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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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4 * 謎の能力【変革】

本日一話更新です。


今後は特に問題がなければ火曜日と土曜日の週二回更新でいこうと思ってますのでよろしくおねがいします。



「納得いかない……」

「何が?」

「補助や内職はなかなか見つからないのに、『代理』は見つかるんですよ、なんででしょ?」

「それはジュリ、『代理』が当然だからな」

 グレイが苦笑する。

 相変わらず、長期的に私と一緒にものつくりをしてくれる人が見つからない。

 知り合いの職人さんの中には、自分の弟子の技術向上にも役立つからと私のところへ貸し出してもいいって言ってくれるけど、でもあくまでも貸し出しなのよね。

 色んなことして勉強してこい、ってことだから毎日は無理だし期間限定。それでは意味がないのよ。内職も説明しても『代理』より面倒そうだと理解されない。


 それで仕方なく『代理』をやってくれる人を……って冒険者ギルドや民事ギルドに相談して人集めしたら、集まるのよ。

 でもね、私の好きじゃない『代理』。

 理由は『代理』をする側の仕事に対する意識が低いこと。

 まあねぇ、作ったものへの支払い方法がおかしいのよ。まとめて一括で、総合して出来が良いか悪いかで支払いがされるかされないかだから。ちょっと大変な仕事だな、と思えば数個作って後はそのまま材料返せばいいんだもん。もしくは出来る範囲で試しにやってみて、それで全部買い取りしてもらえたらラッキーみたいな。

 依頼側もそうやって人を探して、出来る人にちょっとお金上乗せすればいいやぁくらいの認識、技術を詳しく教えて一般の人に盗まれるくらいなら完成度がギリギリのものでその場凌ぎが出来ればいいって意識がね。

 収入の少ない時期の、物が少ない時期のその場凌ぎの仕事『代理』。嫌だわぁ。


「やっぱり、内職が根付くだけでも、違うはずなのに……」

「ねぇ、その『内職』ってジュリは時々言うけど、何が『代理』と違うの?」

 レースを編むフィンの手が止まる。彼女は以前から気になっていたのかもしれない。

 そういえば前に説明はしたことあるんだけど、笑われたのよね、

「ええ? 押し花一枚一枚を買い取るの? 大変でしょ、そんな面倒なことしなくても」

 って。


 そこよ。


『面倒なこと』


 一般的な物は販売前の品質確認を省く傾向がこの世界にあるのよね、数多ある中から選べばいいじゃないっていう精神なの。バーゲンで掘り出し物見つける訳じゃあるまいし、ってこっちは思うんだけどこの世界の人たちはそうじゃないのよ。


 売ってる服からしてその精神。

 古着屋が当たり前に世の中を支える服事情で、その古着は着れるものを売るんじゃなく、古着なら何でもあり。ボロボロで着れないじゃん!! ってのも売ってる。それでいいんだって。買わなきゃいいからって。たくさんあるんだから良いもの見つければいいじゃないって。それは最低限の品質があってのことと思う私はここでは異端に近いかな? それは極端でも、貴族とか上流階級の価値観に近いらしい。


「押し花作ってくれてる人たち。あれが『内職』なのよ」

「マクラメ編みをしてくれてる人たちは違うの?」

「うん、違う。あの人たちのは、作ったものを一個ずつ確認して値段をつけてるでしょ? 糸の値段が物によって違うし、大きさも違うし、デザインも。ある程度自由にしてもらって、個数も出来る範囲で、って任せてる部分が多い。私の感覚だとそれは『農業の合間にやる副業』になるかな。」

「副業、か」

 グレイが少し思案する。

「確かに副業だろうな、冬の生活を支えるだけの収入になっている者が多いように思う。少し小遣いが増えれば、と思い行う『代理』とは違うだろう」


 そして。

 押し花を任せている三人。

 幼いお子さんがいる若い女性、足腰が悪くて家に籠りがちのおばあちゃん、そして慢性的な病気で定職につけない女性。この三人でいま押し花を一手に引き受けてもらっている。

 この人たちには必要な道具はすべて渡してあり、そして道具の使い方、手入れの仕方、作る際の注意事項が書かれたいわゆるマニュアルも渡してある。そして随時花の種類が変わるので新しい花をお願いするたびにこんな風に作って下さいって見本を私かフィンが押し花にしたものを生花と一緒に届ける。

 そして作ってもらい、最低納品数を守りつつ大きい花なら一枚で、小さい花なら五枚もしくは十枚単位で成功したものを買い取る。

 規格が均一のものを数多く、安定的に手にいれるための手段として内職を私は推している。

 買い取り価格が明確で、できた分だけ収入がある。そのかわり単純で比較的作りやすいものなのでその価格は安く、作って納品してもらう数は多い。


 マクラメ編みは違うのよね。ある程度の制限や規格があるけど、自由に編んでその出来で価格は変わるし、こちらから何個と指定はしない。

『内職』といえばあとはラッピングの袋。あれも完全に内職。

 指定した大きさと縫い方を徹底しているので完成品の自由度は全くなし。規格外のものは買い取りしない。

 ちなみに。布製の作品たちは 《ハンドメイド・ジュリ》だとこっちでは適切な表現がなくて困るけど強いて言うなら『半量産品』。内職の物より手間暇かかって一個の価格も断然高いけど、大きさや形が規格化されているから作りやすい。価格は最初から決まっているしね。


