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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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33 * クリスマスシーズンだからってクリスマスっぽいものとは限りません。

クリスマススペシャル三日目です。

 



 テーマは冬。はい、シンプルで分かりやすいですね。『これは冬』と思えるものならなんでもアリ。

 みなさん、この条件って難しいと思います?

 例えば冬といえば雪、と言う人が日本では一定数いるだろうと予想できるのは冬は寒くて雪が降るしそういうモチーフのものが世の中に出回るし、という生まれた時からの環境、習慣、そして刷り込みのように与えられた情報による価値観のせい。

 これが赤道付近の暖かい国だとそもそも冬がないので『???』となる可能性がある。

 このテーマは四季のある国で育った私が四季のあるこのククマット領で生活する故の思いつきなので、季節のはっきりしない地域に住んでる人たちにとっては『え?』となって当たり前だった。このせいで出品出来ない可能性が、うん、ごめん……次から気をつける。

 というのは些末なことであると気づいたのも最近、なので気にしなーい。


「面白いな」

「面白いよね」

 私とグレイが提出期限最終日の翌日に出揃った作品たちを見て同じ感想を持った。

 それは冬を連想させるもので見事なまでに二つに分類されたこと。

「冬は寒い、だから冷たいものを、冬は寒い、だから温かみのあるものを……面白い位に真っ二つになったわ」

 興味深げにグレイは薄く笑って作品がずらりと並ぶ室内を見渡した。

「地域性に共通点が出るのかと思ったがそうはならなかったか。だからといってこんなにはっきり二分するものだろうか?」

「それは多分今回が初めての試みで、テーマを決めた私が住んでるこのククマットの冬を知る人たちの印象が強く出ちゃった結果かな、とね」

「どういうことだ?」

「今まで不特定多数から一つのテーマで物を集めることってなかったでしょ? その時点で慎重にならざるを得ないわけよ経験がないから。するとそのテーマに沿ったものはどういうものか考える時に印象の強く残っている事を連想すると楽よ。となるとテーマを考えた私が住むこのククマットの冬を思い浮かべやすいじゃない? そしてククマット領は季節のはっきりした地域で、当然冬もはっきりとある、ククマットはかなり雪が降るし、凍えるほど寒い日が続くし、遮るものがない農地の広がる外側なんて風が冷たくて冷たくて立ってるだけもしんどい。そこから連想するのは寒さそのものか、それを凌ぐための暖かいものになる。第一印象ってなかなか切り離せるものじゃないし」

「なるほど……悪く言えば、慎重になったが故にジュリの存在に引っ張られてしまい思考が同じ方向に偏った、と」

「ま、勝手な私の解釈だけどね。でもいい意味で裏切ってくれた作品がいくつかあるから。今後はそういうのがきっと増えるわよ」


 沢山の人を私の価値観で振り回したなぁと反省するよりも、いい意味で裏切ってくれた作品たちはこのものつくり選手権の一番の目的であり今後の 《ものつくりの祭典》の礎となるだろう希望を私に与えてくれて、これらを見た人達がどんな反応をするのだろうとワクワクすることになった。











 今回の展示会に出品された総数は三百を超える。九割方、ククマットとクノーマス領の職人さんたちとうちのお店のパワフル女性陣、それに連なる副業者や内職さんたちで占めている。

「すげぇな、殆ど身うちみたいなもんじゃん」

 展示会を見に来たルフィナ、と……がっつり『私は庶民です』変装をしているやんごとなきオーラがダダ漏れの、第一回腕っぷし選手権にもお忍びでククマットを訪れた金髪碧眼の美青年を従えてハルトは作品一覧表を見て愉快そうに笑う。

「ハルト」

「うん?」

「聞いてないが」

「あー、うん、連れてくるつもりはなかったんだよ俺だって。けど『絶対にククマットに行くはずだ』って公務ぶん投げて丸二日俺とルフィナのストーカーになっちゃって。なんかもう色々面倒になって連れてきた」

「何があっても責任は取らないぞ」

「大丈夫だ、親から言質は取ってきた」

「……それならいいが」

 良くない、旦那それは良くないぞ。後の国王だぞ、なかなか婚約者を決めないことで周囲をヤキモキさせててその動向が大陸中から注目されてるお方なんだから簡単に折れちゃダメ! 私が小声でそうグレイに説教たれたら旦那が妙な笑顔を向けてきた。

「諦めが肝心な時もある」

 左様ですか……。

 旦那がそうなので私もいちいち悩むのはやめることにした。すると、私が肩を力を抜いたのを見て取ったのかその方がスッと私の隣に並んだ。

「ジュリ、テーマを決めて物を集めるというのは面白いものだな」

 やんごとなきなんちゃって庶民様は蕩けるような笑みを浮かべズラリと並ぶ作品たちを今立つその場所から見渡して少し浮かれた、小さな声でそう囁いた。

「面白いと思っていただけて何よりです」

「ああ、誕生日の時とは違って実に多彩だ」

「え?」

「私の誕生日には各地から様々なものが山のように届く。だが、それは私の身分に合わせたもので基本的に毎年中身は殆ど一緒だ。ありとあらゆるものが集まるのだが、目新しいものというのは殆どない」

