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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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33 * クリスマスの呑気な一時

クリスマススペシャル二日目です。

 



 感嘆の声を漏らす人、唸る人、人それぞれの反応。

 中でも多いのが、何故か一番最初のガラス職人さんのように固まる人。

 遠目に、冷静に見るとなんかビミョウな反応に感じてしまうのよ、何故そうなる、と。

(ま、いいか。驚かせることには成功したし)

 呑気にそんな事を考えていたら。

「あの反応を大したことではないと思っていそうだな」

 グレイが冷めた顔と冷めた声で私の心を読んだような事を言う。

「ネオステンドグラスの道具や作り方は秘匿まではしなくていい、しかし少なくとも特別販売占有権に登録すべき技術だった。それで利益を出しても誰も文句は言わない、そういうものだと言ったはずだが?」

「その件、まだ納得してないわけね」

「ジュリの決断に納得するしないは私は言える立場ではない」

「じゃあなに?」

「もう少し、自分の評価を見直してくれと何度も言っている」

「それなりに世の中に影響を与えてる自負はあるけど、まだ足りない?」

「……ま、私の顔をみて判断してくれ」

 確実に足りてないってことね (笑)!!


 色々考えてのことなのよ、これでも。

 ガラス関連の事で私は二つ、既に秘匿している。

 まずはシュイジン・ガラス。これはもう製造技術・工程だけでなく含有物や炉の形や製造技術すら全て私と制作者であるアンデルさんだけのものにしている。

 もう一つが最近作り始めたガラスビーズの起源であるとんぼ玉制作に必須の魔石を使い高火力にし、さらにライアスによる極限までコンパクトなデザイン、地球でも通用する形状とサイズのバーナーは 《ハンドメイド・ジュリ》でも使用出来るのは私とキリア、ガラス工房も限定したった二箇所、しかも魔法紙による一切の情報漏洩をしない誓約書にサインした職人さんが現在四人のみ。

 これ以上ガラスのことで秘匿したらそのうち誰かに刺されるんじゃないかと思ったりしたわけよ、冗談抜きで真剣にそう思ったからね。

 それに何もかも隠してたら可愛い物がいつまで経っても世の中に出てこない原因になるし。そんなの嫌だし。

 だからいいの、ネオステンドグラスは今後のガラス製品の品質向上や多様性を促す起爆剤になってくれれば。作り方、道具を知ってガラスに触れる機会を増やしていけばククマットやクノーマス領のようにどんどんガラス製品の価格が下がって日常に少しずつ馴染んでくれるかもしれないじゃない?


 そんなきっかけの一つになればいい、エボニー・ネオステンド。

 皆に知ってもらうために。興味を持って貰うために。感動してもらうために。喜んで貰うために。

 何事も感情が揺さぶられなきゃ、始まらないんだから。

「はぁ」

「グレイの呆れたため息も聞き慣れると可愛いわ」

「嬉しくないぞ」

 そう言いつつ、薄くグレイの口元が笑っていた。

「まあ、好きにするといい、結果ジュリが後悔しなければいいだけだ」













 さて。

 ものつくり選手権ですが、ククマット領内の至る所で選手権というだけあって物を作って競う賑やかな空間が既に出来上がっている。

 如何に速く脚立を作れるか、決まった時間内でどれだけ綺麗に壁を塗れるか、などなど。職人さんたちによる審判が下されるユニークな競技は一般参加を募って集められた人ばかりだけでなく、当日の飛び入り参加も殆どの競技で出来るので年齢問わずかなり盛り上がってるのがちょっと歩くだけで伝わってくる。そこに領内全体のクリスマス装飾やカラーが華やかさを演出してくれるので最早領全体がお祭り騒ぎ。この賑やかさいいね! クリスマスと合同で良かったわ。

 ちなみに第二回腕っぷし選手権も!! と男たちから懇願されたけど却下した、はずなのに。領の端っこの方で腕相撲と綱引きは行われている。ねじ込んで来やがったのよ、ライアスたちが。私の無茶振りや我儘聞いてやってるんだからこっちの我儘も聞け! って。ぐうの音も出ないとはこの事だと思ったわ、うん。なのでエボニー・ネオステンドを作った、関わった職人さんたちはこっちの展示会そっちのけで腕相撲と綱引きに出払っていて、ぜひ話を聞きたいという人たちがその職人さんたちを探して右往左往してるという奇妙な事態に陥っているのは知らないフリをしておく。


