰すのを防ぐ役割も果たしてるそう。シルフィ様が侯爵家に嫁いでもその法律が揺らぐことはなかった、つまり貴族の干渉も許されないれっきとした国の方針で成り立つ貸商ならどこにでも出資は出来るはずと。

 今は隣国との小競り合いも小康状態で、周囲の領地も落ち着いているからこういった新しい事業や出資の話もしやすいらしい。


 その話を聞きながら追加の手紙をルリアナ様が書いてる。分厚い封筒になりそう。


 うーん、この二人と話を進めたら早いんじゃない?

「あの、せっかくなのでこのクノーマス領内の内職についても相談していいですか?」

「ええいいわよ」

 侯爵夫人、すぐさま執事を呼び寄せると

「管財人を呼んで。大事な話よ、手の空いてるものは皆集めなさい」

 って。

 かっこいいわぁ。











 ちなみに、【知の神】セラスーン様だけど。

『あなたを召喚するときに遣わした神の使いの不手際で不快な思いをさせてしまってごめんなさいね。いずれ然るべきときに謝罪をさせるから』

 と仰ってた。

『あのバカはね、あなたの下僕としてそのうち送り込むからぼろ雑巾のようになるまで働かせていいわよ? なんなら椅子や絨毯として使ってもいいわ、絶対逆らえないようにしておくから』

 とも仰ってた。


 ぼろ雑巾……椅子、絨毯?


 怖いな。


 そういう趣味はないんだけど。



誤字報告ありがとうございます。

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