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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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32 * ハロウィーン前に

 




 はい、ロンデル完成です。

 ライアスって本当になんだろうね、怖いね、サラッと作り上げる。

「ほら、出来たぞ」

「怖い」

「何がだ? デザイン画通りだから尖ってて危ない部分なんてねえぞ?」

「いや、違うから……」

 グレイとフィンも乾いた笑い。

 それはキラキラと光る小さな輝石が六つ並ぶエタニティリングのような円盤に仕上がっていた。いぶし銀風に仕上げてあるのはライアスのこだわりらしい。

 そしてそれが十個。この短時間で作れるものなの? 何なのよ本当に。


「私としては、ツィーダム家が落札してほしいかな」

 翌日、グレイがロンデルをハロウィーンで急遽行うことにしたオークションに版権登録をせずに売りに出すことを実家の侯爵家に報告に行ってくると不在なのでローツさん、キリア、セティアさん、そしてたまたま居合わせた白土部門長のウェラとそのことで持論を展開してみる。

「何でだい? 信頼してる家しかオークションに参加できないなら何処でもいいと思うけどね」

 ウェラが疑問を口にするとローツさんが小気味よく笑う。

「あそこは、大小様々な鉱山を所有していて、元々宝飾品の加工に力を入れてきた家だ、それで財産を築いて爵位も上げたんだ。金属、輝石の加工なら大陸トップクラスの技術とコネクションを持っている。ジュリの技術を何としても手に入れるためにと強引な手口や小賢しいことをしてこないのはそこだ。待ってジュリが頃合いを見て公開してくれるのを待つだけでいい、元々が技術力があるから直ぐに追いついてくるから出来上がるものも品質がよく安心して仕入れやすい。そのおかげでこちらもつき合いがしやすいし同じ派閥で筆頭家でもある、あそこほどジュリの齎す細かな物の加工技術を不安なく譲るには適した所はないんだよ」

「ああ、なるほど」

 キリアがポン、と手を叩いて納得しウェラも唸るようになるほどねぇと呟く。

「ツィーダム家としても狙って来るとは思うんだよね、ロンデルは宝飾品にダイレクトに使えるから。工夫なんて必要なくて、後はデザインや大きさの問題だけになるから。ただしそう簡単には行かないわけよ、アベルさんあたりが本気出して競うんじゃないかと私は予測してみたり」

「この前の挑発、効いてるからなぁ」

 そうそう、あの後ククマットの外は大変だったらしいの。

『ジュリブチ切れ事件』とローツさんは呼んでる協賛金制度を詳しく知りたいならお前たちも物作ってイベントに参加しやがれというとんでもなく身勝手な私の主張以降、大人しい。

 びっくりするくらい、大人しいの、周りが。

 そのせいかどうかは分からないけど、バミス法国のウィルハード公爵夫人とラパト将爵夫人がニッコニコ笑顔で遊びに来て地味にアベルさんのことをディスって帰ったの。

『枢機卿会はまとめられても他ではそうはいかないようで』

『随分強引な手口で人を動かしたりしますものね』

『ジュリ様、あの方ああ見えて国内に敵は多いんですよ』

『温厚そうな顔して、ねぇ。フフッ、だからこそ大枢機卿になれたとも言えますわよお姉様』

『そうね確かに。自分の尻拭いは自分でなさる実力はあるもの、心配なんてする必要はない方ね』

『でも流石に今回は……。見つけられるかしら?』

『さあどうかしら。職人に寄り添えるかどうかはあの方次第よ。なんとかなさるでしょ大枢機卿ですもの』

『そうですね、大枢機卿ですものそれくらいはなんとかしてくださらないと』

 姉妹がそれはそれは嬉しそうに絶妙な毒舌っぷりな会話で楽しそうにそう話すくらいには、ものつくり選手権に出品させるものを任せられる職人さんを絞り込めないでいるとか。あの人たち、アベルさんのこと嫌いなのかぁ、アベルさんが困ると楽しそうにするんだねぇ、という余計な情報と共に齎されたりしている。


 で。バミスだけでなく軒並みそんな感じらしい。

 職人さんを絞り込めない、もしくは見つからない。

 テーマも規格も決まったものを作らせなきゃならないだけでなく、この短い期間で首を縦に振ってくれる人が見つからないし、複雑な縦とか横の繋がりで勝手に依頼すると横槍が入ったりでかなり面倒らしい。

 ククマットが異常なのよ、『やるよ!』の一言で『はいよ!』で動く。そして『出来たよ!!』と数日で出てくる。んなバカな、と思う速さ。これを基準には出来ないししてはいけない。ククマットの外の反応が普通というか常識なの、忘れがちだけどね。