 ものつくり選手権の各競技で、参加者全員に参加賞が配られている。あくまで記念なので日本でもよく見かけたなんの模様も入らない白いフェイスタオルを参考にそのまま採用、ただしクリスマスなので端っこに柊の刺繍が入ったものになっている。ちなみにこちらの世界ではまっ白なタオルは超高級品のため、ベージュ色。でもベージュって地球だとオーガニックカラーとしてむしろそっちが良いと言う人もいたなぁなんてことを思い出しながら、既に手にその参加タオルを握ってクリスマス・マルシェで買い物をする人がちらほらいる光景についフフッと笑ってしまった。

 優勝者、というか時間毎に行われている競技の優秀者はタオルにプラスのプレゼントが貰える。そのプレゼントというのが実は後に波紋を呼ぶことになるとんぼ玉セット。

 波紋を、といっても悪い波紋ではなく、『知ってたら参加した!』とか『次はいつ?!』という問い合わせで市場組合がてんてこ舞いになりその問い合わせに関しては一切合切シャットアウトしたらその対応に更に苦情が殺到、結果私とキリアととんぼ玉の作れる職人さん四人の計六人がただひたすらにとんぼ玉を作る羽目になる地獄の数日間が次のものつくり選手権の裏話になりそうだ、という程度なので話は割愛間違いなし!!


「綺麗だな」

 ツィーダム侯爵様が静かに呟く。

「なかなかの自信作ですよ」

 市場の隅にある食堂に協力してもらい本日貸し切りにしてある。

 ほっこりとした落ち着く雰囲気の所々にうちの作品が見えてちょっとこそばゆい気持ちになるその店内、私と義父であるクノーマス侯爵様、同派閥のツィーダム侯爵様の三人だけで熱いお茶をゆっくりと飲む。

「かつて一回だけですが経験したことが活かせました、やっぱり経験は大事ですね。説明する時に言葉や動作がすんなり出て来るんですよ」

 ツィーダム侯爵様の前に並べられたのはものつくり選手権で配られるとんぼ玉と同じもの。色とりどり、模様も様々、私含む作り手がそりゃもう自由に作りたいように勝手気ままに作ったものなので統一感などまるでない。そのおかげで実に多種多様なとんぼ玉となっていた。

「私はこれが好きだな、お、こっちもいい」

 ツィーダム侯爵様が一つ一つをじっくり観察するのに対してクノーマス侯爵様はパッと見て第一印象で気に入った物を手にとって目の前で光が透過するのか確認したいのかランプに向けて翳し、何かに納得するとまた別のものをサッと手に取り比べてみたりしている。実にフリーダムな義父 (笑)。

 そんなフリーダムな義父は雰囲気そのままにお茶に誘ってからずっと疑問だったらしい質問をしてきた。

「ジュリがこの三人でお茶したいなんて珍しいこともあるなと思ったのだが、何かあったのか? 問題事なら速やかに解決するからいってみなさい」

 速やかに解決……。サラっと何て事ない顔してこういう立場の者人に言われるとちょっと怖いよね、ツィーダム侯爵様も同じ顔して普通に同意して頷いてるし。

「ああ、誤解させましたか? 全然そんなんじゃなくて単なる牽制の為にお付き頂いてるだけです。とんぼ玉を同派閥の筆頭家当主に先行して全種類見せたかったという口実で来てもらえば無理に入って来る人もいないかなぁ、と」

「ほう」

 ツィーダム侯爵様は急に面白そうなことを聞いたと言わんばかりの反応をしてきた。

「問題事ではないが少しばかり煩わしい事でもあったか?」

「予想してましたからね、エボニー・ネオステンドを公開したらまっさきに質問攻めに来る人達がたくさんいるってことは。職人さんたちはさっさと逃げ道作ってたので私もそれに習ったまでですよ」

「くくくっ、腕っぷし選手権がいい隠れ蓑になったからなぁ」

 クノーマス侯爵様が実に愉快そうに笑う。

「して、同じく追いかけ回される可能性がある伯爵と男爵はどうした?」

「あ、おいてきました。あの二人なら実力行使で回避するでしょうから放置して大丈夫ですよ、私の逃場が確保出来ればそれでオッケーだったので」

 旦那とその右腕を犠牲にしたという私の発言に二人は噴き出して笑う。

「キリアのことはアストハルア公爵家の影の人達が守ってくれてるので心配ないし、あとはライアスくらいですがライアスは腕っぷし選手権の主催側に入って盛り上がってるので周りが自然と守ってくれるのでそちらも心配ありません」

「なるほど」

 ツィーダム侯爵様はまだ笑いが止まらないようで、そう呟きながら口元を押さえている。

「それと次のエボニー・ネオステンドはキリアが主導で制作することになったので、そのうち一つはツィーダム家にと思ってます。それで希望のデザインがあれば聞きますよとお伝えする目的もありましたしね」