「……なるほど」

「不思議だな、『私の誕生日』という実にはっきりとした目的で物が集まっても決してこうなることはないのに、冬がテーマ……こんなにも目移りするもので溢れる。まるで万華鏡だ、どれだけ見ても見飽きないな」

「そう感じてくださると展示会を開催した甲斐があるというものです」

 素直に私は思った言葉を口にして一礼した。するとまたなんちゃって庶民様は笑みを浮かべたけれど、直ぐ様その顔は作品たちに向けられた。

「《ものつくりの祭典》という大きな催事をこの地で、そう志していると聞いている」

「え、あ、はい」

 私に顔も視線も向けずその方はただ笑顔で作品たちを眺め続ける。

「早くて数年後、間違いないか?」

「そうですね……今回がその試金石の一回目、これからも試行錯誤、少しずつ少しずつ進めていくつもりです。大陸中を巻き込んだそんな大きな祭典になるまでにはかなりの年月を要する覚悟です」

「そうか。ならば、それまでに私も今の立場を盤石なものにしておこう」

『え?』と、上擦った声で反応してその方を見上げると、やっぱりその視線は作品たちに向けられたままだった。

「成人してまだ数年、私に出来ることなど限られている。……だが、いずれ然るべきその時、堂々と貴賓としてこの地に招かれるよう、それに相応しい人物であると認められるよう、私は地位を固めそしてジュリたち物を作る人々を支援し導く良き理解者であり統治者となって大陸中の人々の生活が豊かに、色鮮やかになる手助けをしていくことにする」

 それはそれは無垢な笑顔だった。やんごとなき身分であることを一瞬忘れてしまいそうになる、そんな笑顔がとても印象的だった。


 あんまり関わるとこのなんちゃって庶民様にも私の恩恵が出ちゃいそうだな、という不安が過りつつもハルトとルフィナがそりゃもう普通に、そう、普通に歳下の男の子に対する若干雑な扱いをするのを目の当たりにして『鋼の心をもつ夫婦だな』と妙な感心をしていたら、そのなんちゃって庶民様から私のオススメやこれには驚かされたというものを見たいというのでそれらを見て回ることにした。

「じゃあまず、ヒタンリ国の物を」

「おお、ヒタンリ国か。あの国のものはなかなか私の国には入って来ないから実は気になっていた」


 ヒタンリ国から今回出品されたものは、ネックレス。

 なぜ私がヒタンリ国の物をオススメしたのかいち早く気づいたのはルフィナだった。

「あ、これ……デザインがシンメトリーになっていて色の違いで印象がまるで違うのね」

「そう、これねネーミングも面白いのよ」

「あ、ホントだ!」

 それはミラー・ネックレスと名付けられた、デザインがシンメトリーの二本のネックレス。メインとなる石はオパールで、それが中央にありその周りに同じオパールの他に数種の石が散りばめられた実に雅なデザインとなっている。向かい合わせると鏡に映ったようになるデザインというのも面白いけれど、何よりその二つの配色も面白い。

 右側に置かれている一本は暖色系で、淡いオレンジ、ピンク、薄黄色や朱色の石が使われている。一方左に置かれたもう一本のネックレスは寒色系で水色、ネオンブルーに冴えた青と無色透明の石が使われている。パッと見ると全く別物に視えるのに、よく見ればメインとなるオパール含め全ての石のサイズと位置、そして全体のデザインが完全左右対称のものなので『あ、同じデザインだ』と不意に気づく。

「これちゃんと色で『寒と暖』で対になってるんですよね、片方だけじゃちょっと分かりづらい、二つ揃って意味があって冬を表現したものだと気づくっていう粋なデザインなんです」

「素晴らしいな、片方だけではなく、両方とも冬ということか」

「メインにオパールを使っているのも洒落てます、淡い乳白色と七色のオーロラカラーがどちらにも馴染んでいるのも素晴らしいですね。これが例えばダイヤモンドだと印象が変わってしまうんですよ、ダイヤモンドそのものがメインになってしまってテーマが薄れてしまうし、だからと言ってそれぞれメインに別の色を持ってきてしまうと折角のシンメトリーという同調性が薄れる。非常によく考えられたデザインなんです」