「そんな彼らに希望や楽しみを与えるのもありでしょ?」

「落札出来なかったら再び悄気げるね」

「あれ、マイケル! おかえり」

 どこから話を聞いていたのか、笑いながら戯けた様子でそう言って入ってきたのはテルムス公国に魔物討伐に出掛けていて帰ってくるのが明日の予定のはずだったマイケル。

「小規模な氾濫って聞いてたけど僕の想定より小さいものだったから切り上げて来たんだ、僕がいると冒険者たちの稼ぎも減らしちゃうことになるしね」

「そっか。でも魔物の氾濫が思ったほどでなくてよかったね?」

「それでね、そのオークション、僕も参加可能?」


 全然脈絡ない。

 マイケル、ニコニコしてるけど、本当にどこから話を聞いてたのよ、ちょっと怖いからね。

「……まあ、参加したいならしても構わないよ? どういう心境か気になるところ」

「あー、ジュリってそういうところあるよね」

「は?」

「ロンデル、僕の妻が広告塔になって売ってる物にあったらいいに決まってるじゃないか。それなのに僕達にその話しをせずに決めちゃう?」

「あ」

「アフリカンアクセサリーに使うに限らず、大きめロンデルそのものをシンプルに鎖や革紐に通すだけでアクセサリーになるんだよ?」

「えっと」

「そんな便利でケイティが好きそうなもの、僕が見逃すと? その前に……ケイティを広告塔にしたのは君だよ、少しくらいは融通してくれてもいいんじゃないかな? 困るよジュリの猪突猛進なところは。アフリカンアクセサリーを売り出したのは最近のことなのに新しいものを考えつくとすーぐそっちに意識を持っていかれて他のものを蔑ろにしがちだ」

「……大変申し訳ございません」

 あまりにも怖いのでローツさんの後ろに隠れて謝罪しておいた。


「じゃあ、いっそのことマイケルがロンデルの権利買っちゃう? お友達価格にしちゃうけど?」

「それは遠慮しておく。正々堂々とオークションに参加するよ」

「……私が言うのものなんだけど、最低価格を大幅に超える高値を予測してるけどいいの?」

「別に買えなくても構わないよ」

「……はい?」

「ジュリが喧嘩売った相手が集まるんだろ?」

「喧嘩は売ってないけど?!」

「彼ら相手に遊ぶの楽しそうだよね。予算内で買えたら儲け物って軽い気持ちで参加するから大丈夫。あ、購入条件にジュリだけじゃなく僕にも優先して販売することも盛り込んだり出来る? そうしてくれたらオークションで遊んだりしないよ、大人しく観てるだけにするけど? 彼らが血眼になって手に入れようとするのを間近で観れるなんて滅多にないだろうからね、どうせならピリピリしてそのまま流血騒ぎとか起きたら面白いのになぁ。問答無用で数ヶ月ククマット領出禁にしてやるのに」

 性格悪い! マイケルがこれでもかってくらい性格悪いこと言ってる!!

 何気に、元の世界で株とか色々やってたらしいマイケル。多分ね、オークションに参加させたら釣り上げるだけ釣り上げて絶妙なタイミングで降りるくらいは出来る駆け引き技術は持ってるのよ。しかも権力者相手に遊ぶとか言ってる時点でそれをやれる自信があるし本気で遊ぶつもりだったよね。そしてククマット領出禁って、グレイが領主なのでマイケルにはそういう権限ないんだけど……実力行使か、マイケル、えげつない呪い連発させる気だ。

 ……素直に優先的に購入出来るよう条件に記載しよう。

「僕もね、思う所はあるんだよ」

「……参加してきそうな所全部に?」

「全部ではないけど、最近ククマットに出入りする奴ら、ちょっと煩わしさを感じてるのは確かだから。憂さ晴らし先を探してたんだよね」


 彼も【彼方からの使い】だから。

 ククマットに移住したと言ってもいいマイケルとケイティ。ここに来るついでにと言わんばかりに二人とお近づきになろうとタイミングを見計らう人たちもいれば、二人の子供であるジェイル君を丸め込んで取り込もうとする人も少なくない。