「おお、そうか。それは嬉しいな」

「まあ、キリアがデザインからやってみたいと大騒ぎしているのを宥める口実でもあります。国産のエボニーが手に入らなきゃどうにもならないんですがデザインを先に考えても損になることはないですし」

 すると私の言葉に気になる点があったのか、クノーマス侯爵様が首を傾げた。

「他の国のものではダメなのか?」

「ダメではないんです、ただ私の拘りで。今回クノーマス領内の木材からエボニーが採れました。実はかじり貝様含めて全てクノーマス領とククマット内で採取、もしくは加工したものなんですよ。原料は別のとこから仕入れましたがガラスもコパーテープもハンダコテも、全てこの近辺で作られたものなんですよね。なので出来る限り、エボニー・ネオステンドはこの周辺、つまり国産のもので作れるなら作りたいな、と」

 ま、国産にこだわりがちな日本人の気質がここで現れてしまったといういい例なのかなと自分で思ったりしてる。


「クノーマス家とツィーダム家には先行してコパーテープとハンダコテの製造技術をお渡ししますので、職人さんを見繕って頂ければライアスがいつでも受け入れてくれるそうです」

「そうか、人数制限は?」

 と、ツィーダム侯爵様。

「一度に二人までとさせて下さい。ロケットペンダントの道具の件でアストハルアから度々職人さんや管財人が相談に来ているので大人数を受け入れるのが難しくて」

「ロンデルの事もあるしな。バミスが購入したから相談回数なども多そうだ。強引なことはされていないか?」

 で、クノーマス侯爵様。

「そこは大丈夫です、以前の牽制がそれなりに功を奏したのとウィルハード家が面白がって睨みを効かせてるとラパト家のリアンヌ様が教えてくれまして」

「ああ、その話は私にも届いているな。枢機卿会が最近法王家側と貴族側との板挟みになってるとか」

 ほくそ笑んだのがツィーダム侯爵様。

「バミスは今、拉致奴隷化問題の解決方法の方向性の違いが露呈して何故か三つ巴状態になっているらしいからなぁ、本来まとめ役の枢機卿会が振りまわされているみたいだ。移動販売馬車と合意職務者の推進機関発足の話も暗礁に乗り上げたくらいだ、相当な目にあってるな。こちらとしてはこちらのペースでことを運べるので助かっているがね」

 呑気な口調はクノーマス侯爵様。

 こうして権力者とお話すると色んな話を聞けるんだよねぇなんて思いながら暫しほっこりした気持ちでお茶を啜った。


「あっ! お二人にクリスマスプレゼント用意したんです!! 忘れないうちに渡しときます」

 不意に思い出したわ。これは忘れちゃいけないことよ、危なかったぁ。

「なんだそんな気を遣わなくていいんだぞ」

「嬉しいね義理の娘からプレゼントか」

 そして私はポケットをゴソゴソ。

「こちらお一つずつどうぞ!!」

「「……」」

 あれ、空気が一変しちゃった。

「ジュリ」

「はい」

「『黄昏』の鱗はポケットから出すものではないぞと前にも注意しただろう!! せめて、せめて袋に入れるとか布で包むとかっ!」

「いやだって案外使い途がなくて困るんですよそれ! 色んな人にプレゼントできないし売り出せないし、知り合いだと『もういらない』って拒否られるし! だから近場で責任持って管理できる人に押し付けたほうが!!」

 義父にこの後めっちゃ説教された。

 ツィーダム侯爵様にも怒られた。


「展示会案内しましょうか?」

「「話を逸らすな」」

 ハモってた、ウケる。


 追いかけ回されるのを回避し穏やかに過ごすつもりが、二人の権力者から『常識とは』という、今更なことを本気で諭されて地味にショックを受けることになったクリスマスのとある一時。


この話いらないかなぁと頭を過ったりしたのですが、最後に『常識とは』と諭されるジュリ、をどうしても削りたくなくてスペシャルが一話多くなるのを覚悟で書いたお話です。

そもそも地球の、日本の価値観がこびりついたジュリがこの世界では異端で変わり者なのは当然なんですが、さらに彼女のものに対する思い入れでその扱いが非常に幅がある特異点がですね、割とこの世界だと非常識だったりするんですよ。

だって加工済みの鱗より、ツヤツヤのスライム様に引き寄せられて目を輝かす女ですよ……。


それでは明日もスペシャルとなります、引き続きお楽しみ下さい。

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[一言] 要所要所でネタに使われる黄昏くんw
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