「他に、『内職』に回せるものはあるのか?」

「あるよ」

 ライアスも気にしていたんだね、内職。食いついてきた。

「螺鈿もどき。素材になる部分を層にして剥がすのと、その一部をラメにするのとか。内職として回せれば、私もそのためにほかの作業を後回しにしたりする必要がなくなるでしょ? 最初から使える状態の素材になっていればあらゆる手間が省けて私の作業がはかどるし。他で言えば……擬似レジンを粉砕して作るさざれ石もどきも、ふるいを数種類使い分けてサイズを揃えて分類しておくだけだから簡単な作業だけどそれも結構時間は削られる。専門の内職さんがいると違うよね。手元に届く素材を徹底確認してからしか使えないから恐ろしく時間を費やすことになる『代理』への依頼は、今のお店の状況からはリスクが高すぎる。素材の状態が不安定であれば、私の作業だって必然的に不安定になるからね。だから『内職』がいいのよ」

「やってみるか」

「え?」

「『内職』の本格的な導入を。その話、父にしてみないか? 領内独自の働き方として領令で定められれば領主が認めた働き方として働き手に名乗り出る者は増えるはず。それにこの領内の領民の収入源が増えることになる。《ハンドメイド・ジュリ》が『内職』を導入することで今後安定的な成長を維持できる見込みがあるなら、それはこの領地の外貨獲得に繋がって行くだろう」










 と、いうことで侯爵家に来たわけだけど。


 大げさだな、と思ったわ。

 外貨獲得かよ!! って。

 でもね、すでに始まってるそうな。

 遠方からのお客さん。そうだね、国内とは限らないね、確かに外貨だわ。

 マクラメ編みはすでに一年経過、テレビもネットもないこの世界だからこそ今影響力を発揮しはじめた。このタイミングは確かにいいのかもしれない。

 仕事の幅を、私だけではない人たちも広めるいいタイミング。

 どうせなら、たくさんの人に良いものを、手にして喜んでもらえるものをもっと届けたいし、それに携わる人ももっと増えてほしい。


 この世界になかったものを、見て楽しいものを、可愛いものを、手にしたとき喜んでもらえるものを。

 一瞬でも、小さくても【人が幸福になる】瞬間に自分の作ったものが関われたなら。

 一人でも多くの人がものを作ったり、売ったり、買ったり、そして身に付けたり。

 お金にゆとりがある富裕層だけじゃなく、誰だってものを楽しんで買える環境にするには多様な働き方で沢山の人が収入を得る場所や形があっていい。

 そのひとつに、『内職』も含まれないだろうか?










『【変革】を開始します』










「え?」

 この感じ、久しぶりだ!

 頭の上から聞こえるあの声。


 私をグレイと侯爵様、そしてエイジェリン様が見た。

 あ、聞こえてるよね。

「今のは」

「グレイは、経験済みの()()です」

「【神】の、声か」

 侯爵様、エイジェリン様、その顔。

 他の人には見せられませんよー。

 ハルトに言わせると、神が直接声をかける人はこの世界の人でも極々少数。私たち【彼方からの使い】は神様が直接この世界に召喚したこともあってわりと神様は身近な存在らしいわ。それでもそう簡単にはお話しすることもないそう。ハルトに言わせると『そういうのは神のきまぐれで決まるから、無口な神だと召喚した相手にもほとんど話しかけたりしねぇけど』ということもあるらしい。


 今さらだけど、ハルトも謎よね? 聞く限り規格外、何でも知ってていわゆるチートなんだけど。

 そのあたり聞いてみないとね。

【彼方からの使い】って、わかってるようでわからないことも多いし。


 そんな神の声を、案の定私の側にいることで聞いた三人。グレイはこれで二度目。

 ……女の直感。グレイも何となく、『なにか』ありそう。【称号】持ちと喧嘩出来るって、ちょっといないと思う。ハルトもグレイならもしかするとなにかきっかけで【スキル】【称号】を手に入れるかもって言ってたし。

 このへんも要経過観察。


 そんなわけで、【変革】の言葉を聞いた侯爵様とエイジェリン様は改めて私を見て表現し難い息を吐き出した。

「【変革】か。今こうして君と話している時ということは」

「父上、つまりジュリの提案する『内職』がこの領地にもたらすものがあると」

 ぎょっとした。

 グレイもだけど、いきなり三人で胸の前で指を組んで微かに頭を垂れて目を閉じたから!!


 なにしてんの?!


 あ、神の声を聞いたからか。

 この世界、神様の存在が明確で、みんなが『いる』のを知ってるし。神は存在するのか? なんて議論はあり得ない。いるんだから。

「我ら人への慈悲に感謝致します……えーっと?ジュリを守護する神はどのお方かな?」

 名前を言おうとしたのね、でも聞いてないからわからなかったのか。

 侯爵様の目が催促してますね。

「【知の神】セラスーン様です」


 あれ、なにそのキョトン顔。

 グレイまで。

 今まで聞かれなかったし、そのうちでいいやとスルーしてきたんだ。

 この三人顔が似てるからその顔ウケるー!

 口には出さないわよ。

 それより何故その顔。


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