「うん、実に気に入った。……妹の誕生日に贈りたいのだが依頼は可能かな?」

「ヒタンリ国王陛下もお喜びになります、私から連絡をしておきますのでその後はそちらの側近の方々によるやり取りをして頂ければ」


 そして次に紹介したのが重役ローツさんの実家フォルテ子爵家の白土パズル。

 これがね、可愛いんだわ、物凄く。

 幼児でも出来るピースが大きくカーブや突起もなめらかなパズルを幼少期にやったことがある人は多いと思うけど、そんな人達が見たら『あのピースをパクった?』と思っちゃうくらいの完成度の高いパズルなのよ。

「なんと可愛らしい」

 なんちゃって庶民様もついそう零す位に可愛い。

 総数三十六ピースの完成させると直径役三十センチの丸型になるパズルは表面が擬似レジンで塗装されていてまるで陶器のような仕上がりになっている。絵柄は黒い羊、ピンクのウサギ、茶色のクマの三種類。一様に目が可愛くモコモコした見た目が何ともキュンとさせられる。これを知ったルリアナ様がすぐにでも欲しいとコーフンするしシルフィ様とオリヴィアさんも 《ゆりかご》で売りたいと鼻息荒くなってしまい宥めるのが大変だった魅惑の代物と化したのよね。

 いやでもしかし、これのどこか冬がテーマなんだとグレイが初めて目にした時に首を傾げた。

 そしてハルトとルフィナも首を傾げた。勿論なんちゃって庶民様も。

「添えられている説明書きを読むと上手いこと言ってるな! と思うぞ」

 グレイがハルトにそう笑いながら言った通り、三人が説明書きに顔を近づけて読み始めた。

「何々? 『寒い冬もこれがあれば子どもたちはきっと大人しく遊んでくれるでしょう。貴方も凍える寒さの中せがまれて散歩に連れ出される心配もなくなり暖炉の前から離れずに済みます。これで子供も貴方も幸せ、あったか!! 絵柄は今後も追加予定乞うご期待!! 寒い冬を楽しく過ごせるアイテム、それがアニマルパズル。貴方のお家にいかがですか? きっと温かな時間が待っています』……誰だ、これ考えたの」

「ローツさんの妹さんだって」

 ハルトの疑問に答えれば、ハルトが真顔になった。

「何だよそのピンポイントでインパクト大な才能」

 だよね、私もそう思った。

 なんと商品説明で冬を猛アピールするという力技。いや、動物の見た目がモコモコしてるのであったかそうなのは冬っぽいけども、商品説明をフル活用というのは私の知る限りではこの世界だと 《ハンドメイド・ジュリ》と 《レースのフィン》だけだったのよ。それがここに来てついにフォルテ家もどうやら上手く使い熟せるようになっていたことが判明。フォルテ家というかローツさんの妹さんが妙な才能を開花させたというのが正しい。

「物に落し込まずともいいのかっ、これはよく考えたものだな!」

 なんちゃって庶民様が本気の称賛。

「なかなかやりよる、手練れよ」

 ちょっと、その言い方どうなの? 面白いこと言わないでくれますか、笑いこらえるの大変なので。


「わざわざ無理してテーマが目に見える物を作らなくていいという実に模範的な例ですね」

 私がちょっとふざけた感じで言ったのになんちゃって庶民様はウウンと、かなり真剣に唸ってしまった。

「テーマを守りサイズも重さも守っている、だがしかし初見では的外れに感じ……なんともチグハグで奇妙な気分にさせられる。このような感覚は初めてかもしれない……実に、愉快だ」

 どうやらとても優れた豊かな感性の持ち主のようで、未知なる感覚にフワフワした雰囲気になってきている。

 大丈夫かな、未来の国王様だよね?

 国王が芸術家肌って、ちょっと不安だよ……。

 私のそんな不安に気づいたのかどうかは分からないけれど。

「お前、ホントそういうところ父親そっくり! たまに自分の世界に没入するのやめろよな?」

 ハルトがそんな事いいながらなんちゃって庶民様の頭を引っ叩いた。あ、現国王様もなの? なら大丈夫か、え、大丈夫だよね……? そしてハルト、心臓に悪いからやんごとなき身分の方の頭を引っ叩くのやめて。



冬と言ったら冷たさか、温かさか。

作者はこたつでアイスクリームです。これはどっちなんでしょうか。読者様も冬と言ったらなんだろうとふと考える時があったら作者的には嬉しいです。割とそういうどうでも良さそうなことを真剣に考えるタイプなので同志がいるとホッとするのですwww


それでは明日もクリスマススペシャルとなります、引き続きお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ローツさんの妹さんwww バニラアイスにジャックダニエルテネシーハニーかけると美味しいですよ(ボソッ
[良い点] ≫なんちゃって庶民様 また何か面白いキャラが出て来ましたねw 今後の活躍?に期待します。 [気になる点] 「白土パズル」の絵を描いたのもローツさんの妹さんなんでしょうか? [一言] なん…
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