 そういうのを元々煩わしいと思っているのがケイティ。ケイティがそんな人だから自ずとマイケルもそうなって警戒心は高くなって。

 仕方ないと言えば仕方ないのかな。

「あ、ジュリ」

「うん?」

「オークションじゃなくて入札にしない? ツィーダム家に買ってもらいたいんだろう? 僕も協力するからさ、ツィーダム家が入札出来るよう手を回すのどうかな?」

「マイケル、それ、談合ってやつでは?……私の倫理観ではやりたくないやつね……そしてあなたの場合手を回すのではなく、手を出すの間違いでは?」

 笑顔で手段を選ばない、それがマイケル。

 入札と談合は、しません。実力行使も許しません。

 そして本当にどこから話を聞いてたのよ。














 主だったところにハロウィーンの特別企画としてロンデルの権利が買えちゃうオークションしますよ、という手紙を追加で送る。

 簡単なデザイン画と使い途が書かれた物には更にオークション開始時の最低価格と購入条件をいくつか記載してある。勿論生産が可能になった暁には私とマイケルが優先して買えるという条件は一番上に記載済。

 マイケル相手に忖度してる私。いいの、大事な大事な友達だから。【彼方からの使い】は許す、そのへんは我を通させてもらう!

「いいんじゃない? 実際にマイケルもケイティもあんたのこと本当に大事にしてるもん。ククマットに多方面で貢献してくれてるし。それくらい誰も文句言わないから大丈夫」

 サラッと言うのはキリア。彼女の場合、人間関係がどうのこうのよりも、今私が渡したデザイン画を見てそれを作りたくて仕方ないからそれ以外の話をさっさと終わらせたい、という本音がヒシヒシと伝わってくる。そういうところ、嫌いじゃないから困るよ (笑)。


「なんで今までこれに気づかなかったんだろ?」

 キリアは唸って食い入るようにデザイン画を見つめる。

 諦めきれなかった私は直ぐに作れそうなものを直ぐに作ってくれる人に作らせてみることに。

「多分ね、螺鈿もどきの使い方がかなり多様化してて、売れ行きも順調で、どうやったら売れるだろう? って考えなくなってるんだよね」

「うわぁ、変な弊害」

「そ、ある意味弊害。だからこそ、私も放置してしまってたとも言えるからちょっと反省してる」

 螺鈿もどきラメを投入し薄い板状に固めた擬似レジンをカットして、透明擬似レジンに沈める。

 当初考えていた立体的なものは時間が掛かりすぎるのでどうしようかなぁと頭をひねって考えたのが、ものつくりを始めた初期からずっと人気が衰えないコースター。

「可愛いよね、かぼちゃとかランタンの形に切り出したラメ入り擬似レジンを透明擬似レジンに沈めたコースター」

「可愛い、作る、作る。糸鋸と裁断機と研磨機すぐ使える? ジュリのことだからもうラメ入りの板状のは用意してるんだよね? このデザイン以外にも作っていいの?」

「うん、用意してる。コースターだから好きに作っていいよ。ハロウィーン限定展示だけど、今後はこういうのも作る予定ですって見せるのが目的だから、いくつかクリスマス仕様や季節限定に出来そうなものがあってもいいし」

「やった!」

 よし、任せとけば大丈夫だね。


「直前でバタバタするのはいつものことだな」

 ローツさんが肩を竦めながら笑ってそう呟く。

「バタバタしないほうがおかしいでしょ。まだ手探りな部分は沢山あるんだもん」

「そうだな。まあ、楽しませてもらってるからバタバタしても構わないというのが正直なところだ」

「それはローツさんだから言えることでしょ? 他の人だったらもうやだ!! って泣いてるよ、私含めて無茶苦茶な人ばっかり揃ってるから」

「そういう自覚があるならもう少し周りに配慮したらどうなんだ?」

「配慮ねぇ。……そんなの私じゃない気がする」

「たまには配慮してやれよ? ジュリがしないと調子に乗って周りが無茶苦茶するから。デリアたちおばちゃんトリオなんて」

「あ、それ聞きたくないやつね」

「ウィルハード公爵夫人に声かけられて庭見に行く約束したんだって?」

「……アストハルア公爵家も張り合ってナオに声かけたらしい。クノーマス侯爵家が庭の大改装でトリオに声をかけちゃったんだよね。外部での小遣い稼ぎは自由にさせてるから私は口出し一切しないけど、はり合ってる時点でトラブルの予感しかしない……本当に何があっても仲介も擁護もしない」

「でもトリオはそんなの気にしないだろ? ガーデニングやりたいだけだしな。彼女らはそういうことを撥ね退ける気力というか、図太さがあるから放っておいて大丈夫そうだな」

「ねえローツさん、彼女たちのあの体力とやる気、どっから来てるんだろうね?」

「知るか」

 二人で呆れて失笑した。


 何はともあれ、ハロウィーン直前。

 去年と変わり映えしない、定番としてのお祭りを楽しみつつ、マイケルが邪悪な笑みを浮かべるのとキリアにお願いしたものをさり気なく展示する事でちょっとくらい目新しさを感じてもらえるかな、と期待してみたりする。





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[一言] マイケルを敵に回したらヤバいな
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